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バカの酒

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ガルバが、先日のお礼だと言ってとっておきの酒を持って来た
あれか、角のお礼か


酒樽を三つ

ドラム缶くらいのサイズだから200リットルの…3倍はあるな


「カンザキ、コレが俺のとっておきだ。こんなもんじゃ娘の命のお礼はかえせねぇけど、かなり貴重な酒だから安く売るんじゃねえぞ」


ガルバとカンザキは丁寧に酒樽を馬車から下ろす



「ああそうだ・・・鹿の野郎にも謝らねぇとなぁ」

まいったなぁー

そう言いながら帰って行った。

ふむ、貴重な酒か
どれくらいの物かわからん。酒はあまり飲まなかったからなぁ

後でキャサリンに聞いてみるか。




巨大都市ウルグイン
その中心部には地下ダンジョンがある。
ダンジョンには様々なモンスターが現れる

さらに、生活に無くてはならない「魔石」それすらもダンジョンの中で採掘されている

第5層

この階層では魔石の採掘が盛んである
また、ダンジョン内では鉄鉱石や銅に石炭なんかも採掘出来る
鉱脈がある層も存在する

この第5層では主に魔石である

そこはドワーフ達が採掘する魔石鉱の階層

彼らは「ホイホイサー」の掛け声と共に魔石を掘り、終われば酒で乾杯
皆が皆、勤勉な働き者であり、皆それを上回る大酒飲みでもあった

その容姿は筋肉質、小柄で皆が皆ヘルメットを被ってツルハシを握る

魔石感知に優れた者たちが一斉に掘り進む姿は圧巻だ
ある種の観光名所になるくらいの迫力だ

おおざっぱと思いきや、その手つきは目を疑う程に繊細

掘り出した魔石は即座に属性ごと、大きさごとに分けられて箱に入れられていくそのスピードと正確さは彼らでなければ出来ない

そんな働き者の彼らの楽しみは言うまでもなく「酒」である

無論、旨い酒はそれだけで彼らの興味は尽きないしそれよりも度数の高い酒ほど好んで飲む

「なぁー、ドワーリンよ。聞いたべ?」

ドワーフの一人が言った

「ああ、聞いたさドワン。焼肉ゴッドだろう?なんでも「氷の酒」に「炎の酒」、さらには「魔神の酒」までおいてあるそうじゃないか」

ドワーリンは興奮気味に言った

「今夜行ってみないか?」

「行かずには居られないだろ!」
二人は意気投合する

そこにさらに大きな声が加わった

「そうだとも!」

ひとまわり筋肉がデカいドワーフがそこにいた

「「お、親方ぁ」」

親方と言われたドワーフは目をきらきらときらめかせて

「そんな酒おいてある店などここ数年みかけんかったからのう。ワシも行くぞ!!」

そう言うとがっはっはと笑いながら魔石鉱の奥へと歩いて行った

「こいつはマズいなぁ」
「ああこいつはマズい」

なにがマズいのか?それは

「俺たちの酒が無くなっちまうかもしんねぇぞ……」

ドワーフの親方は誰もが知る大酒飲みのドワーフの中でも、さらにとんでもない大酒飲みだからだ




--------------------------



キャサリンの店、その店内にて

キャサリンは酒樽の蓋を開けて、指をつけ舐める

そしてうーんと唸ってから

「ガルバのやつ、こんなお酒を隠し持ってたのね。そのお酒は「氷の酒」「炎の酒」「魔神の酒」といってね、普通の人間はとても飲めたもんじゃないんだけど、まあアルコール度数の高いドワーフ専用のお酒なのよこれ」


そんな酒なのか・・じゃあ普通には出せないな


「でもね、下手をすると今日には無くなっちゃうわ。」

ん?どういうことだ?

「ドワーフ達は酒の精霊に愛された種族、今頃きっと精霊に聞いてるわ。今日はお肉をいつもの倍以上に用意しておいた方が良いかもね」


なるほど…それでドワーフ達が押し寄せてくるっていう事か?


