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決着と到着

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 海神の放った瓦礫は、凄まじい速度で私に向かってくる。白龍の指示通り、自分の眼に覇気を集中させるととある変化が私に掛かる。
 先ほどは避けきれない速さの瓦礫だったモノが、今はかなりの低速で此方に飛んで来ている。

(緑眼りょくがん、我が持つ緑色の眼は世界を遅い速度で観測くする)

 瓦礫の速度も遅いのだが、私自身もその中で普通に動けるわけではなく、同じ速度でしか動けない事が同時に発覚する。

 (何、案ずる事はない。奴から見れば物凄い勢いで瓦礫を躱し、近づいて来ているように見えているはずだ)

 瓦礫の上を転々としながら海神に近づき、標的の上へと跳躍する。そして、今度は左脚に覇気を集中して纏わせる。

(あらゆるモノを切裂く龍の爪、全てを寄せ付けない龍の覇道。蛮勇ばんゆうを屈服させる龍の咆哮、元来龍が持つ五つの武装の四個目、万象を噛み砕く龍の牙を見せつけてやれ)

瓦礫から跳躍し、海神の上まで到達すると重力落下の勢いを活かし回転しながら落下していく。覇気と重力、二つの力が合わさり落雷を思わせるかの様な轟音と共に白龍の龍牙りゅうがが炸裂する。

 激しい水柱と共に海神の巨大な体躯が海面へと叩きつけられ、海の奥底へと沈んでいく。手応えは完璧だったけれど、今の私じゃ完全に倒すところまでは行けなかった。だけど、しばらくは動く事すら出来ないと思う。
 覇気を利用して空中を跳躍し、コシと船長が乗っている小型艇の船首に着地する。同時に周りの小型艇から大歓声が上がり、何事かと驚愕する。

 「お疲れ~、シラユリ」

 手をヒラヒラさせながら近づいてくるコシに、覇龍化を解き抱きつく。

 「怖かったよぉ~、もぉ~嫌だよ~、うぅーー」

 すすり泣く私を見て、コシはヨシヨシと頭を撫でてくれる。

「よしよし、帝都に着いたら美味しいご飯でも食べに行こうね」

 何だかんだあったけど、あれから2日程で目的の帝都まで辿り着いた。舟から降りただけでも人々の活気が凄く、至るところに屋台が建ち並んでいる。
 コシが報酬を貰ってくる間、慣れない人混みに流され彼女が戻ってくる頃には目を廻してフラフラしていた。

「ちょっとちょっと、何やってるの ?」

「人に酔った、おぇー」

「わぁぁあ、こんな所で吐かないでぇー !!」

 しばらく休んで体調が良くなってから、コシとコレからの予定を話し合う。

「海神退治のおかげで報酬もたんまり入ったし、まずは宿を探そう。そこそこ良い部屋に泊まれると思うよ」

 港を出て繁華街へ出ると、より一層人で賑わい活気のある声が聞こえてくる。大通りには幾つもの馬車が走り、絢爛豪華な建物が立ち並んでいる。建物の前では、様々なお店の商魂逞しい客引きの声が聞こえてくる。

「シラユリ、言っておくけど吐かないでね。ね !!」

 先程の一件があり、コシに相当な圧を掛けられる。

「分かったわよ、分かったから。とりあえず、宿探しましょ ーーー」

 すかさず話題を変え、そこそこ良さそうな宿を探していると値段もお手頃で如何にも老舗という旅館を見つけた。
 相談するまでもなく宿を決め、部屋に入ると私はベッドに倒れるようして寝そべる。

「なんか、疲れた~」

「まぁ、色々あったしね。それじゃ、ボクは稽古してくるから」

「行ってら~」

うつ伏せのまま手を振り、少し休もうと目を閉じると、疲れが一気に出たのかそのまま眠りについてしまう。
 次に目を覚ますと、いつの間に戻って来たコシがストレッチをして身体を解していた。

「おっ、やっと起きたね。とりあえずご飯食べに行こうよ、ボクはご飯が食べたいです」

 ふと壁に掛かっている時計を見ると、既に19時半を過ぎていた。お昼も食べていなかったし、コシが夕飯を強調してくるのも理解出来る。
なんせ、私自身も腹ぺこなのだから。

 「そうね、確かここの宿って酒場が入ってたから行きましょ」

 コシに背中をグイグイ押され、酒場まで来るとご飯時とあって人で賑わっていた。座る席を捜して辺りを見渡すと、見知った顔が居ることに気が付く。

「あれ、船長達もここに泊まってるの ?」

「んだ、船の修理が終わるまでの間だけだよ。嬢ちゃん達も一緒に呑まねが。男だけだど華が無くてむさ苦しいだ」

 空いてる席もなくお言葉に甘えて席に着く。適当に注文を済ませ、船長達と話しながら料理が運ばれてくるのを待つ。
 どうも海神を倒した白龍の龍姫が一旗挙げようと、帝都へ乗り込んで来たという噂が広まっているらしい。まったく、とんでもない尾ひれがついてしまった。
 運ばれて来た料理に舌鼓を打ち、ココのお勧めとい飲み物を喉へと流し込む。

 「おっ、良い呑みっぷりだだよ !」

 「美味しいわね、これ。口当たりも良くて、後味も好きだわ」

 数杯呑んだあと、頭がポワポワして気分が凄く良くなる。コシの顔をじっと見ていると、何を思ったのかずいっと顔を近づける。

 「何なに、顔近いんだけどーーー !?」

 「えへへー、コシキスしよぉ~」

「はっ、シラユリ酔ってる。ていうか、どんだけ呑んだの、酒臭っ !」

 コシがテーブルの上を見ると、酒が入っていたであろうコップが十数杯重なっていた。さらに、シラユリが舌を入れてきそうになり必死に抵抗する。なんとか、部屋まで逃げるが変な笑みを浮かべながら追ってくるシラユリに捕まってしまう。そして、そのままベッドへと押し倒される。

 「ちょ、シラユリ。ボクにそういう趣味はないよ、ねぇ、1回落ち着こ ーーー」

「えへへー、頂きまーす !」

「ちょ、待っ、嫌ぁああ ーーー」

 翌日私が起きると、頭がズキズキして気持ち悪い。それに、船長達と夕食を食べた迄は覚えているがそれ以降の記憶がない。

 「ねぇ、コシ私夕飯食べてから記憶がないんだけど、ていうかどうしたの ?」

 コシはというと目の下に隈ができ、服は乱れて息を荒らげて頬を紅く染めていた。

 「まさか何にも覚えてないの、ボクにあんな事までしておいて !?」

 首を傾げる私に枕を投げ付けながら、馬鹿ぁああーーという声が宿全体に木霊する。


 ちょっとした不測の事態は在ったけれど、他の龍姫にも管轄院の騎士にも見つからずここまで来れた。この後もこの調子で順調に旅が進んでいくと、この時の私は思っていた。 
 
 シラユリ達の泊まっている部屋の隣りに、二匹の龍も滞在している事を二人はまだ知らない。
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