10 / 26
10
しおりを挟む
馬車に乗り込んだ途端、言われた。
「ねえ、ラド。私達は、もっと話し合うべきだと思うんです。私達の関係について。その為には今回のこの旅はうってつけだと思いませんか?」
両手を握られる。
「あ~、そうかな?」
「ええ。私の気持ちはもうお伝えしました。あとは、ラドからの言葉が欲しいです」
「う、うーん。・・・今?」
「はい。今!」
「うーん、オレの気持ちは、だから、ギヴのこと、・・・すごくいいヤツだと思っているし、ギヴのおかげでいっぱい助かっていることあるし、・・・」
オレの口から愛の言葉を引き出したいんだろうけど、ついさっきまで白い結婚だと思っていたし、ギヴだって同じ気持ちだと信じていた。
それに、オレも、オレ自身のことがよくわからない。
この胸のときめきはギヴへのものなのか、・・・浅ましいけど、お金にときめいているという可能性も捨てきれない。
「しょうがない人ですね」
ギヴはため息混じりにそう言うと、隣に座るオレを抱き寄せ、まさかの膝の上に横座りに乗っけた。
「ギヴ!何すんの!下ろして!!」
「はい」
嫌がると、膝を開いてストン、とオレを座面に座らせた。
「いや、そういうことではなく・・・」
尻は膝に乗っていないだけで、ほぼ横抱きにされている。
「私はいつでもくっついていたい派です。それに、こうしていないとラドはすぐに気持ちが曖昧になってしまうでしょう?──貴方は私が好きなんです。愛しているんです。そうでしょう?」
「そう、なのか?」
金色の瞳に見つめられ、断言されると、確かにそうだと思えてくる。
「でもオレ、金銭面でお前に頼りっぱなしで・・・」
「いいじゃないですか。私が持っているお金は私の魅力の一つです。でも私は商人ですからね、贈りっぱなし、ということはありません。ちゃんと回収しますよ」
「つまり、お互いに贈り合う円満な関係ってことだよね。
──オレがギヴに贈れるものって・・・?」
「ええ、愛です。私は、ラドからの愛が欲しいんです。」
──愛。
爵位とか美術品じゃなくていいのだろうか。
「急には無理ですか?いいですよ。鈍いところも貴方の魅力の一つです。愛しています」
「オレは鈍くない!学園ではずっと首席だった!」
拗ねて言うと、ギヴは嬉しそうに笑う。
「だからこその魅力ではないですか」
なんだか、ギヴに全て主導権を取られている気がする。これではどっちが歳上かわからないな。
それからも、会話のところどころで愛の言葉を囁かれ、その度にドキドキしながら馬車に揺られた。もちろん横抱きのままだ。
途中、旅装の購入のためにリゲル伯爵家が経営する服屋に入り、何日か分の下着や服、コート、靴、その他沢山のものを買ってもらい、外に出たらとっぷり日が暮れていた。
まだ王都から出てもいないのだが。
「ギヴ・・・」
「おや、もう夜ですね。近くにいいバルがあるのですが、今夜はそこで一杯どうです?」
「何をのん気に!成人したばかりの奴が生意気言うんじゃない!買い物に時間をかけ過ぎだろ?もう門も閉まっている時刻だ。・・・こんな、オレ、足手まといになっているじゃないか。こんなことならオレは行かない方が。──あ、でも買ってもらったのがムダになる!」
言われるがままにファッションショーをしていた自分が嫌になる。
どーんと反省モードで落ち込んでいると、ギヴがまたとんでもないことを言い出した。
「この時間に新たに宿を取るのは難しそうなので、今夜は我が家に泊まりませんか?ラドが来てくれたら家族も喜びます」
「・・・え」
聞けばここから割と近いらしい。
「・・・ご両親にご挨拶、してないな、オレ」
気にはなっていた。が。そもそも政略結婚は挨拶とか、何なら式もすっ飛ばすことができる。だから、言い訳になるが、挨拶は式の当日でもいいかと考えていた。白い結婚なら。
「まあ、家に行っても家族に会えるとは限りませんが」
リゲル伯爵は毎晩屋敷を社交の場として開放しているらしく、家族で晩餐などは取らないらしい。
在学中、勉強ばかりしていた弊害か人見知りの面があるオレだが、そんなに希薄な家族関係なら挨拶をすることもないかと、泊まらせてもらうことに同意した。
ご挨拶のときにはちゃんと手土産を持って貴族らしく挨拶したいし。
そう思っていたのに。
「初めまして、ラブラドライト様。お会いできて嬉しく思います。ギベオンの父、ジルコンです。こちらは妻のユークレース。」
「初めまして、ラブラドライト樣。ギベオンの母です。ギベオンから話を聞いて、ずっとお会いしたいと思っていましたのよ」
──オレが甘かった。
リゲル伯爵であるギヴの父は背の高い、いかにも切れ者といった感じの背筋がピンと伸びた美丈夫だ。ギヴと同じ黒い巻毛に形の良いちょび髭を生やしている。
奥方であるギヴの母は、少しふっくらとして、金の髪と金の瞳が美しい、快活そうな方だ。
金の瞳がギヴそっくり。
──手土産がないのが本当に悔やまれた。
「ねえ、ラド。私達は、もっと話し合うべきだと思うんです。私達の関係について。その為には今回のこの旅はうってつけだと思いませんか?」
両手を握られる。
「あ~、そうかな?」
「ええ。私の気持ちはもうお伝えしました。あとは、ラドからの言葉が欲しいです」
「う、うーん。・・・今?」
「はい。今!」
「うーん、オレの気持ちは、だから、ギヴのこと、・・・すごくいいヤツだと思っているし、ギヴのおかげでいっぱい助かっていることあるし、・・・」
オレの口から愛の言葉を引き出したいんだろうけど、ついさっきまで白い結婚だと思っていたし、ギヴだって同じ気持ちだと信じていた。
それに、オレも、オレ自身のことがよくわからない。
この胸のときめきはギヴへのものなのか、・・・浅ましいけど、お金にときめいているという可能性も捨てきれない。
「しょうがない人ですね」
ギヴはため息混じりにそう言うと、隣に座るオレを抱き寄せ、まさかの膝の上に横座りに乗っけた。
「ギヴ!何すんの!下ろして!!」
「はい」
嫌がると、膝を開いてストン、とオレを座面に座らせた。
「いや、そういうことではなく・・・」
尻は膝に乗っていないだけで、ほぼ横抱きにされている。
「私はいつでもくっついていたい派です。それに、こうしていないとラドはすぐに気持ちが曖昧になってしまうでしょう?──貴方は私が好きなんです。愛しているんです。そうでしょう?」
「そう、なのか?」
金色の瞳に見つめられ、断言されると、確かにそうだと思えてくる。
「でもオレ、金銭面でお前に頼りっぱなしで・・・」
「いいじゃないですか。私が持っているお金は私の魅力の一つです。でも私は商人ですからね、贈りっぱなし、ということはありません。ちゃんと回収しますよ」
「つまり、お互いに贈り合う円満な関係ってことだよね。
──オレがギヴに贈れるものって・・・?」
「ええ、愛です。私は、ラドからの愛が欲しいんです。」
──愛。
爵位とか美術品じゃなくていいのだろうか。
「急には無理ですか?いいですよ。鈍いところも貴方の魅力の一つです。愛しています」
「オレは鈍くない!学園ではずっと首席だった!」
拗ねて言うと、ギヴは嬉しそうに笑う。
「だからこその魅力ではないですか」
なんだか、ギヴに全て主導権を取られている気がする。これではどっちが歳上かわからないな。
それからも、会話のところどころで愛の言葉を囁かれ、その度にドキドキしながら馬車に揺られた。もちろん横抱きのままだ。
途中、旅装の購入のためにリゲル伯爵家が経営する服屋に入り、何日か分の下着や服、コート、靴、その他沢山のものを買ってもらい、外に出たらとっぷり日が暮れていた。
まだ王都から出てもいないのだが。
「ギヴ・・・」
「おや、もう夜ですね。近くにいいバルがあるのですが、今夜はそこで一杯どうです?」
