龍姫伝〜白き覇者の物語〜

安藤 炉衣弩

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ミズシと超高速帆船ルガンワス

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 リーモを発ってから早1週間程で、ミズシの中心地まで私達は来ていた。休憩の為、外に降りると散々愚痴を吐いたキンカモミジはツヤツヤしている。対象的に愚痴を聞かされ続けた私とコシは、新しい町に到着した事すら喜べない程疲弊していた。

「どうしたの、皆疲れきった顔して ?」

 普段クロツツジの暴走を抑えるため冷静に振舞っているためか、完全オフモードのキンカモミジはかなりマイペースだと感じてしまう。

「もぉ~、ホントに龍姫はぁ~ !」

「まぁまぁ落ち着きなよ、こんな事で怒っても体力の無駄遣いになるわよ」

 怒りが治まらないコシを宥めつつ、コレからの予定を聞く。一応、龍行証を使えばルガンワスには直ぐ乗れるのだが、ミズシの領主が形式を重んじるらしくカタチだけの挨拶が必要になるとの事らしい。

「どんな人なの、その領主って ?」

「元々は旦那さんが治めていたんだけど、前領主が亡くなってからは、ウ・チョオって奥さんが現領主をやってるわ」

「キンカモミジは会った事あるの ?」

「管轄院の仕事で何度かね。確か東の果ての国出身で、かなり肝の据わった人よ」

 キンカモミジの案内で領主の屋敷を訪れると、大きなの東の果ての国特有の建物が優雅に建っていた。中に入ると畳の匂いが香り、四十畳はある大広間へと案内される。
 奥の一段分高くなっている畳の上に、黒い着物を着崩した女性がキセルを片手に座っていた。

「随分と久しぶりじゃないかい、キンカモミジ。おや、隣りが件の白龍の龍姫かい ?」

「にゃはは、流石に耳が早いわね。久しぶりだねウ、元気してたかしら ?」

「変わりない、キンカモミジも息災でなによりだ」

「ここに来たのはねーーー」

「ルガンワスーーー 」

「やはりと言うか流石だね。そう、龍行証の提示で乗りたいのだけれど大丈夫そう ?」

 ウと呼ばれた女性は近くに居た女中から書類を受け取ると、パラパラと一斉に目を通す。

「大丈夫だけれど、せっかくだ良い部屋を用意しよう。だが横入りには変わりない3日程時間もらうが、構わぬか ?」

「それは勿論大丈夫よーーー」

「ただ準備が出来るまで、少し手伝って欲しい事があるのだが ?」

 ウが女中に指示を出すと、私達の前に一人用のお膳が運ばれてくる。緑色の葉と、それから作られたお茶と茶菓子が乗っている。

「その緑色の葉は、私の故郷東の果ての国名産だ。私個人がミズシへ持ち込み栽培しているのだが、今年は人手が足りなくてな茶摘みを手伝って貰いたい。ちょうど同郷の者もいるし、やり方は分かると思う」

 キンカモミジの返答を聞く前に、では頼んだぞと言い残し去って行ってしまった。女中の案内により、件の菜園へと私達は足を踏み入れる。温室のような建物の中には、綺麗に切り揃えられた茶株が並んでいた。新芽からは鼻を擽るように、良い香りが漂っている。
 
「道具は一式こちらに用意してあります。当主、ウ・チョオに変わりお願い申し上げます」

「しょうがないし、支度しますか。まぁ、ボクの言う通りに装束着て貰えれる ?」

 収穫用作務衣のようなモノを着用し、頭には頭巾みたいなモノを巻いて作業するのが習わしらしい。摘んだ茶葉を入れる籠を腰に着け、大きな鋏のような器具を使い茶葉を刈り取っていく。始めてみると意外と面白く、気がつけば温室の外はすっかり暗くなっていた。
 そろそろ夕飯時という絶妙なタイミングで、女中がソコソコ豪華な軽食を持って現われる。

「皆様、そろそろ時間も時間ですので終わりにしては如何でしょう。簡易ではありますが、お夕食を御用意いたしました。どうぞ、お召し上がりください」

 女中に促され頼まれていた仕事を終わりにし、運ばれて来た夕食に舌鼓を打つ。軽食とはいえ、領主の館だけあり超一流の味付けだ。

 半ば食べた終えた頃、突如として温室の照明が一斉に落ちる。目が暗闇に慣れず、辺り一面が暗闇と化す。その中で唯一、蒼気を放つ女中だけが浮かび上がる。その手には甘味用のデザートナイフが握られ、刃先から私達に向かい重い殺気が放たれている。

「龍殺しの御二家ごふたやが一つ、西国のクラサキ家。ミイカ・クラサキ、龍の魂を屠らさせて頂きます」

 いきなり名乗りを挙げたかと思えば、今度は人間とは思えない速さで私に遅いかかってくる。急襲を仕掛けられ、覇龍化しようにも反応が遅れ枢車さえ取り出せない。ナイフが私を捉えると思った瞬間、温室の入口が開きウとが慌てて入ってくる。

 鼻先ギリギリのところで、ナイフはその人物により明後日の方向へと飛んでいく。

「危ない危ない、ギリギリセーフ。龍姫のピンチに呼ばれて登場、紹介屋サイちゃん此処に登場 !!」

 驚いた事に領主と現われたのは、リーモで妖水湖の調査を紹介してくれたイバ・サイだった。

「一介の紹介屋が何用ですか ?」

 新しく懐からナイフを取り出し、割入って来たサイに向かい姿が揺らめく程の蒼気を放つ。

「ノンノン、紹介屋とは世を忍ぶ仮の姿。三英傑の冒険者達が残していった置き土産。龍殺しや継承の儀から龍姫を護る七天しちてんが一人、月星つきぼしイバ・サイ颯爽と登場し候 !」
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