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第一章 終わる世界
操舵手 ミヒャエル
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その瞬間、レクシー艦長が大声を上げた。
「舵そのまま! 全速前進!」
「舵そのまま、全速前進!」
操舵手のミヒャエルは復唱して、左手に握ったスロットルのレバーを手前に引いた。
私たちはシートに背中を押しつけられ、船が急加速したのを感じた。
「重力補正、0.8Gまで許容!」
「0.8Gまで許容!」
「対空戦闘用意!」
「対空戦闘用意!」
艦橋内に、可愛い感じの女性の声が響いた。
「模擬ミサイル3基をラ・フィールドが阻止! 船体にダメージなし、ラ・フィールド発生機にも問題なし!」
いつもは鼻歌を歌っている声。若い女性の声。
でも、艦内のどこにもいない人。人工音声かな?
「先制攻撃を受けたね。でもまだ大丈夫。さあみんな、かくれんぼしてる敵を見つけるよ!」
レクシー艦長はモニターを見ながら皆に声をかけた。
彼女が「大丈夫」って言ったら本当に大丈夫に思える。不思議な人。
ちなみにラ・フィールドというのは、いつも戦闘艦を守っている見えないシールドのこと。
ミサイルやビームが来てもラ・フィールドが船体に当たる前に防いでくれる。ただ、あまりダメージが蓄積するとラ・フィールドの発生機はオーバーヒートして、使えなくなってしまう。
「3時の方向、積乱雲を発見! 真冬の大西洋に積乱雲があるのは不自然だろ…」
エンリケ王子が呟いた。
「了解! 3時の方向の積乱雲、手前2マイルを目標地点として舵を修正!」
レクシーの命令に、ミヒャエルがすぐに応答した。
「了解! 舵を修正します!」
ミヒャエルは、普段はぼーっとした顔で空を見つめている若者。
二十歳をとっくに過ぎてるはずだけど、若者って言うより男の子って感じ。幼い雰囲気の操舵手。
「ミヒャエル、回避行動は任せる」
「了解! 回避操艦を開始します!」
次の瞬間、ミヒャエルはくわっと両目を見開いた。
「ナオミ、さあ、行くよ!」
ミヒャエルは操艦ハンドルとスロットルのレバーを握り、目の前の無数のスイッチをめまぐるしく操作した。
「無理をさせてるね、ナオミ。でも少しだけ我慢して」
ナオミって誰だろう。
まるでミヒャエルは恋人みたいに呼びかけてるけど…
船は艦首を持ち上げたり下げたり、斜めに駆け上がったり一気に滑り落ちたり、複雑な動きをした。そのたびに頭を見えない力で床に押し付けられたりお腹がふわっと浮いたりして、船が目まぐるしく回避行動しているのが体感で分かった。
「すごい、すごくいいよ、ナオミ!」
ミヒャエルは、めちゃくちゃ楽しそうに操艦しながら叫んだ。
「ミヒャエル、少し手加減してよ! 艦長、重力補正復帰を進言します」
アニータ副長は、うんざりした顔で言った。
艦内の重力を補正すると、船がどんな姿勢で飛んでいても乗員は影響を受けない。極端な話、船が逆立ちしても私たちは感じない。
「副長、進言ありがとう。でももう少しだけ待って。たとえ演習でも皆には緊張してほしいから」
確かにこれは演習だから、演習用ミサイルが当たっても模擬ビームが当たっても、船はダメージを受けない。
ただ重力補正が少ない今の状態では、私たちは身体を上下左右に揺さぶられ、頭を押し付けられ、一瞬も気が抜けない。
演習だけど、戦争。
これが、戦争ってことだ。
戦争ならミヒャエルが操艦を誤れば、私たちは死んでしまう。
砲雷長のダニエルが迎撃に失敗しても私たちは死んでしまう。
なら私は、敵艦の花乙女を殺すつもりで戦わなければならない。
「海上10マイルまで上昇!」
「了解! 海上10マイルまで上昇!」
ミヒャエルが操艦ハンドルを手前に引き、私たちは頭を床に押し付けられた。
「歌姫」が演習空域の限界高度まで上昇したことで、敵艦はミサイルを上空に撃てなくなり、攻撃は下からだけになった。
今までの、どこから来るか分からない攻撃よりは、下から来ると分かっている分だけマシになった。
「ミヒャエル、敵艦の位置についてどう思う?」
「艦長、あの積乱雲の中に隠れていると思います」
「その根拠は?」
「ナオミの無人機と認識装置と支援衛星で演習空域をくまなく探しました。それでも見つからなかったということは、花乙女の能力で隠れているということです」
「違うだろ、ミヒャエル」
「え!?」
「信じてるからだろ? ナオミを。というか惚れてんだろ? 彼女に」
レクシー艦長は大きな口を開けてガッハッハと笑った。
「そんな…」
ミヒャエルの顔が、みるみる赤くなった。
「ナオミー!」
レクシー艦長が、天井に向かって叫んだ。
「やめてください!」
「なあに~?」
何もない空間から、女の子が急に現れた。
「舵そのまま! 全速前進!」
「舵そのまま、全速前進!」
操舵手のミヒャエルは復唱して、左手に握ったスロットルのレバーを手前に引いた。
私たちはシートに背中を押しつけられ、船が急加速したのを感じた。
「重力補正、0.8Gまで許容!」
「0.8Gまで許容!」
「対空戦闘用意!」
「対空戦闘用意!」
艦橋内に、可愛い感じの女性の声が響いた。
「模擬ミサイル3基をラ・フィールドが阻止! 船体にダメージなし、ラ・フィールド発生機にも問題なし!」
いつもは鼻歌を歌っている声。若い女性の声。
でも、艦内のどこにもいない人。人工音声かな?
