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「ラブラドライトです。こんな時間に、急に訪れてしまい申し訳ありません。どうぞ敬称など付けずに呼んで下さい」
爵位だけでいえばオレが敬われる立場だが、それはあくまでも儀礼上でのこと。
「ありがとう、そうさせてもらうよ、ラブラドライト。
時間のことは気にしないでおくれ。我が家は何時でもお客様は大歓迎なのだ。良かったらサロンへ顔を出してみないかい?何人かポーカーをしに集まっていてね、軽食の用意もあるし」
「あ、いえ、急ですし」
「それがいいわ。商工会の会頭がいらしてるのよ。侯爵家に有利な情報があると思うわ」
会頭・・・。
そんな大物が普通に通うサロンなのか。
「ギベオンの話だと、領地の葡萄がかなり良い出来だったとか」
「飲んでみたいわ、こんなに美しい方が丹精した葡萄で造られたワイン。美肌効果がありそうだわ」
その場でワインを売り込めと。
ん?美しいとはオレのことか!?
「私達は明日の朝早いので、少しだけなら」
ギヴが答え、サロンに出向くことになってしまった。
有無を言わせないところは親子してそっくりだな。
伯爵家は3階建ての豪奢な屋敷だった。中央の広々としたエントランスから羽のように左右に屋敷が広がっている。窓が多く、そのどれもから灯りが漏れている。庭もライトアップされていて、屋敷全体がまるで光の館とでも言うべく輝きに包まれていた。
1階はホールや食堂がいくつかあり、2階は客室、3階が家族の為のフロアだという。
エントランスから左手に進む。
右手の方から複数の女性の笑い声が聞こえた。
「あちらのホールでは婚活パーティーのようなものを開いておりますの」
奥方が説明してくれる。
何を考えていたわけでもなく頷くと、隣のギヴが鋭い視線を寄こして来た。なぜだ。
そんなギヴにご両親は嬉しそうだ。
「この子の学生時代を思い出します。まだ十五にもならない子が経済力のある男になりたいと言ってきましてね、話を聞けば、どうやら好きな子のためらしくて」
「ホホホ、我が息子ながらあの時はとても可愛らしかったわ」
「初恋は実らないもの、と言いますが、実らせた息子は尊敬に値しますよ」
・・・初恋、って、オレのこと?
「父さんも母さんもやめて下さい!」
頬を赤く染めながらもムスッとしているギヴが可愛い。
普段、年上かと思うほど落ち着いているからこんな表情は新鮮だ。
しかし、話題の相手がオレだと思うと照れくさいな。
「この部屋ですわ」
一番奥まった部屋で伯爵夫妻は足を止めた。重々しい意匠が施されたドアが目の前にある。
「ラブラドライト、ギベオンから離れてはいけないよ?人に化けた魔物がいるかもしれないからね」
「まぁ、あなたったら」
ホホホ、と奥方は笑ったがオレは笑えなかった。ドアの前で緊張で足が竦む。
今の時代、商人の力は強い。そして、縦にも横にも、国中に情報網を張り巡らせているのだ。
ここで、良い縁を繋ぐことができれば、それは侯爵家の繁栄となるだろう。
ギヴがオレの右手を握ってくれた。
「行こう」
ドアを開けると、思ったより中は照明が落とされていた。間接照明が効果的に使われた広い部屋には丸テーブルがいくつか置かれ、それぞれにカードを楽しんでいるようだ。端にはバーもありバーテンが飲み物を作っている。所々に置かれたソファでは飲み物を片手に歓談している人たちの姿もある。
進みながら幾人にも挨拶をする伯爵夫妻に従い、ギヴと奥へと進む。葉巻きの匂いが漂っている。
「良い夜をお過ごしですかな」
一番奥まった席で丸テーブルを囲む三人に伯爵が声をかけた。
一人は商工会の会頭、一人はホテルチェーンの会長、そしてもう一人は、この国の宰相だった。ちなみに父は文官なので宰相の部下にあたるが、下っ端なので宰相に認識されてはいないだろう。
「宜しければこの若い二人も仲間に入れてやっては頂けませんか?」
伯爵の言葉に、ギヴと揃って頭を下げる。
促されて自己紹介をし、伯爵が「近々式を挙げる二人です」と言い添えると、三人はしたり顔で頷いた。三人共、式に参列してくれる予定らしい。
「お若いの、ポーカーはできるのかね?」
「・・すいません、カードは得意ではなくて。かろうじてルールを知っているくらいです」
くっ、勉強ばかりしていた弊害がこんなところに。
「では、今宵はババ抜きで楽しもうではないか」
意外にも、三人は気さくな笑顔を見せた。
フットマンに椅子を二つ追加させ、オレとギヴが丸テーブルの輪に加わるのを見届け、伯爵夫妻は離れた。
爵位だけでいえばオレが敬われる立場だが、それはあくまでも儀礼上でのこと。
「ありがとう、そうさせてもらうよ、ラブラドライト。
時間のことは気にしないでおくれ。我が家は何時でもお客様は大歓迎なのだ。良かったらサロンへ顔を出してみないかい?何人かポーカーをしに集まっていてね、軽食の用意もあるし」
「あ、いえ、急ですし」
「それがいいわ。商工会の会頭がいらしてるのよ。侯爵家に有利な情報があると思うわ」
会頭・・・。
そんな大物が普通に通うサロンなのか。
「ギベオンの話だと、領地の葡萄がかなり良い出来だったとか」
「飲んでみたいわ、こんなに美しい方が丹精した葡萄で造られたワイン。美肌効果がありそうだわ」
その場でワインを売り込めと。
ん?美しいとはオレのことか!?
「私達は明日の朝早いので、少しだけなら」
ギヴが答え、サロンに出向くことになってしまった。
有無を言わせないところは親子してそっくりだな。
伯爵家は3階建ての豪奢な屋敷だった。中央の広々としたエントランスから羽のように左右に屋敷が広がっている。窓が多く、そのどれもから灯りが漏れている。庭もライトアップされていて、屋敷全体がまるで光の館とでも言うべく輝きに包まれていた。
1階はホールや食堂がいくつかあり、2階は客室、3階が家族の為のフロアだという。
エントランスから左手に進む。
右手の方から複数の女性の笑い声が聞こえた。
「あちらのホールでは婚活パーティーのようなものを開いておりますの」
奥方が説明してくれる。
何を考えていたわけでもなく頷くと、隣のギヴが鋭い視線を寄こして来た。なぜだ。
そんなギヴにご両親は嬉しそうだ。
「この子の学生時代を思い出します。まだ十五にもならない子が経済力のある男になりたいと言ってきましてね、話を聞けば、どうやら好きな子のためらしくて」
「ホホホ、我が息子ながらあの時はとても可愛らしかったわ」
「初恋は実らないもの、と言いますが、実らせた息子は尊敬に値しますよ」
・・・初恋、って、オレのこと?
「父さんも母さんもやめて下さい!」
頬を赤く染めながらもムスッとしているギヴが可愛い。
普段、年上かと思うほど落ち着いているからこんな表情は新鮮だ。
しかし、話題の相手がオレだと思うと照れくさいな。
「この部屋ですわ」
一番奥まった部屋で伯爵夫妻は足を止めた。重々しい意匠が施されたドアが目の前にある。
「ラブラドライト、ギベオンから離れてはいけないよ?人に化けた魔物がいるかもしれないからね」
「まぁ、あなたったら」
ホホホ、と奥方は笑ったがオレは笑えなかった。ドアの前で緊張で足が竦む。
今の時代、商人の力は強い。そして、縦にも横にも、国中に情報網を張り巡らせているのだ。
ここで、良い縁を繋ぐことができれば、それは侯爵家の繁栄となるだろう。
ギヴがオレの右手を握ってくれた。
「行こう」
ドアを開けると、思ったより中は照明が落とされていた。間接照明が効果的に使われた広い部屋には丸テーブルがいくつか置かれ、それぞれにカードを楽しんでいるようだ。端にはバーもありバーテンが飲み物を作っている。所々に置かれたソファでは飲み物を片手に歓談している人たちの姿もある。
進みながら幾人にも挨拶をする伯爵夫妻に従い、ギヴと奥へと進む。葉巻きの匂いが漂っている。
「良い夜をお過ごしですかな」
一番奥まった席で丸テーブルを囲む三人に伯爵が声をかけた。
一人は商工会の会頭、一人はホテルチェーンの会長、そしてもう一人は、この国の宰相だった。ちなみに父は文官なので宰相の部下にあたるが、下っ端なので宰相に認識されてはいないだろう。
「宜しければこの若い二人も仲間に入れてやっては頂けませんか?」
伯爵の言葉に、ギヴと揃って頭を下げる。
促されて自己紹介をし、伯爵が「近々式を挙げる二人です」と言い添えると、三人はしたり顔で頷いた。三人共、式に参列してくれる予定らしい。
「お若いの、ポーカーはできるのかね?」
「・・すいません、カードは得意ではなくて。かろうじてルールを知っているくらいです」
くっ、勉強ばかりしていた弊害がこんなところに。
「では、今宵はババ抜きで楽しもうではないか」
意外にも、三人は気さくな笑顔を見せた。
フットマンに椅子を二つ追加させ、オレとギヴが丸テーブルの輪に加わるのを見届け、伯爵夫妻は離れた。
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