終わる世界と、花乙女。

まえ。

文字の大きさ
上 下
35 / 69
第一章 終わる世界

おごりとプライド

しおりを挟む
「ここにいたか・・・」
王子は一瞬で自分の仮想空間を消し、今までと同じように「上書き」を行った。
つまり校長の仮想空間の上に自分の泥水を注いで、校長の環境を台無しにした。

王子の背後から追い掛けるカメラ。
港町の街並みが泥の海に沈み、やがて風景が全て泥色になった。

「やっと姿を現したな」
泥の海の上。ちょうど王子に向かい合う形で空中に浮かぶシガル校長。
腕を組んでるけど、怒っているようにも見えない。静かな声音。

「ご苦労様、と言っておくわ」
「どうだ? 全部の階層を泥の海に沈められた気分は?」
「別に」
「別に?」
「何も驚きはないわ。やっぱりあなたは『圧潰』ではなく『上書き』を選んだわね。ジェニファーの報告通りだった」
「何のことだ?」
「あなたは自分の力に自信がありすぎるのよ。つまり、おごっているの」
「何を言っているか、さっぱりわからん」
「いいわ。教えてあげる」

校長は細剣レイピアを構えて、王子に向かい空中を猛ダッシュした。
王子はパチン、と指を鳴らして泥水のカーテンを作り、それで校長を阻んだ。

校長はカーテンの前で立ち止まり、不敵に微笑んだ。
「せっかく迷宮を作って待っていたのに、あなたは泥水で全部を台無しにしてくれたわね」
「そんな物に惑わされるほど小者でもない!」

王子が言い終わらないうちに、校長は泥水のカーテンに突っ込み、一気に王子との距離を詰めた。
「愚か者が!」
王子がパチンと指を鳴らすと、泥水が渦巻きの形になり、校長の身体を完全に包んだ。
校長の身体が渦巻きの中でぐるぐると周りながら空高く舞い上がった。

やばっ!
何てこと!

「校長!」
「シガル!」
「やめてっ!」

周りの学生たちが声を挙げた。
私も、あまりの怖さに拳をぎゅっと握った。

でも。
天まで届くと思っていた渦巻きは、ある高さまで上がると止まり、下に降りてきた。
よく見ると渦巻きの上にシガル校長が立っている。

「これは、どういうことだ・・・」
「これは私の技。私の記憶の花。
 私の『わすれな草』は、相手の技を吸い込んで、そのままお返しすることができるの」
「なに・・・?」
「さんざん上書きしてくれたわよね。私が構築した環境を」
「は?」
「相手の仮想空間を上書きする場合、メリットとデメリットが存在する。
 メリットは、相手の仮想空間を完全拒絶する『圧潰』に比べて、必要なエネルギーがずっと少なくて済むこと。
 デメリットは、相手の環境を自分の『力』の中に取り込んでしまうこと。少なからず相手の能力の影響を受けてしまうということ」
「それがどうした?」
「そう。それがあなたの悪い癖。自分の力を信じ過ぎて、相手を呑んでかかる。あなたは、私が3か月かけて作った花の力を全部、自分の泥水に取り込んだの」

泥水の渦巻きの水面に、無数の薄紫色の花が咲いた。
「プライドも大事だけど、あなたのそれは、ただのね」

信じられない!
わすれな草入りの泥水が王子に襲いかかった。
とっさに自分の周りに泥水のバリアを張った王子。

「あなたの泥水は都市を丸ごと水没できるほど豊富で強力だけど」
校長は、細剣レイピアを王子に向けた。
「その泥水は、どうやら使い回してるみたいね。おかげで私の花をいっぱい呑み込んだ泥水がたっぷりあるの」
王子に襲いかかる泥水の塊!
その表面には、無数の薄紫色の花。わすれな草。

王子は近くの泥水をかき集めるように持ち上げ、校長の泥水を防いだ。
「こしゃくなぁ!」
よけてもよけても襲いかかる泥水。
王子の白いスーツのあちこちに、薄紫色のわすれな草が貼りつき始めた。

王子は前に出て、直接校長に殴りかかった。
「ぐうっ!」
校長はその拳を、レイピアの鍔でかろうじて防いだ。

「頑張れ! 校長!」

王子の身体のあちこちに貼り付いたわすれな草。
あれをレイピアで弾き飛ばせば、王子のその部分の記憶をなくせる。つまり校長は勝てる。でも、王子も簡単に隙を見せない。

「頑張れ! 頑張れ!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

Ex冒険者カイル

うさぎ蕎麦
ファンタジー
1巻あらすじ セザール学園を首席で卒業したカイル・レヴィン。 カオス学長より冒険者の経験を積んだ国王軍の人材が必要との元、冒険者の道を歩む事となる。 自身を勝手にライバル扱いするルッカに振り回されながらも冒険者としての日々を過ごす。 そしてヴァイス・リッターというギルドに所属し、先輩冒険者と共に更なる成長をする事になる。 ある日、ギルドマスタールッセルより遺跡の調査命令を受けた所賢者の石を発見する事になるが、シュバルツ・サーヴァラー、ギルドマスターダストにそれを嗅ぎ付けられ先に奪い取られてしまう。 奪い取られた賢者の石を取り返す命を受けたルッセルであったが……。 第一巻=1話ー39話迄 *登場人物 カイル ……本作主人公、学長の命により冒険者として過ごす。 ルッカ ……ヒロイン候補、カイルに好意を持つが素直じゃない。意外と世話焼き。 リンカ ……ヒロイン候補、冒険者ギルドの受付嬢。お金を稼げる男が好き。 ルミリナ……ヒロイン候補、新人プリースト。助けてくれたカイルに興味を持つ。 アリア ……ヒロイン候補、ルミリナの姉、プリースト。最初はカイルに興味が無い。 セフィア……ヴァイス・リッターに居る先輩。レンジャー。茶化すのが好き。 エリク ……ヴァイス・リッターに居る先輩。ハイウィザード。とにかく女性にモテない。 デビッド、ルッド、レティナ……カイルの同学年、卒業後国王軍に所属。2巻から参入予定。

転生して異世界の第7王子に生まれ変わったが、魔力が0で無能者と言われ、僻地に追放されたので自由に生きる。

黒ハット
ファンタジー
ヤクザだった大宅宗一35歳は死んで記憶を持ったまま異世界の第7王子に転生する。魔力が0で魔法を使えないので、無能者と言われて王族の籍を抜かれ僻地の領主に追放される。魔法を使える事が分かって2回目の人生は前世の知識と魔法を使って領地を発展させながら自由に生きるつもりだったが、波乱万丈の人生を送る事になる

ゆとりある生活を異世界で

コロ
ファンタジー
とある世界の皇国 公爵家の長男坊は 少しばかりの異能を持っていて、それを不思議に思いながらも健やかに成長していた… それなりに頑張って生きていた俺は48歳 なかなか楽しい人生だと満喫していたら 交通事故でアッサリ逝ってもた…orz そんな俺を何気に興味を持って見ていた神様の一柱が 『楽しませてくれた礼をあげるよ』 とボーナスとして異世界でもう一つの人生を歩ませてくれる事に… それもチートまでくれて♪ ありがたやありがたや チート?強力なのがあります→使うとは言ってない   ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 身体の状態(主に目)と相談しながら書くので遅筆になると思います 宜しくお付き合い下さい

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

孤独な腐女子が異世界転生したので家族と幸せに暮らしたいです。

水都(みなと)
ファンタジー
★完結しました! 死んだら私も異世界転生できるかな。 転生してもやっぱり腐女子でいたい。 それからできれば今度は、家族に囲まれて暮らしてみたい…… 天涯孤独で腐女子の桜野結理(20)は、元勇者の父親に溺愛されるアリシア(6)に異世界転生! 最期の願いが叶ったのか、転生してもやっぱり腐女子。 父の同僚サディアス×父アルバートで勝手に妄想していたら、実は本当に2人は両想いで…!? ※BL要素ありますが、全年齢対象です。

処理中です...