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11 ガレス
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ココには特に外傷もなく、体の中も無事だった。あのクズ野郎が自分の趣味に従って丁寧に服を破いて、俺が来るまでの時間稼ぎをしてくれたお陰ともいえる。
ココと女性兵士の仲は良くも悪くもない、といった感じだったが、自分の護衛が今回の誘拐に一口噛んでるとなったらココは傷つくだろう。
王都から帰った将軍に事件の説明をする際に、ココへの口止めをお願いした。
だが、いくら将軍に口止めをしたところで、噂はココに届いてしまうにちがいない。苦くそう思っていたが、・・・そうはならなかった。
ココが全く部屋から出なくなってしまったからだ。トイレ、風呂、食事を除く、だ。
男だけじゃなく、全く人を寄せ付けなくなってしまったのだ。
かろうじて、奥方様だけが部屋に入れるようだった。
「ガレスよ、どうしたもんか」
朝の鍛錬が終わったタイミングで将軍が話しかけてきた。
「ココは、俺が一緒だと食堂で飯も食ってくれん」
──まぁ、元凶だしな。
「ミリーの話だと、夜もあまり眠れてないようでな、痩せ細って、このままだと病気になってしまうかもしれんそうだ」
「なんだと!!」
「うおっ!!」
俺の剣幕に将軍が後退った。
「良い覇気を持っている。まだ見習いとは思えんな」
良き良き、って和んでる場合か!
「なんとかしないと・・・」
「うむ。どうだガレス、ココの護衛にならんか」
「俺をお嬢様が受け入れてくれるとは思えません。とにかく、食事をきちんと摂らせないと。一人にするのも良くないでしょう。──そう、侍女を付けてはどうです?お嬢様に歳の近い女性を」
「ふむ。ミリーに当たってみるか」
「先の領主の筋は駄目ですよ」
「わかってる。そもそもお前がほとんど粛清したではないか」
粛清とか、人聞きの悪い。素行の悪いヤツをどんどん検挙していったら、そのほとんどが先の領主の一族郎党だっただけ。
「念には念を入れて下さい。お嬢様の為です」
ああ、俺が女であったなら!
ココを守り、ココの心の支えにも喜んでなるのに。
──女であったなら・・・?
この時、何かが俺の脳裏をよぎった。
その後、ココにはコレットという、年齢は俺ぐらいだろうか、17、8歳で、賢そうな、あまり笑わなそうな侍女が付いた。
奥方様の乳母の孫で王都の学園を卒業したばかりだという。
奥方様のご推薦だというからとりあえずは安心だ。
ココは、もう中庭には来ない。屋敷の見回りの任務がある時は、もしかして、と薔薇の垣根から覗くが、誰もいない、美しくもさみしい空間が見えるだけだった。
部屋の中で、どう過ごしているのか。侍女とは仲良くしているか、また手のひらにうさぎのぬいぐるみを置いて見つめていないか。
俺にできるのは空を仰ぎ見る振りをして、ココの部屋の窓を見ることだけだった。
──ココ、俺の太陽。
なぜ、こんなにも惹かれるのか。前世で夫婦だったのだろうか、・・・それは虫が良すぎるか。長い片思いの相手だった、のほうが妥当だな。それとも前世でココに飼われていた犬だったのかもしれないな。ご主人様に忠実な。
ココとコレットの関係は良好なようだった。
どうしてもココの様子が気になり、コレットに接触したのだ。
「言っとくけど、私はお嬢様のことをあんた達みたいなゲス野郎には一言だって喋らないわよ!」
初対面の俺をゲス野郎呼ばわりとは、なかなかの侍女だ。その警戒心、気に入った。
どうやら俺以外にもココを気にかける輩がいるらしい。
初めは子猫を守る母猫のようなコレットだったが、俺が心底ココを崇拝していることが徐々に知れたのか、少しずつココの様子を話してくれるようになった。
ココの好きな食べ物、嫌いな食べ物、得意な教科、苦手な教科、今、どんな本を読んでいるのか、何に興味があるのか、部屋の外に出てみようという気はあるのか、ないのか。
聞きたいことは山ほどあった。
コレットの休憩時間には、その日のココの様子を聞きに駆け付けた。そんな俺に、コレットは若干引いていたが。若干。
そして、季節がいくつも過ぎ、俺が軍学校を卒業し、見習い兵士から一兵士となり、さらに第5部隊の副隊長に抜擢されたあたりの、そんなある日。
「お嬢様が、散歩したいっておっしゃってるの。でも、中庭には出たくないようだし、鍛錬場が見えるところも嫌だと言うし。どうしたものかしらねえ」
中庭は連れ去られた時の記憶が蘇ってしまうのだろう。鍛錬場も小さい頃、かまわれて嫌な思いをしていたし。
中庭じゃなければ屋敷の外周になるが、脳筋の将軍が屋敷の隣りに寮を、さらにその隣に鍛錬場を作ったお陰様で、すっかり男性恐怖症のココは外に出ることができない。
一年ほど前から、ようやく屋敷内なら出歩けるようになったらしいのに。ちなみに将軍と食事を共にすることもできるようになったとか。エライぞ、ココ!
