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蒼気

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 長の言葉と共に、サイとコシが闘気を纏い私の前に構え長とオウと対峙する。

「にゃはは、双方武器をお下げなさいな。長ももう少し含んだ良い方は分かり易く行った方がいいよ。実際に命まで奪うつもりはないんだろうし、そんな事したら七天のしてる事の意味がなくなるしね」

「これは失礼、それくらいの覚悟が必要という事にございます。しかし、危険を伴うのも事実にございます」

「まぁ、やるかどうかは置いておいてどうやるの ?」

 そこから再び長の話しに耳を傾けると、その内容は驚く程に簡単なモノだった。蒼気を解放としたコシを中心とし、オウ、サイ、覇龍化したキンカモミジとの1対4で行う実践紛いの戦闘訓練だった。

「領主様、船の出航までどのくらい時間がお在りか ?」

「後、二日くらいかしらね ?」

「事実、修行を積めるのは一日ということ。限り無く危険なうえ、命を無くすかも知れませんが白龍の龍姫シラユリ殿はどうお考えか ?」

 長から言葉と共に重圧の怒気が放たれ、おもわず後退りしてしまう。危険な事は無論承知の上、ここで挑まなければ龍姫としては成長出来ない。

「ええ、勿論やるわ。正直、長の言う通り今のままじゃ死にに行くのと同じだものーーー 」

「左様、ならコチラをお持ちください」

懐から長が砂時計のようなモノを取り出し、私へと手渡す。

「かつての三英傑、時のアルガイスが創り出した魔導具、逆戻さかもどりの時計にございます」

 一見ただの砂時計だが、中に入っている砂から強烈な波動を感じる。長いわく、完全に命がない場合や頸から上を切断された場合を除きあらゆるケガが元通りに治るという。ただ、時間を巻き戻す為、戻り過ぎると部位が消失してしまう恐れのある危険な魔導具だという事だ。

「それでも蒼気の活性化に挑みますかな ?」

「ええ、元より危険なのは承知の上。やらせて貰うわーーー 」

 「畏まりました。それでは、お急ぎ故直ちにご支度致します」

 長の合図と共にオウと使用人が動き出し、衣服を剥ぎ取られ白襦袢を着せられる。さらに、その上から注連縄を巻かれブツブツと何かを唱えられる。

「シラユリ殿は白龍の龍姫。龍の覇王とも称される白龍、その秘められし覇気は逗まる事知りません。覇気は蒼気と相反するモノ、蒼気が目覚め易くするよう一時、そのお力を封じさせていただきます」

(人間如きが我を封じる等、本来なら許さぬが我が龍姫が強さを得るのなら甘んじて受容しよう。だがゆめゆめ忘れるな、我の封を解かねば相応の報いがあることをーーー )

最後、白龍が飛ばした圧倒的な覇気により周囲の者達が戦慄する。その後、徐々に内に感じる白龍の力が遠くなっていくのを感じる。一通りの準備を整え、森の中へ入り巨大な切株の上へと移動する。
 コシにサイ、オウに加えキンカモミジまでもが私の周囲を取り囲む。一対四でさえ不利な状況だというのに、覇龍化を封じられた上に集団戦に不向きな枢車しか得物がない。兎に角今は動いて闘糸を編むのが先決だ。


 大分時間が経ち、集中力と体力がなくなってきた。最早攻撃を避けるのでさ儘ならず、アチコチ刀傷だらけで力を入れるだけで痛い。だがそんな事はお構い無しに、次々と攻撃が飛んでくる。

「長、足一本くらいなら逆戻り時計で元に戻せるよね ?」

「それくらいなら構いませぬ。しかし、今の負傷を考えますとが限界かとーーー 」

「時間もあんまないし、相当な荒療治だけどやるしかないよねぇ~」

 鞘から長刀を一気に抜くと、コシから得物へと蒼色の気、蒼気が送られていく。まるで陽炎でもあるかのように、コシの姿が蒼気に当てられユラユラと揺らめく。その重圧は凄まじく、私と組手をしていたキンカモミジまでもが身震いする程だ。

大胴だいどう一閃切いっせんきり !!」

 刹那、私の視界が斜め下方向に突如下がる。姿勢を崩されたと同じにして、頬から地面へと叩き付けられる。程なくして、右脚に焼けた杭を捻りこまれる感覚に襲われる。
 恐る恐る、その方向を確認すると自身の足首から先が無くなっていたのだ。鮮血に染まる右脚を見た事で、より一層痛みを感じてしまう。

 刹那、倒れている自身の顔の横に綺麗に裁断された右足が落下する。コシの技量が確かなこともあり、斬られた断面が嫌々しいほど生々しさを感じさせる。あまりの痛みに耐えかねて、助けを求め手を差し出すが、思いもよらぬ事大に困惑する。


 助けに近づこうとするコシを制止し、それどころか助けに近づこうとする者を全て止めるのだ。平時であれば頭も冷静に働くのだろうが、現状右足を斬られた痛みがそれを邪魔する。脳が混乱し、助けに来ようとしている皆の顔がニタニタと笑っているように見える。

 無論、そんな事は起きていないのだが、錯乱する私にはそうえてしまっているのだ。この修行も私から願い出たことだけれど、なんでこんなばかり背をわなければいけないのか。だったら、この世界ごと私が全てをこわす !


 倒れている私の周りに、蒼気と抑えているはずの覇気が集まり出しているのを確認すると同時に長は飛び出し私の懐から件の時計を取り出し発動する。昂っていた感情が次第に落ち着いていき、深い深い眠りへと落ちていく。
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