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小一時間ほど屋台を冷やかしながら歩いていると、「おかあさまー!」とレオが戻ってきた。
手には小さな花束を持っている。
ててて、と走ってきて、オレまであともう少しのところでバランスを崩した。
「レオ!」
オレはとっさにレオの前方の空気を圧縮した。転びそうになったレオがエアクッションで、ぼよんと跳ね返る。
「ほわ?」
きょとんとするレオがめちゃくちゃ可愛い。
「レオ、怪我はないか?」
「はい。いまのはおかあさまのまほ?」
「そうだよ。外はでこぼこしたところがあるから気をつけような」
「は、はい。ありがとうございます。・・・えーっ、まほ?まほー?おかあさま、すごーい!」
褒められてしまった。
「ルイ様、・・・今のは、もしや風魔法?」
どこか呆然とした顔でフィリップが聞いてくる。そうだ、と軽くうなずくと、うむむ、と難しい顔になった。
なんだ?
「すごいことないさ。レオだってできるよ。使えるだろう?風魔法」
「・・・え、ぼくもできる?したい!──かぜよ!」
あ、まずい。強すぎる。
「「レオ!」」
一瞬の後にフィリップに抱きかかえられ、その場から離されていた。
レオは、と見るとジェイドが作った(多分)白っぽい半透明の大きな風船のようなものに入れられぷかりと浮いている。ジェイドが腕を組んで、メッとレオを睨んでいた。
レオはきょとんとしていて、多分、オレも同じ顔をしていると思う。理由は違うけど。
レオは魔法を無効化されたことにだろうけど、オレは守られたことに対して。
「こんな町中で大きな魔法を発動しては駄目だろう」
腕を組んだジェイドが、小さいくせになかなかの迫力だ。
レオが小さく「はい」と応えると、風船が消え、レオはゆっくりと地に下ろされた。
「オレが悪かったんだ。軽く考えすぎていた」
フィリップの腕から抜け出し、レオの前に行った。
「ごめんな、ちゃんと誰もいないところで練習してからにするべきだったのに。オレが悪かったな」
ごめんごめん、とレオを抱きしめた。
その後は、そろそろ帰ろうとフィリップにいわれ、またも少しの距離を馬車に乗って帰路に着いたのだが。
部屋でベルに世話をされつつ楽な服に着替え一息吐いた頃、フィリップとジェイドが揃ってやって来た。
「ルイ様、先程の魔法の制御方法のことで少しお話が」
「お前、息をするように魔法を使いやがって。どんだけ魔法に頼った生活しているんだよ」
二人とも、町での転びそうになったレオを守るために作ったエアクッション(魔法)に対して物申したいらしい。
何がそんなにまずかったのだろうか。フィリップに至ってはあの時見せた難しい顔をしている。
「ルイ様はいつからあんなに細かい魔法制御ができるようになったんです?」
・・・細かかった?アレ。
「えと、けっこう子供の頃から、かな」
うん、記憶を探ってもけっこう小さい頃からやってる。そもそもルイは離宮の自室で軟禁状態に育ったんだから、魔法の制御だって自分で身に着けた。
自室内でやるしかなかったんだから、物を壊さないよう、部屋を壊さないよう、細心の注意を払いながら、でも、魔力が体内に蓄積して魔力酔いや魔力暴走を起こさないように、常に少しずつ魔力を使い続けていたんだ。
その涙ぐましい努力の結果が先程のエアクッションなのだ。
責められる謂れは何もない。
ルイ、えらい!
そもそも、ここは剣と魔法の世界だろ、なんでそんな顔されなきゃいけないの。
「まあ、二人とも座りなよ」
壁際でお茶を淹れ終わったベルを目で制し、座る二人にすーっと魔法でお茶を出す。
「「っ!!」」
「どうぞ」
宙を滑るようにソーサーとカップが移動する。中に淹れられた紅茶は波打たず、ゆっくりきれいな水紋を浮かべた。
「なんてことだ・・・」
「無詠唱で・・・」
クッキーの皿も同じようにテーブルにのせた。
「・・・ルイ様、・・・こんなことができるのは他には誰も、世界中探しても、・・・」
目が虚ろだぞ、フィリップ。
「ん?他にやろうとする者がいないだけだろう。やってみればけっこう皆できると思うよ?」
この国では攻撃に特化して教えるから。初めて目にしたら、そりゃ奇異に映るかもしれないが。
「これは秘密にした方がいいんじゃないか?」
「・・・そうだな。こんなことが知れたら、・・・ああ!知れたら・・・っ!」
「落ち着けって!」
顔を真っ白にして頭を抱えるフィリップが心配になってきた。
「この事実を知る者たちの口封じをせねば」
いや、物騒。
「オレの魔法の何がそんなに気になるんだよ」
「ルイ様!純粋な貴方には思いもつかないことかもしれませんが、これだけ薄く精度の高い魔法が使えるなら、・・・つまり、貴方を兵器のように欲しがる輩が現れるでしょう」
「魔力探知機にも引っかからないだろうしな」
「この国だけではなく、諸外国も欲しがるでしょうね」
「・・・みんな、魔法でこういうのしないの?」
ミルクを入れた紅茶をティースプーンでかき混ぜる。魔法で。
できる子なのにねえ、残念な子。
フィリップとジェイドが揃ってそんな表情をした。
手には小さな花束を持っている。
ててて、と走ってきて、オレまであともう少しのところでバランスを崩した。
「レオ!」
オレはとっさにレオの前方の空気を圧縮した。転びそうになったレオがエアクッションで、ぼよんと跳ね返る。
「ほわ?」
きょとんとするレオがめちゃくちゃ可愛い。
「レオ、怪我はないか?」
「はい。いまのはおかあさまのまほ?」
「そうだよ。外はでこぼこしたところがあるから気をつけような」
「は、はい。ありがとうございます。・・・えーっ、まほ?まほー?おかあさま、すごーい!」
褒められてしまった。
「ルイ様、・・・今のは、もしや風魔法?」
どこか呆然とした顔でフィリップが聞いてくる。そうだ、と軽くうなずくと、うむむ、と難しい顔になった。
なんだ?
