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魔力循環。
それは魔法を発動させる前の段階で、自分の体に魔力を巡らせることをいう。一人でやるのが基本だが、巡らせることに慣れていない初心者は二人一組になり、相手に魔力を流してもらいコツをつかんだりもする。
「私に魔力を流せば苦しさもなくなるかもしれません」
「そうなのか?循環してまたオレに戻ってくるんじゃないのか?」
「私のところで食い止めますので」
ようは魔力を吸ってもらうってことか。
「ルイ様、手を」
いわれるままに両手を差し出すとフィリップの大きな手に握られ、指と指も絡ませられる。ち、近いな。
オレは、というかルイはぼっちだったから相手のいる魔力循環は初めてだ。
「ゆっくり体内で魔力を巡らせた後、私の手の方へ流して来てください」
「わかった」
オレの手よりも大きく暖かいフィリップの手。ゆっくりと水が流れていくように、魔力が流れていった。自然とまぶたが落ちる。
──ああ、気持ちがいい。
やはり魔力過多の状態だったのだ。
体の重苦しさも、イライラした気持ちも静まっていった。
「おい!そこまでだ!」
ジェイドの声に意識が浮上する。
いつの間にか閉じていた目を開けると、向かいに立つフィリップが赤い顔で鼻血を流していた。
「フィリップ!!」
つながれた手を振りほどくと、フィリップが、がく、と床に膝をついた。
どうしたら良いのかわからず、その場で横にならせ、頭を膝に抱えた。
ベルとレオが焦った顔で鼻紙やらおしぼりを持ってくる。
「フィリップ、オレに魔力を戻せ」
手をつなぐが弱々しく頭を横に振られる。
「バカっ!ああ、どうしたら・・」
魔力酔いには治癒魔法もどんな薬も効かない。オレは、ルイはよく知っている。
“魔力酔い”などと軽そうな名前が付いてはいるが、器よりも大きくなった魔力は命を削り、死に至ることもあるのだ。幼いルイが生き延びたのは奇跡なんだ。
「フィリップ・・・っ!」
何度も名前を呼んだ。
後から思い返すに、あれは“祈り”だったと思う。
膝に抱えた土気色したフィリップの顔色が、なぜかどんどん良くなっていく。
「ルイ様、これはまさか・・・」
不思議そうにオレを見上げてくる。
「ふはは!俺の目論見通りだな!」
「おかあさま、まぶしー」
す、と優しいそよ風のようなものを体のうちに感じ、それはそのまま体の外に出ていった。何の形も成さず、何も破壊もしない。オレの周りを優しく巡る風のようで、魔力を使っているのかそうじゃないのかすら定かじゃなく──。
何じゃこりゃ。
それが聖魔法の感想だった。
自分では感じられないがレオの言葉ではオレが光っているらしい。眩しいほど。なんかそれはちょっとどうなんだ。なんだか自分がクリスマスのイルミネーションになったようで恥ずかしい。
意識せずに発動した聖魔法だったが、体がコツを覚えたのか、その後も自然と発動できるようになった。
呪文詠唱は特にない。
聖魔法と闇魔法に関する文献はほぼないからこの発動の仕方はオレ独自のものなのかもしれない。妖精のジェイドも知らなかった。
だから、闇魔法に対抗する以外でどんな効力があるのかもわからない。
最近のオレは屋敷の中や庭など、あちこちで聖魔法を発動して周りを観察するのだが、わかったことはその場所が、なんだか心地いい空間になるな、ということ。
あとは、オレが光る、ということ。たまに光を四方八方に撒き散らすらしい。発動していると、レオとフィリップがきゃあきゃあと大喜びだ。
レオは可愛いが、図体がデカい方は可愛くない。やめれ。
──結論。
闇魔法に対抗できるという項目がなければ、聖魔法は非常に微妙な魔法だ。
とはいえ、親子三人(とペット)、当初のギクシャクした感じがうすれ、とてもいい感じで毎日を過ごせている。家族とはこういうものなのか、と思う。
「・・・普通が一番とはこのことか」
思わず声に出して呟いてしまうと、すかさずフィリップがオレに一歩近付く。
「いや、なんでもないんだ。──ところでフィリップ、前も話したが、オレに護衛は必要ないぞ?まあ、ここのところバタバタしていたから側にいてくれて、その、ありがたかったが。
聖魔法も遣えるようになったし、他の魔法が遣えないことにも慣れた。
屋敷にいる分にはもう本当に護衛は必要なさそうだ。将軍として一度北の砦に戻ってもいいんじゃないか?」
なんとなく気になっていた事を聞いてみた。
「私には優秀な部下がおりますのでおかまいなく。それに私が戻る場所はいつでも貴方のお側ですので」
「そ、そうか。・・あー、領地経営の方はどうだ?」
オレは関与していない。
「優秀な家令に任せております。そもそも私は辺境伯になってから一度も経営に携わってはおりません」
「そうか。──いや、それでいいのか?」
「私はその時できることをするだけです」
いっそ潔い。
先日の町の様子からは豊かな領だという印象を受けたからそれで上手くいっているんだろうけど。でも心配だから後で家令にこっそり話を聞こう。
フィリップはオレの側から離れる気はないらしい。
「・・・そう、だな。先ずは闇魔法の遣い手をつぶすか」
焦って同時進行は良くないな。
オレはオレで今出来ることをしよう。
気持ちを新たに聖魔法のレベル上げに取り組んだ。
それは魔法を発動させる前の段階で、自分の体に魔力を巡らせることをいう。一人でやるのが基本だが、巡らせることに慣れていない初心者は二人一組になり、相手に魔力を流してもらいコツをつかんだりもする。
「私に魔力を流せば苦しさもなくなるかもしれません」
「そうなのか?循環してまたオレに戻ってくるんじゃないのか?」
「私のところで食い止めますので」
ようは魔力を吸ってもらうってことか。
「ルイ様、手を」
いわれるままに両手を差し出すとフィリップの大きな手に握られ、指と指も絡ませられる。ち、近いな。
オレは、というかルイはぼっちだったから相手のいる魔力循環は初めてだ。
「ゆっくり体内で魔力を巡らせた後、私の手の方へ流して来てください」
「わかった」
オレの手よりも大きく暖かいフィリップの手。ゆっくりと水が流れていくように、魔力が流れていった。自然とまぶたが落ちる。
──ああ、気持ちがいい。
やはり魔力過多の状態だったのだ。
体の重苦しさも、イライラした気持ちも静まっていった。
「おい!そこまでだ!」
ジェイドの声に意識が浮上する。
いつの間にか閉じていた目を開けると、向かいに立つフィリップが赤い顔で鼻血を流していた。
「フィリップ!!」
つながれた手を振りほどくと、フィリップが、がく、と床に膝をついた。
どうしたら良いのかわからず、その場で横にならせ、頭を膝に抱えた。
ベルとレオが焦った顔で鼻紙やらおしぼりを持ってくる。
「フィリップ、オレに魔力を戻せ」
手をつなぐが弱々しく頭を横に振られる。
「バカっ!ああ、どうしたら・・」
魔力酔いには治癒魔法もどんな薬も効かない。オレは、ルイはよく知っている。
“魔力酔い”などと軽そうな名前が付いてはいるが、器よりも大きくなった魔力は命を削り、死に至ることもあるのだ。幼いルイが生き延びたのは奇跡なんだ。
「フィリップ・・・っ!」
何度も名前を呼んだ。
後から思い返すに、あれは“祈り”だったと思う。
膝に抱えた土気色したフィリップの顔色が、なぜかどんどん良くなっていく。
「ルイ様、これはまさか・・・」
不思議そうにオレを見上げてくる。
「ふはは!俺の目論見通りだな!」
「おかあさま、まぶしー」
す、と優しいそよ風のようなものを体のうちに感じ、それはそのまま体の外に出ていった。何の形も成さず、何も破壊もしない。オレの周りを優しく巡る風のようで、魔力を使っているのかそうじゃないのかすら定かじゃなく──。
何じゃこりゃ。
それが聖魔法の感想だった。
自分では感じられないがレオの言葉ではオレが光っているらしい。眩しいほど。なんかそれはちょっとどうなんだ。なんだか自分がクリスマスのイルミネーションになったようで恥ずかしい。
意識せずに発動した聖魔法だったが、体がコツを覚えたのか、その後も自然と発動できるようになった。
呪文詠唱は特にない。
聖魔法と闇魔法に関する文献はほぼないからこの発動の仕方はオレ独自のものなのかもしれない。妖精のジェイドも知らなかった。
だから、闇魔法に対抗する以外でどんな効力があるのかもわからない。
最近のオレは屋敷の中や庭など、あちこちで聖魔法を発動して周りを観察するのだが、わかったことはその場所が、なんだか心地いい空間になるな、ということ。
あとは、オレが光る、ということ。たまに光を四方八方に撒き散らすらしい。発動していると、レオとフィリップがきゃあきゃあと大喜びだ。
レオは可愛いが、図体がデカい方は可愛くない。やめれ。
──結論。
闇魔法に対抗できるという項目がなければ、聖魔法は非常に微妙な魔法だ。
とはいえ、親子三人(とペット)、当初のギクシャクした感じがうすれ、とてもいい感じで毎日を過ごせている。家族とはこういうものなのか、と思う。
「・・・普通が一番とはこのことか」
思わず声に出して呟いてしまうと、すかさずフィリップがオレに一歩近付く。
「いや、なんでもないんだ。──ところでフィリップ、前も話したが、オレに護衛は必要ないぞ?まあ、ここのところバタバタしていたから側にいてくれて、その、ありがたかったが。
聖魔法も遣えるようになったし、他の魔法が遣えないことにも慣れた。
屋敷にいる分にはもう本当に護衛は必要なさそうだ。将軍として一度北の砦に戻ってもいいんじゃないか?」
なんとなく気になっていた事を聞いてみた。
「私には優秀な部下がおりますのでおかまいなく。それに私が戻る場所はいつでも貴方のお側ですので」
「そ、そうか。・・あー、領地経営の方はどうだ?」
オレは関与していない。
「優秀な家令に任せております。そもそも私は辺境伯になってから一度も経営に携わってはおりません」
「そうか。──いや、それでいいのか?」
「私はその時できることをするだけです」
いっそ潔い。
先日の町の様子からは豊かな領だという印象を受けたからそれで上手くいっているんだろうけど。でも心配だから後で家令にこっそり話を聞こう。
フィリップはオレの側から離れる気はないらしい。
「・・・そう、だな。先ずは闇魔法の遣い手をつぶすか」
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