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いきなりの気付きに、只今オレ、目から鱗で感動中。
フィリップがレオを抱き上げる。笑顔のレオとフィリップ。
オレの肩に回されたフィリップの手の大きさにドキリとする。く、熊。いや、そうじゃなく。
こんなに大勢の人間がいるのに、不思議なことにみんな笑顔だ。
──ああ、ここは独りぼっちだった離宮じゃないんだ。いるのにいないように扱われたり、腫れ物のような目で見られることはないのだ。
──不思議だ。
こんなに近くにオレが夢見ていた暖かい世界があったなんて。
オレは、ぺこりと頭を下げた。
うまく笑えた自信はなかったが、更に大きくなった歓声は明るいものだった。
広場の中心には人の背丈よりは少し高い位の小さな時計台がある。周りをぐるりと鉢植えの花で飾られていて、なんとも可愛らしい。町のシンボル的なものなのだろう。
いまだかなりの数の領民に囲まれているが、護衛たちが空間を開けてくれた。
「少し歩いてみましょう。ルース領は宝石の原石も魔石も質の良いものが揃っていますし、織物や木工品も有名なんですよ」
促されるまま歩くと、領民たちに近くで声を掛けられる。気分は花道を行く演歌歌手だ。ありがとう、ありがとうと心のなかで唱えながら自然と笑顔になる。
そのうち、手を差し出され握手を求められる。もちろんありがたく握手させてもらう。
「大人気だな」
「おかあさますごーい、さすがです!」
「え、そんなこと」
オレからしたら、フィリップとレオの方がすごい。
フィリップはレオを抱っこしながら領民と雑談までしているのだ。領民に慕われているんだな。
感心しながら眺めていると、フィリップは視線を感じたのかこちらを振り向き。
「そろそろルイを返してくれ」
領民たちにそう言って笑いながら、レオを抱っこしている方とは別の手でオレの右手を握った。
広場の辺りには屋台も多く出ていて、レオは護衛と共に駆けていった。
すいー、とジェイドも付いて行くが、どんな技を使っているのか、誰の目にも止まっていないようだ。良かった。領民に殺虫剤を向けられたらと心配だったのだ。
ひしめき合っていた領民たちは、ようやく自分の用事を思い出したのかめいめい散っていき、オレたちも屋台や店をめぐることができるようになった。
だが、オレとフィリップの手は繋がれたまま。「横道が多いので迷いやすいのです」と言われ、町歩きをしたことがないルイと、異世界の町は初めてのオレ。これは確かに迷うかも、と積極的に手を握っている。
大人の男二人が手をつないでいる図はかなり見苦しいだろうが迷子よりはマシだろう。
通りには小さな店がたくさん並んでいる。表には商品がディスプレイされていて、歩きながらそれを見ているだけでも楽しい。
「この店に寄っても良いですか?」
フィリップはオレを連れ、宝飾店に入った。
「なにか買うのか?」
思わず聞いてしまう。オレのイメージではアクセサリーの類は女性が付けるものだ。
「・・・貴方に贈りたくて」
「え?オレ?──いらない」
思わず反射的に断ると、ずーんと効果音がしそうなほどフィリップが落ち込んだ。
「だって、つけて出かけるとこなんてないし。無駄遣いじゃないか?」
「魔石に効果を付与することができるんです。防御や癒しなどの。急な結婚でしたので貴方には指輪しか贈れていません。どうかこの機会に贈らせて下さい」
宝石じゃなくて魔石かあ。この世界では御守りみたいに持つのかもしれないな。
ちら、とフィリップがオレの左手に視線をやるのをオレは見逃さなかった。
結婚指輪をつけているかチェックされた?異世界でも左の薬指に結婚指輪を嵌めるらしいのだ。
オレは装飾品の類は何も身につけてはいない。結婚指輪ももちろん。
ルイのことだから今まで一度もつけていないんだろうな。申し訳ない。
「・・・じゃあ、何か買ってもらおうかな」
なんか胸が罪悪感でいっぱいになった。
「はい!店主、用意してくれ」
う、笑顔が眩しい!もっと言えば一緒に店内に入って来た護衛二人もすごい良い笑顔。慕われているんだな。
うむ、良いことをした。
一日一善。そんなことを考えている間にオレたちは応接室へ通され、テーブルにはきらびやかな金色に輝く様々なデザインのイヤリングがいくつも並べられた。どれもまだ石の付いていない状態だ。
「気に入ったデザインのものはございますか?」
店主が直々に聞いてくれるが、オレにアクセサリーを選ぶスキルはない。
「どうぞお手にとってご覧下さい」
鏡も一緒にすすめられ、取りあえず一つ手にとって鏡に向かい耳に近づける。
「土台はプラチナが良さそうだ」
フィリップが口を挟む。
確かにオレは金髪だからな。同じ色合いだとまぎれちゃうな。
「石のご要望はございますか?」
「以前、こちらに卸したものをいくつか持ってきてくれ」
卸した?
