23 / 36
龍癒庵
しおりを挟む
キンカモミジと私はリンちゃんに示された龍癒庵を目指していた。普通の人間は入れない為か、すれ違う人はほとんど居ない。大体が龍姫が来た時の為に整備作業をしている人達だった。
「にゃはは、まさか温泉入る前に登山とはね。しかも結構キツイしーーー 」
「そう ? 私はずっと山の中で暮らしてたから、あまりキツイとは思わないけど」
「にゃはは、あっ ! やっと出て来たよ、温泉」
前方に龍癒庵と書かれた看板が出てくると、その横に龍姫のみ入浴可能と書かれている。さらに注意書きとし、龍姫以外が入浴した場合は命の保証はしませんと書かれている為より物騒に感じる。
「これ、入って大丈夫なのよね ?」
「にゃはは、水星が言ったんだから間違いなく大丈夫のはずーーー 」
龍癒庵の中へ入ると簡易ながらも脱衣所があり、龍姫しか入れない為か女性用の設備が充実している。湯船を見に行くと、全体的に透き通っているのだが、如何せん温泉自体の見た目が不気味すぎる。
お湯の色が紫色の上、煮立っている訳では無いがプクプクと泡が湧き出しているのである。毒ガスではなく、水中に溶け出せない微量の覇気が湧き出していると説明書きに書かれている。
ちなみに後から知った事だが、この龍癒庵は初代龍姫が見つけ出し改良を重ねたらしい。管理は宮廷に移され、ここの修繕等は龍姫皇帝の公務として継承されている。
脱衣所の中へ入ると、隅々まで手入れが行き届いていた。さらに最終チェックを兼ねて、術が掛けられた姿見に龍紋を見せて入浴可能となる。左手の甲を見せると、白龍の龍紋と姿見が共鳴しチェック終了となった。次にキンカモミジの番になったのだが、唐突に着ていた修練着を脱ぎ始めたのである。
「いやいや、何してるのよ !?」
「何って、龍紋を見せようとーーー 。シラユリは良いよね、直ぐに出せるトコロにあって」
キンカモミジの龍紋は臀部にあるらしく、必要な時に出すのが大変なうえ恥ずかしいとの事。
「にゃはは、流石に今回は温泉で助かったよ~」
彼女に続き、私も衣服を脱ぎ浴場へと向かう。浴場へ入ろうとした時、脱衣所の脇に簡易サウナが設置されている事に気づく。キンカモミジは無類のサウナ好きらしく、吸い込まれるようにサウナへと消えていった。
先に入っててとの事の為、浴場に入ると硫黄の匂いと共に件の温泉が現われる。身体を流し、意を決して紫色のお湯へと入る。少しヌメヌメしているがサラッとしたお湯で、温度も丁度よく芯から疲れが癒されていく気がする。
温泉に浸かってしばらくして、私以外にもう一人の気配がある事に気付く。互いに気配を察知し、その方向を向くと見知った顔と対峙する。
「白龍の龍姫 !?」
「クロツツジ !!」
互いに息を併せたかのように覇龍化し、覇気を手に凝縮する。白龍爪と黒龍爪がぶつかり合いそうになった瞬間、飛び出して来たキンカモミジにより放たれる前に動きを封じられる。
「たんまたんま、龍癒庵で争い事は禁止だって !?」
「キンカモミジ、どうして貴女が白龍の龍姫と ?」
「にゃはは、クロツツジがクソ真面目だからでしょ。あーしだって休みたかったの、お守りばっかで疲れたの~」
「誰がお守りですか、こちらの苦労も知らずに本当に心配したのですよ !」
「分かった分かったから、泣くのをやめなさいな。あーしが悪者みたいじゃないのーーー」
完全OFFモードのキンカモミジと、普段は凛としているクロツツジがオロオロしているのを見て思わず覇龍化を解いてしまう。
それから一連の流れをクロツツジへ説明すると、キンカモミジに対し管轄院から帰投命令が出ている事を知る。
「兎に角キンカモミジ、私と一緒に戻りますよ」
「はいはい、分かりました。だけど、今日1日は水星屋に泊まる事になってるから、出発は明日にするわよ。後でクロツツジが泊まってる場所教えなさいな」
「ワタシも水星屋に滞在していますよ。リンさんに診てもらい龍癒庵へ来たのですがーーー 」