「わかった、助かったよキャサリン」


キャサリンがウインクをして

「お礼は今度一晩・・・ね?」

とか言い出したのでさっさと酒樽を抱えて店に戻った

そんな冗談には付き合えんからな、俺なんかを相手するわけがないじゃないか。あの可愛いキャサリンが


キャサリンのアドバイス通りに俺はいつもの5倍は肉を用意してみた

幸いにも最近ある大物を仕留めていたりするので余裕はあるし、なんならまだタコも残ってる


他にも最近見つけたトウガラシ(みたいなもの)を使って作ったキムチ(もどき)とか、卵スープにワカメ(らしきもの)スープを用意

ワカメは先日の海にて取ってきたやつだ

カンザキはそれらを準備し、ドワーフに備える

本当に来るのだろうか、ちょっとだけ不安になった





夕方になり、飲食街の店舗が営業を始める時刻になる

ガヤガヤと人通りも増えてきた
多種多様な人種が住んでいるのもウルグインの魅力の一つである

カンザキの焼肉屋にもちらほら客は来ているのだが、まだドワーフは来ていない。


一通り客をさばいた時彼らは唐突に現れた

「酒はあるかぁーーーーーーーー」


クソでかい声が響く
一瞬周りの喧騒が止まりしんとする
ドワーフが来たのかと、俺は慌てて店内に出るが、誰も居ない
おかしいなとか思っていると

「こっちだこっち、下を見ろよ」

言われて下を見ると
120センチ程の身長のドワーフが3人そこにいたのだ

何事もなかったかの様に外は喧騒を取り戻す

「いらっしゃい」

カンザキはそう言おうとするが

「とりあえず酒だあ」

そう言いながらドワーフ達は店内にどかどか入ってずんずんと椅子に座った


しかし、しかしだ

「お客さん、うちは焼肉屋だ。肉を注文してくれよ」

そう言ってやると

「おお、こいつはすまねぇな、じゃあ酒と肉をくれ!」

それでも酒が先か…ブレないなーさすがドワーフだ

「酒は何の酒だい?」

カンザキはそう聞くと

ドワーフ達はさも当たり前の様に

「そうだな、まずは氷の酒だろうよ!」



マジか、本当に知ってやがる。

俺は厨房に戻り酒と肉を用意して出してやる

食べ方も教えておく

「んじゃ、飲んで飲んで食って飲むか!」

そう言うと3人はグラスを持ち

「「「ラリホー!」」」

乾杯をした。

氷の酒はその名前の通り、酒の中に氷の結晶が浮かんでいる。
勝手にキンキンに冷える不思議な酒だ
炎の酒は、炎こそ燃えていないがかなり熱い温度を保っているし
魔神の酒はなんでも飲めば魔神すら酔うといわれている大変美味な酒らしい。
だが人間が飲んで良い度数ではない様だ
なんでも一口だけ飲んだ奴が、一か月酔っぱらいっぱなしだったって逸話もあるらしい

次々と入る、肉と酒の注文

「酒だ!肉だ!」

本当に次々と注文が入る。あいつらちゃんと焼いてるのか!?

むしろ本当に3人なのか!?

そう思っていると、いつの間にか店内はドワーフで埋まっていた

半分は立ったまま飲み食いしている
マジか。

明らかに20人以上はいるぞ・・・・いつのまにこんなに増えたんだ…

カンザキは追加のテーブルを外に出し、席を作る

そしてなんとかドワーフ達全員を座らせた

「いやぁ親方、俺ぁこんなうめぇ酒は久しぶりだよぉ!」

「ワシもだ!がははははははは!」

そして彼らはいちいち声がデカい

酒により黒っぽい彼らの顔が赤黒くなっている
だが楽しんでくれているようで何よりだ
クソ忙しいがな・・・

これはバイトでも雇うしかないかなぁ


そして数時間

まさか仕込んだ肉やスープが無くなるとは思わなかった

酒という酒は、安酒も含めて全て飲み尽くされた

ドワーフ達は満足気に帰って行く

最後に親方と呼ばれるドワーフが料金だと言ってどさりと金貨の詰まった袋を置いた


「なあ兄ちゃん、名前はなんて言うんだ?」

と、聞いてきた

俺がカンザキだと答えると

「そうかぁ面白い名前だな!ワシはドワマサだ、マサと呼んでやってくれ。今日は旨い酒と肉をありがとうよ!」

今日の一番デカい声でそう言って

「この店は気に入った!また来る!ワシはダンジョンの魔石鉱で親方をやっている!もしお前さんが欲しい魔石があれば、ワシを訪ねて来い!力になってやる!」

また美味い酒しいれろよぉと、そう叫びながら帰って行った


まるで嵐のようなドワーフ達だったと思う




閉店後、片付けをしているとキャサリンがやって来て手伝ってくれた。


「カンザキ、どうだった?」

笑いながらそう聞かれたので


力の限り大きな声で


「最高の一日だ!」


そう答えたのだった


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