「お嬢様ももう14才。まだ早いかもしれないけど、そろそろ学園に入る準備を始めたいのだけど」
「・・・学園?」
「そうよ。お年頃の貴族のご令嬢は3年間学園に通うの。ここからだと寮生活になるでしょうけど」
「そんな・・・」
「ええ、私も今のままの世間知らずのお嬢様が心配で。せめて入学までに、少しでも外の世界を見せてあげたいのだけど」
ショックを受ける俺を、同じ気持ちだと勘違いしてコレットは言い募ってきた。
だが俺は、ただただココと離れ離れになることにショックを受けていた。
ココと女性兵士の仲は良くも悪くもない、といった感じだったが、自分の護衛が今回の誘拐に一口噛んでるとなったらココは傷つくだろう。
王都から帰った将軍に事件の説明をする際に、ココへの口止めをお願いした。
だが、いくら将軍に口止めをしたところで、噂はココに届いてしまうにちがいない。苦くそう思っていたが、・・・そうはならなかった。
ココが全く部屋から出なくなってしまったからだ。トイレ、風呂、食事を除く、だ。
男だけじゃなく、全く人を寄せ付けなくなってしまったのだ。
かろうじて、奥方様だけが部屋に入れるようだった。
「ガレスよ、どうしたもんか」
朝の鍛錬が終わったタイミングで将軍が話しかけてきた。
「ココは、俺が一緒だと食堂で飯も食ってくれん」
──まぁ、元凶だしな。
「ミリーの話だと、夜もあまり眠れてないようでな、痩せ細って、このままだと病気になってしまうかもしれんそうだ」
「なんだと!!」
「うおっ!!」
俺の剣幕に将軍が後退った。
「良い覇気を持っている。まだ見習いとは思えんな」
良き良き、って和んでる場合か!
「なんとかしないと・・・」
「うむ。どうだガレス、ココの護衛にならんか」
「俺をお嬢様が受け入れてくれるとは思えません。とにかく、食事をきちんと摂らせないと。一人にするのも良くないでしょう。──そう、侍女を付けてはどうです?お嬢様に歳の近い女性を」
「ふむ。ミリーに当たってみるか」
「先の領主の筋は駄目ですよ」
「わかってる。そもそもお前がほとんど粛清したではないか」
粛清とか、人聞きの悪い。素行の悪いヤツをどんどん検挙していったら、そのほとんどが先の領主の一族郎党だっただけ。
「念には念を入れて下さい。お嬢様の為です」
ああ、俺が女であったなら!
ココを守り、ココの心の支えにも喜んでなるのに。
──女であったなら・・・?
この時、何かが俺の脳裏をよぎった。
その後、ココにはコレットという、年齢は俺ぐらいだろうか、17、8歳で、賢そうな、あまり笑わなそうな侍女が付いた。
奥方様の乳母の孫で王都の学園を卒業したばかりだという。
奥方様のご推薦だというからとりあえずは安心だ。
ココは、もう中庭には来ない。屋敷の見回りの任務がある時は、もしかして、と薔薇の垣根から覗くが、誰もいない、美しくもさみしい空間が見えるだけだった。
部屋の中で、どう過ごしているのか。侍女とは仲良くしているか、また手のひらにうさぎのぬいぐるみを置いて見つめていないか。
俺にできるのは空を仰ぎ見る振りをして、ココの部屋の窓を見ることだけだった。
──ココ、俺の太陽。
なぜ、こんなにも惹かれるのか。前世で夫婦だったのだろうか、・・・それは虫が良すぎるか。長い片思いの相手だった、のほうが妥当だな。それとも前世でココに飼われていた犬だったのかもしれないな。ご主人様に忠実な。
ココとコレットの関係は良好なようだった。
どうしてもココの様子が気になり、コレットに接触したのだ。
「言っとくけど、私はお嬢様のことをあんた達みたいなゲス野郎には一言だって喋らないわよ!」
初対面の俺をゲス野郎呼ばわりとは、なかなかの侍女だ。その警戒心、気に入った。
どうやら俺以外にもココを気にかける輩がいるらしい。
初めは子猫を守る母猫のようなコレットだったが、俺が心底ココを崇拝していることが徐々に知れたのか、少しずつココの様子を話してくれるようになった。
ココの好きな食べ物、嫌いな食べ物、得意な教科、苦手な教科、今、どんな本を読んでいるのか、何に興味があるのか、部屋の外に出てみようという気はあるのか、ないのか。
聞きたいことは山ほどあった。
コレットの休憩時間には、その日のココの様子を聞きに駆け付けた。そんな俺に、コレットは若干引いていたが。若干。
そして、季節がいくつも過ぎ、俺が軍学校を卒業し、見習い兵士から一兵士となり、さらに第5部隊の副隊長に抜擢されたあたりの、そんなある日。
「お嬢様が、散歩したいっておっしゃってるの。でも、中庭には出たくないようだし、鍛錬場が見えるところも嫌だと言うし。どうしたものかしらねえ」
中庭は連れ去られた時の記憶が蘇ってしまうのだろう。鍛錬場も小さい頃、かまわれて嫌な思いをしていたし。
中庭じゃなければ屋敷の外周になるが、脳筋の将軍が屋敷の隣りに寮を、さらにその隣に鍛錬場を作ったお陰様で、すっかり男性恐怖症のココは外に出ることができない。
一年ほど前から、ようやく屋敷内なら出歩けるようになったらしいのに。ちなみに将軍と食事を共にすることもできるようになったとか。エライぞ、ココ!
「お嬢様ももう14才。まだ早いかもしれないけど、そろそろ学園に入る準備を始めたいのだけど」
「・・・学園?」
「そうよ。お年頃の貴族のご令嬢は3年間学園に通うの。ここからだと寮生活になるでしょうけど」
「そんな・・・」
「ええ、私も今のままの世間知らずのお嬢様が心配で。せめて入学までに、少しでも外の世界を見せてあげたいのだけど」
ショックを受ける俺を、同じ気持ちだと勘違いしてコレットは言い募ってきた。
だが俺は、ただただココと離れ離れになることにショックを受けていた。
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