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「うーん、私は頂けるのならなんでも。ですが、どちらかといえば甘いのよりもサンドイッチや甘くないスコーンやパイなどの方が好きですね」
「ぼく、プリーン!」
「俺は蜂蜜」
何の話をしているかというと、ティータイムの軽食についてだ。
午後のひととき、天気が良いので、庭の四阿でお茶をしている。
本式では軽食の食べる順番などの作法があるのだが、ここでは好きなものをチョイスして食べている。
「おかあさまは?」
「そうだな、オレはなんでも好きだが──」
だって、かつてはほぼインスタントものしか食べていなかったサラリーマンのオレだ。そんなオレにとって、毎食手作りのものが食べれるというだけでここは天国なんだ。
「──しいていえばだが、ここのフルーツサンドは絶品だと思う」
思わず笑顔になってしまった。幸せすぎて。
「ルイ様、どうぞ」
すかさず、隣に座るフィリップが一口大のフルーツサンドを差し出してくる。いい笑顔で。
皿におけばいいものを手掴みでオレの顔の前に持ってくるってことは、・・・そういうことか?
フィリップの目を見て、皿に置けよと指示するが動じない。
諦めたオレは口をパカッと開けた。
日本人はこういうとこがダメなんだ。ああ、NOと言えるようになりたい。
「美味しいですか?」
「うん。ありがとう」
ちゃんとお礼もいうよ。だって子供の教育にひびくだろ。
「ふわぁ、おとうさまとおかあさま、なかよし。ぼくもおおきくなったら、おかあさまのようにうつくしくてつよいおとこのことけっこんします!ずっとなかよし、します!」
「そうか。・・・うん?」
今、余計な一言があったような。
「ははは、レオ、お母様のような方はそんな簡単には見つからないぞ」
おいフィリップ、突っ込むところはそこじゃないだろう。
「こほん。レオ、あのな、レオには可愛くて優しい女の子が合うと思うんだが」
「おんなのこは、たいくつです」
「・・・は?」
我が子がすごい差別発言を吐いた。
唖然として二の句を告げられずにいるオレをよそに、プリンを食べ終わったレオは、“おかあさまにおはなをつんできます”とジェイドを従え元気に駆けていった。
この世界の結婚観とか性的指向はどの辺りが常識なんだろう・・・。気を失いそう・・・。
思考停止状態のまま、フィリップに肩を抱かれ、引き寄せられるまま体を預けた。
「ルイっ!!いちゃついてる場合じゃないぞ!!」
誰がいちゃついてるか!
「闇魔法の軌跡が確認されたぞ!」
ジェイドがすごい勢いで戻って来た。
妖精族は簡単な意識を共有することもできるそうで、世界中に散ってる仲間たちから随時、情報が入ってくるのだという。
「まだ弱いらしいが、何度か軌跡が確認されたらしい」
「そうか。場所は?オレの聖魔法も大分こなれてきたからな、今からでも出れるぞ」
「──それが、精霊界の“嘆きの森”だそうだ」
「嘆きの森だと!?──どこそれ」
オレの言葉にジェイドがコントのようにずっこけた。
「いや、オレの場合、知っている場所の方が少ないし。その場所だと何か不都合なことでもあるのか?」
「・・・人が“嘆きの森”に入ると気が狂う」
「「・・・・・」」
ダメなヤツじゃん。
詳しく話をきくと、闇魔法の遣い手はどうも精霊族と魔族の間の子らしく、周囲にどちらの種族の者もいないことから、森に捨てられたのではないか、とのことだった。
「その子はこの先どうやって生きていくんだ?」
「・・・さあな、あの森で生きていけるのは“嘆きの精霊”のパンシーだけだ。精霊たちすら近寄らない森だ。食料になるようなものもないし、呪われた地だから出たくとも出られない。──そうだな、討伐に行かなくても勝手に自滅しそうだな」
「・・・・・」
聖魔法の出番ないんかい。
とはいえ、なんか複雑だ。
いや、子供を討伐するのもどうだ、って話だが。
「ジェイドぉ、はやすぎぃ!」
ジェイドに遅れてレオが走って戻って来た。
「おかあさまー、おはなをどうぞ!かれんさも、うちゅくしさもおかあさまにはとうていかないませんが」
立ち上がり、レオを抱きとめる。
「ありがとう、レオ」
いったいお前は誰からそんな軽い言い回しを教わっているんだ。
そんなことを思いつつ、レオの柔らかい頬に軽くキスをする。きゃあ、と喜ぶレオの笑顔が可愛い。
───・・・嘆きの森に置き去りにされた子どもは何を思って闇魔法を放ったのだろう。森に怖いものでも出たか。それとも自分をこんな場所に置き去りにした親を、そしてこの世を憎んで放ったか。
どちらにしろ、その子が泣きながら、震えてうずくまっている姿がオレの脳裏にありありと浮かんだ。
「・・・ジェイド、オレ行くよ」
「行くって?“嘆きの森”へか?いや気が狂うって」
「そこはお前が何とかしろ」
何とかなるかーい、とジェイド。たまにジェイドは芸人だ。
「ルイ様の行くところどこにでもお供いたします」
フィリップは通常運転だった。
「ぼく、プリーン!」
「俺は蜂蜜」
何の話をしているかというと、ティータイムの軽食についてだ。
午後のひととき、天気が良いので、庭の四阿でお茶をしている。
本式では軽食の食べる順番などの作法があるのだが、ここでは好きなものをチョイスして食べている。
「おかあさまは?」
「そうだな、オレはなんでも好きだが──」
だって、かつてはほぼインスタントものしか食べていなかったサラリーマンのオレだ。そんなオレにとって、毎食手作りのものが食べれるというだけでここは天国なんだ。
「──しいていえばだが、ここのフルーツサンドは絶品だと思う」
思わず笑顔になってしまった。幸せすぎて。
「ルイ様、どうぞ」
すかさず、隣に座るフィリップが一口大のフルーツサンドを差し出してくる。いい笑顔で。
皿におけばいいものを手掴みでオレの顔の前に持ってくるってことは、・・・そういうことか?
フィリップの目を見て、皿に置けよと指示するが動じない。
諦めたオレは口をパカッと開けた。
日本人はこういうとこがダメなんだ。ああ、NOと言えるようになりたい。
「美味しいですか?」
「うん。ありがとう」
ちゃんとお礼もいうよ。だって子供の教育にひびくだろ。
「ふわぁ、おとうさまとおかあさま、なかよし。ぼくもおおきくなったら、おかあさまのようにうつくしくてつよいおとこのことけっこんします!ずっとなかよし、します!」
「そうか。・・・うん?」
今、余計な一言があったような。
「ははは、レオ、お母様のような方はそんな簡単には見つからないぞ」
おいフィリップ、突っ込むところはそこじゃないだろう。
「こほん。レオ、あのな、レオには可愛くて優しい女の子が合うと思うんだが」
「おんなのこは、たいくつです」
「・・・は?」
我が子がすごい差別発言を吐いた。
唖然として二の句を告げられずにいるオレをよそに、プリンを食べ終わったレオは、“おかあさまにおはなをつんできます”とジェイドを従え元気に駆けていった。
この世界の結婚観とか性的指向はどの辺りが常識なんだろう・・・。気を失いそう・・・。
思考停止状態のまま、フィリップに肩を抱かれ、引き寄せられるまま体を預けた。
「ルイっ!!いちゃついてる場合じゃないぞ!!」
誰がいちゃついてるか!
「闇魔法の軌跡が確認されたぞ!」
ジェイドがすごい勢いで戻って来た。
妖精族は簡単な意識を共有することもできるそうで、世界中に散ってる仲間たちから随時、情報が入ってくるのだという。
「まだ弱いらしいが、何度か軌跡が確認されたらしい」
「そうか。場所は?オレの聖魔法も大分こなれてきたからな、今からでも出れるぞ」
「──それが、精霊界の“嘆きの森”だそうだ」
「嘆きの森だと!?──どこそれ」
オレの言葉にジェイドがコントのようにずっこけた。
「いや、オレの場合、知っている場所の方が少ないし。その場所だと何か不都合なことでもあるのか?」
「・・・人が“嘆きの森”に入ると気が狂う」
「「・・・・・」」
ダメなヤツじゃん。
詳しく話をきくと、闇魔法の遣い手はどうも精霊族と魔族の間の子らしく、周囲にどちらの種族の者もいないことから、森に捨てられたのではないか、とのことだった。
「その子はこの先どうやって生きていくんだ?」
「・・・さあな、あの森で生きていけるのは“嘆きの精霊”のパンシーだけだ。精霊たちすら近寄らない森だ。食料になるようなものもないし、呪われた地だから出たくとも出られない。──そうだな、討伐に行かなくても勝手に自滅しそうだな」
「・・・・・」
聖魔法の出番ないんかい。
とはいえ、なんか複雑だ。
いや、子供を討伐するのもどうだ、って話だが。
「ジェイドぉ、はやすぎぃ!」
ジェイドに遅れてレオが走って戻って来た。
「おかあさまー、おはなをどうぞ!かれんさも、うちゅくしさもおかあさまにはとうていかないませんが」
立ち上がり、レオを抱きとめる。
「ありがとう、レオ」
いったいお前は誰からそんな軽い言い回しを教わっているんだ。
そんなことを思いつつ、レオの柔らかい頬に軽くキスをする。きゃあ、と喜ぶレオの笑顔が可愛い。
───・・・嘆きの森に置き去りにされた子どもは何を思って闇魔法を放ったのだろう。森に怖いものでも出たか。それとも自分をこんな場所に置き去りにした親を、そしてこの世を憎んで放ったか。
どちらにしろ、その子が泣きながら、震えてうずくまっている姿がオレの脳裏にありありと浮かんだ。
「・・・ジェイド、オレ行くよ」
「行くって?“嘆きの森”へか?いや気が狂うって」
「そこはお前が何とかしろ」
何とかなるかーい、とジェイド。たまにジェイドは芸人だ。
「ルイ様の行くところどこにでもお供いたします」
フィリップは通常運転だった。
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