終わる世界と、花乙女。

まえ。

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外伝 フアニータの憂鬱

絶望

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私が住んでいたアパートは、瓦礫の山に変わっていた。
お隣のおばさんやおじさんや、同じアパートの住民が呆然と瓦礫の山を眺めていた。
レスキューの人たちが一所懸命瓦礫を片付けて下に人がいるか確認していたけど、人手も足りなくて全然片付けられていない。

その風景と現実はどうしても受け入れられなかった。
でも、瓦礫の中にお姉ちゃんのボロボロになった縫いぐるみを見つけた私は、発狂した。
「うわああああああああっ!」
私は、ありったけの声で叫びながら自分のヒマワリを出して「金色の力」を発動させた。

無数の金色の光の粒が瓦礫の隙間に入り込み、一気に持ち上げた。
大きな瓦礫も小さな瓦礫も、残らず空に放り投げてバラバラに砕き、蒸発させてママやお姉ちゃんたちを探した。

やがて、かつて私達の家だった場所、ベッドだった場所に家族を見つけた。
脆い石造りのアパート。
それが、私の家族をただの血と肉の塊に変えていた。

「!」

私はママとお姉ちゃんたちの体を抱きしめた。
その顔も体も瓦礫に押し潰されて平たく、冷たくなっていて、絶対に助からないと私にもよく分かった。
分かってはいたけど私は「金色の力」で周りの瓦礫を全て空中に吹き飛ばし、大声で泣き叫んだ。

「ああああああああああっ!」

何でこうなるのよ!
何でママやお姉ちゃんたちが、殺されなきゃならないのよ!
何で!?

大声で泣き叫ぶ私の周りを、近所のみんなが遠巻きに見守ってる。
金色の光の粒子は瓦礫を次々に空に運び、バラバラに砕いていく。

「あんた、CCF花乙女なんだろ! 何であのケダモノをやっつけてくれなかったんだ!」
いきなり大声で言われて、びっくりした。
見ると、上の階のミゲルおじさんが顔を真っ赤にして私に怒鳴っていた。
「CCFは、最強なんだろ? あんなバケモノだって簡単に殺れるんだろ? なんで街がこんなになってるのに何もしてくれねえんだよ?」
「ご…ごめんなさい」
私は、私が情けない。
全部が手遅れになったのは事実。
それにしても…

「ミゲル! 親を亡くしたばかりのこんな小さい女の子に、酷なことを言うもんじゃないよ。
 ねえフアニータ…」

アパートの、隣のアマンダおばさんが涙をボロボロこぼしながら私に話しかけてきた。
「あなたのママやお姉さんたちのことを、本当に気の毒に思うわ…」
アマンダおばさんは、私をギュッと抱きしめた。
「可哀想に…可哀想に、フアニータ!」

うわあああっ!

感情があふれて、涙が止まらない。
そういう自分を、どこか上から見下ろしているもう一人の自分がいる。



瓦礫の山になった、私達のアパート。
なのに、ミゲルおじさんもアマンダおばさんも、みんな生き延びてて、瓦礫を片付けてる。
と言うことは…
みんな近所のよしみで、あのケダモノが街を壊す前に避難していた、ということ。

世界樹のIDを持たない貧民街の住民の生命線は、助け合い。
政府が世界樹コミュニティを通して知らせる、あらゆるニュースや警告、勧告。
それが届かない私達は直接情報を伝え合ったり、声を掛け合ったりして、自分たちを守る。

今回のケダモノの襲来だって、世界樹並みのスピードで情報を伝え、みんなで避難していたはず。

そう、みんな避難していた。


何で…?
何で、うちの家族だけ伝えてくれなかったの?

私なの?
私のせいなの?
そうなの?

私がマフィアの下っ端を半殺しにしてから、近所の皆んなの視線が冷たくなったのは知ってる。
ママが前よりもっと苦労してパンを手に入れていたことも知ってる。
本当なら助けて貰えるはずのお隣さんに無視されて、それでも何も言わずにいつもニコニコしていたママ。

何なのよ。
一体何なのよ。

どうして「貧民街」という小さい世界で一緒に生きてる私たちが、お互いに区別したり差別したりするの?
そして結局、私の家族は死んでしまったじゃないの。
どうして私たちは、こんなに愚かなんだろう。
人間ってどうして、バカなんだろう。

悲しみと虚しさが胸を締めつける。

私がもっと、早くケダモノの気配に気付いていたら。
私がもっと、早くケダモノを倒せていたら。
せめてうちの地区だけでも、攻撃を止められていたら。
近所のみんなが、私の家族に逃げるよう言ってくれていたら。

数限りない後悔が心を支配して、悲しくて悲しくてやり切れない。

「うわああああ!」

私の心からの叫び。涙で視界がぼやける。
金色の光の粒子は周りの瓦礫を嵐のように空中に巻き上げ、粉々に砕いて蒸発させていく。
その時、

「フアナ=マリア・ヘルナンデス!」
私は急に名前を呼ばれた。
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