「魔石は魔獣から採れるんだ。砦では大型の魔獣ばかり狩っていたから、いい魔石が手に入った」
不思議そうにするオレにフィリップが説明してくれる。
魔獣を狩ることで得た魔石を店に売り、その店で加工されたものを買う、と。経済の循環がここにあった。
説明を聞いている間に、店主に指示された店員たちが魔石を恭しく持ってきた。
「あんなに大きいのか」
どれもこぶし大ほどの大きさがある。
「小さく砕いてしまうのがもったいないな」
呟くと、店主がにっこりと微笑んだ。
「王都でもこれほどの魔石は扱っていないでしょう。全てフィリップ様のおかげでございます」
「へえ、フィリップは強いんだな」
感心して隣に目をやると、薄く頬を染め横を向くフィリップがいた。
フィリップがレオを抱き上げる。笑顔のレオとフィリップ。
オレの肩に回されたフィリップの手の大きさにドキリとする。く、熊。いや、そうじゃなく。
こんなに大勢の人間がいるのに、不思議なことにみんな笑顔だ。
──ああ、ここは独りぼっちだった離宮じゃないんだ。いるのにいないように扱われたり、腫れ物のような目で見られることはないのだ。
──不思議だ。
こんなに近くにオレが夢見ていた暖かい世界があったなんて。
オレは、ぺこりと頭を下げた。
うまく笑えた自信はなかったが、更に大きくなった歓声は明るいものだった。
広場の中心には人の背丈よりは少し高い位の小さな時計台がある。周りをぐるりと鉢植えの花で飾られていて、なんとも可愛らしい。町のシンボル的なものなのだろう。
いまだかなりの数の領民に囲まれているが、護衛たちが空間を開けてくれた。
「少し歩いてみましょう。ルース領は宝石の原石も魔石も質の良いものが揃っていますし、織物や木工品も有名なんですよ」
促されるまま歩くと、領民たちに近くで声を掛けられる。気分は花道を行く演歌歌手だ。ありがとう、ありがとうと心のなかで唱えながら自然と笑顔になる。
そのうち、手を差し出され握手を求められる。もちろんありがたく握手させてもらう。
「大人気だな」
「おかあさますごーい、さすがです!」
「え、そんなこと」
オレからしたら、フィリップとレオの方がすごい。
フィリップはレオを抱っこしながら領民と雑談までしているのだ。領民に慕われているんだな。
感心しながら眺めていると、フィリップは視線を感じたのかこちらを振り向き。
「そろそろルイを返してくれ」
領民たちにそう言って笑いながら、レオを抱っこしている方とは別の手でオレの右手を握った。
広場の辺りには屋台も多く出ていて、レオは護衛と共に駆けていった。
すいー、とジェイドも付いて行くが、どんな技を使っているのか、誰の目にも止まっていないようだ。良かった。領民に殺虫剤を向けられたらと心配だったのだ。
ひしめき合っていた領民たちは、ようやく自分の用事を思い出したのかめいめい散っていき、オレたちも屋台や店をめぐることができるようになった。
だが、オレとフィリップの手は繋がれたまま。「横道が多いので迷いやすいのです」と言われ、町歩きをしたことがないルイと、異世界の町は初めてのオレ。これは確かに迷うかも、と積極的に手を握っている。
大人の男二人が手をつないでいる図はかなり見苦しいだろうが迷子よりはマシだろう。
通りには小さな店がたくさん並んでいる。表には商品がディスプレイされていて、歩きながらそれを見ているだけでも楽しい。
「この店に寄っても良いですか?」
フィリップはオレを連れ、宝飾店に入った。
「なにか買うのか?」
思わず聞いてしまう。オレのイメージではアクセサリーの類は女性が付けるものだ。
「・・・貴方に贈りたくて」
「え?オレ?──いらない」
思わず反射的に断ると、ずーんと効果音がしそうなほどフィリップが落ち込んだ。
「だって、つけて出かけるとこなんてないし。無駄遣いじゃないか?」
「魔石に効果を付与することができるんです。防御や癒しなどの。急な結婚でしたので貴方には指輪しか贈れていません。どうかこの機会に贈らせて下さい」
宝石じゃなくて魔石かあ。この世界では御守りみたいに持つのかもしれないな。
ちら、とフィリップがオレの左手に視線をやるのをオレは見逃さなかった。
結婚指輪をつけているかチェックされた?異世界でも左の薬指に結婚指輪を嵌めるらしいのだ。
オレは装飾品の類は何も身につけてはいない。結婚指輪ももちろん。
ルイのことだから今まで一度もつけていないんだろうな。申し訳ない。
「・・・じゃあ、何か買ってもらおうかな」
なんか胸が罪悪感でいっぱいになった。
「はい!店主、用意してくれ」
う、笑顔が眩しい!もっと言えば一緒に店内に入って来た護衛二人もすごい良い笑顔。慕われているんだな。
うむ、良いことをした。
一日一善。そんなことを考えている間にオレたちは応接室へ通され、テーブルにはきらびやかな金色に輝く様々なデザインのイヤリングがいくつも並べられた。どれもまだ石の付いていない状態だ。
「気に入ったデザインのものはございますか?」
店主が直々に聞いてくれるが、オレにアクセサリーを選ぶスキルはない。
「どうぞお手にとってご覧下さい」
鏡も一緒にすすめられ、取りあえず一つ手にとって鏡に向かい耳に近づける。
「土台はプラチナが良さそうだ」
フィリップが口を挟む。
確かにオレは金髪だからな。同じ色合いだとまぎれちゃうな。
「石のご要望はございますか?」
「以前、こちらに卸したものをいくつか持ってきてくれ」
卸した?
「魔石は魔獣から採れるんだ。砦では大型の魔獣ばかり狩っていたから、いい魔石が手に入った」
不思議そうにするオレにフィリップが説明してくれる。
魔獣を狩ることで得た魔石を店に売り、その店で加工されたものを買う、と。経済の循環がここにあった。
説明を聞いている間に、店主に指示された店員たちが魔石を恭しく持ってきた。
「あんなに大きいのか」
どれもこぶし大ほどの大きさがある。
「小さく砕いてしまうのがもったいないな」
呟くと、店主がにっこりと微笑んだ。
「王都でもこれほどの魔石は扱っていないでしょう。全てフィリップ様のおかげでございます」
「へえ、フィリップは強いんだな」
感心して隣に目をやると、薄く頬を染め横を向くフィリップがいた。
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