13 / 26
13
しおりを挟む
センス良く、ものがあるべき場所に収まっている、居心地の良さそうなギヴの部屋に入ると、ティーテーブルに所狭しと軽食が並べられていた。
「もう遅いので簡単なものを用意させました」
「ありがとう。美味しそうだね」
サンドイッチやスープ、手でつまめる、小さくて綺麗なオードブル的なものが多い。
夜着で食べるなんて、なんだか楽しい。
ギヴの部屋にはそんな喧騒は届いてこないけれど、1階では、夜も更けた今も多くの人たちが思い思いにカードやダンスを楽しんでいる、というのも楽しさに拍車をかける。
向かいには穏やかな表情のギヴがいて、暖かな部屋、綺麗で美味しそうな料理。
神に祈りを捧げたいほど満ち足りていて幸せだった。
「ありがとう、ギヴ」
また言ってしまった。
それを受けて、何度も聞きましたよ、という風にギヴが微笑う。
「──オレを幸せにしてくれて」
ギヴと出会ってから少しずつ何かが変わっていった。もちろん、それはギヴの資金援助という形での色々な恩恵がもたらしてくれたものも多いけど、それよりもガチガチに固くなっていた心をギヴがほぐしてくれたな、と思う。少し前までのオレは、綺麗なものとか暖かいものとか、きちんと感じられていなかったんじゃないかな。
なかなか口に出して説明するのは難しいんだけど。
「好き・・・」
「え?」
「あ・・・ギ、ギヴは鴨肉って好き?大丈夫?」
何を口走っているのだオレは!
「ええ、大丈夫ですが。ラドは?苦手でしたか?」
大皿に、ローストされ、薄くスライスされた鴨肉が他の料理とともに何枚かのっていた。
「いや、オレも大丈夫」
「そうですか。──はい」
フォークに刺さった鴨肉を目の前に出された。
食べろと?オレにあーんして食べろと?
オレは、──あーん、した。
「美味しいですか?」
咀嚼しながら、こくんと頷く。
「好きですか?」
・・・こくん。
「大好きですか?」
「・・・・・」
いや、こればれてるよな?鴨肉の話じゃないって。
顔に血が上る。耳が熱い。
こくん、ともう一度、頷いた。
「私も大好きです」
「!!」
こ、この男を黙らせねば恥ずか死ぬ!
「──はいっ、あーん」
オレも鴨肉をフォークで刺して、ギヴの顔の前に差し出した。
「──いただきます」
行儀良く口に入れたが、一瞬、びっくりして目を丸くしたのを見逃さなかったぞ、オレは。
「ぷっ、」
楽しくなって吹き出してしまう。ギヴも一緒になって笑った。
「うー、眠い・・・」
食べ終えて、歯磨きをする頃には、オレはもうかなりふらふらで、ギヴにエスコートされるままベッドに寝転がった。
「あ、ギヴの匂い・・・好き」
正しくは、ギヴの服を洗う洗濯石鹸の匂いなんだろうけど。言い足す間もなく、ストンと眠りに落ちた。
ギヴのベッドは、良い匂いと相まって、とても安心できて、気持ちが良かった。
快眠できたオレは、朝、スッキリと目覚めたのだった。
もともとバイトで早起きは鍛えられている、ということもある。
ギヴのベッドは大きくて、二人で寝ても余るぐらいだ。
それなのに、ぴったりオレに身を寄せて眠るギヴが可愛かった。
まだ成人したばかりなのに、オレを助けて、堂々とあのクセのある三じじに渡り合っていたな。
「カッコいいぞ」
そっとギヴの頬にかかる髪を払い、キスを贈った。
今日からは本格的に“ドワーフの村”へ向かうため、早朝に出発だ。昨日の様子ではリゲル家の朝は遅いだろうと思っていたが、ギヴのご両親が見送りに出てきてくれた。
「ラブラドライト、結婚式でまた会おう」
「式の前に会えて嬉しかったわ」
そんな言葉に送られて、オレ達は出発した。
ここから2日、道の状態では3日かけて村へ向かうという。村での滞在を延ばしたいからホテルには泊まらず馬車泊でも良いかと問われ、オレは大きく頷いた。だって、ホテルに泊まるのも楽しいだろうが、ワイルドなこともやってみたい年頃なのだ。町を抜けた道の所々に専用のエリアがあり、そこでテントを張って泊まるらしい。焚き火を囲み、自分達で煮炊きをしたりするのだという。
「わくわく」
今から楽しみ過ぎる。
馬車は順調に王都の門を抜け、石畳の道をひた走る。ちなみに2頭立ての馬車を難なく操るのはベテランの御者、ルーさん。控えの御者はいないので、旅の安全はひとえにルーさんの手捌きにかかっている。
窓からの風景がレンガ造りの建物から木造の建物が多く見られるようになってきて、その分、緑も多くなってきた。
物珍しさも手伝ってオレは窓から見える景色に夢中だが、ギヴはさっきから欠伸をかいて眠そうにしてる。
「昨夜、よく眠れなかった?もしかして、オレ、寝相悪かったかな?」
「いえ、そんなことは。ただ、思ったより貴方が早く寝付いてしまったので、残念だっただけです」
「?」
よくわからない。オレが寝ないから付き合わされて寝不足、ならわかるのだが。
「えーと、寝る?」
今はお互いに進行方向に向かうソファに腰掛けているが、ギヴが横になるならオレは向かいの席に移動しようと思った。
「ありがとうございます。では、遠慮なく」
ギヴがオレの膝に倒れ込んできた。──こ、これは、膝枕というやつでは?
