終わる世界と、花乙女。

まえ。

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第一章 終わる世界

太陽のフアニータ

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特殊砲艦「歌姫」の薄暗い船内。しんと静まり返っている。
私は両手を前に構えた。
早く仮想空間を構築して、私の「花」を開かなきゃ。

だって。
もうすぐ、がこの船の中に乗り込んでくるから。
「最強」のフアニータが。

花乙女CCF」は「花を持つ少女たちLas chicas con flores」の略。人類の中で私たちだけが「花」と呼ばれる「超」能力を持っている。
フアニータは、その花乙女の中でも最強と呼ばれる、13歳の女の子。
最弱に近い私を仕留めるなら、多分仲間と協力なんてしない。恐らく、彼女が一人で来る。
それこそが、狙い目。
それこそが私の勝機。

コツ、コツ、コツ。
廊下の向こうからかすかに靴音が聞こえてきた。
聞き慣れた、あの靴音。
あれは間違いなく、フアニータ。
いつも自信に満ちあふれている女の子。

恐怖に震える膝を叩いて震えを無理やり止め、私は両手から「仮想空間」を展開した。
イメージは、全ての指先から見えない空間を開く感じ。

「仮想空間」は、通常の三次元世界から半歩ほど外れた、異空間。
異星人のケダモノと、花乙女だけが展開できる異次元の世界。

通常兵器がケダモノに一切通じないのは、この仮想空間内で行動するから。
例えば三次元内だけを移動できるミサイルは、仮想空間内のケダモノに絶対に届かない。
逆にケダモノは、通常空間にいる人間を好きなときにこの空間内に引きずり込める。
だからケダモノは無敵。
だから、人類はケダモノに勝てない。

私たち「花乙女」は、「超」能力で仮想空間を展開してケダモノと同じ世界に入り、「花」の力で彼らを倒すことができる。
だから人類にとって「花乙女」は最後の希望。

なのでこうやって、「花乙女」同士が殺し合うなんて、あっていいことじゃない。
いいことじゃない、けど。
私は、絶対に

通路の曲がり角に、まばゆい金色の光が見えてきた。
あれは、フアニータが放つ光。
太陽のフアニータフアニータ=デル=ソル

彼女が左手に持っているのはヒマワリ。
ヒマワリと言っても本物の花ではなく、花乙女が想像力と創造力で仮想空間内に出現させた、超物理的な力。

フアニータの持つヒマワリは真夏を象徴する、あの花のイメージそのもの。
黄金色きんいろの強烈な光と熱で、相手の視界を奪い、焼き尽くし、蒸発する。
どんな相手でもフアニータに近づけば、まばゆい光と強烈な熱に圧倒され、ひれ伏す。
どんな小細工も通じない。
だから、最強。

「花乙女」を育てる養成機関「学校La escuela」で、私はフアニータと何度も花を使って、模擬戦をした。
けど、彼女とは力の差があり過ぎて、勝つどころか、近付くことさえできなかった。

それを覚えているからこそ、怖くて怖くてたまらない。
心が自然に、下を向くのがわかる。
だめだ。
だめだだめだだめだ。
ここで頑張らなきゃ、私はみんなを守れなくなる。

「出力最大!」
私は目を閉じ、自分が出せる最大の力で両手から花を展開した。
私の体を中心に、冷たい水が吹き出した。
同時に水の下に、底なしの泥土を敷き詰める。
私は、その泥の中に根を伸ばし茎を伸ばし、獲物が私の領域に踏み込んでくるのを待ち構える。

水面に無数の芽と葉と花を出し、そこにまぎれた、私自身が相手を攻撃する。
いや。
あのフアニータを相手に「攻撃」までは望めない。
目標は「フアニータに触れる」とこまで。それで充分。
それなのに。

うあああああああ!
ジュジュン!

フアニータの、太陽そのもののが、私の作った池を一瞬で蒸発させた。

半分以上、私の領域が消えた。
え? ええっ!?
模擬戦の時のフアニータってもしかして、手を抜いてた?

まだフアニータは廊下の曲がり角。
視界にも入ってないのに、なんでこんなに力が強いのよ。
怖い!

ついに、曲がり角からフアニータが現れた。
同時に、金色のまばゆい光と人影が視界いっぱいに溢れる。
どうしよう!
どうしたらいい? 私。
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