50 / 69
外伝 フアニータの憂鬱
金色の力
しおりを挟む
たぶん「誘拐」と聞いても、普通の人にはその怖さがピンと来ない。
でも、貧民街に生まれた私たちには深刻な悩み。
自分が誘拐される夢を見て夜中に飛び起きることも日常茶飯事。
誘拐が起きる原因は、成金のワガママ。
成金は何でもお金で買おうとするから。
文字通り、何でも。
本来はお金で買えないはずの「若さ」さえも。
詳しいことはわからないけど、成金は子供や若者の内臓や筋肉、皮膚などを自分の体に移植することで色々な病気を「なかったこと」にできるらしい。
本当は豚の体組織でもいいんだけど、金持ちはヒトの体組織にこだわる。
生まれつきの金持ちは若いうちに自分の体の一部を培養しておく。その維持にかなりお金がかかるけど、彼らはお金を持ってるから問題ない。
成金は…成金は生まれつきのお金持ちじゃないから若い頃に自分の体組織を培養してない。
だから、年を取って病気や怪我をすると子供や若者の体を(こっそりと)欲しがる。
そしてそういう汚い仕事をマフィアに依頼する。
依頼を受けたマフィアは、子供や若者をどこかからさらってくる。
でも、誰でもさらえばいいってわけじゃない。
もし世界樹のIDを持つ普通の「市民」を誘拐したら通報があり次第「認識装置」(AIみたいなもの)が世界中から瞬時にその人の居場所を探し当てる。
世界樹の世界での治安は、そうやって保たれている。
だからマフィアは世界樹のIDを持たない、私達みたいな貧民街の子供を誘拐する。
誘拐されても誰も通報しない。
世界樹のIDを持っていないから探しても見つからない。そういう子どもたち。
小学校2年生の時、学校にいく朝の通学路。
私は路上でいきなり誘拐された。
体格の良い男が私の腕をつかむと、路上に停めてあった大型のバンに無理やり引きずり込んだ。
「…!」
こういう時には叫べって普段ママから言われているのに、いざとなったら叫べない。
「や…だ」
必死に絞り出した声。
ドアの枠につかまって、必死に抵抗した。
助けてくれない。
通行人は割といるのに皆、見て見ぬふりをして誰も助けてくれない。
「大人しくしてろ」
男が私の頬に銃口を押し当てた。
怖い。
マフィアはいざという時、ためらわない。
容赦なく引き金を引く。
抵抗する力が緩んだ。
「早くしろ!」
バンの車内。
運転席と荷室は透明なアクリルの隔壁で完全に分けられている。
そのアクリル板越しに運転席の男が振り返って叫んだ。
スキンヘッドの浅黒い顔、分厚い唇。
悪意に満ちた表情。サングラスが光る。
「分かってる!」
私の腕を掴む男。
金髪のドレッドヘア、稲妻のタトゥー。
金髪の男は私の手首をぎゅうっと握って私を引きずった。
「いたっ!」
男の力は圧倒的で、私は悲鳴をあげた。
万力に締め上げられたような痛み。
そのまま、荷室の奥に引きずり込まれた。
私の家族はママとお姉ちゃんたちだけで男の人はいないし、小学校の先生もほとんど女の人だから、身近に大人の男はいない。
だから今まで直接「男の力」を感じたことはない。
初めての体験。
大人の男の「力ずく」というのがこんなに圧倒的な力だなんて、知らなかった。
私の後ろで、車のドアが閉まった。
窓を全て目張りされた薄暗い車内。
ここは、バンの荷室?
車が地面を離れて、浮かび上がるのを感じた。
すすり泣き…が聞こえた。
え?
見回すと、薄暗がりの中に周りに私と同い年くらいの女の子が3人いるのが見えた。
誘拐されたのかな?
みんな私と同じ、みすぼらしい服を着てる。
多分、貧民街の子供たちだ。
しかも力の弱い、女の子だけ。
なんで?
なんで、なんでなの?
さっき金髪男に掴まれた手首はまだズキズキ痛む。
でもそんなことはどうでもいい。
お金を持った人が貧しい私達を誘拐させる。
力を持った屈強な男たちが弱い私達を引きずり回す。
通行人はそれを、見て見ないふりをする。
それっておかしい。
こんな世の中、絶対におかしい。
何かが間違ってる。
私は、決してこんな理不尽には屈しない。
「私の花よ!」
私の身体の周りに金色の光の粒が集まり、ヒマワリの形になった。
金色にキラキラと輝く、ヒマワリ。
「みんな、助けてあげる」
でも、貧民街に生まれた私たちには深刻な悩み。
自分が誘拐される夢を見て夜中に飛び起きることも日常茶飯事。
誘拐が起きる原因は、成金のワガママ。
成金は何でもお金で買おうとするから。
文字通り、何でも。
本来はお金で買えないはずの「若さ」さえも。
詳しいことはわからないけど、成金は子供や若者の内臓や筋肉、皮膚などを自分の体に移植することで色々な病気を「なかったこと」にできるらしい。
本当は豚の体組織でもいいんだけど、金持ちはヒトの体組織にこだわる。
生まれつきの金持ちは若いうちに自分の体の一部を培養しておく。その維持にかなりお金がかかるけど、彼らはお金を持ってるから問題ない。
成金は…成金は生まれつきのお金持ちじゃないから若い頃に自分の体組織を培養してない。
だから、年を取って病気や怪我をすると子供や若者の体を(こっそりと)欲しがる。
そしてそういう汚い仕事をマフィアに依頼する。
依頼を受けたマフィアは、子供や若者をどこかからさらってくる。
でも、誰でもさらえばいいってわけじゃない。
もし世界樹のIDを持つ普通の「市民」を誘拐したら通報があり次第「認識装置」(AIみたいなもの)が世界中から瞬時にその人の居場所を探し当てる。
世界樹の世界での治安は、そうやって保たれている。
だからマフィアは世界樹のIDを持たない、私達みたいな貧民街の子供を誘拐する。
誘拐されても誰も通報しない。
世界樹のIDを持っていないから探しても見つからない。そういう子どもたち。
小学校2年生の時、学校にいく朝の通学路。
私は路上でいきなり誘拐された。
体格の良い男が私の腕をつかむと、路上に停めてあった大型のバンに無理やり引きずり込んだ。
「…!」
こういう時には叫べって普段ママから言われているのに、いざとなったら叫べない。
「や…だ」
必死に絞り出した声。
ドアの枠につかまって、必死に抵抗した。
助けてくれない。
通行人は割といるのに皆、見て見ぬふりをして誰も助けてくれない。
「大人しくしてろ」
男が私の頬に銃口を押し当てた。
怖い。
マフィアはいざという時、ためらわない。
容赦なく引き金を引く。
抵抗する力が緩んだ。
「早くしろ!」
バンの車内。
運転席と荷室は透明なアクリルの隔壁で完全に分けられている。
そのアクリル板越しに運転席の男が振り返って叫んだ。
スキンヘッドの浅黒い顔、分厚い唇。
悪意に満ちた表情。サングラスが光る。
「分かってる!」
私の腕を掴む男。
金髪のドレッドヘア、稲妻のタトゥー。
金髪の男は私の手首をぎゅうっと握って私を引きずった。
「いたっ!」
男の力は圧倒的で、私は悲鳴をあげた。
万力に締め上げられたような痛み。
そのまま、荷室の奥に引きずり込まれた。
私の家族はママとお姉ちゃんたちだけで男の人はいないし、小学校の先生もほとんど女の人だから、身近に大人の男はいない。
だから今まで直接「男の力」を感じたことはない。
初めての体験。
大人の男の「力ずく」というのがこんなに圧倒的な力だなんて、知らなかった。
私の後ろで、車のドアが閉まった。
窓を全て目張りされた薄暗い車内。
ここは、バンの荷室?
車が地面を離れて、浮かび上がるのを感じた。
すすり泣き…が聞こえた。
え?
見回すと、薄暗がりの中に周りに私と同い年くらいの女の子が3人いるのが見えた。
誘拐されたのかな?
みんな私と同じ、みすぼらしい服を着てる。
多分、貧民街の子供たちだ。
しかも力の弱い、女の子だけ。
なんで?
なんで、なんでなの?
さっき金髪男に掴まれた手首はまだズキズキ痛む。
でもそんなことはどうでもいい。
お金を持った人が貧しい私達を誘拐させる。
力を持った屈強な男たちが弱い私達を引きずり回す。
通行人はそれを、見て見ないふりをする。
それっておかしい。
こんな世の中、絶対におかしい。
何かが間違ってる。
私は、決してこんな理不尽には屈しない。
「私の花よ!」
私の身体の周りに金色の光の粒が集まり、ヒマワリの形になった。
金色にキラキラと輝く、ヒマワリ。
「みんな、助けてあげる」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
レディース異世界満喫禄
日の丸
ファンタジー
〇城県のレディース輝夜の総長篠原連は18才で死んでしまう。
その死に方があまりな死に方だったので運命神の1人に異世界におくられることに。
その世界で出会う仲間と様々な体験をたのしむ!!
ダンジョンが出現して世界が変わっても、俺は準備万端で世界を生き抜く
ごま塩風味
ファンタジー
人間不信になり。
人里離れた温泉旅館を買い取り。
宝くじで当たったお金でスローライフを送るつもりがダンジョンを見付けてしまう、しかし主人公はしらなかった。
世界中にダンジョンが出現して要る事を、そして近いうちに世界がモンスターで溢れる事を、しかし主人公は知ってしまった。
だが主人公はボッチで誰にも告げず。
主人公は一人でサバイバルをしようと決意する中、人と出会い。
宝くじのお金を使い着々と準備をしていく。
主人公は生き残れるのか。
主人公は誰も助け無いのか。世界がモンスターで溢れる世界はどうなるのか。
タイトルを変更しました
キャンピングカーで往く異世界徒然紀行
タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》
【書籍化!】
コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。
早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。
そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。
道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが…
※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜
※カクヨム様でも投稿をしております
腐ったお姉ちゃん、【ヤンデレBLゲームの世界】で本気を出すことにした!
月白ヤトヒコ
ファンタジー
ある日、不遇な異母兄が虐げられる理由を考えていたら――――
この世界が鬼畜ヤンデレスキーな腐女子ご用達の、ほぼほぼハッピーエンドの無い、メリバ、バッドエンド、デッドエンドの散りばめられているBLゲーム【愛シエ】の世界だと気が付いた!
そして自分が、ゲームの攻略対象のメンヘラリバース男の娘こと第三王子のネロに生まれ変わっていることを知った前世腐女子の茜は、最推しだったゲーム主人公(総受け)のバッドエンド&死亡フラグをへし折ることを決めた。
まずは異母兄弟であることを利用し、ゲーム主人公のシエロたんに会うと――――
なんとびっくり、シエロたんの中身は前世の弟、蒼だったっ!?
BLは嫌だと『腐ったお姉様。伏してお願い奉りやがるから、是非とも助けろくださいっ!?』と、半泣きで縋られたので、蒼のお姉ちゃんである茜は、弟の生命と貞操と尊厳を守るため、運命に立ち向かうことにした。
「生でBLを見られる♪」というワクテカな誘惑を、泣く泣く断ち切って・・・
どうにかして、破滅、死亡フラグを折って生き残ってやろうじゃないのっ!!!!
掛かって来いや運命っ!
設定はふわっと。
多分、コメディー。
※BLゲームに転生ですが、BLを回避する目的なのでBLな展開にはなりません。
※『腐ったお姉様。伏してお願い奉りやがるから、是非とも助けろくださいっ!?』の、腐ったお姉ちゃんが主役の話。
『腐ったお姉様~』の方を読んでなくても大丈夫です。
お兄ちゃんの装備でダンジョン配信
高瀬ユキカズ
ファンタジー
レベル1なのに、ダンジョンの最下層へ。脱出できるのか!?
ダンジョンが現代に現れ、ライブ配信が当たり前になった世界。
強さに応じてランキングが発表され、世界的な人気を誇る配信者たちはワールドクラスプレイヤーと呼ばれる。
主人公の筑紫春菜はワールドクラスプレイヤーを兄に持つ中学2年生。
春菜は兄のアカウントに接続し、SSS級の激レア装備である【神王の装備フルセット】を持ち出してライブ配信を始める。
最強の装備を持った最弱の主人公。
春菜は視聴者に騙されて、人類未踏の最下層へと降り立ってしまう。しかし、危険な場所に来たことには無自覚であった。ろくな知識もないまま攻略し、さらに深い階層へと進んでいく。
無謀とも思える春菜の行動に、閲覧者数は爆上がりする。
貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~
喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。
庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。
そして18年。
おっさんの実力が白日の下に。
FランクダンジョンはSSSランクだった。
最初のザコ敵はアイアンスライム。
特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。
追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる