58 / 70
外伝 フアニータの憂鬱
絶望
しおりを挟む
私が住んでいたアパートは、瓦礫の山に変わっていた。
お隣のおばさんやおじさんや、同じアパートの住民が呆然と瓦礫の山を眺めていた。
レスキューの人たちが一所懸命瓦礫を片付けて下に人がいるか確認していたけど、人手も足りなくて全然片付けられていない。
その風景と現実はどうしても受け入れられなかった。
でも、瓦礫の中にお姉ちゃんのボロボロになった縫いぐるみを見つけた私は、発狂した。
「うわああああああああっ!」
私は、ありったけの声で叫びながら自分のヒマワリを出して「金色の力」を発動させた。
無数の金色の光の粒が瓦礫の隙間に入り込み、一気に持ち上げた。
大きな瓦礫も小さな瓦礫も、残らず空に放り投げてバラバラに砕き、蒸発させてママやお姉ちゃんたちを探した。
やがて、かつて私達の家だった場所、ベッドだった場所に家族を見つけた。
脆い石造りのアパート。
それが、私の家族をただの血と肉の塊に変えていた。
「!」
私はママとお姉ちゃんたちの体を抱きしめた。
その顔も体も瓦礫に押し潰されて平たく、冷たくなっていて、絶対に助からないと私にもよく分かった。
分かってはいたけど私は「金色の力」で周りの瓦礫を全て空中に吹き飛ばし、大声で泣き叫んだ。
「ああああああああああっ!」
何でこうなるのよ!
何でママやお姉ちゃんたちが、殺されなきゃならないのよ!
何で!?
大声で泣き叫ぶ私の周りを、近所のみんなが遠巻きに見守ってる。
金色の光の粒子は瓦礫を次々に空に運び、バラバラに砕いていく。
「あんた、CCFなんだろ! 何であのケダモノをやっつけてくれなかったんだ!」
いきなり大声で言われて、びっくりした。
見ると、上の階のミゲルおじさんが顔を真っ赤にして私に怒鳴っていた。
「CCFは、最強なんだろ? あんなバケモノだって簡単に殺れるんだろ? なんで街がこんなになってるのに何もしてくれねえんだよ?」
「ご…ごめんなさい」
私は、私が情けない。
全部が手遅れになったのは事実。
それにしても…
「ミゲル! 親を亡くしたばかりのこんな小さい女の子に、酷なことを言うもんじゃないよ。
ねえフアニータ…」
アパートの、隣のアマンダおばさんが涙をボロボロこぼしながら私に話しかけてきた。
「あなたのママやお姉さんたちのことを、本当に気の毒に思うわ…」
アマンダおばさんは、私をギュッと抱きしめた。
「可哀想に…可哀想に、フアニータ!」
うわあああっ!
感情があふれて、涙が止まらない。
そういう自分を、どこか上から見下ろしているもう一人の自分がいる。
アンタたちは、どうして生きてるのよ。
瓦礫の山になった、私達のアパート。
なのに、ミゲルおじさんもアマンダおばさんも、みんな生き延びてて、瓦礫を片付けてる。
と言うことは…
みんな近所のよしみで、あのケダモノが街を壊す前に避難していた、ということ。
世界樹のIDを持たない貧民街の住民の生命線は、助け合い。
政府が世界樹コミュニティを通して知らせる、あらゆるニュースや警告、勧告。
それが届かない私達は直接情報を伝え合ったり、声を掛け合ったりして、自分たちを守る。
今回のケダモノの襲来だって、世界樹並みのスピードで情報を伝え、みんなで避難していたはず。
そう、みんな避難していた。
うちの家族を除いては。
何で…?
何で、うちの家族だけ伝えてくれなかったの?
私なの?
私のせいなの?
そうなの?
私がマフィアの下っ端を半殺しにしてから、近所の皆んなの視線が冷たくなったのは知ってる。
ママが前よりもっと苦労してパンを手に入れていたことも知ってる。
本当なら助けて貰えるはずのお隣さんに無視されて、それでも何も言わずにいつもニコニコしていたママ。
何なのよ。
一体何なのよ。
どうして「貧民街」という小さい世界で一緒に生きてる私たちが、お互いに区別したり差別したりするの?
