13 / 23
13
しおりを挟む
それからのオレはなんとか聖魔法を発動させようとがんばった。毎日、レオと共に魔法の鍛錬をがんばった。
だが、聖魔法は発動しない。
レオの魔法の教師にも教えを請うたが、教師も発動の仕方など知らなかった。教育の場では発動させるより、どうやって魔力をコントロールしていくかを教えるらしい。発動しない、イコールその属性の魔力を持っていないということでは?と不思議そうな顔をされた。
「うむむ、難しい。できる気がしない」
十日ほど経ってもオレは聖魔法を発動させることができないままだった。
「ジェイド、聖魔法って何なんだ。イメージできないものは発動できない。そもそも呪文はないのか?」
「あるのかもしれないがなあ、どの勇者も魔力が強かったからな。呪文詠唱はなかったようだぞ」
「ふん!!」
オレはとうとう癇癪を起こした。もう、知らん、とソファに転がる。
「ルイ様、根を詰め過ぎなのでは?今日は鍛錬をお休みしてのんびり過ごしてみませんか?例えば、町で食べ歩きも良いですし、少し足を伸ばして隣の領に行くのも良いですね。噴水のある美しい庭園が人気だそうです。ああ、軽食を持って湖に行くのも良いですね」
苦悩するオレをフィリップが甘やかしてくる。フィリップは護衛の話を出して以来、常にオレの側にいる。
まだいいんだ、と言っても、笑顔で側に立つのだ。
「おかあさま!ぼくもごいっしょしたいです!」
「俺は食べ歩きを希望する。町ではバターと蜂蜜のクレープが人気らしいぞ。・・・う、その、なんだ。闇魔法の遣い手が現れたという情報はまだ入っていない。気分転換も必要だろう」
じと、とジェイドを睨むと慌ててもっともらしいことを言ってきた。
だが、煮詰まっているのは確かだ。
「そうだな。出掛けてみるか」
で、揃ってやって来たのは、すぐ行けるからという理由で、屋敷からそう離れてはいない町の中心だ。
歩いても来れる距離だが、さすがに領主一家が徒歩というわけには行かず、少しの距離を馬車に乗って来た。
驚いたのは護衛の数だ。
騎馬の護衛が馬車の前後に2頭ずつ、馬車の横に2頭ずつ。計8名の騎馬の護衛に護られながら町に来た。
「近所に行くのにこんなに護衛はいるのかな」
「御身の尊さを考えれば少ない位です。ですがご安心下さい。精鋭を集めてあります」
だからいらないだろ、精鋭とか。
そもそもこの馬車に乗ってる全員がかなり強いぞ(レオも含め)?
もちろん、町の中心の広場に現れた物々しい一行を目にした領民たちは、皆呆けたように立ち止まりこちらを見ている。
「フィリップ、ここで降りるのか?」
「はい。すぐ側に馬車止めがありますので」
パーキングみたいなものか。時間いくらで馬車や馬を預かってくれるようだ。
人々の視線の中、その中心に降りるのは気が進まないが仕方ない。先にフィリップ、レオと降りた後、フィリップから伸ばされた手につかまった。外に顔を出すと、途端に町のざわめきが耳に入ってくる。
“領主様、相変わらずの色男っぷりだな”、“フィリップ様は先日も山のように大きな魔獣を仕留められたとか”、“レオ様、お可愛らしい”、そんな言葉が聞こえる。
だが、オレが降り立った途端、ざわめきが止んだ。なんだろう。
「?・・・フィリップ?」
「こちらへ。領の皆に貴方の顔を見せてやって欲しい」
エスコートされるままフィリップの隣に立つ。
「皆の者!我が愛しの薔薇、生涯の伴侶のルイだ。そして私たちの宝、息子のレオだ」
オレは思い出した。ルイが領内でのお披露目をしてないってことを。っていうか、なんという紹介の仕方だ。あまりのことに血の気が引いてふらついた。
それを領民は寄り添ったとでも受け取ったのか、どっ、と歓声が響き渡った。興奮した赤い顔で「ルイ様ー!」とオレの名前を叫んでいる。群衆怖い。
今頃顔出してすいません、ルイって俺様の性格なんです、しかも根暗でずっと引きこもっていたんですよ、病んでるので許してやって下さい。──ってオレだよ。
レオも怖いのかオレの膝をぎゅっと抱きしめている。ジェイドはまた気を失ったのか姿が見えない。泣きそう。
「うむ。ありがとう。
今日は家族で町を散策しに来たのだ。ルイとレオは国の為に魔法の鍛錬に余念がなくてな、少し休ませてやりたいのだ」
大勢の領民たちに臆することなく普通に話すフィリップにオレは胸を打たれた。なんというリーダーシップ。自分には絶対にできないことだ。
天性のものなのか、領主として育てられたからなのか。違うな、そういえば平民の出だったはず。
──そもそも平民がどんな功を上げたら辺境伯になれるというんだ?人間離れした胆力の持ち主だということか。
オレは恐る恐る化け物を見るような気持ちでフィリップを見上げた。
いつから見ていたのか、こちらを向いていたフィリップとばっちり目が合う。
「きゃー!フィリップ様おめでとうございます!」
「お似合いですよー!」
「いつまでもお幸せにー!」
またどっ、と湧く領民たちに気圧されながらも、ようやくオレは暖かく迎えられていることに気付いた。
だが、聖魔法は発動しない。
レオの魔法の教師にも教えを請うたが、教師も発動の仕方など知らなかった。教育の場では発動させるより、どうやって魔力をコントロールしていくかを教えるらしい。発動しない、イコールその属性の魔力を持っていないということでは?と不思議そうな顔をされた。
「うむむ、難しい。できる気がしない」
十日ほど経ってもオレは聖魔法を発動させることができないままだった。
「ジェイド、聖魔法って何なんだ。イメージできないものは発動できない。そもそも呪文はないのか?」
「あるのかもしれないがなあ、どの勇者も魔力が強かったからな。呪文詠唱はなかったようだぞ」
「ふん!!」
オレはとうとう癇癪を起こした。もう、知らん、とソファに転がる。
「ルイ様、根を詰め過ぎなのでは?今日は鍛錬をお休みしてのんびり過ごしてみませんか?例えば、町で食べ歩きも良いですし、少し足を伸ばして隣の領に行くのも良いですね。噴水のある美しい庭園が人気だそうです。ああ、軽食を持って湖に行くのも良いですね」
苦悩するオレをフィリップが甘やかしてくる。フィリップは護衛の話を出して以来、常にオレの側にいる。
まだいいんだ、と言っても、笑顔で側に立つのだ。
「おかあさま!ぼくもごいっしょしたいです!」
「俺は食べ歩きを希望する。町ではバターと蜂蜜のクレープが人気らしいぞ。・・・う、その、なんだ。闇魔法の遣い手が現れたという情報はまだ入っていない。気分転換も必要だろう」
じと、とジェイドを睨むと慌ててもっともらしいことを言ってきた。
だが、煮詰まっているのは確かだ。
「そうだな。出掛けてみるか」
で、揃ってやって来たのは、すぐ行けるからという理由で、屋敷からそう離れてはいない町の中心だ。
歩いても来れる距離だが、さすがに領主一家が徒歩というわけには行かず、少しの距離を馬車に乗って来た。
驚いたのは護衛の数だ。
騎馬の護衛が馬車の前後に2頭ずつ、馬車の横に2頭ずつ。計8名の騎馬の護衛に護られながら町に来た。
「近所に行くのにこんなに護衛はいるのかな」
「御身の尊さを考えれば少ない位です。ですがご安心下さい。精鋭を集めてあります」
だからいらないだろ、精鋭とか。
そもそもこの馬車に乗ってる全員がかなり強いぞ(レオも含め)?
もちろん、町の中心の広場に現れた物々しい一行を目にした領民たちは、皆呆けたように立ち止まりこちらを見ている。
「フィリップ、ここで降りるのか?」
「はい。すぐ側に馬車止めがありますので」
パーキングみたいなものか。時間いくらで馬車や馬を預かってくれるようだ。
人々の視線の中、その中心に降りるのは気が進まないが仕方ない。先にフィリップ、レオと降りた後、フィリップから伸ばされた手につかまった。外に顔を出すと、途端に町のざわめきが耳に入ってくる。
“領主様、相変わらずの色男っぷりだな”、“フィリップ様は先日も山のように大きな魔獣を仕留められたとか”、“レオ様、お可愛らしい”、そんな言葉が聞こえる。
だが、オレが降り立った途端、ざわめきが止んだ。なんだろう。
「?・・・フィリップ?」
「こちらへ。領の皆に貴方の顔を見せてやって欲しい」
エスコートされるままフィリップの隣に立つ。
「皆の者!我が愛しの薔薇、生涯の伴侶のルイだ。そして私たちの宝、息子のレオだ」
オレは思い出した。ルイが領内でのお披露目をしてないってことを。っていうか、なんという紹介の仕方だ。あまりのことに血の気が引いてふらついた。
それを領民は寄り添ったとでも受け取ったのか、どっ、と歓声が響き渡った。興奮した赤い顔で「ルイ様ー!」とオレの名前を叫んでいる。群衆怖い。
今頃顔出してすいません、ルイって俺様の性格なんです、しかも根暗でずっと引きこもっていたんですよ、病んでるので許してやって下さい。──ってオレだよ。
レオも怖いのかオレの膝をぎゅっと抱きしめている。ジェイドはまた気を失ったのか姿が見えない。泣きそう。
「うむ。ありがとう。
今日は家族で町を散策しに来たのだ。ルイとレオは国の為に魔法の鍛錬に余念がなくてな、少し休ませてやりたいのだ」
大勢の領民たちに臆することなく普通に話すフィリップにオレは胸を打たれた。なんというリーダーシップ。自分には絶対にできないことだ。
天性のものなのか、領主として育てられたからなのか。違うな、そういえば平民の出だったはず。
──そもそも平民がどんな功を上げたら辺境伯になれるというんだ?人間離れした胆力の持ち主だということか。
オレは恐る恐る化け物を見るような気持ちでフィリップを見上げた。
いつから見ていたのか、こちらを向いていたフィリップとばっちり目が合う。
「きゃー!フィリップ様おめでとうございます!」
「お似合いですよー!」
「いつまでもお幸せにー!」
またどっ、と湧く領民たちに気圧されながらも、ようやくオレは暖かく迎えられていることに気付いた。
13
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。

婚約破棄?一体何のお話ですか?
リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。
エルバルド学園卒業記念パーティー。
それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる…
※エブリスタさんでも投稿しています

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?


どーも、反逆のオッサンです
わか
ファンタジー
簡単なあらすじ オッサン異世界転移する。 少し詳しいあらすじ 異世界転移したオッサン...能力はスマホ。森の中に転移したオッサンがスマホを駆使して普通の生活に向けひたむきに行動するお話。 この小説は、小説家になろう様、カクヨム様にて同時投稿しております。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

醜さを理由に毒を盛られたけど、何だか綺麗になってない?
京月
恋愛
エリーナは生まれつき体に無数の痣があった。
顔にまで広がった痣のせいで周囲から醜いと蔑まれる日々。
貴族令嬢のため婚約をしたが、婚約者から笑顔を向けられたことなど一度もなかった。
「君はあまりにも醜い。僕の幸せのために死んでくれ」
毒を盛られ、体中に走る激痛。
痛みが引いた後起きてみると…。
「あれ?私綺麗になってない?」
※前編、中編、後編の3話完結
作成済み。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる