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 ──うっ。
 頬を染めて照れるイケメンとか、なにそれ可愛い。
 キュン、とどこかが鳴ったような気がしたが、いやいや、いくらこっちの世界が同性婚オッケーだとしても、オレ自身は女の子が好きなわけで、・・・って、本当にそうなのかな。向こうでは常識ってやつに沿って生きていたからな。
 だが一つだけ確実に言えるのは、オレは抱かれる側になるつもりはない、ってこと。ルイの味わったあの恐怖をまた味わうなんてとんでもない。
 大型犬のような愛らしさに絆されないようにせねば。

「コホン、えー、と?」

「はい、こちらの色味はどうでしょう」

 店主が並べられた魔石の中から深い青色のものを勧めてくる。
 しん、と落ち着いた色味が品がいい。

「ああ、綺麗な色だな。気に入ったよ。フィリップ、この魔石でお願いした、・・い?」

 なぜさらに赤くなっているのだ、お前は。
 そんなフィリップに、店主は「良かったっすね、旦那!」とでも言いたげにすごい良い笑顔だ。店員たちも護衛たちも同様に、いや護衛たちは涙まで浮かべてる。
 そこでようやく気付いた。
 この深い青は、フィリップの瞳の色だ。もっと言えば土台のプラチナはお前の髪色だな。
 今すぐこの店を出たくなった。
 だが、オレは空気の読める奴だ。
 こっちに来る前はしがないサラリーマンだったから。

「──フィリップ、プラチナにこの青い魔石で作って欲しい。デザインは・・・、店主、よくわからないから適当に見繕ってくれ」

「これがお似合いです」

 店主ではなく、いつ吟味したのかわからないが、フィリップがテーブルの端に置かれていた土台を手に取った。
 
「うん。じゃそれで」

 うぅ、肩が凝る。肩をぐるぐる回したい衝動を抑えながら笑顔で頷いた。
 やれやれ、早く外で食べ歩きしているレオたちと合流したい。
 
「店主、他も見せてくれ」

 えー!今決めたじゃん。
 そう思ったが、次に運ばれてきたのはネックレスの土台だった。
 ネックレスが決まれば次はブレスレット。ブレスレットが決まれば次はカフス。最後は頭に付けるピンまで。
 固まるオレをよそに、フィリップと店主はさくさくと決めていく。全てプラチナ台に青の魔石で。
 ネックレスは三つも買ったぞ?
 つけていく場がないと言ったのに。ため息を飲み込む。
 空気読みまくりのオレだったが、最後にテーブルに置かれたキーホルダーのようなものを目にし、手に取った。

「そちらは剣の柄に付けるものになります」

「これをオレの色で作って欲しい。金の土台と緑の魔石で」

「ルイ様っっ!」

 オレの言葉にフィリップが過剰に反応する。

「あ、そうだな。すまない。オレ、お金持ってなかった・・・」

 そういえばルイって自分で買い物したことないな。お金を持ったことすらない。え、オレって一文無し・・・?

「いいえ、そんなっ!オルソン家の財は全てルイ様のもの!存分にお使い下さい!
 そうではなくて、そうではなくて。私はただ、嬉しくてっ・・・」

「あ、うん」

「ありがとうございます!大事にしますっ!」

 赤い顔をしたフィリップが涙を堪えながらきらきらの笑顔で言う。
 周りのみんなもきらきらの笑顔だ。

「・・・うん」

 オレは言えなかった。
 お前にじゃない。レオに買ってあげたかったのだと。

 その後、魔石を土台に嵌め込んでから魔法を付与するという説明を受けた。店で付与することも自分で付与することもできるらしい。フィリップは「ルイ様の分はもちろん私が」と言った。そしてオレを見る。
 もちろん、オレは言った。「オレも自分で付与するよ」と。
 オレは空気が読める奴だからね。

 1ヶ月後の来店予約をし、ようやく宝飾店を後にした。時計台のある広場に戻ると、レオが護衛に護られながらクレープを食べていた。
 クレープにはジェイドがしがみついて、レオと反対側をもぐもぐ食べている。これが食べたがっていたバターと蜂蜜のクレープなのだろう。

「おかあさま、ロットにかってもらいました」

「そ、そうか。すまない。戻ったら清算させてくれ」

 レオの側にいる騎士がロットなのだろう。すっと胸に手を当て頭を下げる。

「フィリップ、あの、レオにお小遣いをあげてくれないか?こういう時に自分で買い物をすると社会勉強にもなるんじゃないかと」

「尊いお考えです。ルイ様」

 フィリップがレオに紙幣を一枚渡す。レオがびっくりした顔をしてこっちを見る。

「欲しいものがあったら買うといい」

「はい!いこう、ジェイド!」

 元気に駆けていく。お目当てのものがあったようだ。

「私たちも何かつまみましょうか」

「そうだな」

 本当はレオに付いていって“初めてのおつかい”を見たかったのだが。

 その後、喉の渇いていたオレはりんごの果汁入りの紅茶を買ってもらった。りんごの香りと甘みがとても良い。りんごも特産のようだ。
 他にも、ウインナーを炭火で焼いたものやチュロスのような焼き菓子など、いわゆるルース領グルメをフィリップがどんどん買っていく。

「ルース領は美味しいものが多いんだな」

 全然知らなかった。いや、知ろうとしなかった、が正しいな。反省。

「ここは国の最北端。国境を護る兵士たちの士気を上げるのに美味い料理は欠かせません!」

「なるほど」

 力説するフィリップに頷いた。
 だが、買い過ぎだ。
 側に立つ護衛の両手が、まるで荷物持ちのようにふさがっていた。




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