そして結局、私の家族は死んでしまったじゃないの。
どうして私たちは、こんなに愚かなんだろう。
人間ってどうして、バカなんだろう。
悲しみと虚しさが胸を締めつける。
私がもっと、早くケダモノの気配に気付いていたら。
私がもっと、早くケダモノを倒せていたら。
せめてうちの地区だけでも、攻撃を止められていたら。
近所のみんなが、私の家族に逃げるよう言ってくれていたら。
数限りない後悔が心を支配して、悲しくて悲しくてやり切れない。
「うわああああ!」
私の心からの叫び。涙で視界がぼやける。
金色の光の粒子は周りの瓦礫を嵐のように空中に巻き上げ、粉々に砕いて蒸発させていく。
その時、
「フアナ=マリア・ヘルナンデス!」
私は急に名前を呼ばれた。
お隣のおばさんやおじさんや、同じアパートの住民が呆然と瓦礫の山を眺めていた。
レスキューの人たちが一所懸命瓦礫を片付けて下に人がいるか確認していたけど、人手も足りなくて全然片付けられていない。
その風景と現実はどうしても受け入れられなかった。
でも、瓦礫の中にお姉ちゃんのボロボロになった縫いぐるみを見つけた私は、発狂した。
「うわああああああああっ!」
私は、ありったけの声で叫びながら自分のヒマワリを出して「金色の力」を発動させた。
無数の金色の光の粒が瓦礫の隙間に入り込み、一気に持ち上げた。
大きな瓦礫も小さな瓦礫も、残らず空に放り投げてバラバラに砕き、蒸発させてママやお姉ちゃんたちを探した。
やがて、かつて私達の家だった場所、ベッドだった場所に家族を見つけた。
脆い石造りのアパート。
それが、私の家族をただの血と肉の塊に変えていた。
「!」
私はママとお姉ちゃんたちの体を抱きしめた。
その顔も体も瓦礫に押し潰されて平たく、冷たくなっていて、絶対に助からないと私にもよく分かった。
分かってはいたけど私は「金色の力」で周りの瓦礫を全て空中に吹き飛ばし、大声で泣き叫んだ。
「ああああああああああっ!」
何でこうなるのよ!
何でママやお姉ちゃんたちが、殺されなきゃならないのよ!
何で!?
大声で泣き叫ぶ私の周りを、近所のみんなが遠巻きに見守ってる。
金色の光の粒子は瓦礫を次々に空に運び、バラバラに砕いていく。
「あんた、CCFなんだろ! 何であのケダモノをやっつけてくれなかったんだ!」
いきなり大声で言われて、びっくりした。
見ると、上の階のミゲルおじさんが顔を真っ赤にして私に怒鳴っていた。
「CCFは、最強なんだろ? あんなバケモノだって簡単に殺れるんだろ? なんで街がこんなになってるのに何もしてくれねえんだよ?」
「ご…ごめんなさい」
私は、私が情けない。
全部が手遅れになったのは事実。
それにしても…
「ミゲル! 親を亡くしたばかりのこんな小さい女の子に、酷なことを言うもんじゃないよ。
ねえフアニータ…」
アパートの、隣のアマンダおばさんが涙をボロボロこぼしながら私に話しかけてきた。
「あなたのママやお姉さんたちのことを、本当に気の毒に思うわ…」
アマンダおばさんは、私をギュッと抱きしめた。
「可哀想に…可哀想に、フアニータ!」
うわあああっ!
感情があふれて、涙が止まらない。
そういう自分を、どこか上から見下ろしているもう一人の自分がいる。
アンタたちは、どうして生きてるのよ。
瓦礫の山になった、私達のアパート。
なのに、ミゲルおじさんもアマンダおばさんも、みんな生き延びてて、瓦礫を片付けてる。
と言うことは…
みんな近所のよしみで、あのケダモノが街を壊す前に避難していた、ということ。
世界樹のIDを持たない貧民街の住民の生命線は、助け合い。
政府が世界樹コミュニティを通して知らせる、あらゆるニュースや警告、勧告。
それが届かない私達は直接情報を伝え合ったり、声を掛け合ったりして、自分たちを守る。
今回のケダモノの襲来だって、世界樹並みのスピードで情報を伝え、みんなで避難していたはず。
そう、みんな避難していた。
うちの家族を除いては。
何で…?
何で、うちの家族だけ伝えてくれなかったの?
私なの?
私のせいなの?
そうなの?
私がマフィアの下っ端を半殺しにしてから、近所の皆んなの視線が冷たくなったのは知ってる。
ママが前よりもっと苦労してパンを手に入れていたことも知ってる。
本当なら助けて貰えるはずのお隣さんに無視されて、それでも何も言わずにいつもニコニコしていたママ。
何なのよ。
一体何なのよ。
どうして「貧民街」という小さい世界で一緒に生きてる私たちが、お互いに区別したり差別したりするの?
そして結局、私の家族は死んでしまったじゃないの。
どうして私たちは、こんなに愚かなんだろう。
人間ってどうして、バカなんだろう。
悲しみと虚しさが胸を締めつける。
私がもっと、早くケダモノの気配に気付いていたら。
私がもっと、早くケダモノを倒せていたら。
せめてうちの地区だけでも、攻撃を止められていたら。
近所のみんなが、私の家族に逃げるよう言ってくれていたら。
数限りない後悔が心を支配して、悲しくて悲しくてやり切れない。
「うわああああ!」
私の心からの叫び。涙で視界がぼやける。
金色の光の粒子は周りの瓦礫を嵐のように空中に巻き上げ、粉々に砕いて蒸発させていく。
その時、
「フアナ=マリア・ヘルナンデス!」
私は急に名前を呼ばれた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
姫騎士様と二人旅、何も起きないはずもなく……
踊りまんぼう
ファンタジー
主人公であるセイは異世界転生者であるが、地味な生活を送っていた。 そんな中、昔パーティを組んだことのある仲間に誘われてとある依頼に参加したのだが……。 *表題の二人旅は第09話からです
(カクヨム、小説家になろうでも公開中です)
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる