終わる世界と、花乙女。

まえ。

文字の大きさ
上 下
39 / 70
第一章 終わる世界

大人の流儀

しおりを挟む
私の花よミス フローレス!」
私は両手に白蓮の花を握り、フアニータに向かい合った。
3ヶ月前とは違って、今なら白蓮の花を瞬時に5本出すことができる。
花乙女が持つ花は、電池のようなもの。最初に花にエネルギーを貯めておき、後でそれを色々な武器に変えたり力を発散させたりして敵を攻撃する。

私の両手の白蓮を見て、フアニータは鼻で笑った。
「そんなので私にかなうと思った? おばさんセニョーラ?」
フアニータの、悪意のこもった言葉。
私を軽蔑した瞳。
やっぱ苦手だ、この娘。

「水の壁!」
私は、自分の周りに泥水の壁を作った。
前回のオークランド虐殺の時の経験から改良した、私なりの作戦ストラテジーを試すことにする。

ここは闘技場の中に作られた仮想空間。
仮想空間の中も闘技場と同じ床。同じ壁と天井。
今回はあらかじめ作られた仮想空間があってそこから出てはいけない。だからお互いに自分の仮想空間を使った攻撃の「上書き」も「圧潰」も使えない。
つまり、この勝負を決めるのは仮想空間の中に構築された環境の違い。

私は自分を円筒形に包む泥水でシールドを作り、フアニータに向かい合った。
「こんな子供だましで」
フアニータが私に向かって一歩を踏み出した。
「私を止められると思った? 舐められたものね」

フアニータの頭の上に、金色に輝く太陽が見える。
あれは、狂った太陽エル ソル ロコ
フアニータが持つヒマワリの花から生まれる、光と熱の球体。エネルギーの塊。
前に見た時は、フアニータはケダモノにぶつけて攻撃してた。

でも今は違う。
フアニータは上に向かって開いた左手の掌の上に「狂った太陽」を浮かべたままこちらに近付いてくる。
そしてその太陽を私に向かって投げる気配はない。
たぶん、それを受けたら私が大怪我するから。
少し離れた場所で私達を見守る、審判役の校長が試合を止めてしまうから。

フアニータが私に近付くにつれ、「狂った太陽」の熱も押し寄せてきた。
この光と熱には圧倒される。
私達の力の差を実感する。
残念だけど、私の白蓮ではフアニータに対抗できない。

だけど、私には彼女にはないアドバンテージがある。
人生経験の長さに裏打ちされた、アドバンテージ。
それは、
年齢相応に無邪気で純粋なフアニータとは違って、私はまず疑ってみる癖がある。

例えば校長がこの試合の前に説明したルール。
私もフアニータも、校長に言われたルールは同じように理解してる。
でも多分、

そうだ。
校長は私の倍以上生きてる。
だからその分、色々と考えた上で言葉を発する。
校長が何も考えずにこの闘技場を用意したとは思えない。

「そっちから来ないなら、こっちから行くよ」
フアニータが一歩ずつ近付いてくる。
熱と光とエネルギーの塊も一歩ずつ近付いてくる。

まだ。
まだ遠い。

私を取り巻く泥水の壁。
その水温がみるみる上昇する。
フアニータの太陽の影響を受けて、どんどん熱くなっていく。

まだ遠い。
攻撃するには、まだもう少しだけ遠い。

熱くなった泥水の、あちこちで小さなあぶくが、上がり始めた。
やばい。
沸騰し始めた!
もうあんまりもたない。

「こんなチャチな壁で私を防げると思った?」

回せ!
水の壁を回せ! 蒸発するより速く回して冷ませ! もっと速く!

私を囲む泥水の壁が、あちこちで蒸発して無数の穴が開いていく。

やばい!
このままじゃ、フアニータに泥水を全部蒸発させられちゃう!

野球バットを構えてその場に立つ。
背中に隠したのは蓮から作ったロータスシルク。
それ自体に攻撃力はないけど、彼女の顔に絡みつけば、一時的に戦闘力を奪うことができる。

かくれんぼハイド アンド シークは、もうおしまい」
私の姿を隠してくれていた泥水の壁は、一瞬で全て蒸発させられた。
私の、無防備な姿がフアニータの前にさらされた。

今がチャンス!
「ロータスシルク!」
私は、ありったけのロータスシルクをフアニータの顔面に投げつけた。
「なにこれ!?」
狙い通り、フアニータは顔をこすってロータスシルクを払い落とした。
チャンス!
一気に間合いを詰める。
「…とでも言うと思った?」
彼女の顔。冷静そのもの。え?
「この技、オークランドで第三王子相手に使ったんでしょ? 知ってる」
「あ…」
そう。あの時、自分が王子に泥水の底に沈められている間に私が王子に勝ったと聞いて、フアニータは地団駄を踏んで悔しがった。で、周りに何が起こったか根掘り葉掘り聞いてた。

「おばさんだから、忘れっぽいってことかな?」
フアニータは狂った太陽エル ソル ロコと一緒に、完全に無防備になった私に向かって一歩踏み出した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

姫騎士様と二人旅、何も起きないはずもなく……

踊りまんぼう
ファンタジー
主人公であるセイは異世界転生者であるが、地味な生活を送っていた。 そんな中、昔パーティを組んだことのある仲間に誘われてとある依頼に参加したのだが……。 *表題の二人旅は第09話からです (カクヨム、小説家になろうでも公開中です)

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

処理中です...