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第一章 終わる世界
模範と規範
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「おばさん、手加減しないから死なないでね」
くすくすと笑うフアニータ。
その左手に握りしめているのは夏の象徴、大きなヒマワリの花。
それを、指先でくるくると回す。
それに合わせて彼女の体の周りを、無数の金色の光の粒がくるくると回った。
フアニータから距離があるのに、圧倒的な熱風を感じる。
それはまるで、真昼の砂漠の熱気。
吸い込む空気が熱くて肺が痛い。
金色の光が眩しくて目を開けていられない。
シガルは涼しい顔で、空中から薄紫色の花を取り出した。
まるで、手品みたいだ。
薄紫色の小さな花。わすれな草。その小さな花を何百も束ねて、花束を作った。
「行きましょう! 私の花たち」
フアニータがヒマワリをさっと前に差し出した。
「黄金の力よ!」
無数の金色の光の粒が、彼女のヒマワリに集まった。
「行け!」
金色の光の粒と熱風が、まっすぐシガルに襲いかかった。
「記憶の花!」
シガルがわすれな草を前に差し出し、その猛烈な攻撃を受け止めた。
「この攻撃を、受け止めなさい!」
シカゴの惨劇のとき、見た。
あれは前にケダモノの炎を吸い取って、そのままケダモノに返した花。記憶の花だ。
シガルはあの花でフアニータの攻撃を受けた。
ガツンッ!
圧倒的な力を受け、シガルは数歩後ろに下がった。
「泣いて謝れば許してあげるよ」
フアニータはシガルを見て、くすくすと笑った。
「お年寄りに出る幕はないの」
「・・・」
シガルは唇を噛みしめながら攻撃を受け止めている。
残念だけど、あまり余裕がなさそう。
フアニータは、不敵に笑った。
「じゃあ、私の本気を見せてあげる」
え? 今のは本気じゃないの?
フアニータは左手のヒマワリを思い切りぶんぶんと振り回した。
さっきとは比べものにならないくらい強力な金色の風と光が、嵐のように校庭を吹き荒れた。
新入生たち-花乙女の卵の女の子たち-は、金色の嵐に追われてきゃあきゃあと逃げ惑った。
「逃げられる子は仮想空間に逃げなさい!
無理なら校舎に隠れて!」
フアニータの攻撃を受け止めながら、シガルが必死に叫んだ。
私は仮想空間に逃げ、半透明に見える現実空間を見守った。
「おばさんは逃げないの?」
「逃げる?」
シガルは右手にわすれな草を握りしめた。
「逃げないわ。だって私は、世界で初めて花乙女の力を発見した、始まりの花乙女だから」
ゆっくりと一歩ずつフアニータに向かって歩み寄った。
「私は、全ての花乙女の模範で、規範。
そんな私が、逃げるわけない」
シガルの体が嵐に煽られてぐらぐらと揺れる。
彼女のスカートの裾に火が付き、顔に火の粉がふりかかる。
細身の体。体中に火傷を負い、服にもあちこちに火が付いた。
それでもシガルはまっすぐに歩く。
「フアニータ。あなたに足りないのは覚悟。花乙女としての覚悟」
シガルの右手のわすれな草が燃え尽き、ぼろぼろの灰になって地面に落ちた。
わすれな草を失って、生身の体でフアニータの攻撃を受けても、まだ歩き続ける。
ついにシガルは、フアニータのすぐ目の前まで距離を詰めた。
体中がぼろぼろになったまま、フアニータをまっすぐに睨む。
すごい迫力!
フアニータはシガルの瞳を睨み返したものの、暫くして視線を下に落とした。
「私を殺す覚悟もないの?」
フアニータの瞳が揺れる。
「ならば控えなさい! フアニータ」
唇を噛み締めるフアニータ。
「返事は!?」
「・・・はい」
「返事は正しく」
「はい、先生」
「よろしい」
フアニータは左手のひまわりを消した。
同時にさっきまで荒れ狂っていた嵐と金色の光の粒が消えた。
「フアニータ、あなたの力は強い。多分、花乙女の中で一番」
フアニータはうつむいて、小さく頷いた。
「でも、強いだけじゃ私には勝てない。なぜだか、わかる?」
フアニータは暫く考えて、小さく首を振った。
「覚悟よ。私を殺してでも勝つっていう覚悟。あなたは手加減しないなんて言葉を使ってた。つまり、あなたの覚悟もその程度。あの時、私を殺すつもりはなかった」
フアニータの瞳から涙がこぼれた。
「ケダモノ相手に戦うのは、半端な覚悟じゃダメなの。みんな、文字通り命がけで戦ってるの。
遊び半分で花を振り回しているあなたじゃ、すぐに命を落とすわ。
あなたには素晴らしい力があるんだから、それを他人を屈伏させるためじゃなく、他人を守るために使いなさい」
シガルは、とびきりの笑顔で微笑んだ。
その笑顔のまま、彼女はその場に崩れ落ちた。
くすくすと笑うフアニータ。
その左手に握りしめているのは夏の象徴、大きなヒマワリの花。
それを、指先でくるくると回す。
それに合わせて彼女の体の周りを、無数の金色の光の粒がくるくると回った。
フアニータから距離があるのに、圧倒的な熱風を感じる。
それはまるで、真昼の砂漠の熱気。
吸い込む空気が熱くて肺が痛い。
金色の光が眩しくて目を開けていられない。
シガルは涼しい顔で、空中から薄紫色の花を取り出した。
まるで、手品みたいだ。
薄紫色の小さな花。わすれな草。その小さな花を何百も束ねて、花束を作った。
「行きましょう! 私の花たち」
フアニータがヒマワリをさっと前に差し出した。
「黄金の力よ!」
無数の金色の光の粒が、彼女のヒマワリに集まった。
「行け!」
金色の光の粒と熱風が、まっすぐシガルに襲いかかった。
「記憶の花!」
シガルがわすれな草を前に差し出し、その猛烈な攻撃を受け止めた。
「この攻撃を、受け止めなさい!」
シカゴの惨劇のとき、見た。
あれは前にケダモノの炎を吸い取って、そのままケダモノに返した花。記憶の花だ。
シガルはあの花でフアニータの攻撃を受けた。
ガツンッ!
