絶望の箱庭~鳥籠の姫君~

神崎ライ

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第四章 現実世界

第3話 神出鬼没の学園長

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「おや? 学園長ではないですか! 先ほどは助かりましたよ。いやぁ、は非常に有意義でありました。私ことプロフェッサーの手にかかれば不可能なことなど何もない!」
「副会長、ちょっと静かにしてもらえないっすか? クロノスによる予想外の襲撃はありましたが、新たな発見と収穫は多くありました」
「そうか、それは良かった。詳しい報告は後ほどゆっくり聞かせてもらおうかな」

 学園長とソフィーは冬夜たちから少し離れた位置で歩みを止める。意気揚々と学園長に報告をする芹澤といつもの笑顔を崩さず淡々と話すレイス。二人からの報告に耳を傾け、満足そうな表情の学園長。隣に立っているソフィーは不思議そうな顔をしながら首をかしげている。

「ちょっと待ちなさい! 二人とも何で当たり前のように話しているの? それに学園長! !」

 我に返ったリーゼが声を張り上げながら学園長へ詰め寄っていく。

「おやおや、どうしたんだい? リーゼちゃん?」
「どうしたもこうしたもないですよ! 何でソフィーちゃんと一緒にいるんですか?」
「ああ、そのことか。ちょっとソフィーくんのお友達にをしてきただけだよ」
「だーかーらー、どこまで行っていたんです? ソフィーちゃんに万が一のことがあったらどうするんですか!」

 怒り心頭で詰め寄るリーゼに対し、全く意に介さない様子の学園長。

「二人ともそろそろ静かにしてもらえません? 学園長にはいろいろお聞きしたいこともありますし、宿泊施設のほうへ行きませんか?」
「言乃花くん……なんか怒ってない?」


 言乃花の無言の圧力にリーゼと学園長の頬に一筋の汗が……

「ソフィー、どこに行っていたの?」
「うさみちゃんのところにお土産を届けに行ったの! 少しだけどお話もしてきたよ」
「良かったね! 次はゆっくりお話しできるといいね」
「ちょっと待て、って……」

 ニコニコと話すメイとソフィー。突っ込み所しかない話に頭を抱える冬夜。言乃花が小さく息を吐きながら冬夜の肩に触れる。

「言いたいことはわかるけど考えるだけ無駄よ。まずは宿泊施設に戻って報告をしましょう。話はそれからよ」
「ああ、俺も聞きたいことがある。落ち着いて話し合った方がよさそうだな」
「おや、話はまとまったかな? 立ち話では落ち着かないから、食堂でゆっくりと聞こうか」
「学園長、あんたが言うな!」
「あなたが言わないでください!」

 言乃花と冬夜の叫びが夕暮れの研究所に重なった。

 その後落ち着きを取り戻したリーゼが場を仕切り直し、改めて宿泊施設に向かう。リーゼを先頭に皆が歩き始めたとき、施設の方から砂埃を巻き上げ近づいてくる何かが見えた。やがてそれは猛ダッシュで駆けつける人影になる。

「げっ……パパの存在を忘れていたわ」
「我が愛しの娘よ! どこに行っていたんだ? 心配したぞ」

 一目散にリーゼに向かうハワード。両手を大きく広げて抱きしめようとしたが、またもや見えない壁に激突した。ガラスが砕けるような音が周囲に響く。のたうち回るハワードとゴミでも見るような目で睨みつけるリーゼ。

「いい加減にしてほしいわ。過干渉だってママに言われているでしょ?」
「愛しの娘を心配しない父親がどこにいるというのだ!」
「全く……パパ、? 後ろにいるママが納得するなら話を聞いてあげるわよ」

 ハワードの顔からさーっと血の気が失せていき、ギギギッと音が聞こえるようにゆっくりと後ろを振り返る。そこには腕を組み仁王立ちしたエミリアの姿が……にこやかな笑顔なのに、なぜかそこから冷たい風が吹いてくる。

「あら、ずいぶん 
「いやこれには訳があってだな……」

 お馴染みとなった夫婦のやり取りに苦笑いを浮かべる冬夜たちと大きくため息を吐くリーゼ。そこに足音もなく夫妻に近づき声をかける学園長。

「君たちは学園の時から変わらないな。まあ、夫婦仲が良いのはいいことだけどね」
「お久しぶりです、学園長。あなたも相変わらずですね」
「ご無沙汰しております。例の研究は順調ですよ。ちょうどご報告しなければならないことがありましたので、お時間をいただいても宜しいでしょうか?」

 ハワードの問いかけに目を細める学園長。

「それは興味深いね。もちろん生徒たちもかまわないよね?」
「もちろんです。皆にも聞いてほしいので同席してくれないか。イノセント家の一件にもかかわる事だ」

 どんどん話を進めようとする二人を制止するようにエミリアが割って入る。

「二人ともそのくらいでどうですか? みんな疲れているからゆっくり休んで、明日の朝食後に改めて説明しませんか?」
「さすがエミリアちゃん。……」

 全員を見渡し、左の口元をわずかに引き上げ不敵な笑みを浮かべる学園長。一人言が聞こえた者は誰もいなかった。
 点と点で起こっていたはずの出来事が一つの線として繋がろうとしていた。
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