「何をのん気に!成人したばかりの奴が生意気言うんじゃない!買い物に時間をかけ過ぎだろ?もう門も閉まっている時刻だ。・・・こんな、オレ、足手まといになっているじゃないか。こんなことならオレは行かない方が。──あ、でも買ってもらったのがムダになる!」
言われるがままにファッションショーをしていた自分が嫌になる。
どーんと反省モードで落ち込んでいると、ギヴがまたとんでもないことを言い出した。
「この時間に新たに宿を取るのは難しそうなので、今夜は我が家に泊まりませんか?ラドが来てくれたら家族も喜びます」
「・・・え」
聞けばここから割と近いらしい。
「・・・ご両親にご挨拶、してないな、オレ」
気にはなっていた。が。そもそも政略結婚は挨拶とか、何なら式もすっ飛ばすことができる。だから、言い訳になるが、挨拶は式の当日でもいいかと考えていた。白い結婚なら。
「まあ、家に行っても家族に会えるとは限りませんが」
リゲル伯爵は毎晩屋敷を社交の場として開放しているらしく、家族で晩餐などは取らないらしい。
在学中、勉強ばかりしていた弊害か人見知りの面があるオレだが、そんなに希薄な家族関係なら挨拶をすることもないかと、泊まらせてもらうことに同意した。
ご挨拶のときにはちゃんと手土産を持って貴族らしく挨拶したいし。
そう思っていたのに。
「初めまして、ラブラドライト様。お会いできて嬉しく思います。ギベオンの父、ジルコンです。こちらは妻のユークレース。」
「初めまして、ラブラドライト樣。ギベオンの母です。ギベオンから話を聞いて、ずっとお会いしたいと思っていましたのよ」
──オレが甘かった。
リゲル伯爵であるギヴの父は背の高い、いかにも切れ者といった感じの背筋がピンと伸びた美丈夫だ。ギヴと同じ黒い巻毛に形の良いちょび髭を生やしている。
奥方であるギヴの母は、少しふっくらとして、金の髪と金の瞳が美しい、快活そうな方だ。
金の瞳がギヴそっくり。
──手土産がないのが本当に悔やまれた。
60
お気に入りに追加
148
あなたにおすすめの小説
薬師は語る、その・・・
香野ジャスミン
BL
微かに香る薬草の匂い、息が乱れ、体の奥が熱くなる。人は死が近づくとこのようになるのだと、頭のどこかで理解しそのまま、身体の力は抜け、もう、なにもできなくなっていました。
目を閉じ、かすかに聞こえる兄の声、母の声、
そして多くの民の怒号。
最後に映るものが美しいものであったなら、最後に聞こえるものが、心を動かす音ならば・・・
私の人生は幸せだったのかもしれません。※「ムーンライトノベルズ」で公開中
焦る獣の妻問い綺譚
晦リリ
BL
白重は焦っていた。十二年ごとに一年を守護する干支神に選ばれたというのに、嫁がいない。方々を探し回るも、なかなか相手が見つからない。そんななか、雪を避けて忍び込んだ蔵で優しい冷たい手と出会う。
※番外編でR18を含む予定です(更新次第R表記を変更します)。
※ムーンライトノベルズにも掲載中
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
悪役令息だったはずの僕が護送されたときの話
四季織
BL
婚約者の第二王子が男爵令息に尻を振っている姿を見て、前世で読んだBL漫画の世界だと思い出した。苛めなんてしてないのに、断罪されて南方領への護送されることになった僕は……。
※R18はタイトルに※がつきます。
Ωであることを隠してる先輩を無理やり番にしてしまう、いじめられっ子の話。
あかさたな!
BL
【優秀すぎる年下のαをいじめてしまういじめっ子の隠れΩが、下剋上溺愛されるお話】
▶︎オメガバース世界です。αとΩは番(相性がいいパートナー)になれて、Ωにヒート(発情期のようなもの)があるくらいの知識があれば楽しめます!
フェロモンの匂いで、運命の番がわかるらしい!
