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とりあえず朝ご飯を食べ終わったら、オレと遊ぼう!と提案したのだが、家庭教師の先生が来る時間は決まっているので。と、とても申し訳無さそうな顔で断られた。──遊びたい盛りの3歳児に。
「・・そうか、それもそうだな。じゃあ、お昼ご飯をまた一緒に食べよう」
「はい!おかあさま!」
うーん、良い返事!
なんて素直な良い子に育ったんだろう。オレ、最低な母親だったのに。
さて、レオと別れて部屋に戻ると、何もやることが無くなった。
「え~と、オレって毎日何してたのかな?」
可愛いメイドさんに尋ねる。ちなみにこのメイドさんの名前はベル。オレが唯一王宮から連れてきたメイド。記憶の中のオレは基本、ここではベルしか信用していない。
そう!この可愛いメイドさんは、オレの秘密の愛人なのでした!・・・なーんてことはなく、彼女はオレの乳母の娘、つまり乳姉妹というやつだ。歳はオレのひとつ下。20歳だ。
オレが王太子となり結婚したなら、ベルを相応の家に嫁がせて同じ時期に妊娠してもらい、我が子の乳母としてベルを再度召し抱えるという段取りだったのだが。
政権争いに敗れた王子の乳姉妹だったせいで婚期も逃し、オレの持ち物枠で、王都からも家族からも遠く離れた領地に強制的に連れてこられた。本当に彼女には申し訳ないことをした。
ただ、ベルの無表情は昔からだ。今の境遇に腹を立てているわけではない。──と思いたい。
「そもそも、奥様はこの時間には起きていませんでした」
「・・・そう」
けっこうまめまめしく動く質だと自負していたのだが、所変われば品変わる、いや、性格も変わるのか。
確かに記憶の中の王子改め奥様は心は鬱々していたが傍目にはのんびり暮らしていた。んで、日に何度か接触してくるレオをいびって。うん、とっても不毛だ。・・・心の奥ではこんなの八つ当たりだとわかっていたけど、止められなかったんだよな。まぁ、オレって根に持つタイプかも。
過去にレオにしてきた事を思うと土下座で頭を地面に何度も打ち付けながら謝りたくなる。いや、何度でも謝ろう。そして今までの罪滅ぼしも含めて世界一幸せにしてあげるのだ。
「世界一、だよー・・・むにゃ」
ソファであお向けになったのがいけなかったのか、それとも習慣か。オレはそのまま眠ってしまったのだった。
ベルに起こされたのは昼食の少し前。
「坊ちゃまがいらっしゃいましたよ」
「ほへ?」
どんだけ寝るんだオレ。激しく反省しながらもわざわざ迎えに来てくれたレオと共に食堂へ向かった。
途中、階段が危なっかしいので手を繋ぐ。何と言ってもレオはまだ3歳なのだ。身長的にも危ない。
レオは目をこぼれ落ちそうなほど見開き、そして顔を赤らめ「ありがとうございます」と笑顔を見せた。うーん、その笑顔プライスレス!!
その後も、んしょ、んしょ、と階段を降りるレオに心底癒された。息子が可愛い過ぎる。神様ありがとう!
食堂のテーブルにつくと、肉か魚か尋ねられたので魚を選ぶと、あまり待つこともなくスープ、サラダ、パンが運ばれメインに白身魚のなんか美味しそうなのが出てきた。こんなご馳走を毎日食べれるのか、最の高か。
レオの方にはワンプレートにオムレツやハンバーグ、魚のフライ、チキンライスと、お子様ランチのようなものが供されていた。美味しそうだ。ところどころにプチトマトやレタス等の野菜も挟まれていて、栄養バランスもばっちりだ。
「いただきまーす!」
オレが手を合わせるとナイフとフォークを握ったレオが、ぽかんとオレを見た。
「んん?」
シーンとした室内を見回せば、ドア近くに待機してる給仕の方たちもベルも、やっぱりぽかんとしていた。
なるほど。“いただきます”は日本の文化だったな。記憶の中のルイも一度も言ったことない。
今朝の朝食の席ではどうだっただろうか。
そうだ、レオの一日の忙しさにびっくりして、“いただきます”は言ったと思うが、手は合わせてはいなかった気がする。
「“いただきます”っていうのは食事の時の感謝の言葉だよ。食材を与えてくれた自然の恵みに感謝し、料理をしてくれた人、給仕をしてくれた人、この食事が口に入るまでにお世話になった全ての人たちへの感謝を込めて言うんだ。
あ、食事の終わりにはやっぱり感謝を込めて、手を合わせて“ごちそうさまでした”って言うんだよ。
え、と、変かなあ」
日本人だったオレには当たり前だったがアメリカや、他の多くの国では“いただきます”も“ごちそうさま”もなかったような気がする。異世界もか。
うーん、受け入れてもらえないかもなあ。
郷に入っては郷に従え、今度からは心の中だけで手を合わせようか。
「いただきまちゅ」
そんなふうに思っていたら、レオがカトラリーを元の場所に置き、見よう見まねで手を合わせた。しかも噛んでる。“いただきまちゅ”可愛い~!
「ありがとう、レオ」
「“ごちそ、さま”も、いいます!おかあさまといっしょに!」
「うん、そうしよう」
温かいなあ、レオは。
食事を始めたオレたちだったが、じわりと目頭が熱くなって困った。
「・・そうか、それもそうだな。じゃあ、お昼ご飯をまた一緒に食べよう」
「はい!おかあさま!」
うーん、良い返事!
なんて素直な良い子に育ったんだろう。オレ、最低な母親だったのに。
さて、レオと別れて部屋に戻ると、何もやることが無くなった。
「え~と、オレって毎日何してたのかな?」
可愛いメイドさんに尋ねる。ちなみにこのメイドさんの名前はベル。オレが唯一王宮から連れてきたメイド。記憶の中のオレは基本、ここではベルしか信用していない。
そう!この可愛いメイドさんは、オレの秘密の愛人なのでした!・・・なーんてことはなく、彼女はオレの乳母の娘、つまり乳姉妹というやつだ。歳はオレのひとつ下。20歳だ。
オレが王太子となり結婚したなら、ベルを相応の家に嫁がせて同じ時期に妊娠してもらい、我が子の乳母としてベルを再度召し抱えるという段取りだったのだが。
政権争いに敗れた王子の乳姉妹だったせいで婚期も逃し、オレの持ち物枠で、王都からも家族からも遠く離れた領地に強制的に連れてこられた。本当に彼女には申し訳ないことをした。
ただ、ベルの無表情は昔からだ。今の境遇に腹を立てているわけではない。──と思いたい。
「そもそも、奥様はこの時間には起きていませんでした」
「・・・そう」
けっこうまめまめしく動く質だと自負していたのだが、所変われば品変わる、いや、性格も変わるのか。
確かに記憶の中の王子改め奥様は心は鬱々していたが傍目にはのんびり暮らしていた。んで、日に何度か接触してくるレオをいびって。うん、とっても不毛だ。・・・心の奥ではこんなの八つ当たりだとわかっていたけど、止められなかったんだよな。まぁ、オレって根に持つタイプかも。
過去にレオにしてきた事を思うと土下座で頭を地面に何度も打ち付けながら謝りたくなる。いや、何度でも謝ろう。そして今までの罪滅ぼしも含めて世界一幸せにしてあげるのだ。
「世界一、だよー・・・むにゃ」
ソファであお向けになったのがいけなかったのか、それとも習慣か。オレはそのまま眠ってしまったのだった。
ベルに起こされたのは昼食の少し前。
「坊ちゃまがいらっしゃいましたよ」
「ほへ?」
どんだけ寝るんだオレ。激しく反省しながらもわざわざ迎えに来てくれたレオと共に食堂へ向かった。
途中、階段が危なっかしいので手を繋ぐ。何と言ってもレオはまだ3歳なのだ。身長的にも危ない。
レオは目をこぼれ落ちそうなほど見開き、そして顔を赤らめ「ありがとうございます」と笑顔を見せた。うーん、その笑顔プライスレス!!
その後も、んしょ、んしょ、と階段を降りるレオに心底癒された。息子が可愛い過ぎる。神様ありがとう!
食堂のテーブルにつくと、肉か魚か尋ねられたので魚を選ぶと、あまり待つこともなくスープ、サラダ、パンが運ばれメインに白身魚のなんか美味しそうなのが出てきた。こんなご馳走を毎日食べれるのか、最の高か。
レオの方にはワンプレートにオムレツやハンバーグ、魚のフライ、チキンライスと、お子様ランチのようなものが供されていた。美味しそうだ。ところどころにプチトマトやレタス等の野菜も挟まれていて、栄養バランスもばっちりだ。
「いただきまーす!」
オレが手を合わせるとナイフとフォークを握ったレオが、ぽかんとオレを見た。
「んん?」
シーンとした室内を見回せば、ドア近くに待機してる給仕の方たちもベルも、やっぱりぽかんとしていた。
なるほど。“いただきます”は日本の文化だったな。記憶の中のルイも一度も言ったことない。
今朝の朝食の席ではどうだっただろうか。
そうだ、レオの一日の忙しさにびっくりして、“いただきます”は言ったと思うが、手は合わせてはいなかった気がする。
「“いただきます”っていうのは食事の時の感謝の言葉だよ。食材を与えてくれた自然の恵みに感謝し、料理をしてくれた人、給仕をしてくれた人、この食事が口に入るまでにお世話になった全ての人たちへの感謝を込めて言うんだ。
あ、食事の終わりにはやっぱり感謝を込めて、手を合わせて“ごちそうさまでした”って言うんだよ。
え、と、変かなあ」
日本人だったオレには当たり前だったがアメリカや、他の多くの国では“いただきます”も“ごちそうさま”もなかったような気がする。異世界もか。
うーん、受け入れてもらえないかもなあ。
郷に入っては郷に従え、今度からは心の中だけで手を合わせようか。
「いただきまちゅ」
そんなふうに思っていたら、レオがカトラリーを元の場所に置き、見よう見まねで手を合わせた。しかも噛んでる。“いただきまちゅ”可愛い~!
「ありがとう、レオ」
「“ごちそ、さま”も、いいます!おかあさまといっしょに!」
「うん、そうしよう」
温かいなあ、レオは。
食事を始めたオレたちだったが、じわりと目頭が熱くなって困った。
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