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第三章 幻想世界
第20話 ソフィーのお買い物(後編)
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三人で仲良く手をつないで街を歩くソフィーはご機嫌だ。
「しーちゃん、れーちゃん、うさみちゃんは喜んでくれるかな?」
「もちろんだよ! みんなでお揃いにしたもんね」
「ソフィーちゃんとお揃い……うらやましい」
メイとソフィーが笑顔で話している隣でコロコロ表情の変わるリーゼ。歩きながらブツブツと何かつぶやいたかと思えば怪しい笑みを浮かべ、奇妙な声が漏れる。すれ違う人々は三人をあからさまに避けていく。
「ママー、あのお姉さんなんか変じゃない?」
「目を合わせちゃだめよ! 早く行きましょう」
こんなやり取りが人々の間で繰り広げられていることに、三人が気付くことは全くなかった。
しばらく歩いていると、一軒のカフェが見えてくる。
「さあ着いたわ。私のおすすめよ!」
「すごくきれいなお店! 外にも席があるんですか?」
メイが不思議そうな顔でリーゼに問いかける。
「そうよ。テラス席って言うんだけど、お店の外で食事ができるの。外も魔法の力で快適な温度に保たれているから夏場でもそれほど暑くならないのよ。それに席の周りには季節の花が一年中咲いているからソフィーちゃんが喜ぶと思って」
「リーゼさん、ありがとうございます! お花に囲まれてご飯を食べられるなんて夢のようです!」
目をキラキラさせながら両手を大きく振って大興奮のソフィー。楽しそうな笑い声が店内を幸せな空気で満たしていく。
「なんでも美味しいけど、おすすめはミックスサンドイッチかしら? 食後の特製フルーツジュースは絶対外せないわ」
「どれも美味しそうで悩んじゃうね。私はリーゼさんのお勧めにするけど、ソフィーはどうする?」
「私もみんなと一緒にする! リーゼさんのお勧めなら絶対美味しいはずだもん!」
その後食事を終えて、店を後にする三人。
「すごく美味しかったです!」
「ほんとだね、最後に豪華なパフェまでついてくるなんてすごいですね、リーゼさん」
「おかしいわね……デザートが付いてくるなんてどこにも書いていなかったような気がするけど……」
腑に落ちないことはあったが、考えることをやめたリーゼ。お腹いっぱいになった三人が街を歩いていると、メイが奇妙なことを言い出した。
「あれ? あそこに学園長そっくりな人がいませんか?」
「見間違いじゃ……ほんとね? ちょっと見てくるから二人はここで待っていて」
メイが指す方向に、赤茶の長髪を一つに結わえた背の高い男性がいて通りがかった女の子に声をかけている。
(バカ学園長は何やっているのよ!)
「君みたいな可愛い子がいたら声を掛けないなんて失礼になっちゃうよ。どう、これから一緒にお茶でも……」
「あら? 私が喜んでお話しましょうか、学園長?」
「モテる男はつらい……ってリーゼちゃん? なぜここに?」
「それはこっちのセリフです! こんなところで何やっているんですか?」
「ん? 来年に向けて見込みのある子達に声をかけるのは、学園長として当然の行動じゃないかな?」
「何の見込みがあるんでしょうか? ただのナンパにしか見えないんですけど?」
図星だったのか明後日の方向を見る学園長。こめかみに青筋を浮かべ、追及の手を緩めないリーゼ。
「いやー、リーゼちゃんは真面目だね。おっと、いけない! 次の予定があったんだ。そうそうミッションを忘れないようにね」
軽く手を振りながらさっさと走り去る学園長。リーゼは大きなため息をつき、がっくりと項垂れる。
「あれでも学園長なのよね……戻ったらじっくり聞かせてもらいましょうか」
そう呟くとメイとソフィーが待つ場所に戻り、学園長が走り去った方向とは反対方向に歩き出した。
三人の様子を薄暗い路地裏で見送った学園長は、くるりと身を返し表通りへの出口をふさぐ形で立つ。
「気が付いていない……とでも思った?」
「やはりあなたには通用しなかったか。学園長こと迷宮神の異端児」
「まだまだ詰めが甘いね、ファーストくん」
「これは一本取られましたね。まさかナンパを囮に彼女たちを我々から引き離すとは」
暗闇から姿を現したのはフードを目深くかぶった二人組。
「学園の大切な生徒たちだからね。君たちの思い通りにはさせないよ」
「障害は多い方が面白い。ですが、ここは人目がありすぎる。今後の計画に支障が出るような事は避けたいですね。もちろんイノセント家にもご挨拶に伺いますよ。あちらでは盛大な歓迎を期待しましょう」
言い終えたファーストを追いかけようと足を踏み出した時。学園長の時間が一瞬止まり、気が付いた時には二人の姿は消えていた。
「全く厄介な力だな。もう一人の彼は……なるほどね」
誰もいなくなった路地裏から影に紛れるように姿を消した学園長。
少しずつ明らかになるファーストの力と未だ見えない目的。
冬夜たちの試練は無事終わるのだろうか……
「しーちゃん、れーちゃん、うさみちゃんは喜んでくれるかな?」
「もちろんだよ! みんなでお揃いにしたもんね」
「ソフィーちゃんとお揃い……うらやましい」
メイとソフィーが笑顔で話している隣でコロコロ表情の変わるリーゼ。歩きながらブツブツと何かつぶやいたかと思えば怪しい笑みを浮かべ、奇妙な声が漏れる。すれ違う人々は三人をあからさまに避けていく。
「ママー、あのお姉さんなんか変じゃない?」
「目を合わせちゃだめよ! 早く行きましょう」
こんなやり取りが人々の間で繰り広げられていることに、三人が気付くことは全くなかった。
しばらく歩いていると、一軒のカフェが見えてくる。
「さあ着いたわ。私のおすすめよ!」
「すごくきれいなお店! 外にも席があるんですか?」
メイが不思議そうな顔でリーゼに問いかける。
「そうよ。テラス席って言うんだけど、お店の外で食事ができるの。外も魔法の力で快適な温度に保たれているから夏場でもそれほど暑くならないのよ。それに席の周りには季節の花が一年中咲いているからソフィーちゃんが喜ぶと思って」
「リーゼさん、ありがとうございます! お花に囲まれてご飯を食べられるなんて夢のようです!」
目をキラキラさせながら両手を大きく振って大興奮のソフィー。楽しそうな笑い声が店内を幸せな空気で満たしていく。
「なんでも美味しいけど、おすすめはミックスサンドイッチかしら? 食後の特製フルーツジュースは絶対外せないわ」
「どれも美味しそうで悩んじゃうね。私はリーゼさんのお勧めにするけど、ソフィーはどうする?」
「私もみんなと一緒にする! リーゼさんのお勧めなら絶対美味しいはずだもん!」
その後食事を終えて、店を後にする三人。
「すごく美味しかったです!」
「ほんとだね、最後に豪華なパフェまでついてくるなんてすごいですね、リーゼさん」
「おかしいわね……デザートが付いてくるなんてどこにも書いていなかったような気がするけど……」
腑に落ちないことはあったが、考えることをやめたリーゼ。お腹いっぱいになった三人が街を歩いていると、メイが奇妙なことを言い出した。
「あれ? あそこに学園長そっくりな人がいませんか?」
「見間違いじゃ……ほんとね? ちょっと見てくるから二人はここで待っていて」
メイが指す方向に、赤茶の長髪を一つに結わえた背の高い男性がいて通りがかった女の子に声をかけている。
(バカ学園長は何やっているのよ!)
「君みたいな可愛い子がいたら声を掛けないなんて失礼になっちゃうよ。どう、これから一緒にお茶でも……」
「あら? 私が喜んでお話しましょうか、学園長?」
「モテる男はつらい……ってリーゼちゃん? なぜここに?」
「それはこっちのセリフです! こんなところで何やっているんですか?」
「ん? 来年に向けて見込みのある子達に声をかけるのは、学園長として当然の行動じゃないかな?」
「何の見込みがあるんでしょうか? ただのナンパにしか見えないんですけど?」
図星だったのか明後日の方向を見る学園長。こめかみに青筋を浮かべ、追及の手を緩めないリーゼ。
「いやー、リーゼちゃんは真面目だね。おっと、いけない! 次の予定があったんだ。そうそうミッションを忘れないようにね」
軽く手を振りながらさっさと走り去る学園長。リーゼは大きなため息をつき、がっくりと項垂れる。
「あれでも学園長なのよね……戻ったらじっくり聞かせてもらいましょうか」
そう呟くとメイとソフィーが待つ場所に戻り、学園長が走り去った方向とは反対方向に歩き出した。
三人の様子を薄暗い路地裏で見送った学園長は、くるりと身を返し表通りへの出口をふさぐ形で立つ。
「気が付いていない……とでも思った?」
「やはりあなたには通用しなかったか。学園長こと迷宮神の異端児」
「まだまだ詰めが甘いね、ファーストくん」
「これは一本取られましたね。まさかナンパを囮に彼女たちを我々から引き離すとは」
暗闇から姿を現したのはフードを目深くかぶった二人組。
「学園の大切な生徒たちだからね。君たちの思い通りにはさせないよ」
「障害は多い方が面白い。ですが、ここは人目がありすぎる。今後の計画に支障が出るような事は避けたいですね。もちろんイノセント家にもご挨拶に伺いますよ。あちらでは盛大な歓迎を期待しましょう」
言い終えたファーストを追いかけようと足を踏み出した時。学園長の時間が一瞬止まり、気が付いた時には二人の姿は消えていた。
「全く厄介な力だな。もう一人の彼は……なるほどね」
誰もいなくなった路地裏から影に紛れるように姿を消した学園長。
少しずつ明らかになるファーストの力と未だ見えない目的。
冬夜たちの試練は無事終わるのだろうか……
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