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第三章 幻想世界
第4話 芹澤の独演会とレイスのメッセージ
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(しまった……完璧に聞く人を間違えた)
机に両肘をつき、頭を抱えて激しく後悔している冬夜。なぜなら既に一時間以上、芹澤による説明という名の独演会に捕まってしまったからだ。
「私の研究をもってすれば恐れることではないのだ! 次に現在行っている実験について考察しよう」
意気揚々と自身の研究成果を語る芹澤。ちらりと横目でレイスに助けを求めたがその姿はない。ふと視線を下に向けると手紙が置いてあった。
『長くなりそうなんで先に抜けさせてもらうっす。冬夜さんも適当なところで逃げたほうが良いっすよ』
(いつの間に……けど適当に逃げろって、今の状況でどうしろっていうんだよ!)
最初は素朴な疑問からだった。なぜ事前にアビーの存在を知っていたのか、正確に予見できていたのにわざわざ向こうの作戦に乗るような行動をとったのか……二つの点を聞いて終わるはずだった。だが自分の考えがいかに浅はかなものであったのか、嫌になるほど思い知ることになった。
「であるからして、この研究において重要に……どうした? 質問なら受け付けるぞ?」
「副会長、そろそろ……」
「プロフェッサー芹澤と呼びたまえ!」
「あの、俺の話をですね……」
「プロフェッサー芹澤と呼びたまえと何度言えばわかる?」
「プロフェッサー芹澤、そろそろ最初の質問の答えをいただけないでしょうか?」
「ふむ。最初の質問の答えを聞きたいというのだな? よかろう。では、君の言う質問とは一体なんだ?」
思わず座っていた椅子から崩れ落ち、床にしりもちをつく冬夜。
「どうした? そんな驚くようなことがあるか?」
「これまでの時間は一体何だったんだ! 質問の内容くらい覚えていてくださいよ!」
「そんなにイライラしているとストレスがたまるぞ? 大丈夫だ、ちゃんと覚えている。まあ座りたまえ」
「覚えているなら最初から答えてください!」
机から身を乗り出して訴えたが、着席を促されしぶしぶ椅子に座る。一呼吸おいて芹澤が口を開こうとした時、生徒会室の扉が勢いよく開けられる。
「あんたたち、いつまで話し込んでいるのよ!」
勢いよく入ってきたのはリーゼだった。苛立った様子で芹澤に詰めよっていく。
「せーりーざーわー! また自分の研究成果だとかいう自慢話をして引き留めていたんでしょ?」
「何を失敬な。大事な後輩の質問に真摯に答えることは先輩として当然の役目であろう?」
「じゃあ聞くけど、あんたの後ろにある黒板の書き込みは何かしら?」
「見ればわかるだろう! 説明に必要な計算式と資料だ!」
「どんな質問が来ればわけのわからない計算式が必要になるの? 明らかにあんたの自慢話でしょうが!」
困惑する冬夜をよそにヒートアップしていく二人。何とかして止めに入ろうと試してみたが、止められるような状態ではない。
「あまりにも遅いから様子を見に来てみれば、一体なんの騒ぎでしょうか?」
冷たい殺気を纏った静かな声が響く。恐る恐る声のしたほうを見ると能面のような顔をした言乃花が仁王立ちで立っている。その後ろに心配そうにこちらを伺うメイとソフィーの姿も見えた。
「リーゼ、副会長、そこに座りなさい!」
有無を言わさない迫力に無言で従い、二人並んで正座をする。
「あなたたちは生徒会長と副会長なんですよ? もう少し自覚を持った行動をすべきではないんですか?」
言乃花による説教は確実に二人の心に突き刺さる内容であった。時間にしては10分足らずだったのだが、体感的には一時間以上の重みがあった。その後、芹澤はフラフラと生徒会室から出ていった。
「リーゼさん、ケンカはメッですよ! ちゃんと仲良くしてください!」
さらにソフィーが身振り手振りを交えて怒る。初めて見る光景に呆気にとらわれているうちに、冷めてしまったお茶を温め直すためにパタパタと食堂へ向かっていった。
「冬夜君、大丈夫だった? 食堂にソフィーが用意してくれたお茶とお菓子があるから一休みしようよ」
「……ああ、ありがとう。黒板だけ消したら向かうから先に行っていてくれ」
「ほら、早く行くわよ」
思わぬ怒られ方をして真っ白に固まったリーゼを引きずりながら言乃花とメイは食堂へ向かった。黒板を消し、食堂へ向かおうと廊下に出たところで声をかける人物がいた。
「冬夜さん、お疲れさまっす」
「レイスさん、いつの間にそんなところに? そんなこのよりもひどくないですか? 一人でいなくなるなんて……しかも、あの状況でどうやって部屋から脱出したんですか?」
「それは企業秘密ってやつっすよ。それより冬夜さんに伝言を預かっていまして。『時が満ちる前に幻想世界に行け。詳細は追って連絡する』以上っす」
「あ、ちょっと待って! えっ、消えた? レイスさんはどこに?」
冬夜が聞き返したときには目の前にいたはずのレイスは忽然と消え去っていた。
(次の段階? 幻想世界? どういうことだ?)