「先制攻撃を受けたね。でもまだ大丈夫。さあみんな、かくれんぼしてる敵を見つけるよ!」
レクシー艦長はモニターを見ながら皆に声をかけた。
彼女が「大丈夫」って言ったら本当に大丈夫に思える。不思議な人。
ちなみにラ・フィールドというのは、いつも戦闘艦を守っている見えないシールドのこと。
ミサイルやビームが来てもラ・フィールドが船体に当たる前に防いでくれる。ただ、あまりダメージが蓄積するとラ・フィールドの発生機はオーバーヒートして、使えなくなってしまう。
「3時の方向、積乱雲を発見! 真冬の大西洋に積乱雲があるのは不自然だろ…」
エンリケ王子が呟いた。
「了解! 3時の方向の積乱雲、手前2マイルを目標地点として舵を修正!」
レクシーの命令に、ミヒャエルがすぐに応答した。
「了解! 舵を修正します!」
ミヒャエルは、普段はぼーっとした顔で空を見つめている若者。
二十歳をとっくに過ぎてるはずだけど、若者って言うより男の子って感じ。幼い雰囲気の操舵手。
「ミヒャエル、回避行動は任せる」
「了解! 回避操艦を開始します!」
次の瞬間、ミヒャエルはくわっと両目を見開いた。
「ナオミ、さあ、行くよ!」
ミヒャエルは操艦ハンドルとスロットルのレバーを握り、目の前の無数のスイッチをめまぐるしく操作した。
「無理をさせてるね、ナオミ。でも少しだけ我慢して」
ナオミって誰だろう。
まるでミヒャエルは恋人みたいに呼びかけてるけど…
船は艦首を持ち上げたり下げたり、斜めに駆け上がったり一気に滑り落ちたり、複雑な動きをした。そのたびに頭を見えない力で床に押し付けられたりお腹がふわっと浮いたりして、船が目まぐるしく回避行動しているのが体感で分かった。
「すごい、すごくいいよ、ナオミ!」
ミヒャエルは、めちゃくちゃ楽しそうに操艦しながら叫んだ。
「ミヒャエル、少し手加減してよ! 艦長、重力補正復帰を進言します」
アニータ副長は、うんざりした顔で言った。
艦内の重力を補正すると、船がどんな姿勢で飛んでいても乗員は影響を受けない。極端な話、船が逆立ちしても私たちは感じない。
「副長、進言ありがとう。でももう少しだけ待って。たとえ演習でも皆には緊張してほしいから」
確かにこれは演習だから、演習用ミサイルが当たっても模擬ビームが当たっても、船はダメージを受けない。
ただ重力補正が少ない今の状態では、私たちは身体を上下左右に揺さぶられ、頭を押し付けられ、一瞬も気が抜けない。
演習だけど、戦争。
これが、戦争ってことだ。
戦争ならミヒャエルが操艦を誤れば、私たちは死んでしまう。
砲雷長のダニエルが迎撃に失敗しても私たちは死んでしまう。
なら私は、敵艦の花乙女を殺すつもりで戦わなければならない。
「海上10マイルまで上昇!」
「了解! 海上10マイルまで上昇!」
ミヒャエルが操艦ハンドルを手前に引き、私たちは頭を床に押し付けられた。
「歌姫」が演習空域の限界高度まで上昇したことで、敵艦はミサイルを上空に撃てなくなり、攻撃は下からだけになった。
今までの、どこから来るか分からない攻撃よりは、下から来ると分かっている分だけマシになった。
「ミヒャエル、敵艦の位置についてどう思う?」
「艦長、あの積乱雲の中に隠れていると思います」
「その根拠は?」
「ナオミの無人機と認識装置と支援衛星で演習空域をくまなく探しました。それでも見つからなかったということは、花乙女の能力で隠れているということです」
「違うだろ、ミヒャエル」
「え!?」
「信じてるからだろ? ナオミを。というか惚れてんだろ? 彼女に」
レクシー艦長は大きな口を開けてガッハッハと笑った。
「そんな…」
ミヒャエルの顔が、みるみる赤くなった。
「ナオミー!」
レクシー艦長が、天井に向かって叫んだ。
「やめてください!」
「なあに~?」
何もない空間から、女の子が急に現れた。
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