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番外編
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柔らかな日差しに包まれた暖かな晩秋の良き日、オレとギヴの結婚式が我が家の庭園で賑々しく行われた。
人前式、とでも言うのか、二人の結婚を参列者に証人になってもらうという挙式スタイルだ。
参列者達の間を父にエスコートされながら、神官の側に立つギヴのもとへ、ゆっくり進む。
男同士の結婚でもこの流れは必要なのか、参列者からの視線がとても痛い。ベールは要らないと最後までごねたが、視線避けに必要だったと思い直した。
「うっ、うっ、ぐすっ」
──参列者からの視線は隣の父に向けられているのかもしれない。花嫁の父は泣きがちだと聞くけど、オレ男だし、しかも嫁ぐわけじゃないんだが。
「父様、泣かないで(恥ずかしいから)。オレ、ずっとそばにいるんだしさ」
そっと声をかけたら、さらに泣かれ、道半ばでぎゅうぎゅうと抱きしめられた。
「ラブラドライト、お前は世界一の孝行息子だよ!」
──悪化させてしまった。
なんとかギヴのもとに辿り着くと、横からドナが出てきて父に乱されたベールやら衣装をすすっと直してくれた。うちの侍女はなんて有能なんだろう。
ベール越しにギヴを見ると優しく微笑んでくれていた。
・・・眩しいな。
決して日光の反射ではない。
しばし、ギヴの輝く程の美男子ぶりにうっとりと見惚れていたが、神官のうほん、うほんというわざとらしい咳払いに我に返った。
「では、始めましょうかの。ご参列の皆さま方、ご静粛に願います」
決して大きくはないその声に場が一気に静まる。
「では今から誓いの儀を執り行います。二人共向き合って。──もう向き合ってましたな、ほほほ。
神と、証人の前で今日より二人、良き時も、悪しき時も、富めるときも、貧しきときも、病める時も、健やかなる時も──生命ある限り、お互いだけを愛することを、誓いますか?」
「はい、誓います」
「はい、誓います」
「では、こちらの婚姻届に署名を」
静まりかえった中、署名をした。
「二人の婚姻に異のある者、前に出よ。──賛同するものは拍手でもって応えよ」
神父様の言葉に、一斉に大きな拍手の音が響いた。ところどころで指笛も鳴る。
「良うございましたな。では、誓いの口づけを」
ギヴが一歩オレに近付き、ベールに手をかけた。
「ま、待って」
「ラド?」
「・・・ギヴ、オレ、今、ひどい顔してる」
「貴方はいつでも美しいですよ」
いや、本当にダメなんだって。自分でもびっくりするほど感動してしまって。
「・・・ダメだってば」
なのに、ベールはそっとはがれた。
「・・・ラド、」
ギヴの動きが止まる。
そりゃ、そうだろう。ベールをはいだら嫁が滝のように涙を流しているんだから。
「泣くなんて、ごめん。・・・あ、この涙は悲しいからとかではなくて、嬉しい、というか、なんか胸がいっぱいになってしまって・・・」
これは父を笑えなくなってしまった。
「──ラド、愛しい人。貴方の涙に誓って、私の愛は未来永劫、貴方のものです」
てっきり呆れられた、と思ったのだが、そうでもなかったらしい。感動した面持ちでギヴは両手でオレの涙に濡れた頬を包むと、ゆっくりと口づけた。
拍手と指笛、野次が大きくなり庭園にいつまでも響いた。
夜、といえば──初夜だ。
軽い夕食をオレの両親と共に四人でとった後、オレたちは部屋に引き上げた。
ちなみにオレたちの部屋はもともとのオレの自室の向かって右隣りを二人の寝室兼リビング的な二人の共有スペース、さらに右隣りにギヴの書斎。向かって左は二人の衣装部屋にした。もともと部屋数はかなりあるのだ。全てリフォーム済み。ありがたいことに全てギヴ持ちだ。
寝室には小さいが浴槽のあるバスルームとトイレもある。
すごく嬉しい。
オレはこっそりと部屋着のズボンのポケットに忍ばせたトール特製のラブグッズを服の上から押さえた。
例の、“浄化と潤滑、ちょっぴり媚薬”のアレだ。
同梱されていた手紙によると、挿入より前に尻の穴に入れるだけ。その瞬間から尻の内部では浄化魔法が発動し、適度なぬめりで尻を保護してくれるらしい。──そして、ちょっぴりの媚薬効果が気分を高めてくれるらしい。
効果は半日まではいかないが一晩は余裕で持つそうなので、風呂等で自分で早めに入れておくのもいいとのこと。
もちろん、相手に入れてもらうのもありだそうだが、──それはムリ。オレ的には自分で入れる、の一択だ。
「・・・え、と。オレ、風呂に行ってくるよ」
「はい。今日は疲れたでしょう。シャワーではなく湯船にゆっくり浸かりましょう。一緒に」
「う、うん?いや、一人で・・・」
一緒に、はダメだ。
「遠慮しないで、私たちは夫婦!となったのですから」
押しが強い。
「貴方のお世話はお任せください」
夫婦の定義を間違っているから。
だがオレの話なんて聞いちゃいないギヴは「新しい浴室の使い勝手を二人で確かめましょう」だの、なぜか耳元で囁やきながら、ぐいぐいと抱きかかえるようにオレの体を浴室に向かわせた。
人前式、とでも言うのか、二人の結婚を参列者に証人になってもらうという挙式スタイルだ。
参列者達の間を父にエスコートされながら、神官の側に立つギヴのもとへ、ゆっくり進む。
男同士の結婚でもこの流れは必要なのか、参列者からの視線がとても痛い。ベールは要らないと最後までごねたが、視線避けに必要だったと思い直した。
「うっ、うっ、ぐすっ」
──参列者からの視線は隣の父に向けられているのかもしれない。花嫁の父は泣きがちだと聞くけど、オレ男だし、しかも嫁ぐわけじゃないんだが。
「父様、泣かないで(恥ずかしいから)。オレ、ずっとそばにいるんだしさ」
そっと声をかけたら、さらに泣かれ、道半ばでぎゅうぎゅうと抱きしめられた。
「ラブラドライト、お前は世界一の孝行息子だよ!」
──悪化させてしまった。
なんとかギヴのもとに辿り着くと、横からドナが出てきて父に乱されたベールやら衣装をすすっと直してくれた。うちの侍女はなんて有能なんだろう。
ベール越しにギヴを見ると優しく微笑んでくれていた。
・・・眩しいな。
決して日光の反射ではない。
しばし、ギヴの輝く程の美男子ぶりにうっとりと見惚れていたが、神官のうほん、うほんというわざとらしい咳払いに我に返った。
「では、始めましょうかの。ご参列の皆さま方、ご静粛に願います」
決して大きくはないその声に場が一気に静まる。
「では今から誓いの儀を執り行います。二人共向き合って。──もう向き合ってましたな、ほほほ。
神と、証人の前で今日より二人、良き時も、悪しき時も、富めるときも、貧しきときも、病める時も、健やかなる時も──生命ある限り、お互いだけを愛することを、誓いますか?」
「はい、誓います」
「はい、誓います」
「では、こちらの婚姻届に署名を」
静まりかえった中、署名をした。
「二人の婚姻に異のある者、前に出よ。──賛同するものは拍手でもって応えよ」
神父様の言葉に、一斉に大きな拍手の音が響いた。ところどころで指笛も鳴る。
「良うございましたな。では、誓いの口づけを」
ギヴが一歩オレに近付き、ベールに手をかけた。
「ま、待って」
「ラド?」
「・・・ギヴ、オレ、今、ひどい顔してる」
「貴方はいつでも美しいですよ」
いや、本当にダメなんだって。自分でもびっくりするほど感動してしまって。
「・・・ダメだってば」
なのに、ベールはそっとはがれた。
「・・・ラド、」
ギヴの動きが止まる。
そりゃ、そうだろう。ベールをはいだら嫁が滝のように涙を流しているんだから。
「泣くなんて、ごめん。・・・あ、この涙は悲しいからとかではなくて、嬉しい、というか、なんか胸がいっぱいになってしまって・・・」
これは父を笑えなくなってしまった。
「──ラド、愛しい人。貴方の涙に誓って、私の愛は未来永劫、貴方のものです」
てっきり呆れられた、と思ったのだが、そうでもなかったらしい。感動した面持ちでギヴは両手でオレの涙に濡れた頬を包むと、ゆっくりと口づけた。
拍手と指笛、野次が大きくなり庭園にいつまでも響いた。
夜、といえば──初夜だ。
軽い夕食をオレの両親と共に四人でとった後、オレたちは部屋に引き上げた。
ちなみにオレたちの部屋はもともとのオレの自室の向かって右隣りを二人の寝室兼リビング的な二人の共有スペース、さらに右隣りにギヴの書斎。向かって左は二人の衣装部屋にした。もともと部屋数はかなりあるのだ。全てリフォーム済み。ありがたいことに全てギヴ持ちだ。
寝室には小さいが浴槽のあるバスルームとトイレもある。
すごく嬉しい。
オレはこっそりと部屋着のズボンのポケットに忍ばせたトール特製のラブグッズを服の上から押さえた。
例の、“浄化と潤滑、ちょっぴり媚薬”のアレだ。
同梱されていた手紙によると、挿入より前に尻の穴に入れるだけ。その瞬間から尻の内部では浄化魔法が発動し、適度なぬめりで尻を保護してくれるらしい。──そして、ちょっぴりの媚薬効果が気分を高めてくれるらしい。
効果は半日まではいかないが一晩は余裕で持つそうなので、風呂等で自分で早めに入れておくのもいいとのこと。
もちろん、相手に入れてもらうのもありだそうだが、──それはムリ。オレ的には自分で入れる、の一択だ。
「・・・え、と。オレ、風呂に行ってくるよ」
「はい。今日は疲れたでしょう。シャワーではなく湯船にゆっくり浸かりましょう。一緒に」
「う、うん?いや、一人で・・・」
一緒に、はダメだ。
「遠慮しないで、私たちは夫婦!となったのですから」
押しが強い。
「貴方のお世話はお任せください」
夫婦の定義を間違っているから。
だがオレの話なんて聞いちゃいないギヴは「新しい浴室の使い勝手を二人で確かめましょう」だの、なぜか耳元で囁やきながら、ぐいぐいと抱きかかえるようにオレの体を浴室に向かわせた。
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