「すごいことないさ。レオだってできるよ。使えるだろう?風魔法」
「・・・え、ぼくもできる?したい!──かぜよ!」
あ、まずい。強すぎる。
「「レオ!」」
一瞬の後にフィリップに抱きかかえられ、その場から離されていた。
レオは、と見るとジェイドが作った(多分)白っぽい半透明の大きな風船のようなものに入れられぷかりと浮いている。ジェイドが腕を組んで、メッとレオを睨んでいた。
レオはきょとんとしていて、多分、オレも同じ顔をしていると思う。理由は違うけど。
レオは魔法を無効化されたことにだろうけど、オレは守られたことに対して。
「こんな町中で大きな魔法を発動しては駄目だろう」
腕を組んだジェイドが、小さいくせになかなかの迫力だ。
レオが小さく「はい」と応えると、風船が消え、レオはゆっくりと地に下ろされた。
「オレが悪かったんだ。軽く考えすぎていた」
フィリップの腕から抜け出し、レオの前に行った。
「ごめんな、ちゃんと誰もいないところで練習してからにするべきだったのに。オレが悪かったな」
ごめんごめん、とレオを抱きしめた。
その後は、そろそろ帰ろうとフィリップにいわれ、またも少しの距離を馬車に乗って帰路に着いたのだが。
部屋でベルに世話をされつつ楽な服に着替え一息吐いた頃、フィリップとジェイドが揃ってやって来た。
「ルイ様、先程の魔法の制御方法のことで少しお話が」
「お前、息をするように魔法を使いやがって。どんだけ魔法に頼った生活しているんだよ」
二人とも、町での転びそうになったレオを守るために作ったエアクッション(魔法)に対して物申したいらしい。
何がそんなにまずかったのだろうか。フィリップに至ってはあの時見せた難しい顔をしている。
「ルイ様はいつからあんなに細かい魔法制御ができるようになったんです?」
・・・細かかった?アレ。
「えと、けっこう子供の頃から、かな」
うん、記憶を探ってもけっこう小さい頃からやってる。そもそもルイは離宮の自室で軟禁状態に育ったんだから、魔法の制御だって自分で身に着けた。
自室内でやるしかなかったんだから、物を壊さないよう、部屋を壊さないよう、細心の注意を払いながら、でも、魔力が体内に蓄積して魔力酔いや魔力暴走を起こさないように、常に少しずつ魔力を使い続けていたんだ。
その涙ぐましい努力の結果が先程のエアクッションなのだ。
責められる謂れは何もない。
ルイ、えらい!
そもそも、ここは剣と魔法の世界だろ、なんでそんな顔されなきゃいけないの。
「まあ、二人とも座りなよ」
壁際でお茶を淹れ終わったベルを目で制し、座る二人にすーっと魔法でお茶を出す。
「「っ!!」」
「どうぞ」
宙を滑るようにソーサーとカップが移動する。中に淹れられた紅茶は波打たず、ゆっくりきれいな水紋を浮かべた。
「なんてことだ・・・」
「無詠唱で・・・」
クッキーの皿も同じようにテーブルにのせた。
「・・・ルイ様、・・・こんなことができるのは他には誰も、世界中探しても、・・・」
目が虚ろだぞ、フィリップ。
「ん?他にやろうとする者がいないだけだろう。やってみればけっこう皆できると思うよ?」
この国では攻撃に特化して教えるから。初めて目にしたら、そりゃ奇異に映るかもしれないが。
「これは秘密にした方がいいんじゃないか?」
「・・・そうだな。こんなことが知れたら、・・・ああ!知れたら・・・っ!」
「落ち着けって!」
顔を真っ白にして頭を抱えるフィリップが心配になってきた。
「この事実を知る者たちの口封じをせねば」
いや、物騒。
「オレの魔法の何がそんなに気になるんだよ」
「ルイ様!純粋な貴方には思いもつかないことかもしれませんが、これだけ薄く精度の高い魔法が使えるなら、・・・つまり、貴方を兵器のように欲しがる輩が現れるでしょう」
「魔力探知機にも引っかからないだろうしな」
「この国だけではなく、諸外国も欲しがるでしょうね」
「・・・みんな、魔法でこういうのしないの?」
ミルクを入れた紅茶をティースプーンでかき混ぜる。魔法で。
できる子なのにねえ、残念な子。
フィリップとジェイドが揃ってそんな表情をした。
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