キンカモミジにクロツツジと私という変な面子で温泉に浸かり、なんとも言えない時間を過ごす。何はともあれ、龍癒庵で湯治を済ませ宿へと戻る。
宿へ戻ると先に戻って居たコシが想像していなかった人物と鉢合わせした事により、素振りしていた長刀を構える。
「クロツツジ、どうしてここに !?」
「安心して下さい、貴女達と今争う気はありません。それよりも、キンカモミジの横暴な頼み事を聞いて頂きありがとうございます」
「にゃはは、さっき迄泣きべそかいてたのに良く言うねぇ~」
礼儀正しく頭を下げるクロツツジを見て、すかさず茶々を入れるキンカモミジ。そんな仲睦まじい光景を見て、思わず笑みが零れてしまう。
私とコシにキンカモミジ、それにクロツツジを加えた四人で水星屋自慢の料理に舌鼓を打つ。
「白龍の龍姫、いえシラユリと呼ばせていただきます。龍姫の事を深く知りたいのであれば、
東の果ての国を訪れて見てください」
「いやいや、クロツツジだけどあそこにはーーー 」
「勿論かなり危険ではあるでしょう。なにせ、龍殺しの御二家がひとつ、東の龍殺し中島家が取り仕切る地なのですから。しかし、それでも行く価値はあると思います。東の果ての国は、初代龍姫が幻神龍と契約した土地なのですからーーー 」
初代龍姫、前におじさんに聞いた事がある。まだ龍が空を飛び交い、人はソレに怯えながら暮らしていた時代。幾千といる龍は己が力を誇示しようと、龍同士による争いが耐えず人間を含む他種族は皆疲弊していた。そんな時、それを憂いた一匹の龍と少女が出会ったーーー。
特別イラスト↓
天龍の名を持つ、二人の龍姫
左:覇龍化したキンカモミジ
右:覇龍化したアオバラ
「にゃはは、まさか温泉入る前に登山とはね。しかも結構キツイしーーー 」
「そう ? 私はずっと山の中で暮らしてたから、あまりキツイとは思わないけど」
「にゃはは、あっ ! やっと出て来たよ、温泉」
前方に龍癒庵と書かれた看板が出てくると、その横に龍姫のみ入浴可能と書かれている。さらに注意書きとし、龍姫以外が入浴した場合は命の保証はしませんと書かれている為より物騒に感じる。
「これ、入って大丈夫なのよね ?」
「にゃはは、水星が言ったんだから間違いなく大丈夫のはずーーー 」
龍癒庵の中へ入ると簡易ながらも脱衣所があり、龍姫しか入れない為か女性用の設備が充実している。湯船を見に行くと、全体的に透き通っているのだが、如何せん温泉自体の見た目が不気味すぎる。
お湯の色が紫色の上、煮立っている訳では無いがプクプクと泡が湧き出しているのである。毒ガスではなく、水中に溶け出せない微量の覇気が湧き出していると説明書きに書かれている。
ちなみに後から知った事だが、この龍癒庵は初代龍姫が見つけ出し改良を重ねたらしい。管理は宮廷に移され、ここの修繕等は龍姫皇帝の公務として継承されている。
脱衣所の中へ入ると、隅々まで手入れが行き届いていた。さらに最終チェックを兼ねて、術が掛けられた姿見に龍紋を見せて入浴可能となる。左手の甲を見せると、白龍の龍紋と姿見が共鳴しチェック終了となった。次にキンカモミジの番になったのだが、唐突に着ていた修練着を脱ぎ始めたのである。
「いやいや、何してるのよ !?」
「何って、龍紋を見せようとーーー 。シラユリは良いよね、直ぐに出せるトコロにあって」
キンカモミジの龍紋は臀部にあるらしく、必要な時に出すのが大変なうえ恥ずかしいとの事。
「にゃはは、流石に今回は温泉で助かったよ~」
彼女に続き、私も衣服を脱ぎ浴場へと向かう。浴場へ入ろうとした時、脱衣所の脇に簡易サウナが設置されている事に気づく。キンカモミジは無類のサウナ好きらしく、吸い込まれるようにサウナへと消えていった。
先に入っててとの事の為、浴場に入ると硫黄の匂いと共に件の温泉が現われる。身体を流し、意を決して紫色のお湯へと入る。少しヌメヌメしているがサラッとしたお湯で、温度も丁度よく芯から疲れが癒されていく気がする。
温泉に浸かってしばらくして、私以外にもう一人の気配がある事に気付く。互いに気配を察知し、その方向を向くと見知った顔と対峙する。
「白龍の龍姫 !?」
「クロツツジ !!」
互いに息を併せたかのように覇龍化し、覇気を手に凝縮する。白龍爪と黒龍爪がぶつかり合いそうになった瞬間、飛び出して来たキンカモミジにより放たれる前に動きを封じられる。
「たんまたんま、龍癒庵で争い事は禁止だって !?」
「キンカモミジ、どうして貴女が白龍の龍姫と ?」
「にゃはは、クロツツジがクソ真面目だからでしょ。あーしだって休みたかったの、お守りばっかで疲れたの~」
「誰がお守りですか、こちらの苦労も知らずに本当に心配したのですよ !」
「分かった分かったから、泣くのをやめなさいな。あーしが悪者みたいじゃないのーーー」
完全OFFモードのキンカモミジと、普段は凛としているクロツツジがオロオロしているのを見て思わず覇龍化を解いてしまう。
それから一連の流れをクロツツジへ説明すると、キンカモミジに対し管轄院から帰投命令が出ている事を知る。
「兎に角キンカモミジ、私と一緒に戻りますよ」
「はいはい、分かりました。だけど、今日1日は水星屋に泊まる事になってるから、出発は明日にするわよ。後でクロツツジが泊まってる場所教えなさいな」
「ワタシも水星屋に滞在していますよ。リンさんに診てもらい龍癒庵へ来たのですがーーー 」
キンカモミジにクロツツジと私という変な面子で温泉に浸かり、なんとも言えない時間を過ごす。何はともあれ、龍癒庵で湯治を済ませ宿へと戻る。
宿へ戻ると先に戻って居たコシが想像していなかった人物と鉢合わせした事により、素振りしていた長刀を構える。
「クロツツジ、どうしてここに !?」
「安心して下さい、貴女達と今争う気はありません。それよりも、キンカモミジの横暴な頼み事を聞いて頂きありがとうございます」
「にゃはは、さっき迄泣きべそかいてたのに良く言うねぇ~」
礼儀正しく頭を下げるクロツツジを見て、すかさず茶々を入れるキンカモミジ。そんな仲睦まじい光景を見て、思わず笑みが零れてしまう。
私とコシにキンカモミジ、それにクロツツジを加えた四人で水星屋自慢の料理に舌鼓を打つ。
「白龍の龍姫、いえシラユリと呼ばせていただきます。龍姫の事を深く知りたいのであれば、
東の果ての国を訪れて見てください」
「いやいや、クロツツジだけどあそこにはーーー 」
「勿論かなり危険ではあるでしょう。なにせ、龍殺しの御二家がひとつ、東の龍殺し中島家が取り仕切る地なのですから。しかし、それでも行く価値はあると思います。東の果ての国は、初代龍姫が幻神龍と契約した土地なのですからーーー 」
初代龍姫、前におじさんに聞いた事がある。まだ龍が空を飛び交い、人はソレに怯えながら暮らしていた時代。幾千といる龍は己が力を誇示しようと、龍同士による争いが耐えず人間を含む他種族は皆疲弊していた。そんな時、それを憂いた一匹の龍と少女が出会ったーーー。
特別イラスト↓
天龍の名を持つ、二人の龍姫
左:覇龍化したキンカモミジ
右:覇龍化したアオバラ
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説


【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

婚約破棄?一体何のお話ですか?
リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。
エルバルド学園卒業記念パーティー。
それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる…
※エブリスタさんでも投稿しています
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
黎
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる