終わる世界と、花乙女。

まえ。

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外伝 フアニータの憂鬱

ケダモノ!

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金色の力エル ポデール デ オーロ!」

私の叫び。魂の声。
力を持つ者が、お金を持つものがいつも勝つ世界なんて、許さない。
力の弱い、貧しい人たちのために闘う。

私は女の子たちをぎゅっと抱きしめた。
もっと強くマス フエルテ!」
を中心に、金色の光の粒が嵐のようにぐるぐると回った。

手の中の金色のヒマワリをぎゅっと握りしめる。
もっとマアス!」

私の怒りの力を宿した「金色の力」は、車をめちゃくちゃに破壊した。
窓は熱で粉々に割れ、天井は空に吹き飛ばされ、ドアは通りの方に落ちていった。

アクリルの隔離板は一瞬で蒸発し、スキンヘッドと金髪男がギョッとした表情でこちらを振り返っているのが見えた。

車の床も熱で溶け、床下のエンジンが爆発した。
爆発の音も衝撃も金色の嵐にブロックされて、どこか遠くで起きている出来事のように思われた。

ぐわっしゃああんん!

浮力を失った車は地面に激突し、衝撃で石畳を周囲に撒き散らしながら粉々になった。
私たちを包む金色の力は、中の私たちを守るクッションになって地面に大きな傷を作りながらごろごろと転がり、私たちは静かに着地した。

「何だテメエ!」
あまりの出来事に動転しながら、金髪男は恐怖を怒りに変えることで自分を保った。
バカな男。
「金色の力」に守られて、無傷でことにも気付いていない。

「車がオシャカになったじゃねえか!? 何のつもりだ! どう責任を取ってくれるんだ! 小娘が!?」

怒りに燃える黒い瞳。
私の襟首を掴む手。
力強く私の首を締め上げる、男の力。

そういうの、ダサい。
ダサいダサいダサい。
こうやって、腕力で女の子に言うことを聞かせられるって考えてるとこ、メチャクチャダサい。

私の、金色の力。
弾けろ!

「ギャッ!」
金髪男の悲鳴。
私の襟首を掴んでいた右手が、まるで熱いフライパンを握ったように、パッと離れた。

「何だ? どうした?」
スキンヘッドの男が金髪男に尋ねた。
「わからん! こいつの体がものすごく熱っ!」

熱い?
当たり前だ。私の身体は怒りで金色に燃えてる。
私の手も、足も、頭も、髪の毛も。
金色の怒りでメラメラと燃えてる。

「この野郎っ!」
不意に私の頬を叩いた金髪男。
「あぢっ!」
あ~あ。
火傷したみたい。

ぺちっ!
逆に私の拳が金髪男の頬にヒットした。
その瞬間、男の髪は炎に包まれた。
金色のドレッドヘアが燃え上がり、男はのたうち回りながら地面に頭をこすり付けて必死に火を消した。

まだまだ。
私が金髪男のお腹を軽く蹴ると、蹴った場所から炎が吹き上がった。
男はシャツを燃やしながら路上をごろごろと転がり、焼け焦げたボロくずのような姿になった。

「貴様あっ!」
スキンヘッドの男は懐から銃を取り出し、私の眉間にぴたりと照準を合わせた。
「ぶっ殺す!」
「殺す、なんてセリフは脅しにもならないよ、おじさん。撃つなら無言で撃てば?」
男はカッと目を見開いて一気に引き金を引いた。

パンッ!

乾いた音を立てて私に向かってくる弾丸は、無数の金色の粒子に何度も何度も跳ね返されてその場で細かく震え、やがて地面に落ちた。

「この野郎っ!」

パンッ! パンッ! パンッ!
何度も私の眉間に向かって撃たれた弾丸。
全てその場に満ち溢れた光の粒子に囲まれて細かく震え、さっきも同じように地面に落ちた。

「わかったでしょ?」
「このっ!」
スキンヘッド男の、右の拳が私の頬を襲った。

ダサい。
まだわかってない。

私の目の前、あと少しの所で止まった拳。
金色の光の粒子が皮膚に食い込んで、血まみれになってる。
「痛っ!」

「痛いだけ?」
光の粒子たちがぼうっと燃え上がり、男の皮膚を焼いた。
「あづっ!」
スキンヘッド男は拳を振りながら後ろに飛び下がった。

そうか。
それで

男の脇腹を思い切り蹴り上げた。
「ぐわあっ!」
私のキックなんて何でもないだろうけど、一緒に吹き出した炎は本物。
男は転げ回って炎を消した。
「まだまだ!」
何度も蹴る。
男を蹴る。

私の怒りは、こんなものじゃない。
腕力のある男が、まだ幼い女の子を力ずくで押さえ付ける現実。
お金持ちが、貧しい人間の臓器を狙って誘拐している現実。
世界樹のIDを持たないだけで、いないことにされてる私たち。それも現実。
そしてそれらを全て見ないふりしてやり過ごしてる、政府のやり方。
私の怒りは、こんなものじゃない。
こんなんじゃ、全然足りない。

スキンヘッド男が、だんだん焼け焦げてボロボロになっていった。
ふと、視線に気付いて振り返った。

そこにいたのは、私と一緒に誘拐された貧民街の女の子たち。
怯えた顔で、無言でこちらを見てる。

「もう、大丈夫だよ。安心して」
女の子の一人が、私に向かって罵った。

ケダモノアニマール!」
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