Ωなら男でも出産出来る体質ですが、作者の好みにより、そこはあまり触れてません。
Ωであることを隠してしまう・柊湊(ひいらぎ みなと)。
一つ上の上位αの兄に劣等感を感じながら、αと偽って生きている。
優秀なαしか入れない生徒会にも一期生から選抜されるほど、努力でそのハンデを乗り越えていた。
二期生になるころ、自分よりさらに優秀な後輩・山神海斗(やまがみ かいと)が生徒会に入ってきた。
優秀すぎて、一期生ながら、生徒会長に選ばれるほどだった。
嫉妬、劣等感、屈辱感、困惑。
そんなものでいっぱいになってしまって、海斗をカツアゲしていじめてをしまう。
たが、海斗には秘密がバレてしまって、2人っきりになると…。
_________
▶︎毎日更新頑張ります!
気ままに筆を走らせるので、いつもより少し長くなりそうですが、最後まで応援していただけると励みになります(作品時間で一年を書きたい)。
▶︎更新不定期になりました。近況については近況ボード「2022年8月の更新について」にて、確認していただけると幸いです。長らくお待たせしてしまい、申し訳ありません。
めちゃハッピーエンドな年下攻めになる予定です!
▶︎海斗が優秀すぎて作者も上手くいじめれてません。もっといじめられっ子感が欲しかったのに、なんかスパダリ気味です。
▶︎▶︎r18表現が含まれます※◀︎◀︎
お好きなところから◎
仮面の兵士と出来損ない王子
天使の輪っか
BL
姫として隣国へ嫁ぐことになった出来損ないの王子。
王子には、仮面をつけた兵士が護衛を務めていた。兵士は自ら志願して王子の護衛をしていたが、それにはある理由があった。
王子は姫として男だとばれぬように振舞うことにしようと決心した。
美しい見た目を最大限に使い結婚式に挑むが、相手の姿を見て驚愕する。
魔法の盟約~深愛なるつがいに愛されて~
南方まいこ
BL
西の大陸は魔法使いだけが住むことを許された魔法大陸であり、王国ベルヴィルを中心とした五属性によって成り立っていた。
風魔法の使い手であるイリラノス家では、男でも子が宿せる受巣(じゅそう)持ちが稀に生まれることがあり、その場合、王家との長きに渡る盟約で国王陛下の側妻として王宮入りが義務付けられていた。
ただ、子が生める体とはいえ、滅多に受胎すことはなく、歴代の祖先の中でも片手で数える程度しか記録が無かった。
しかも、受巣持ちは体内に魔力が封印されており、子を生まない限り魔法を唱えても発動せず、当人にしてみれば厄介な物だった。
数百年ぶりに生まれた受巣持ちのリュシアは、陛下への贈り物として大切に育てられ、ようやく側妻として宮入りをする時がやって来たが、宮入前に王妃の専属侍女に『懐妊』、つまり妊娠することだけは避けて欲しいと念を押されてしまう。
元々、滅多なことがない限り妊娠は難しいと聞かされているだけに、リュシアも大丈夫だと安心していた。けれど――。
虐げられた王の生まれ変わりと白銀の騎士
ありま氷炎
BL
十四年前、国王アルローはその死に際に、「私を探せ」と言い残す。
国一丸となり、王の生まれ変わりを探すが見つからず、月日は過ぎていく。
王アルローの子の治世は穏やかで、人々はアルローの生まれ変わりを探す事を諦めようとしていた。
そんな中、アルローの生まれ変わりが異世界にいることがわかる。多くの者たちが止める中、騎士団長のタリダスが異世界の扉を潜る。
そこで彼は、アルローの生まれ変わりの少年を見つける。両親に疎まれ、性的虐待すら受けている少年を助け、強引に連れ戻すタリダス。
彼は王の生まれ変わりである少年ユウタに忠誠を誓う。しかし王宮では「王」の帰還に好意的なものは少なかった。
心の傷を癒しながら、ユウタは自身の前世に向き合う。
アルローが残した「私を探せ」の意味はなんだったか。
王宮の陰謀、そして襲い掛かる別の危機。
少年は戸惑いながらも自分の道を見つけていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる