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第一章 終わる世界
おごりとプライド
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「ここにいたか・・・」
王子は一瞬で自分の仮想空間を消し、今までと同じように「上書き」を行った。
つまり校長の仮想空間の上に自分の泥水を注いで、校長の環境を台無しにした。
王子の背後から追い掛けるカメラ。
港町の街並みが泥の海に沈み、やがて風景が全て泥色になった。
「やっと姿を現したな」
泥の海の上。ちょうど王子に向かい合う形で空中に浮かぶシガル校長。
腕を組んでるけど、怒っているようにも見えない。静かな声音。
「ご苦労様、と言っておくわ」
「どうだ? 全部の階層を泥の海に沈められた気分は?」
「別に」
「別に?」
「何も驚きはないわ。やっぱりあなたは『圧潰』ではなく『上書き』を選んだわね。ジェニファーの報告通りだった」
「何のことだ?」
「あなたは自分の力に自信がありすぎるのよ。つまり、おごっているの」
「何を言っているか、さっぱりわからん」
「いいわ。教えてあげる」
校長は細剣を構えて、王子に向かい空中を猛ダッシュした。
王子はパチン、と指を鳴らして泥水のカーテンを作り、それで校長を阻んだ。
校長はカーテンの前で立ち止まり、不敵に微笑んだ。
「せっかく迷宮を作って待っていたのに、あなたは泥水で全部を台無しにしてくれたわね」
「そんな物に惑わされるほど小者でもない!」
王子が言い終わらないうちに、校長は泥水のカーテンに突っ込み、一気に王子との距離を詰めた。
「愚か者が!」
王子がパチンと指を鳴らすと、泥水が渦巻きの形になり、校長の身体を完全に包んだ。
校長の身体が渦巻きの中でぐるぐると周りながら空高く舞い上がった。
やばっ!
何てこと!
「校長!」
「シガル!」
「やめてっ!」
周りの学生たちが声を挙げた。
私も、あまりの怖さに拳をぎゅっと握った。
でも。
天まで届くと思っていた渦巻きは、ある高さまで上がると止まり、下に降りてきた。
よく見ると渦巻きの上にシガル校長が立っている。
「これは、どういうことだ・・・」
「これは私の技。私の記憶の花。
私の『わすれな草』は、相手の技を吸い込んで、そのままお返しすることができるの」
「なに・・・?」
「さんざん上書きしてくれたわよね。私が構築した環境を」
「は?」
「相手の仮想空間を上書きする場合、メリットとデメリットが存在する。
メリットは、相手の仮想空間を完全拒絶する『圧潰』に比べて、必要なエネルギーがずっと少なくて済むこと。
デメリットは、相手の環境を自分の『力』の中に取り込んでしまうこと。少なからず相手の能力の影響を受けてしまうということ」
「それがどうした?」
「そう。それがあなたの悪い癖。自分の力を信じ過ぎて、相手を呑んでかかる。あなたは、私が3か月かけて作った花の力を全部、自分の泥水に取り込んだの」
泥水の渦巻きの水面に、無数の薄紫色の花が咲いた。
「プライドも大事だけど、あなたのそれは、ただのおごりね」
信じられない!
わすれな草入りの泥水が王子に襲いかかった。
とっさに自分の周りに泥水のバリアを張った王子。
「あなたの泥水は都市を丸ごと水没できるほど豊富で強力だけど」
校長は、細剣を王子に向けた。
「その泥水は、どうやら使い回してるみたいね。おかげで私の花をいっぱい呑み込んだ泥水がたっぷりあるの」
王子に襲いかかる泥水の塊!
その表面には、無数の薄紫色の花。わすれな草。
王子は近くの泥水をかき集めるように持ち上げ、校長の泥水を防いだ。
「こしゃくなぁ!」
よけてもよけても襲いかかる泥水。
王子の白いスーツのあちこちに、薄紫色のわすれな草が貼りつき始めた。
王子は前に出て、直接校長に殴りかかった。
「ぐうっ!」
校長はその拳を、レイピアの鍔でかろうじて防いだ。
「頑張れ! 校長!」
王子の身体のあちこちに貼り付いたわすれな草。
あれをレイピアで弾き飛ばせば、王子のその部分の記憶をなくせる。つまり校長は勝てる。でも、王子も簡単に隙を見せない。
「頑張れ! 頑張れ!」
王子は一瞬で自分の仮想空間を消し、今までと同じように「上書き」を行った。
つまり校長の仮想空間の上に自分の泥水を注いで、校長の環境を台無しにした。
王子の背後から追い掛けるカメラ。
港町の街並みが泥の海に沈み、やがて風景が全て泥色になった。
「やっと姿を現したな」
泥の海の上。ちょうど王子に向かい合う形で空中に浮かぶシガル校長。
腕を組んでるけど、怒っているようにも見えない。静かな声音。
「ご苦労様、と言っておくわ」
「どうだ? 全部の階層を泥の海に沈められた気分は?」
「別に」
「別に?」
「何も驚きはないわ。やっぱりあなたは『圧潰』ではなく『上書き』を選んだわね。ジェニファーの報告通りだった」
「何のことだ?」
「あなたは自分の力に自信がありすぎるのよ。つまり、おごっているの」
「何を言っているか、さっぱりわからん」
「いいわ。教えてあげる」
校長は細剣を構えて、王子に向かい空中を猛ダッシュした。
王子はパチン、と指を鳴らして泥水のカーテンを作り、それで校長を阻んだ。
校長はカーテンの前で立ち止まり、不敵に微笑んだ。
「せっかく迷宮を作って待っていたのに、あなたは泥水で全部を台無しにしてくれたわね」
「そんな物に惑わされるほど小者でもない!」
王子が言い終わらないうちに、校長は泥水のカーテンに突っ込み、一気に王子との距離を詰めた。
「愚か者が!」
王子がパチンと指を鳴らすと、泥水が渦巻きの形になり、校長の身体を完全に包んだ。
校長の身体が渦巻きの中でぐるぐると周りながら空高く舞い上がった。
やばっ!
何てこと!
「校長!」
「シガル!」
「やめてっ!」
周りの学生たちが声を挙げた。
私も、あまりの怖さに拳をぎゅっと握った。
でも。
天まで届くと思っていた渦巻きは、ある高さまで上がると止まり、下に降りてきた。
よく見ると渦巻きの上にシガル校長が立っている。
「これは、どういうことだ・・・」
「これは私の技。私の記憶の花。
私の『わすれな草』は、相手の技を吸い込んで、そのままお返しすることができるの」
「なに・・・?」
「さんざん上書きしてくれたわよね。私が構築した環境を」
「は?」
「相手の仮想空間を上書きする場合、メリットとデメリットが存在する。
メリットは、相手の仮想空間を完全拒絶する『圧潰』に比べて、必要なエネルギーがずっと少なくて済むこと。
デメリットは、相手の環境を自分の『力』の中に取り込んでしまうこと。少なからず相手の能力の影響を受けてしまうということ」
「それがどうした?」
「そう。それがあなたの悪い癖。自分の力を信じ過ぎて、相手を呑んでかかる。あなたは、私が3か月かけて作った花の力を全部、自分の泥水に取り込んだの」
泥水の渦巻きの水面に、無数の薄紫色の花が咲いた。
「プライドも大事だけど、あなたのそれは、ただのおごりね」
信じられない!
わすれな草入りの泥水が王子に襲いかかった。
とっさに自分の周りに泥水のバリアを張った王子。
「あなたの泥水は都市を丸ごと水没できるほど豊富で強力だけど」
校長は、細剣を王子に向けた。
「その泥水は、どうやら使い回してるみたいね。おかげで私の花をいっぱい呑み込んだ泥水がたっぷりあるの」
王子に襲いかかる泥水の塊!
その表面には、無数の薄紫色の花。わすれな草。
王子は近くの泥水をかき集めるように持ち上げ、校長の泥水を防いだ。
「こしゃくなぁ!」
よけてもよけても襲いかかる泥水。
王子の白いスーツのあちこちに、薄紫色のわすれな草が貼りつき始めた。
王子は前に出て、直接校長に殴りかかった。
「ぐうっ!」
校長はその拳を、レイピアの鍔でかろうじて防いだ。
「頑張れ! 校長!」
王子の身体のあちこちに貼り付いたわすれな草。
あれをレイピアで弾き飛ばせば、王子のその部分の記憶をなくせる。つまり校長は勝てる。でも、王子も簡単に隙を見せない。
「頑張れ! 頑張れ!」
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