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第三章 幻想世界
第10話 アズリズル家の関係
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「所長、皆様をお連れ致しました」
「ありがとう、アルくん。ワールドエンドミスティアカデミーの皆様、ようこそ幻想世界へ。改めて自己紹介をさせてもらおう。この研究所の所長を務めているハワード・アズリズルです」
透き通るような銀髪を短くセットし、すらりとした細身の男性は、学園長と変わらない背丈に見える。白衣を着ており、人当たりのよさそうな優しい顔をした男性で、アルへの受け答えからも好感が持てる印象だ。冬夜が一歩前に出て挨拶をしようとした時だった。
「ところで我が愛しの娘はどこにいる? アル、ちゃんと連れてきたんだろうな?」
「このバカ……いえ、所長。ちゃんとお連れしました。ほら、後ろにお見えですよ」
言い終えるより先に冬夜たちの間を突風が駆け抜ける。そしてリーゼの目前に迫った時、あたり一帯にガラスが砕け散るような音が響き渡る。左手を額に当て項垂れるリーゼと頭を押さえ、地面でのたうち回る所長の姿があった。
「……パパのことだから絶対に来ると思って氷の壁を張っておいたのは正解だったわ」
「ひどいじゃないか……感動の父娘の再会だぞ! スキンシップは大事なことだろう?」
「年頃の娘に突撃してくる父親がどこにいるっていうのよ! 春休みはちゃんと帰ったでしょうが!」
「パパは悲しいぞ……連絡をくれないから手紙まで書いているというのに」
「頻度が問題だわ! こっちだって忙しいんだから毎日送られても書くことも話すこともないわよ!」
ヒートアップする二人の様子に誰も割って入ることができなかった。その時、透き通るような声がその場に響く。
「いい加減にしなさい! あなたは所長なんでしょう? リーゼも少し大人になりなさい!」
その場にいた全員が声の主のほうを一斉に見ると、そこには長い銀髪をリーゼと同じようにポニーテールにまとめ、眼鏡をかけスーツを着た女性である。手には手帳のようなものを持ち、鋭い目つきで所長を睨みつけている。
「いや、あのな……久々の再会を……」
「久々の再会がなんですか? 今日はお客様もご一緒に出迎えるとは事前に伝えていましたよね? だいたい娘が嫌がることくらいわからないとは、父親として情けない」
「それはその……少しくらい大目に見てくれても良くないか?」
「何が少しくらいなんですか? 全く役に立たないんだから……」
「ママ、そのくらいにしておかないと……ほら、みんないるし、まだ紹介もしていないから」
真っ青な顔をしてプルプルと震える所長と恐る恐る話しかけるリーゼ。大きなため息をつくと、冬夜たちの近くに歩み寄り、一礼し話し始める。
「申し遅れました。所長の秘書でありリーゼの母、エミリア・アズリズルです。こんなところでお待たせして申し訳ありません。アル、すぐに応接室の準備とお茶の手配よろしく」
「奥様、もう準備出来ております。皆様をご案内し、お茶をお出しいたします」
「仕事が早くて助かるわ。では、皆様こちらへどうぞ」
エミリアに案内され、建物の中へ入っていく。中は真っ白なタイルが規則正しく張られた床、クリーム色の塗装はされているがコンクリートを思わせる壁、無機質な空間に歩く足音が響く。いかにも研究施設を思わせるつくりであった。ある部屋の前に到着すると中に入るように促される。
「お待たせしました。好きなところに座って下さいね」
大き目のソファーが部屋の真ん中に四角に置かれ、真ん中にガラスのテーブルが配置されている。室内には見たことの無い調度品が飾られている。先ほどの廊下の雰囲気とは明らかに違う。入口からみて右側にリーゼ、芹澤が座る。左側に言乃花とレイス、奥側にソフィー、メイ、冬夜の順で座る。手前のソファーに所長であるハワードとエミリアが並んで座った。
「改めて、ようこそ我が研究所へ。先ほどはお見苦しい姿を見せて申し訳ない。今回の滞在の件は学園長から聞いているよ。短い期間だけど、有意義な時間を過ごせるよう協力していくのでリラックスして過ごしてほしい。生徒会のメンバーは面識がある。リーゼ、初めて来てくれたメンバーを紹介してもらえるか?」
「わかりました。せっかくなので私からでなく、本人から話してもらった方がいいと思います。じゃあ、メイちゃんからお願いするわ」
リーゼに指名され、ビックリした様子で立ち上がるメイ。隣に座っていたソフィーも一緒に立ち上がり、メイの手をぎゅっと握りしめる。
「はじめまして、メイと申します。事情があって過去のことが思い出せなくて……隣にいるこの子はソフィーと言います」
「ソフィーです。よろしくお願いします」
二人はソフィーが動き話していることにビックリして固まってしまった。なぜならリーゼの発案で研究所についてからぬいぐるみのふりをしてもらっていたのだ。ソファーに座る時もメイが抱きかかえて座らせていたのだ。
「いやはや。こんなかわいいお客さんも一緒だったとは……」
「メイちゃんやソフィーちゃんのことはまた後で詳しく話すわ。次は冬夜くんね」
リーゼに促され、立ち上がり話し始める。
「はじめまして、天ヶ瀬 冬夜と申します。今年入学した一年生です。これからお世話になります」
「天ヶ瀬……まさか、君はあの天ヶ瀬の息子なのか?」
冬夜が自己紹介を始めようとした時、リーゼの両親が勢いよく立ち上がる。
冬夜の両親とリーゼの両親に何があったのか。
この後、二人から明らかにされた知られざる接点に冬夜は言葉を失うことになる。
「ありがとう、アルくん。ワールドエンドミスティアカデミーの皆様、ようこそ幻想世界へ。改めて自己紹介をさせてもらおう。この研究所の所長を務めているハワード・アズリズルです」
透き通るような銀髪を短くセットし、すらりとした細身の男性は、学園長と変わらない背丈に見える。白衣を着ており、人当たりのよさそうな優しい顔をした男性で、アルへの受け答えからも好感が持てる印象だ。冬夜が一歩前に出て挨拶をしようとした時だった。
「ところで我が愛しの娘はどこにいる? アル、ちゃんと連れてきたんだろうな?」
「このバカ……いえ、所長。ちゃんとお連れしました。ほら、後ろにお見えですよ」
言い終えるより先に冬夜たちの間を突風が駆け抜ける。そしてリーゼの目前に迫った時、あたり一帯にガラスが砕け散るような音が響き渡る。左手を額に当て項垂れるリーゼと頭を押さえ、地面でのたうち回る所長の姿があった。
「……パパのことだから絶対に来ると思って氷の壁を張っておいたのは正解だったわ」
「ひどいじゃないか……感動の父娘の再会だぞ! スキンシップは大事なことだろう?」
「年頃の娘に突撃してくる父親がどこにいるっていうのよ! 春休みはちゃんと帰ったでしょうが!」
「パパは悲しいぞ……連絡をくれないから手紙まで書いているというのに」
「頻度が問題だわ! こっちだって忙しいんだから毎日送られても書くことも話すこともないわよ!」
ヒートアップする二人の様子に誰も割って入ることができなかった。その時、透き通るような声がその場に響く。
「いい加減にしなさい! あなたは所長なんでしょう? リーゼも少し大人になりなさい!」
その場にいた全員が声の主のほうを一斉に見ると、そこには長い銀髪をリーゼと同じようにポニーテールにまとめ、眼鏡をかけスーツを着た女性である。手には手帳のようなものを持ち、鋭い目つきで所長を睨みつけている。
「いや、あのな……久々の再会を……」
「久々の再会がなんですか? 今日はお客様もご一緒に出迎えるとは事前に伝えていましたよね? だいたい娘が嫌がることくらいわからないとは、父親として情けない」
「それはその……少しくらい大目に見てくれても良くないか?」
「何が少しくらいなんですか? 全く役に立たないんだから……」
「ママ、そのくらいにしておかないと……ほら、みんないるし、まだ紹介もしていないから」
真っ青な顔をしてプルプルと震える所長と恐る恐る話しかけるリーゼ。大きなため息をつくと、冬夜たちの近くに歩み寄り、一礼し話し始める。
「申し遅れました。所長の秘書でありリーゼの母、エミリア・アズリズルです。こんなところでお待たせして申し訳ありません。アル、すぐに応接室の準備とお茶の手配よろしく」
「奥様、もう準備出来ております。皆様をご案内し、お茶をお出しいたします」
「仕事が早くて助かるわ。では、皆様こちらへどうぞ」
エミリアに案内され、建物の中へ入っていく。中は真っ白なタイルが規則正しく張られた床、クリーム色の塗装はされているがコンクリートを思わせる壁、無機質な空間に歩く足音が響く。いかにも研究施設を思わせるつくりであった。ある部屋の前に到着すると中に入るように促される。
「お待たせしました。好きなところに座って下さいね」
大き目のソファーが部屋の真ん中に四角に置かれ、真ん中にガラスのテーブルが配置されている。室内には見たことの無い調度品が飾られている。先ほどの廊下の雰囲気とは明らかに違う。入口からみて右側にリーゼ、芹澤が座る。左側に言乃花とレイス、奥側にソフィー、メイ、冬夜の順で座る。手前のソファーに所長であるハワードとエミリアが並んで座った。
「改めて、ようこそ我が研究所へ。先ほどはお見苦しい姿を見せて申し訳ない。今回の滞在の件は学園長から聞いているよ。短い期間だけど、有意義な時間を過ごせるよう協力していくのでリラックスして過ごしてほしい。生徒会のメンバーは面識がある。リーゼ、初めて来てくれたメンバーを紹介してもらえるか?」
「わかりました。せっかくなので私からでなく、本人から話してもらった方がいいと思います。じゃあ、メイちゃんからお願いするわ」
リーゼに指名され、ビックリした様子で立ち上がるメイ。隣に座っていたソフィーも一緒に立ち上がり、メイの手をぎゅっと握りしめる。
「はじめまして、メイと申します。事情があって過去のことが思い出せなくて……隣にいるこの子はソフィーと言います」
「ソフィーです。よろしくお願いします」
二人はソフィーが動き話していることにビックリして固まってしまった。なぜならリーゼの発案で研究所についてからぬいぐるみのふりをしてもらっていたのだ。ソファーに座る時もメイが抱きかかえて座らせていたのだ。
「いやはや。こんなかわいいお客さんも一緒だったとは……」
「メイちゃんやソフィーちゃんのことはまた後で詳しく話すわ。次は冬夜くんね」
リーゼに促され、立ち上がり話し始める。
「はじめまして、天ヶ瀬 冬夜と申します。今年入学した一年生です。これからお世話になります」
「天ヶ瀬……まさか、君はあの天ヶ瀬の息子なのか?」
冬夜が自己紹介を始めようとした時、リーゼの両親が勢いよく立ち上がる。
冬夜の両親とリーゼの両親に何があったのか。
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