「ああ、気持ちいい」
そんな言葉を漏らし、固まるオレの腹に顔を埋め、あっという間にギヴは眠ってしまったようだった。
「もう遅いので簡単なものを用意させました」
「ありがとう。美味しそうだね」
サンドイッチやスープ、手でつまめる、小さくて綺麗なオードブル的なものが多い。
夜着で食べるなんて、なんだか楽しい。
ギヴの部屋にはそんな喧騒は届いてこないけれど、1階では、夜も更けた今も多くの人たちが思い思いにカードやダンスを楽しんでいる、というのも楽しさに拍車をかける。
向かいには穏やかな表情のギヴがいて、暖かな部屋、綺麗で美味しそうな料理。
神に祈りを捧げたいほど満ち足りていて幸せだった。
「ありがとう、ギヴ」
また言ってしまった。
それを受けて、何度も聞きましたよ、という風にギヴが微笑う。
「──オレを幸せにしてくれて」
ギヴと出会ってから少しずつ何かが変わっていった。もちろん、それはギヴの資金援助という形での色々な恩恵がもたらしてくれたものも多いけど、それよりもガチガチに固くなっていた心をギヴがほぐしてくれたな、と思う。少し前までのオレは、綺麗なものとか暖かいものとか、きちんと感じられていなかったんじゃないかな。
なかなか口に出して説明するのは難しいんだけど。
「好き・・・」
「え?」
「あ・・・ギ、ギヴは鴨肉って好き?大丈夫?」
何を口走っているのだオレは!
「ええ、大丈夫ですが。ラドは?苦手でしたか?」
大皿に、ローストされ、薄くスライスされた鴨肉が他の料理とともに何枚かのっていた。
「いや、オレも大丈夫」
「そうですか。──はい」
フォークに刺さった鴨肉を目の前に出された。
食べろと?オレにあーんして食べろと?
オレは、──あーん、した。
「美味しいですか?」
咀嚼しながら、こくんと頷く。
「好きですか?」
・・・こくん。
「大好きですか?」
「・・・・・」
いや、こればれてるよな?鴨肉の話じゃないって。
顔に血が上る。耳が熱い。
こくん、ともう一度、頷いた。
「私も大好きです」
「!!」
こ、この男を黙らせねば恥ずか死ぬ!
「──はいっ、あーん」
オレも鴨肉をフォークで刺して、ギヴの顔の前に差し出した。
「──いただきます」
行儀良く口に入れたが、一瞬、びっくりして目を丸くしたのを見逃さなかったぞ、オレは。
「ぷっ、」
楽しくなって吹き出してしまう。ギヴも一緒になって笑った。
「うー、眠い・・・」
食べ終えて、歯磨きをする頃には、オレはもうかなりふらふらで、ギヴにエスコートされるままベッドに寝転がった。
「あ、ギヴの匂い・・・好き」
正しくは、ギヴの服を洗う洗濯石鹸の匂いなんだろうけど。言い足す間もなく、ストンと眠りに落ちた。
ギヴのベッドは、良い匂いと相まって、とても安心できて、気持ちが良かった。
快眠できたオレは、朝、スッキリと目覚めたのだった。
もともとバイトで早起きは鍛えられている、ということもある。
ギヴのベッドは大きくて、二人で寝ても余るぐらいだ。
それなのに、ぴったりオレに身を寄せて眠るギヴが可愛かった。
まだ成人したばかりなのに、オレを助けて、堂々とあのクセのある三じじに渡り合っていたな。
「カッコいいぞ」
そっとギヴの頬にかかる髪を払い、キスを贈った。
今日からは本格的に“ドワーフの村”へ向かうため、早朝に出発だ。昨日の様子ではリゲル家の朝は遅いだろうと思っていたが、ギヴのご両親が見送りに出てきてくれた。
「ラブラドライト、結婚式でまた会おう」
「式の前に会えて嬉しかったわ」
そんな言葉に送られて、オレ達は出発した。
ここから2日、道の状態では3日かけて村へ向かうという。村での滞在を延ばしたいからホテルには泊まらず馬車泊でも良いかと問われ、オレは大きく頷いた。だって、ホテルに泊まるのも楽しいだろうが、ワイルドなこともやってみたい年頃なのだ。町を抜けた道の所々に専用のエリアがあり、そこでテントを張って泊まるらしい。焚き火を囲み、自分達で煮炊きをしたりするのだという。
「わくわく」
今から楽しみ過ぎる。
馬車は順調に王都の門を抜け、石畳の道をひた走る。ちなみに2頭立ての馬車を難なく操るのはベテランの御者、ルーさん。控えの御者はいないので、旅の安全はひとえにルーさんの手捌きにかかっている。
窓からの風景がレンガ造りの建物から木造の建物が多く見られるようになってきて、その分、緑も多くなってきた。
物珍しさも手伝ってオレは窓から見える景色に夢中だが、ギヴはさっきから欠伸をかいて眠そうにしてる。
「昨夜、よく眠れなかった?もしかして、オレ、寝相悪かったかな?」
「いえ、そんなことは。ただ、思ったより貴方が早く寝付いてしまったので、残念だっただけです」
「?」
よくわからない。オレが寝ないから付き合わされて寝不足、ならわかるのだが。
「えーと、寝る?」
今はお互いに進行方向に向かうソファに腰掛けているが、ギヴが横になるならオレは向かいの席に移動しようと思った。
「ありがとうございます。では、遠慮なく」
ギヴがオレの膝に倒れ込んできた。──こ、これは、膝枕というやつでは?
「ああ、気持ちいい」
そんな言葉を漏らし、固まるオレの腹に顔を埋め、あっという間にギヴは眠ってしまったようだった。
60
お気に入りに追加
148
あなたにおすすめの小説
薬師は語る、その・・・
香野ジャスミン
BL
微かに香る薬草の匂い、息が乱れ、体の奥が熱くなる。人は死が近づくとこのようになるのだと、頭のどこかで理解しそのまま、身体の力は抜け、もう、なにもできなくなっていました。
目を閉じ、かすかに聞こえる兄の声、母の声、
そして多くの民の怒号。
最後に映るものが美しいものであったなら、最後に聞こえるものが、心を動かす音ならば・・・
私の人生は幸せだったのかもしれません。※「ムーンライトノベルズ」で公開中
焦る獣の妻問い綺譚
晦リリ
BL
白重は焦っていた。十二年ごとに一年を守護する干支神に選ばれたというのに、嫁がいない。方々を探し回るも、なかなか相手が見つからない。そんななか、雪を避けて忍び込んだ蔵で優しい冷たい手と出会う。
※番外編でR18を含む予定です(更新次第R表記を変更します)。
※ムーンライトノベルズにも掲載中
仮面の兵士と出来損ない王子
天使の輪っか
BL
姫として隣国へ嫁ぐことになった出来損ないの王子。
王子には、仮面をつけた兵士が護衛を務めていた。兵士は自ら志願して王子の護衛をしていたが、それにはある理由があった。
王子は姫として男だとばれぬように振舞うことにしようと決心した。
美しい見た目を最大限に使い結婚式に挑むが、相手の姿を見て驚愕する。
悪役令息だったはずの僕が護送されたときの話
四季織
BL
婚約者の第二王子が男爵令息に尻を振っている姿を見て、前世で読んだBL漫画の世界だと思い出した。苛めなんてしてないのに、断罪されて南方領への護送されることになった僕は……。
※R18はタイトルに※がつきます。
僕よりも可哀想な人はいっぱい居る
かかし
BL
※虐待を仄めかす表現があります
※誘拐犯と被害者の話といえば、誘拐犯と被害者の話
※特定のCMを否定するつもりで書いてはいません
※何かしらを肯定するつもりでも書いていません
※あくまでもフィクション、ある種のファンタジー
※犯罪表現がありますが、それらの行為を推奨するものではありません
※寧ろ非推奨。犯罪、ダメ、絶対
虐げられた王の生まれ変わりと白銀の騎士
ありま氷炎
BL
十四年前、国王アルローはその死に際に、「私を探せ」と言い残す。
国一丸となり、王の生まれ変わりを探すが見つからず、月日は過ぎていく。
王アルローの子の治世は穏やかで、人々はアルローの生まれ変わりを探す事を諦めようとしていた。
そんな中、アルローの生まれ変わりが異世界にいることがわかる。多くの者たちが止める中、騎士団長のタリダスが異世界の扉を潜る。
そこで彼は、アルローの生まれ変わりの少年を見つける。両親に疎まれ、性的虐待すら受けている少年を助け、強引に連れ戻すタリダス。
彼は王の生まれ変わりである少年ユウタに忠誠を誓う。しかし王宮では「王」の帰還に好意的なものは少なかった。
心の傷を癒しながら、ユウタは自身の前世に向き合う。
アルローが残した「私を探せ」の意味はなんだったか。
王宮の陰謀、そして襲い掛かる別の危機。
少年は戸惑いながらも自分の道を見つけていく。
エンシェントリリー
斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
短期間で新しい古代魔術をいくつも発表しているオメガがいる。名はリリー。本名ではない。顔も第一性も年齢も本名も全て不明。分かっているのはオメガの保護施設に入っていることと、二年前に突然現れたことだけ。このリリーという名さえも今代のリリーが施設を出れば他のオメガに与えられる。そのため、リリーの中でも特に古代魔法を解き明かす天才である今代のリリーを『エンシェントリリー』と特別な名前で呼ぶようになった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる