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過去と現在

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 時は遡り数十年前、鬱蒼うっそうと生い茂る森の中に三人組の冒険者がいた。

「ぬっあっはは、今夜は豪勢な晩メシが食えるなぁ、大将 !!」

「相変わらず凄い量だね、バラカンーーー」

 数頭のイノシシを引き摺り狩りから戻って来る大柄な男と、ソレを石の上から見る青年。そう、若かりし頃の親方とおじさんだ。その場所に不釣り合いとは言わんばかりの美女が現れ、彼らと合流する。

「おかえりマリアンナ、ソッチの成果はどうだい ?」

「ええっ、コッチも上々よ。たまには、魚も食べたいさねーーー」

 彼女が抱える木製の編みかごには、ビチビチと跳ねる川魚が大量に入っている。そんな中、白いローブを来た男の前に白い小鳥が降り立つ。

「うん、そうかい。分かったよ、ご苦労さまーーー 」

話しを聴き終えると、小鳥は折り紙で出来た鳥へと姿を変え男はソレを懐にしまい込む。

「どうやら、豪華な食事はちょっと先になりそうだよ」

「何か分かったのかい、大将 ?」

「龍姫の場所が分かったよ、術のみやこリーモだ」

「悪辣な組織に攫われる前に、保護しないといけないさねーーー 」

「マリアンナの言う通りだよ、それにそれが僕ら管轄院に属する冒険者の仕事だからね」


 親方、いやバラカンと言ったほうが良いのか。ひとまず話しを聞き終わり、おじさんが昔管轄院に所属していた冒険者だという事を知った。その頃は、人より大きな力を持った龍姫を狙う組織が数多く存在していたという。そしてソレらを阻止し、正常な状態で管轄院に龍姫を保護する事を生業とする冒険者が存在し龍姫を巡って争っていたという事だ。

「でもなんで私がおじさんの娘だって分かったの、名前しか知らなかったんでしょ ?」

「ああ、それはなーーー 」

 親方が女将に目配りをすると、部屋の隅に置いてある箪笥からある物を取り出し私達の前に持ってくる。

「確かアイツの術の念写とかいう奴で、こういうのが送らんてくるんだよ」

 親方が自慢げに見せてくる数枚の紙には、私が初めて泳いだ日や誕生日、はたまた小さい頃におじさんとお風呂に入ってる画が綺麗に写されていた。

「嫌ァァァ、ちょ、何ソレってか仕舞ってぇー ?!」

 どんどん自分の顔が赤くなっていくのと同時に、ある記憶が脳裏に甦る。
 何か記念が出来る度にお祝いだよと言って、紙の鳥を何処かに飛ばしていたのだ。まさか、裏側にこんなモノが写されているんなんてーーー。
 今さがらながら、おじさんが意外と親バカだった事を知る羽目になるなんて思いもしなかった。


 昨日色々な事はあったけれど、私の知らないおじさん等を知れたし女将と親方とも仲良くなれて結果的には良かったと思う。
 何はともあれ、今からコシと前々大会優勝者マイカ・クラサキとの試合が始まる。空域女王エアリミテスの称号を持つ彼女がどう闘うのか、コシには申し訳ないけど少し楽しみだ。

 いろいろと考えている内に試合開始時間となり、始めにマイカ・クラサキが入場してくる。雷光の騎士姫ほどではないが、会場がざわめき歓声が上がる。

「前々大会優勝マイカ・クラサキ、変幻自在の円月輪チャクラム捌きで相手を翻弄するゾ。対するは武芸者としては異端、その小さな身体で扱うは長刀ながカタナ持った少女が挑戦だー !!」

 コシの幼く見える童顔のせいで、歓声より彼女を心配する声がそこら中から聞こてくる。そんな事は露知らず、闘技場の中心で二人は相対する。

「会場の方達は貴方を心配してるけど、私には分かるよ。その小さな身体から溢れ出しそうになってる闘気を必死に押さえ付けてるのーーー 」

「へぇ、流石に優勝経験者だけあって凄い観察眼だね。こんなに簡単に見抜かれたのは、ボク初めてだよ」

「私は貴方を武芸者として尊敬するわ。並大抵の努力じゃ、そこまで辿り着く事は出来ないと思う。だから、私も最初から全力全開で行かせて貰うわ !!」

 審判の始めという合図と共に円月輪を扱う彼女が構え、全ての武器に濃い闘気を纏わせる。もちろんコシも傍観している訳では無く、長身のカタナを抜き対峙する。しかし、マイカ・クラサキの方が圧倒的に速く攻撃を仕掛ける。

八型連射する円盤エイトガントバレットディスク !!」

 両手で放った円月輪はそのまま飛んで行くのでは無く、彼女の前で八の字になり下から左右併せて六枚の円盤が標的目掛けて飛んで行く。
 コシはすぐ様間合いを取ると、カタナに赤色の気を纏わせ一度に六枚の円月輪を打ち落とそうとする。

大断おおだち斬り !!」

 天龍の龍姫との闘いで見せた技を放ち、全ての円月輪を打ち落とす。その瞬間に二枚の円月輪を投げ、サーカスを思わせるアクロバティックな動きでマイカ・クラサキは獲物を回収する。二枚の円月輪をコシは躱し、攻撃を仕掛けるがアクロバティックな動きと器用な円月輪捌きで激しい打ち合いとなる。

 しかし、私の中に妙な感覚が残っていたのだ。前にコシのあの技を見た時は心底恐怖が湧いて来たが、今回は特に何も感じないのだ。そうこうしているうちに、激しい打ち合いが止み互いに間合いを取り休戦する。

 次第にマイカ・クラサキとコシの気が最大級に大きくなり、会場全体が妙な静けさに包まれる。次第に身体全身が高揚し、私自身も闘いたいという衝動にかられる。
 突如肩をポンポンと叩かれ、我に返ると宿の女将さんが私の横に居た。

「どう、身体がビリビリってなったでしょう ?」

「うん、なんか私まで闘いたくなっちゃった」

「そう、その感じをねたぎるって言うさね」

「あの~、なんで此処に女将さんが居るの ?」

「仕事が早く片付いてね、コシちゃんが出るって言うから観にきたさね。そしたら、シラユリを見つけたから声掛けたんさね。さて、それじゃ今の感覚を忘れない内に行くさね !」

「行くって何処に、まだコシの試合終わってないよ ?」

 女将は懐から小さな蓋付きの水鏡を取り出し、その水面を見るように促す。水面みなもには、闘技場で闘っているコシとマイカ・クラサキの姿が映し出されていた。

水面鏡みなもかがみって言ってね、貴方のおじさんのお手製さね。コレで試合は見られるから、とっとと戻るさねーーー 」

半ば引き摺られる形で女将に連れられどこかへと連れて行かれる。親方と女将に出会いによって、覇龍化以外の闘い方を学べる事になるとは思いもしなかった。
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