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第四章 現実世界

第20話 悲しき再会と残されたメッセージ

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「おいおい、そんな怖い顔をしてどうした? 懐かしい友人と再会できたんだぞ。お互い?」

 目深くフードを被っており、表情は伺い知れない。わずかに見えている口元に冷やかな笑みが浮かんでいる。

「強がるな! 不利なのはどう考えてもお前の方だ!」
「さあどうだろう? まあいい、今日は様子見だからな」
「このまままお前を帰すわけがないだろう!」

 怒号が響くと同時に健斗の姿が消え、瞬時に響の背後に姿を現す。

「相変わらず化け物じみた速さだな……」

 響が言い終える前に首筋に手刀が襲いかかる。横一線に閃光が走り、頭と身体がわずかにずれながら歪んでいく。

「見事だ。昔よりさらに磨きがかかっているな」
「わざとらしい演技はやめろ。!」

 迷いなく誰もいない上座の方へ身体を向けながら、風の魔力をまとわせた左手を振り抜く。金属が激しくぶつかるような音が広間に響くと同時に投げつけた風の刃が霧散する。わずかに残った風圧がフードを捲り上げ、素顔が明らかになった。冬夜と同じ短く整えられた黒髪、目は透き通るように赤く、禍々しい黒い魔力が全身からあふれ出している。

「おいおい、久しぶりに会う友人に対してずいぶん手荒な歓迎だな。少しは手加減をしたらどうなんだ?」
「お前に手加減をする必要などない!」

 健斗が上座にいる響に向けて駆け出そうとした時だった。急に身体が重くなり、全身を押しつぶされるような感覚が襲う。立っていることができなくなるほどの圧力に片膝をついて耐える。

「無駄な戦いをするつもりはないと最初に言ったはずだが?」
「しまった、失念していたわ。お前の魔法を……」
「手荒な真似をするつもりはないが、残された時間は少ない」

 響の声と表情から余裕が消え去り、健斗を見つめる目から悲壮感が漂い出す。

「……お前は?」
「いずれお前もわかるだろう。健斗、冬夜に伝言を頼む」
「伝言だと?」
「一方的な視点で物事を見ているようではすべてを失うぞ。早く覚醒しろ、

 そう言って再びフードを被ると景色に溶けこむように身体の輪郭が薄れていく。その時、出入口と反対側にある襖に顔を向けた響がいきなり声を放った。

「手の内をすべて見せたわけではないが、 殺気がダダ洩れだぞ、。俺に気付かれているようではまだまだ修行不足だ。またなるだろう。楽しみにしているぞ」

 言い終えると同時に響の姿は景色に溶け込み始める。すると広間を支配していた魔力も消え去り、襖が音もなく開くと二人が中に入ってきた。

「すべてお見通しというわけか。望んだデータ以上の収穫はあったから良しとするべきか……」
「健斗さん、お怪我はありませんか? 悔しいですが、自分ではまだまだ力が及ばないっす」

 白い道着に着替えた芹澤とレイスが肩で息をする健斗に歩み寄る。

「心配は無用だ。わざとヤツの能力の一部を引き出すために仕掛けたのだからな。だが、二人の表情を見て安心したぞ」

 あごに左手を当て考え込む芹澤と悔しさがにじみ出るレイスの表情を交互に見ると不敵な笑みを浮かべる健斗。

「わかったと思うが、ヤツは重力を操る魔法を使う。対抗するには息子である冬夜くん、メイくんの力が不可欠となる」
「承知しております。ご報告ですが、トレーニングマシンのセッティングも終わり、いつでも開始できる状態になっております」
「ご苦労であった。さっそく鍛錬に取り掛からなければならぬ。玲士くん、レイスくん、先に鍛錬場へ向かい最終確認を頼む」
「「承知しました」」

 健斗に一礼すると先ほど入ってきた襖から出ていく二人。広間に静寂が戻ると、健斗は反対側の襖に向かい話しかける。

「美桜、来ているな?」
「はいです、お父様」

 襖がゆっくり開くと言乃花と同じ黒髪ショートだが、頭一つ分ほど小さい女の子が正座していた。ピンク色の星型をした髪止めを付け、真新しい道着を着た彼女は言乃花の妹『美桜』である。

「いよいよ私の出番なのですね! お姉ちゃんのお役に立てるように頑張るのです!」

 部屋に入ってきた美桜が小さく手を握り、やる気をみなぎらせると、全身が薄い桜色のオーラに包まれる。
 響の襲来、準備の整ったトレーニングマシン、美桜の参戦。
 バラバラに見えたパズルのピースが揃い始めた。全ては創造主ワイズマンの思惑なのか、それとも……
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