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第1章 運命の始まり
第1話 動き出す運命の始まり
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『ご、ごめんね……だ…、大丈夫……きっと僕らの……代わりに……』
『いやー!』
少女の悲痛な叫びが響く。
「また一人いなくなっちゃった……次は……私なの? これが……運命なの? どうして……もう嫌だ……誰か……助けて」
真っ暗な闇の中、透明な壁で囲まれた空間。紫色の長い髪をツインテールにまとめ、黒いワンピースを身にまとった少女。周りにはナイフなどで突き刺され、微動だにしないクマや羊のぬいぐるみに見える動物たち。
全てに絶望し、自らに刃を突き刺そうとする少女の頬を一筋の涙が流れた時だった。
「やめろ!」
叫び声と共に飛び起きて周囲を見渡すと見慣れた自室の風景だった。窓から差し込む朝日が優しく室内を照らしている。
「またあの夢か……くそ野郎のせいで変な力に目覚めてからだ、よく見るようになったのは。女の子がいる空間、どこか見覚えがあるんだよな……クソ、思い出せない!」
薄気味悪く纏わりつくような悪夢を振り払おうと着ていたシャツを脱ぐと乱暴に床へ投げ捨てる。
少年の名は天ヶ瀬 冬夜 十五歳。身長は百六十センチほどで幼さが残る顔に黒い瞳。短めの黒髪は寝起きも相まって頭をかきむしったような寝癖がついていた。
彼が同じ夢を繰り返し見ることになったきっかけは九年前に起きた事件がすべての始まり……
──冬夜が六歳の時。
学校が終わり、いつも行く近所の公園で遊んでいたら、見たことのない生き物が目の前を走り去って行った。
(なんだ今の? 猫っぽいけど犬みたいな……見たことのない生き物だ!)
この年頃の男の子は好奇心の塊だ。むくむくと沸き上がった興味を抑えることなどできるはずがない。気付けば夢中で後を追いかけて、いつの間にか見たことのない不思議な空間にたどり着いていた。
(ここはどこ?)
冬夜が住む『現実世界』と同じ時間軸に存在するもう一つの世界との狭間にある『箱庭』と呼ばれる場所。
「驚いた。あちらの世界から迷い込んでくる子がいるとはね……」
長身の男が声をかけてきた。全身を包み込むローブを身に付けているせいで、表情を伺うことはできない。
「おじさんは誰? さっきの生き物はどこ?」
「ふふふ……おじさんとお話ししてくれたら見せてあげよう」──
創造主と冬夜の出会いだった。
『箱庭』に迷い込んだのが本当に偶然だったのかはわからない。何か素質があったからか、創造主の気まぐれからか……この出来事の直後に冬夜は、現実世界ではありえない魔法の力を発現した。いや、発現させられた。
「来週から新しい学校に行くんだった。たしか…… ワールドエンドミスティアカデミー、だっけ。くそ野郎につながるヒントがあるって話だからな……」
『ワールドエンドミスティアカデミー』
両世界のごく一部、特定の条件を満たした者だけに入学が許される学園。
魔法を使える人間の中でも、特に素質があると判断された者だけに入学案内が届く……表向きは。
学園を取り囲む森は深い霧で閉ざされ、能力の無い者はたどり着く事さえできない。
興味本位で学園へ繋がる森に入った者は二度と出られない。――もう一つの世界へ迷いこむとも、世界の狭間を永久にさまようことになるとも噂されている。『世界の終わり』とも呼ばれる場所にある謎につつまれた学園。
同じ時間軸にありながら、交わることはなかった二つの世界。
さまざまな思惑が渦巻く中、二つの世界の命運をかけた歯車が静かに回り始めた。
世界の命運を握る事件が待ち受けていると冬夜が気がつくことはなかった……
『いやー!』
少女の悲痛な叫びが響く。
「また一人いなくなっちゃった……次は……私なの? これが……運命なの? どうして……もう嫌だ……誰か……助けて」
真っ暗な闇の中、透明な壁で囲まれた空間。紫色の長い髪をツインテールにまとめ、黒いワンピースを身にまとった少女。周りにはナイフなどで突き刺され、微動だにしないクマや羊のぬいぐるみに見える動物たち。
全てに絶望し、自らに刃を突き刺そうとする少女の頬を一筋の涙が流れた時だった。
「やめろ!」
叫び声と共に飛び起きて周囲を見渡すと見慣れた自室の風景だった。窓から差し込む朝日が優しく室内を照らしている。
「またあの夢か……くそ野郎のせいで変な力に目覚めてからだ、よく見るようになったのは。女の子がいる空間、どこか見覚えがあるんだよな……クソ、思い出せない!」
薄気味悪く纏わりつくような悪夢を振り払おうと着ていたシャツを脱ぐと乱暴に床へ投げ捨てる。
少年の名は天ヶ瀬 冬夜 十五歳。身長は百六十センチほどで幼さが残る顔に黒い瞳。短めの黒髪は寝起きも相まって頭をかきむしったような寝癖がついていた。
彼が同じ夢を繰り返し見ることになったきっかけは九年前に起きた事件がすべての始まり……
──冬夜が六歳の時。
学校が終わり、いつも行く近所の公園で遊んでいたら、見たことのない生き物が目の前を走り去って行った。
(なんだ今の? 猫っぽいけど犬みたいな……見たことのない生き物だ!)
この年頃の男の子は好奇心の塊だ。むくむくと沸き上がった興味を抑えることなどできるはずがない。気付けば夢中で後を追いかけて、いつの間にか見たことのない不思議な空間にたどり着いていた。
(ここはどこ?)
冬夜が住む『現実世界』と同じ時間軸に存在するもう一つの世界との狭間にある『箱庭』と呼ばれる場所。
「驚いた。あちらの世界から迷い込んでくる子がいるとはね……」
長身の男が声をかけてきた。全身を包み込むローブを身に付けているせいで、表情を伺うことはできない。
「おじさんは誰? さっきの生き物はどこ?」
「ふふふ……おじさんとお話ししてくれたら見せてあげよう」──
創造主と冬夜の出会いだった。
『箱庭』に迷い込んだのが本当に偶然だったのかはわからない。何か素質があったからか、創造主の気まぐれからか……この出来事の直後に冬夜は、現実世界ではありえない魔法の力を発現した。いや、発現させられた。
「来週から新しい学校に行くんだった。たしか…… ワールドエンドミスティアカデミー、だっけ。くそ野郎につながるヒントがあるって話だからな……」
『ワールドエンドミスティアカデミー』
両世界のごく一部、特定の条件を満たした者だけに入学が許される学園。
魔法を使える人間の中でも、特に素質があると判断された者だけに入学案内が届く……表向きは。
学園を取り囲む森は深い霧で閉ざされ、能力の無い者はたどり着く事さえできない。
興味本位で学園へ繋がる森に入った者は二度と出られない。――もう一つの世界へ迷いこむとも、世界の狭間を永久にさまようことになるとも噂されている。『世界の終わり』とも呼ばれる場所にある謎につつまれた学園。
同じ時間軸にありながら、交わることはなかった二つの世界。
さまざまな思惑が渦巻く中、二つの世界の命運をかけた歯車が静かに回り始めた。
世界の命運を握る事件が待ち受けていると冬夜が気がつくことはなかった……
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