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我が家のエントランスで三年ぶりに対面したスピネルは記憶よりも逞しくなっていた。元々体格は良かったが18才から育つとはどういうことだ。厚い胸板がうらやましい。
そういえば、学園卒業後は騎士団に入ったのだったか。勉強がよくできたので、どちらかといえば文官タイプだと思ったけど。
だが、無表情は相変わらずで、下がった口角が人にきつい印象を与える。
オレはもちろん微笑みながら挨拶をし、二ヶ月ほど前、ギヴとお茶会をした同じ四阿にスピネルを案内した。エンが給仕をしてくれている。
スピネルの背後、少し離れたところに護衛が二人。第三とはいえ王子だから当然か。
「──相変わらず大きな目だな」
「あ、はい」
どういう会話、コレ。
「髪は少し伸びた」
「はい・・・」
卒業してから切っていないので、今や肩よりも長く、後ろで一つに結んでいる。本来巻き毛なのだが、伸ばしたせいか巻きが緩くなっている。落ち着いた印象を与えるかとオレは気に入っているのだが。スピネル的にはどうなんだろう。良い、悪いを言わないから良くわからないな。
「話を受けてもらえたと思ってもいいか?」
「はい。は?──話?」
「父君から聞いてないか?」
「お茶会のお誘い、ですよね。ありがたくお受けしましたが」
その時、スピネルの表情が一瞬、動いた。
「・・そうか」
「はい。──あの、殿下のお好きなスイーツはありますでしょうか?品数は少ないのですが、どれも、その、鮮度は抜群です」
鮮度て、と自分に突っ込む。
今日のお茶菓子は、まずプリン(ギヴの家の使用人さんが届けてくれた、取れたて新鮮卵を使用。ギヴがいないのに届けてくれて感謝しかない)。そして我が家で採れたぶどうで作ったコンポート(ドナの自信作。うちで出るスイーツはほぼコンポート。果物はもちろんもぎたてだ)。そして薄くスライスしたパンに、ジャムや野菜を挟んだサンドウィッチ(パンはバイト先からもらってきたものを使用。ジャムはうちで採れたブルーベリーで作り、野菜もうちで採れたものだ)。どうだ、うちのスイーツは鮮度が自慢なのだ。だが、定番の焼菓子は、ない!
「そうか。──ラブラドライトはどれが好きなんだ?」
種類や数の少なさについて、スピネルからはなんの突っ込みもなかった。
「私は、どれも好きですが、今の気分はプリンです」
「では、私もそれを頂こう」
「どうぞ、殿下」
さっ、と深さのある大皿に作られたプリンを小皿にすくい、差し出した。続けて自分の分もすくう。うちは自分でできることは自分でするという教えだ。そもそもお茶を給仕したエンはもうここにいない。使用人が二人しかいないからね。いつでもエンとドナは大忙しだ。
幸い、スピネルはそんなこと気にならないようだ。
嬉しそうにスプーンを手に取った。
この国の気候は温暖で、一応四季はあるのだが、寒暖差はあまりなく、初冬の今でもうちの庭で様々な花と少しの紅葉を楽しむことができる。
お茶した後、二人で散策しながら庭を楽しむ。
「良い庭園だな」
「ありがとうございます」
結婚式に向けて、一家総出で体裁を繕っている甲斐があった。言わんけど。
「昨日、父君に申し出たのだ。──君を愛人にしたいと」
「・・・え」
とんでもない言葉を聞いた気がして目線を花からスピネルに移すと、アメジストの目で真っ直ぐにオレを見ていた。
「ずっと、見てきた。これからも、いや、これからはもっと近くで見ていたい」
何を?オレを?
「・・・・・・愛人?」
「もうすぐ結婚するのだろう?私にも婚約者がいる。ならば愛人ということになるだろう」
なるだろう、って。
「殿下・・・」
「契約するなら私の稼ぎは全て君に渡そう」
「・・・は?」
愛人、って契約してなるものだったのか。知らなかった。え、それで何?騎士団の給与を全てくれると?でも、スピネルはどうやって生活するの?婚約者は了承してるのか?──ああ、王族手当てで十分生活できるってことか。
ちなみに給与っておいくらほど?と思ったけど聞いたら勘違いされそうで聞けない。
「・・・もし、愛人の立場が嫌だと言うなら」
そりゃ嫌でしょ。オレは普通に異性が好きだし。付き合ったことないけど。
というか、何でこんな大事なことを黙っていたのだ父様は!
「婚約を解消してラブラドライトを伴侶に迎えよう」
「・・・え?」
いつの間にかかなりの身長差があるところから見下ろされ、それだけじゃなく、圧のようなものを感じてよろけた。と、スピネルが片手でオレを支えた。
「あ、ありがとうございます」
体勢を立て直したが、腰に回された手は離れないし、距離が近いままだ。というか近過ぎっ。
「──あの頃、いつも思っていた。お前ほど綺麗な者は他にいない、と」
学園に通っていた頃か?無表情でそんなこと、思っていたんかい。初めて知る真実。
本能でスピネルの厚い胸板に手を付き体を押し返す。が、全然動かないよ。大木を押しているような感じ。
「・・・ラブラドライト、お前が男と結婚すると聞いた時、もう自分を抑えられなくなった」
「で、殿下、」
やんわりと抱きしめられて、その腕が徐々に締まっていく。
「・・・ラブラドライト」
耳元で囁かれた。
いつも冷静沈着、無表情だったスピネルが、ものすごい色気をしたたらせてくる。
ど、どうしよう。男に抱きしめられていると思うと、すっごく気分が悪い。
離れたところに立っている二人の護衛達に助けを求めていいだろうか。
そういえば、学園卒業後は騎士団に入ったのだったか。勉強がよくできたので、どちらかといえば文官タイプだと思ったけど。
だが、無表情は相変わらずで、下がった口角が人にきつい印象を与える。
オレはもちろん微笑みながら挨拶をし、二ヶ月ほど前、ギヴとお茶会をした同じ四阿にスピネルを案内した。エンが給仕をしてくれている。
スピネルの背後、少し離れたところに護衛が二人。第三とはいえ王子だから当然か。
「──相変わらず大きな目だな」
「あ、はい」
どういう会話、コレ。
「髪は少し伸びた」
「はい・・・」
卒業してから切っていないので、今や肩よりも長く、後ろで一つに結んでいる。本来巻き毛なのだが、伸ばしたせいか巻きが緩くなっている。落ち着いた印象を与えるかとオレは気に入っているのだが。スピネル的にはどうなんだろう。良い、悪いを言わないから良くわからないな。
「話を受けてもらえたと思ってもいいか?」
「はい。は?──話?」
「父君から聞いてないか?」
「お茶会のお誘い、ですよね。ありがたくお受けしましたが」
その時、スピネルの表情が一瞬、動いた。
「・・そうか」
「はい。──あの、殿下のお好きなスイーツはありますでしょうか?品数は少ないのですが、どれも、その、鮮度は抜群です」
鮮度て、と自分に突っ込む。
今日のお茶菓子は、まずプリン(ギヴの家の使用人さんが届けてくれた、取れたて新鮮卵を使用。ギヴがいないのに届けてくれて感謝しかない)。そして我が家で採れたぶどうで作ったコンポート(ドナの自信作。うちで出るスイーツはほぼコンポート。果物はもちろんもぎたてだ)。そして薄くスライスしたパンに、ジャムや野菜を挟んだサンドウィッチ(パンはバイト先からもらってきたものを使用。ジャムはうちで採れたブルーベリーで作り、野菜もうちで採れたものだ)。どうだ、うちのスイーツは鮮度が自慢なのだ。だが、定番の焼菓子は、ない!
「そうか。──ラブラドライトはどれが好きなんだ?」
種類や数の少なさについて、スピネルからはなんの突っ込みもなかった。
「私は、どれも好きですが、今の気分はプリンです」
「では、私もそれを頂こう」
「どうぞ、殿下」
さっ、と深さのある大皿に作られたプリンを小皿にすくい、差し出した。続けて自分の分もすくう。うちは自分でできることは自分でするという教えだ。そもそもお茶を給仕したエンはもうここにいない。使用人が二人しかいないからね。いつでもエンとドナは大忙しだ。
幸い、スピネルはそんなこと気にならないようだ。
嬉しそうにスプーンを手に取った。
この国の気候は温暖で、一応四季はあるのだが、寒暖差はあまりなく、初冬の今でもうちの庭で様々な花と少しの紅葉を楽しむことができる。
お茶した後、二人で散策しながら庭を楽しむ。
「良い庭園だな」
「ありがとうございます」
結婚式に向けて、一家総出で体裁を繕っている甲斐があった。言わんけど。
「昨日、父君に申し出たのだ。──君を愛人にしたいと」
「・・・え」
とんでもない言葉を聞いた気がして目線を花からスピネルに移すと、アメジストの目で真っ直ぐにオレを見ていた。
「ずっと、見てきた。これからも、いや、これからはもっと近くで見ていたい」
何を?オレを?
「・・・・・・愛人?」
「もうすぐ結婚するのだろう?私にも婚約者がいる。ならば愛人ということになるだろう」
なるだろう、って。
「殿下・・・」
「契約するなら私の稼ぎは全て君に渡そう」
「・・・は?」
愛人、って契約してなるものだったのか。知らなかった。え、それで何?騎士団の給与を全てくれると?でも、スピネルはどうやって生活するの?婚約者は了承してるのか?──ああ、王族手当てで十分生活できるってことか。
ちなみに給与っておいくらほど?と思ったけど聞いたら勘違いされそうで聞けない。
「・・・もし、愛人の立場が嫌だと言うなら」
そりゃ嫌でしょ。オレは普通に異性が好きだし。付き合ったことないけど。
というか、何でこんな大事なことを黙っていたのだ父様は!
「婚約を解消してラブラドライトを伴侶に迎えよう」
「・・・え?」
いつの間にかかなりの身長差があるところから見下ろされ、それだけじゃなく、圧のようなものを感じてよろけた。と、スピネルが片手でオレを支えた。
「あ、ありがとうございます」
体勢を立て直したが、腰に回された手は離れないし、距離が近いままだ。というか近過ぎっ。
「──あの頃、いつも思っていた。お前ほど綺麗な者は他にいない、と」
学園に通っていた頃か?無表情でそんなこと、思っていたんかい。初めて知る真実。
本能でスピネルの厚い胸板に手を付き体を押し返す。が、全然動かないよ。大木を押しているような感じ。
「・・・ラブラドライト、お前が男と結婚すると聞いた時、もう自分を抑えられなくなった」
「で、殿下、」
やんわりと抱きしめられて、その腕が徐々に締まっていく。
「・・・ラブラドライト」
耳元で囁かれた。
いつも冷静沈着、無表情だったスピネルが、ものすごい色気をしたたらせてくる。
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