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少女と船旅へ

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 私が目を覚まして最初に見たモノは、木造で出来た知らない天井だった。痛む身体に鞭を打ち起き上がろうとするが、それを制止するかのように声が掛かる。

「まだ起き上がらない方が良いよ、手当はしたけとあくまで応急処置だから。それに旅人に出来る事は知れてるから、明日お医者さんに見てもらうと良いよ」

 年代は私と同じくらいだろうか、華奢な身体に幼い顔立ち。美人というよりは、可愛いという表現が彼女にはピッタリだと思う。藍色の道着の様なモノに身を包み、どこか妖艶な雰囲気を漂わせている。

「えっと、誰ですか ?」

「そっかそっか、まだ自己紹介してなかったね。ボクの名前はコシ、旅するしがない剣術家だよ」

彼女が目配りする方に視線を向けると、壁に立て掛けられた1振りの剣が置いてある。

「カタナって言ってさ、東の果てにある国で作られてるんだって。それよりさ、手当てしてる時に見ちゃったんだよね。左手のそれ ーーー」

私は左手の甲を彼女に向かって見せると、「はぁ」と溜息をつき続きを話し始める。

「それ龍紋でしょ、龍姫だけに現れる紋章。なんでこんなトコロに龍姫様がいるのか知らないけど、龍姫って査問管轄院で豪華な暮らしをしてるもんじゃないの ?」

やれやれといった様子で、振り向きざまにこちらに問いかけてくる。彼女に対して警戒していた筈なのに、私の口は今まで何があったかを語るかのように動いていた。


「訳ありってのは大体分かったけど、そのおじさんって人凄いね。査問管轄院の騎士、それも小隊を1人で足止めするんなんて」

「そうなのかな ?」

「査問管轄院の騎士って、龍姫皇帝の近衛兵と同等って話だしね。それにしても、ずっと山の中で暮らして経ってことはみやこに行った事ないよね ?」

「都 ?」

「そう、帝都ていとだよ。ボクが今目指してるのは、マクサっていう武芸が盛んな町なんだけど、ちょうど都を通るし一緒に行かない ?」

「でも、帝都って査問管轄院の直下の街じゃ」

 怪訝けげんそうな私の顔を見て、彼女は問題ないと親指を立てて表現する。

「その辺は抜かりないよ。言うでしょ、木を隠すなら森の中、人を隠すなら街のなかってね」

 行く宛てなどもなく、私は彼女の提案を受け入れた。生まれて今日まで旅なんてした事なく、これからどうするか迷っていたトコロにこの話が舞い込んで来たのだ。

「そうと決まれば、まずはケガの療養からだね。ボクの名前はコシ、これからよろしくね」

「シラユリよ、よろしくお願いね」

 握手を交わすと、コシは医者に話を付けてくるからと言い出掛けてしまった。色々あった重荷が少し解放された安堵からなのか、次第に眠気に襲われ再び夢の世界へと旅立っていく。

 目を覚ますと日付が変わり、太陽が1番高い位置まで登っていた。しばらくして、昨日コシが呼んだ医師が部屋を訪れる。

「話を聞いた限り全治二三ヶ月見てたのじゃが、いやはや、さすがは龍姫と行ったトコロじゃて」

医師の口から、龍姫という言葉が飛び出し慌ててコシを見る。しかし、落ち着いた様子でこの人は訳あり患者専門の医師と諭され、おまけに料金が少し高めという事まで言ってきたのだ。

「まぁ、訳あり患者専門で診てるわけですし、それくらいはご容赦くださいな」

「それで、結局傷の具合はどうなのさ ?」

「この分ですと、2週間もあれば全快しますよ」

聴診器や包帯等をしまい、医師の男はまた何かあったらと言い残し部屋を後にする。


 2週間経つ頃にはケガの具合も良くなり、以前と変わらない動きが出来るようになっていた。療養中に気づいたのだが、コシは毎朝晩に欠かさずカタナを振って鍛練している事を知った。
 翌日、良くなった身体を馴染ませるように体操をしていると、鍛錬を終えたコシが汗を拭きながら戻ってきた。

「ふー、良い汗かいたよ。シラユリも調子よさそうだね」

「それで、コレからどうするの ?」

「都を目指す訳だけど、ここからだとルートが3種類あるんだ。1個は山脈をダイレクトに越えるかなり険しい道、おまけに妖獣ようじゅうも出る。2個目は山脈を大きく廻る比較的楽なルートだけど、日数が3ヶ月余計に掛かる」

 話を聞く限り、まともなルートがない。まだ、3個目のルートが出てないけど嫌な予感しかしない。

「3個目のルートは、ここと都の岬を結ぶ定期船に乗る海上ルート。最短距離なうえに、妖獣も出て来ないから安全。ただし、お金は掛かるけどね」

 やっぱり、どのルートを選んでも何かしら問題点が発生する。選べるなら、安全な海上ルートを選びたいけど、逃げるようにして山から出て来た為所持金が無いに等しいのだ。うん、ここは正直にお金が無いって言おう。

「それは選べるなら海上ルートで行きたいけど、私お金なんて持ってないよ。大体治療費もコシが出してくれたし、これ以上負担掛けれないよ」

 人差し指を振るようにして、コシは自信ありげに大丈夫と答える。しかし、何か絶対裏があるのは確実だ。だって、コシが凄いニヤニヤしながらこっちを見てくるからだ。

 数日経ってから私たちは宿を後にし、街に1ヶ所しかない船乗り場まで来ていた。田舎とはいえ、物資の交易がある為人で賑わっている。人混みに驚いていると、コシは定期船の乗り場に行き何か話しているのが目に入る。
 しばらくして、定期船の切符を2枚持ってコシが戻ってくる。片道とはいえ、定期船2人文の料金は結構なモノだ。どこにそんなお金があるのだろうか、はたまたコシはどこかのお嬢様なのではないかと思ってしまう自分がいる。

「二人分の料金なんてよく持ってたね ?」

何気ない問いに、コシは鳩が豆鉄砲をくらったかのように目を丸くする。

「持ってないよ、そんな大金」

「でもチケット持ってるじゃない ?」

「旅人の技量を舐めちゃいけないよ 、ある条件で乗せて貰えることになったんだ」

コシの言うある条件とやらに首を傾げていると、遠くから体格の良い年配男性が声を掛けてくる。

「おーい、居た居た捜しただよ。キミら二人が警護役引き受けてくれるんだてな、いや~助かるだよ」

彼の口から出た警護役とい言葉に引っかかりながら、コシの方を向くと親指を立てどうだという顔をしている。

「俺は今から出る定期船の船長をやっとるもんだが、最近この海にも妖獣が出るようになって船が何隻もやられとるだよ」

「妖獣が 船を?」

「ああ、おまけに最近じゃ暴徒なんかも出る始末で困っとるだよ。おかげで、警護役を付けんと船が出せんだよ。今日も頼んどった腕利きが先日ケガしての、ちょうど困ってたトコロに嬢ちゃん達が来てくれただよ」

 普段は滅多に妖獣なんて出るような海域じゃないとコシが言ってたとおり、小さな妖獣が出ただけでも皆混乱するらしい。

「もうすぐ出航だに、頼んだだよ」

 しばらくして乗船許可が降りると、私とコシは定期船へと桟橋を歩き乗船する。こんな時だというのに、初めて乗る船にワクワクしながら甲板へと降り立つ。

 まさか、この船旅が私の名前と素性をバラしてしまう事になるなんて、この時の私はまだ気付かすいた。
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