謎のメッセージを残し、目の前から消え去ったレイス。
舞台は幻想世界へ移ろうとしていた。
机に両肘をつき、頭を抱えて激しく後悔している冬夜。なぜなら既に一時間以上、芹澤による説明という名の独演会に捕まってしまったからだ。
「私の研究をもってすれば恐れることではないのだ! 次に現在行っている実験について考察しよう」
意気揚々と自身の研究成果を語る芹澤。ちらりと横目でレイスに助けを求めたがその姿はない。ふと視線を下に向けると手紙が置いてあった。
『長くなりそうなんで先に抜けさせてもらうっす。冬夜さんも適当なところで逃げたほうが良いっすよ』
(いつの間に……けど適当に逃げろって、今の状況でどうしろっていうんだよ!)
最初は素朴な疑問からだった。なぜ事前にアビーの存在を知っていたのか、正確に予見できていたのにわざわざ向こうの作戦に乗るような行動をとったのか……二つの点を聞いて終わるはずだった。だが自分の考えがいかに浅はかなものであったのか、嫌になるほど思い知ることになった。
「であるからして、この研究において重要に……どうした? 質問なら受け付けるぞ?」
「副会長、そろそろ……」
「プロフェッサー芹澤と呼びたまえ!」
「あの、俺の話をですね……」
「プロフェッサー芹澤と呼びたまえと何度言えばわかる?」
「プロフェッサー芹澤、そろそろ最初の質問の答えをいただけないでしょうか?」
「ふむ。最初の質問の答えを聞きたいというのだな? よかろう。では、君の言う質問とは一体なんだ?」
思わず座っていた椅子から崩れ落ち、床にしりもちをつく冬夜。
「どうした? そんな驚くようなことがあるか?」
「これまでの時間は一体何だったんだ! 質問の内容くらい覚えていてくださいよ!」
「そんなにイライラしているとストレスがたまるぞ? 大丈夫だ、ちゃんと覚えている。まあ座りたまえ」
「覚えているなら最初から答えてください!」
机から身を乗り出して訴えたが、着席を促されしぶしぶ椅子に座る。一呼吸おいて芹澤が口を開こうとした時、生徒会室の扉が勢いよく開けられる。
「あんたたち、いつまで話し込んでいるのよ!」
勢いよく入ってきたのはリーゼだった。苛立った様子で芹澤に詰めよっていく。
「せーりーざーわー! また自分の研究成果だとかいう自慢話をして引き留めていたんでしょ?」
「何を失敬な。大事な後輩の質問に真摯に答えることは先輩として当然の役目であろう?」
「じゃあ聞くけど、あんたの後ろにある黒板の書き込みは何かしら?」
「見ればわかるだろう! 説明に必要な計算式と資料だ!」
「どんな質問が来ればわけのわからない計算式が必要になるの? 明らかにあんたの自慢話でしょうが!」
困惑する冬夜をよそにヒートアップしていく二人。何とかして止めに入ろうと試してみたが、止められるような状態ではない。
「あまりにも遅いから様子を見に来てみれば、一体なんの騒ぎでしょうか?」
冷たい殺気を纏った静かな声が響く。恐る恐る声のしたほうを見ると能面のような顔をした言乃花が仁王立ちで立っている。その後ろに心配そうにこちらを伺うメイとソフィーの姿も見えた。
「リーゼ、副会長、そこに座りなさい!」
有無を言わさない迫力に無言で従い、二人並んで正座をする。
「あなたたちは生徒会長と副会長なんですよ? もう少し自覚を持った行動をすべきではないんですか?」
言乃花による説教は確実に二人の心に突き刺さる内容であった。時間にしては10分足らずだったのだが、体感的には一時間以上の重みがあった。その後、芹澤はフラフラと生徒会室から出ていった。
「リーゼさん、ケンカはメッですよ! ちゃんと仲良くしてください!」
さらにソフィーが身振り手振りを交えて怒る。初めて見る光景に呆気にとらわれているうちに、冷めてしまったお茶を温め直すためにパタパタと食堂へ向かっていった。
「冬夜君、大丈夫だった? 食堂にソフィーが用意してくれたお茶とお菓子があるから一休みしようよ」
「……ああ、ありがとう。黒板だけ消したら向かうから先に行っていてくれ」
「ほら、早く行くわよ」
思わぬ怒られ方をして真っ白に固まったリーゼを引きずりながら言乃花とメイは食堂へ向かった。黒板を消し、食堂へ向かおうと廊下に出たところで声をかける人物がいた。
「冬夜さん、お疲れさまっす」
「レイスさん、いつの間にそんなところに? そんなこのよりもひどくないですか? 一人でいなくなるなんて……しかも、あの状況でどうやって部屋から脱出したんですか?」
「それは企業秘密ってやつっすよ。それより冬夜さんに伝言を預かっていまして。『時が満ちる前に幻想世界に行け。詳細は追って連絡する』以上っす」
「あ、ちょっと待って! えっ、消えた? レイスさんはどこに?」
冬夜が聞き返したときには目の前にいたはずのレイスは忽然と消え去っていた。
(次の段階? 幻想世界? どういうことだ?)
謎のメッセージを残し、目の前から消え去ったレイス。
舞台は幻想世界へ移ろうとしていた。
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