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「ジェイドの仲間には聖魔法を使えるヤツはいないのか?」
人間より妖精や精霊なんかが使うイメージがある。
「・・・実は過去に魔王に対抗しようと聖魔法に挑戦したことがある。俺たち妖精は聖魔法を使えるから」
やはり。妖精は人間よりも魔法に長けた種族なのだ。
「だが、一族が力を合わせてもほんの数秒、発動させることができただけだった・・・」
「そ、そうか。──で、聖魔法はどんな効果のある魔法なんだ?」
「その時は、その場の空気がかつてないほど清浄になった」
「──そうか」
・・・聖魔法弱そう。
「今、聖魔法弱そうと思ったな?」
「いや、」
ジェイドからそっと目を逸らす。
「聖魔法は世界最強の魔法なんだ!闇魔法に対した時、途轍もない力を発揮するんだ!」
「わかったよジェイド。だけど、オレの魔力を聖魔法に全振りするのはなぁ、身の危険を感じるというか」
「そんなに心配なら、お前専属の騎士を付ければいい。かつての勇者も聖女やら騎士やら、色々引き連れて行ってたぞ」
「まあな、・・・ん?聖魔法を使ったのは聖女、だよな?でも攻撃の要は勇者?──ならば、魔王を倒すのは魔法と剣なのでは?」
「聖女の使っていたのは主に治癒魔法だ。聖魔法を使ったのは勇者。だから、今回はお前が勇者ということになるな」
「・・・オレが勇者」
勇者の母になれと言われて追い出された身なのだが。
「今までは魔王討伐までに時間がかかりすぎていた。
魔王は強大な闇魔法を蓄え、勇者達一行が向かった時にはすでに、魔王の周りには魔王に従う魔族や魔獣が多くいたんだ」
だからこそ剣と魔法も必要だったし、被害も大きくなったのだという。
「今なら、産まれたての魔王、いや、ただの闇魔法を覚えたてのただの魔族、もしくは人間を簡単にやっつけられるんだ」
「わかったよジェイド。だがなあ、王家にそれなりに強い騎士を借りるにしてもそんな簡単な話じゃなくて・・・ん?」
王家を追われた身だしな、と考え込み、はたと自分の旦那が将軍だったと思い当たった。
辺境伯でもあり、4人の将軍のうちの1人で、この国随一の剣豪だったはず。
「そういや、オレの旦那・・・あれ?ベル、旦那って生きてる?」
壁際に立つベルに問う。
だってオレ、ルイになってから一度も会ったことないぞ。レオの父親でもあるはずだよな?一緒に暮らしてないのか?
「旦那様は、領内の北の砦にお出でです」
「そうなんだ、いつ頃帰って来るかな?」
王家には頼みにくいが、旦那なら、───って待て待て!
今頭に湧き上がってきた旦那の記憶が・・・クマなんだが。熊。2メートル以上ありそうな。な、なぜ?
えーと、初めて顔を合わせたのは結婚式。神官の前だ。
将軍は甲冑姿で現れた。大柄な体躯を覆う、装飾の施された見事な白銀の甲冑。式典用なのかもしれない。頭の部分は鼻まで覆うものでほとんど顔はわからなかった。だが、人間だった。
次は初夜のベッドの上だ。
もうここからルイの記憶の中では将軍が熊なんだが。
震えるルイを王命だからと無残にその体を開き、散らした熊。薄暗い部屋で大きなヒグマのシルエットが浮かぶ。
記憶を手繰り寄せると、実際は体験していないオレまでも震えるぐらいの恐怖が伝わる。
人にこれほどの恐怖を植え付けるとは、将軍はヤバい奴だ。
「あの、将軍は奥様のお許しがなければお戻りにはならないかと」
「──ああ、そうだったな」
レオが無事産まれたその日に追い出したんだった。腐っても王族のオレのほうが身分は上だからな。
そうして奴のことを無かったことにしたんだった。思い出した。
「どうしたもんかな・・・」
ルイがそこまでして遠ざけた男を呼ぶのは気が引ける。というかオレも怖い。
だが、将来勇者となったレオを魔王のもとにやることを考えたら──。
「ベル、将軍を呼び戻してくれ」
ルイはオレだが実際に向き合ってはいないからな。恐怖はなんとか抑えられるだろう。
可愛いレオの為だ。オレはやる。
「よし、剣士の当てはついたぞ。あと必要なのは誰だ」
小さな器に入れてもらった蜂蜜入りの紅茶をこくこくと飲むジェイドに向き直った。
「そうだな、あとは特に要らないと思うぞ。俺が魔法士の代わりになれるし、治癒魔法も使えるから聖女もいらん」
「よしゃ!ならば将軍が来たらすぐにでも討伐に出よう!」
「だから聖魔法!」
「──そうだったな」
使えないんだった。もう一度体を流れる魔力を右手に集め、聖魔法を産み出そうと試みる。
ビリッと手のひらから光の柱が立ち上がった。
「これは!」
「ああ、雷魔法だな」
「やはり・・・」
・・・使える気がしない。
しかも。
「奥様、」
声をかけてきたベルに魔法の発動は外でやるようにと、無表情に叱られた。怖かった。
レオの昼寝が終わり、拓けた場所で魔法の授業があると言うのでオレとジェイドも付いていくことにした。授業参観だ。
魔法の教師とは大体が外での待ち合わせらしい。
そうだな、魔法を屋敷内で使うのは危険だよな。怒られるしな。
人間より妖精や精霊なんかが使うイメージがある。
「・・・実は過去に魔王に対抗しようと聖魔法に挑戦したことがある。俺たち妖精は聖魔法を使えるから」
やはり。妖精は人間よりも魔法に長けた種族なのだ。
「だが、一族が力を合わせてもほんの数秒、発動させることができただけだった・・・」
「そ、そうか。──で、聖魔法はどんな効果のある魔法なんだ?」
「その時は、その場の空気がかつてないほど清浄になった」
「──そうか」
・・・聖魔法弱そう。
「今、聖魔法弱そうと思ったな?」
「いや、」
ジェイドからそっと目を逸らす。
「聖魔法は世界最強の魔法なんだ!闇魔法に対した時、途轍もない力を発揮するんだ!」
「わかったよジェイド。だけど、オレの魔力を聖魔法に全振りするのはなぁ、身の危険を感じるというか」
「そんなに心配なら、お前専属の騎士を付ければいい。かつての勇者も聖女やら騎士やら、色々引き連れて行ってたぞ」
「まあな、・・・ん?聖魔法を使ったのは聖女、だよな?でも攻撃の要は勇者?──ならば、魔王を倒すのは魔法と剣なのでは?」
「聖女の使っていたのは主に治癒魔法だ。聖魔法を使ったのは勇者。だから、今回はお前が勇者ということになるな」
「・・・オレが勇者」
勇者の母になれと言われて追い出された身なのだが。
「今までは魔王討伐までに時間がかかりすぎていた。
魔王は強大な闇魔法を蓄え、勇者達一行が向かった時にはすでに、魔王の周りには魔王に従う魔族や魔獣が多くいたんだ」
だからこそ剣と魔法も必要だったし、被害も大きくなったのだという。
「今なら、産まれたての魔王、いや、ただの闇魔法を覚えたてのただの魔族、もしくは人間を簡単にやっつけられるんだ」
「わかったよジェイド。だがなあ、王家にそれなりに強い騎士を借りるにしてもそんな簡単な話じゃなくて・・・ん?」
王家を追われた身だしな、と考え込み、はたと自分の旦那が将軍だったと思い当たった。
辺境伯でもあり、4人の将軍のうちの1人で、この国随一の剣豪だったはず。
「そういや、オレの旦那・・・あれ?ベル、旦那って生きてる?」
壁際に立つベルに問う。
だってオレ、ルイになってから一度も会ったことないぞ。レオの父親でもあるはずだよな?一緒に暮らしてないのか?
「旦那様は、領内の北の砦にお出でです」
「そうなんだ、いつ頃帰って来るかな?」
王家には頼みにくいが、旦那なら、───って待て待て!
今頭に湧き上がってきた旦那の記憶が・・・クマなんだが。熊。2メートル以上ありそうな。な、なぜ?
えーと、初めて顔を合わせたのは結婚式。神官の前だ。
将軍は甲冑姿で現れた。大柄な体躯を覆う、装飾の施された見事な白銀の甲冑。式典用なのかもしれない。頭の部分は鼻まで覆うものでほとんど顔はわからなかった。だが、人間だった。
次は初夜のベッドの上だ。
もうここからルイの記憶の中では将軍が熊なんだが。
震えるルイを王命だからと無残にその体を開き、散らした熊。薄暗い部屋で大きなヒグマのシルエットが浮かぶ。
記憶を手繰り寄せると、実際は体験していないオレまでも震えるぐらいの恐怖が伝わる。
人にこれほどの恐怖を植え付けるとは、将軍はヤバい奴だ。
「あの、将軍は奥様のお許しがなければお戻りにはならないかと」
「──ああ、そうだったな」
レオが無事産まれたその日に追い出したんだった。腐っても王族のオレのほうが身分は上だからな。
そうして奴のことを無かったことにしたんだった。思い出した。
「どうしたもんかな・・・」
ルイがそこまでして遠ざけた男を呼ぶのは気が引ける。というかオレも怖い。
だが、将来勇者となったレオを魔王のもとにやることを考えたら──。
「ベル、将軍を呼び戻してくれ」
ルイはオレだが実際に向き合ってはいないからな。恐怖はなんとか抑えられるだろう。
可愛いレオの為だ。オレはやる。
「よし、剣士の当てはついたぞ。あと必要なのは誰だ」
小さな器に入れてもらった蜂蜜入りの紅茶をこくこくと飲むジェイドに向き直った。
「そうだな、あとは特に要らないと思うぞ。俺が魔法士の代わりになれるし、治癒魔法も使えるから聖女もいらん」
「よしゃ!ならば将軍が来たらすぐにでも討伐に出よう!」
「だから聖魔法!」
「──そうだったな」
使えないんだった。もう一度体を流れる魔力を右手に集め、聖魔法を産み出そうと試みる。
ビリッと手のひらから光の柱が立ち上がった。
「これは!」
「ああ、雷魔法だな」
「やはり・・・」
・・・使える気がしない。
しかも。
「奥様、」
声をかけてきたベルに魔法の発動は外でやるようにと、無表情に叱られた。怖かった。
レオの昼寝が終わり、拓けた場所で魔法の授業があると言うのでオレとジェイドも付いていくことにした。授業参観だ。
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