異世界で、すでに人妻だったオレ

mm

文字の大きさ
上 下
19 / 23

19

しおりを挟む
「うーん、私は頂けるのならなんでも。ですが、どちらかといえば甘いのよりもサンドイッチや甘くないスコーンやパイなどの方が好きですね」

「ぼく、プリーン!」

「俺は蜂蜜」

 何の話をしているかというと、ティータイムの軽食についてだ。
 午後のひととき、天気が良いので、庭の四阿でお茶をしている。
 本式では軽食の食べる順番などの作法があるのだが、ここでは好きなものをチョイスして食べている。

「おかあさまは?」

「そうだな、オレはなんでも好きだが──」

 だって、かつてはほぼインスタントものしか食べていなかったサラリーマンのオレだ。そんなオレにとって、毎食手作りのものが食べれるというだけでここは天国なんだ。

「──しいていえばだが、ここのフルーツサンドは絶品だと思う」

 思わず笑顔になってしまった。幸せすぎて。

「ルイ様、どうぞ」

 すかさず、隣に座るフィリップが一口大のフルーツサンドを差し出してくる。いい笑顔で。
 皿におけばいいものを手掴みでオレの顔の前に持ってくるってことは、・・・そういうことか?
 フィリップの目を見て、皿に置けよと指示するが動じない。
 諦めたオレは口をパカッと開けた。
 日本人はこういうとこがダメなんだ。ああ、NOと言えるようになりたい。
 
「美味しいですか?」

「うん。ありがとう」

 ちゃんとお礼もいうよ。だって子供の教育にひびくだろ。

「ふわぁ、おとうさまとおかあさま、なかよし。ぼくもおおきくなったら、おかあさまのようにうつくしくてつよいおとこのことけっこんします!ずっとなかよし、します!」

「そうか。・・・うん?」

 今、余計な一言があったような。

「ははは、レオ、お母様のような方はそんな簡単には見つからないぞ」

 おいフィリップ、突っ込むところはそこじゃないだろう。

「こほん。レオ、あのな、レオには可愛くて優しい女の子が合うと思うんだが」

「おんなのこは、たいくつです」

「・・・は?」

 我が子がすごい差別発言を吐いた。
 唖然として二の句を告げられずにいるオレをよそに、プリンを食べ終わったレオは、“おかあさまにおはなをつんできます”とジェイドを従え元気に駆けていった。
 この世界の結婚観とか性的指向はどの辺りが常識なんだろう・・・。気を失いそう・・・。
 思考停止状態のまま、フィリップに肩を抱かれ、引き寄せられるまま体を預けた。



「ルイっ!!いちゃついてる場合じゃないぞ!!」

 誰がいちゃついてるか!

「闇魔法の軌跡が確認されたぞ!」

 ジェイドがすごい勢いで戻って来た。
 妖精族は簡単な意識を共有することもできるそうで、世界中に散ってる仲間たちから随時、情報が入ってくるのだという。

「まだ弱いらしいが、何度か軌跡が確認されたらしい」

「そうか。場所は?オレの聖魔法も大分こなれてきたからな、今からでも出れるぞ」

「──それが、精霊界の“嘆きの森”だそうだ」

「嘆きの森だと!?──どこそれ」

 オレの言葉にジェイドがコントのようにずっこけた。

「いや、オレの場合、知っている場所の方が少ないし。その場所だと何か不都合なことでもあるのか?」

「・・・人が“嘆きの森”に入ると気が狂う」

「「・・・・・」」

 ダメなヤツじゃん。
 詳しく話をきくと、闇魔法の遣い手はどうも精霊族と魔族の間の子らしく、周囲にどちらの種族の者もいないことから、森に捨てられたのではないか、とのことだった。
 
「その子はこの先どうやって生きていくんだ?」

「・・・さあな、あの森で生きていけるのは“嘆きの精霊”のパンシーだけだ。精霊たちすら近寄らない森だ。食料になるようなものもないし、呪われた地だから出たくとも出られない。──そうだな、討伐に行かなくても勝手に自滅しそうだな」

「・・・・・」

 聖魔法の出番ないんかい。
 とはいえ、なんか複雑だ。
 いや、子供を討伐するのもどうだ、って話だが。

「ジェイドぉ、はやすぎぃ!」

 ジェイドに遅れてレオが走って戻って来た。

「おかあさまー、おはなをどうぞ!かれんさも、うちゅくしさもおかあさまにはとうていかないませんが」

 立ち上がり、レオを抱きとめる。

「ありがとう、レオ」

 いったいお前は誰からそんな軽い言い回しを教わっているんだ。
 そんなことを思いつつ、レオの柔らかい頬に軽くキスをする。きゃあ、と喜ぶレオの笑顔が可愛い。

 ───・・・嘆きの森に置き去りにされた子どもは何を思って闇魔法を放ったのだろう。森に怖いものでも出たか。それとも自分をこんな場所に置き去りにした親を、そしてこの世を憎んで放ったか。
 どちらにしろ、その子が泣きながら、震えてうずくまっている姿がオレの脳裏にありありと浮かんだ。

「・・・ジェイド、オレ行くよ」

「行くって?“嘆きの森”へか?いや気が狂うって」

「そこはお前が何とかしろ」

 何とかなるかーい、とジェイド。たまにジェイドは芸人だ。

「ルイ様の行くところどこにでもお供いたします」

 フィリップは通常運転だった。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

原産地が同じでも結果が違ったお話

よもぎ
ファンタジー
とある国の貴族が通うための学園で、女生徒一人と男子生徒十数人がとある罪により捕縛されることとなった。女生徒は何の罪かも分からず牢で悶々と過ごしていたが、そこにさる貴族家の夫人が訪ねてきて……。 視点が途中で切り替わります。基本的に一人称視点で話が進みます。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

少女漫画の当て馬女キャラに転生したけど、原作通りにはしません!

菜花
ファンタジー
亡くなったと思ったら、直前まで読んでいた漫画の中に転生した主人公。とあるキャラに成り代わっていることに気づくが、そのキャラは物凄く不遇なキャラだった……。カクヨム様でも投稿しています。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

処理中です...