龍姫伝〜白き覇者の物語〜

安藤 炉衣弩

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逃亡と再会

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 天龍の龍姫は物凄い圧の殺気を放つが、一向に襲ってこようとはしなかった。それどころか警戒を解き、顔の前で手を合わせ頭を下げだのだ。
 
「本当にごめん、白と黒の因縁があるからクロツツジが興味持つのは分かるんだけどさ。ソレ以上にクロツツジが興味持つなんて珍しいから、ちょっと試しちゃったごめんね」

 予想の遥か斜めをいく反応をされて、コチラも警戒態勢を解くと天龍の龍姫は謝りながら話を始める。

「あーしの名前はキンカモミジ、分かってると思うけど天龍の龍姫よ。クロツツジもさ、昔はあんな風じゃなかったんだけどね ーーー」

「昔 ?」

「せっかくの温泉だし、浸かりながら話しましょ」

 キンカモミジはそのまま歩いて行き、壺湯に入りながら隣りの壺湯に入れと手招きする。中に入ると少し温目ではあるが、程よい温度である事が感じられる。お湯は少しトロっとしており、肌に良いであろうとも感じられる。

「ここの温泉は肌が綺麗なるって評判らしいよ」

「それで話って言うのは ?」

「つれないね~、まぁ良いけど。クロツツジもさ昔はどっちかっていうと、白龍の龍姫、シラユリで良いんだっけ貴女に近い考えだったのよ」

「今の姿からは考えられないわね、管轄院の手駒としか思えないもの」

「でしょうね、あーしもその点は認めるわ。クロツツジは他の龍姫より遅れて管轄院にやって来たの、龍紋の発現が遅かったらしいそうよ。赤ん坊のころ送られて来た他の龍姫と違って、13歳くらいで管轄院に来たクロツツジは継承の儀参加に反発して何度も反抗したのよ」

「あのクロツツジが !!」

 驚きのあまり立ち上がり、半ば浴場全体に響き渡るような声で天龍の龍姫に問いかけてしまう。

「その反応も今のクロツツジしか知らないんだったら、まぁ納得よね。反抗するたびに拷問紛いの折檻という名の洗脳を幾度となく受け、形作られたのが今のクロツツジよ」

「なんでそんな話を私に ?」

「知っておいて欲しいのよ、龍姫達全員が継承の儀に賛成なわけじゃないって。私だって望んで闘いたいわけじゃない。けど、管轄院に育てられた龍姫達は長年にわたる教育洗脳で歯向かう事すら出来ないの。あーしだって、何処までが本当の自分か分からなくなる事すらあるの ーーー 」

 キンカモミジは水面に映る自分の顔を悲しそうな表情を浮かべ見つめ、私に向かい哀しみと不安を混じえた表情で羨望する。

「貴女は私達にとっての希望、だけど管轄院に指示されればあーしは躊躇いなく貴女を殺す事になる事を忘れないで欲しい。この街を出るまで貴女達の捕獲、いや拿捕かしらね。その命令が出ない事を祈るわ」

 そう言い残し、浴場を後にするキンカモミジはどこか寂しげだと思った。
 自室に戻りコシに今までの事を伝えると、明朝日の出と共に出発しようと提案される。

「龍姫といえど、元になってるは人間の身体。1番身体が動き辛い時間に出発して、襲われた時に備えようって事でおやすみ」

 ものの数秒で寝息を立て始めるコシに驚きながら、私も寝台に潜り込み早々に床につく。


 翌日、予定通り私とコシは朝早く宿を後にする。日中は人で賑わっている大通りも人が居らず、朝日だけが道を照らしていた。

「よし、とりあえず誰もいない。さっさと行こうシラユリ」

「良かった、何事もなく都を出れそうね」

返答がなくコシの方を見ると、ジト目でこちらを見ていた。

「シラユリ、それを言っちゃうと ーーー」

「にゃハハ、まぁあーしが来ちゃうよね」

「キンカモミジ !?」

「ごめんねぇ、クロツツジが管轄院からの電話取っちゃうからさ。大体、2時に掛かってくる電話に出る普通 ?」

「出ないよ、普通は !!」

「だよねぇー、おかげでクロツツジは爆睡してるし。おかげであーしが一人でやんなきゃいけないし、本当はやりたくないけど言った通り管轄院の命令に逆らえないからさ。安心して近くの人達には避難してもらってるから、思い切っり抵抗してね」

 そう冷たく言い放った後、キンカモミジの雰囲気が変わり浴場で放たれた殺気とは比べられない程の圧が私達にぶつけられる。余りの圧の濃さに後退りさせられ、コシに至っては圧に耐えきれず吹き飛ばされてしまう。
 再びキンカモミジに視線を戻すと、赤い瞳は黒目が分からなくなるくらい白くなりくれないの髪は金色こんじきへと変化していた。頭部をクラウンハーフアップにして、かつ長身であるためか何処かの姫様と言っても過言ではないように思える。