圧倒的な力を受け、シガルは数歩後ろに下がった。
「泣いて謝れば許してあげるよ」
フアニータはシガルを見て、くすくすと笑った。
「お年寄りに出る幕はないの」
「・・・」
シガルは唇を噛みしめながら攻撃を受け止めている。
残念だけど、あまり余裕がなさそう。
フアニータは、不敵に笑った。
「じゃあ、私の本気を見せてあげる」
え? 今のは本気じゃないの?
フアニータは左手のヒマワリを思い切りぶんぶんと振り回した。
さっきとは比べものにならないくらい強力な金色の風と光が、嵐のように校庭を吹き荒れた。
新入生たち-花乙女の卵の女の子たち-は、金色の嵐に追われてきゃあきゃあと逃げ惑った。
「逃げられる子は仮想空間に逃げなさい!
無理なら校舎に隠れて!」
フアニータの攻撃を受け止めながら、シガルが必死に叫んだ。
私は仮想空間に逃げ、半透明に見える現実空間を見守った。
「おばさんは逃げないの?」
「逃げる?」
シガルは右手にわすれな草を握りしめた。
「逃げないわ。だって私は、世界で初めて花乙女の力を発見した、始まりの花乙女だから」
ゆっくりと一歩ずつフアニータに向かって歩み寄った。
「私は、全ての花乙女の模範で、規範。
そんな私が、逃げるわけない」
シガルの体が嵐に煽られてぐらぐらと揺れる。
彼女のスカートの裾に火が付き、顔に火の粉がふりかかる。
細身の体。体中に火傷を負い、服にもあちこちに火が付いた。
それでもシガルはまっすぐに歩く。
「フアニータ。あなたに足りないのは覚悟。花乙女としての覚悟」
シガルの右手のわすれな草が燃え尽き、ぼろぼろの灰になって地面に落ちた。
わすれな草を失って、生身の体でフアニータの攻撃を受けても、まだ歩き続ける。
ついにシガルは、フアニータのすぐ目の前まで距離を詰めた。
体中がぼろぼろになったまま、フアニータをまっすぐに睨む。
すごい迫力!
フアニータはシガルの瞳を睨み返したものの、暫くして視線を下に落とした。
「私を殺す覚悟もないの?」
フアニータの瞳が揺れる。
「ならば控えなさい! フアニータ」
唇を噛み締めるフアニータ。
「返事は!?」
「・・・はい」
「返事は正しく」
「はい、先生」
「よろしい」
フアニータは左手のひまわりを消した。
同時にさっきまで荒れ狂っていた嵐と金色の光の粒が消えた。
「フアニータ、あなたの力は強い。多分、花乙女の中で一番」
フアニータはうつむいて、小さく頷いた。
「でも、強いだけじゃ私には勝てない。なぜだか、わかる?」
フアニータは暫く考えて、小さく首を振った。
「覚悟よ。私を殺してでも勝つっていう覚悟。あなたは手加減しないなんて言葉を使ってた。つまり、あなたの覚悟もその程度。あの時、私を殺すつもりはなかった」
フアニータの瞳から涙がこぼれた。
「ケダモノ相手に戦うのは、半端な覚悟じゃダメなの。みんな、文字通り命がけで戦ってるの。
遊び半分で花を振り回しているあなたじゃ、すぐに命を落とすわ。
あなたには素晴らしい力があるんだから、それを他人を屈伏させるためじゃなく、他人を守るために使いなさい」
シガルは、とびきりの笑顔で微笑んだ。
その笑顔のまま、彼女はその場に崩れ落ちた。
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