 此方も態勢を整え覇龍化すると、キンカモミジは独特の両手を上下に前に突き出した構えをとり宣言する。

「天の神を冠する龍、天龍の龍姫、キンカモミジ。管轄院の命令により、白龍の龍姫シラユリ貴女を捕縛します」

 龍の鉤爪を模した手に金色の覇気が凝縮されて行き、それによって周囲の空間が軋み出す。刹那の瞬間、キンカモミジは上下の手を交差し一気に覇気を押し出す。

「天龍爪・二連 !!」

(避けろ、死ぬぞ)

いつも通り莫大な白龍の覇気を纏い、対処しようとするが白龍の注告が入りその場から飛び退く。

 今まで立っていた場所は数十メートル削られ、かなりの範囲で地面が抉られていた。
 距離を詰めようとしてくるキンカモミジに対し、白龍の龍覇を撃ち込み間合いを確保する。

「危ない危ない、あーしの龍爪二激分の威力が一撃分ってになっちゃう。さすがは龍の覇王ってところかな」

 器用に白龍覇を躱しながらも覇気を纏い、再び私に向かい龍爪を放つ。同じように避けようとするけど、いつの間にか狭い場所に誘導されている事に気づく。一か八か両足に覇気を集中させ、天龍の龍爪が届く一歩手前でそれらをぶつける。一つは龍爪を相殺し、もう一つはキンカモミジ目掛け放たれて行く。
 キンカモミジは避けようともせず、力が掛かる要所に濃い覇気を当てる。そして、それ以外を普通の覇気で纏い防御する。

 「いやー、天覇でも衝撃くらいは喰らっちゃうか、そもそも出力の差が違うんだし」

 金色の覇気の中からキンカモミジは頭を抱え現われる。あれだけの覇気を真面に受けながら、傷一つない事に驚く。
 この人は相当強い、ひょっとしたらクロツツジよりも上何じゃないかとすら思う。そもそも、覇気を扱う技術が雲泥の差だ。私のは力による圧倒的なゴリ押しだけど、キンカモミジはそれよりも少ない覇気を細かく操りソレを凌駕するのだから。

 「すみません、キンカモミジ遅れました !」

 キンカモミジの後方からクロツツジが現われ、さらに状況は悪化する。陰に隠れていたコシに目を向けると。

「シラユリ逃げよう、このままじゃマズイって !!」

「逃げるたって、どうやって ーーー」

 敵の攻撃を避けながらなんとかコシの傍まで来ると、今まで黙っていた白龍がアドバイスをくれる。 

(我の覇気を足に纏い、地面に向け勢いよく放つが良い)

慌ててコシを抱きしめ、言われた通り覇気を纏い一気に地面にぶつける。すると身体が浮き上がり、空中へと一気に舞い上がる。

「逃がさないよぉー !」

飄々としながらも覇気を凝縮し、龍覇を撃ち出し私達を落とそうとする。

「シラユリばっかに任せる訳にも行かないし、アレはボクに任せて」

「えっ、ちょ待っコシ !?」

 コシは私を蹴った反動を使い、龍覇の上へと落ちていく。落下しながら刀に手を掛け、長い刀身を一気に引き抜く。そのまま振りかぶると、刀身が揺らめく程の力が送られ蒼く揺らめく。
 全身の毛穴から、汗が噴き出す感覚に襲われ身体が硬直する。そう、あのたった一振の刀に心から恐怖しているのだ。

竜胴りゅうどう大断切おおだちぎり !!」

 驚く事にその一刀で龍覇を両断したのだ。呆然としてしまい、そのまま落下して行くコシに気づかず悲鳴が上がる。

「うわぁぁぁ、シラユリ助けてー !!」

直ぐにコシを抱き抱え、高速で二人の龍姫から離れ戦線を離脱する。

「キンカモミジ、今の彼女が放った技を見ましたか ?」

「にゃハハ見たよー、まったく覇気を使っての空中飛行なんてどれだけ自力が違うんだか。それにクロツツジの言う通り、アレは間違いなくそうだと思うよ」

「ええ、遥か東の地に伝わる龍殺しの一族の秘術。なんで、龍姫と一緒に行動しているのか
ーーー」

 小さくなるシラユリ達を見ながら、二人はやれやれと言った表情を浮かべる。

 何とか逃げ切れたたが、何時までもこのままでは行けないと実感させられた。覇気を扱う技術、それを何としても向上させなければ戦闘にすらならない。何処か学べる場所が在れば良いのだけれどーーー。

 管轄院の張り巡らせた包囲網から逃げ切るという事が、どれだけ難しいか知るよしもなかった。
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