～assortment～

魔王と勇者

Black Rose

何故ー？なぜー？ナゼ？

声を出そうにも声が出ない。
身体を動かそうとしても自由に動かす事が出来ない。
今までこのようなに不自由に感じた事は一度もなかった。

この世に産まれ自我を持つ頃には、この世界で恐怖の存在になっていた。
町や国を滅ぼし、己はこの世界の畏怖の存在だった。
泣きわめく人間を殺し、己に歯向かう存在を根絶やしにしてきたが、事態は一変した。

とある王国が勇者を選んだ。勇者、魔導師、騎士の三人組。
今までも何度も勇者と名乗る人間が城に攻めてきたが、己のいる部屋まで到達する事はなかった。
今回も前回と同じだろうと思っていたが、今起きている事は誰も想像していなかった。


「もう、貴女の味方はいませんよ？」

魔力を殆ど使い果たした身体は立っているのもやっとだった。
足に力が入らず倒れそうになるのを足に力を入れて堪える。目の前にいる人間に弱い所を見せたくなかった。
勇者は足元で絶命している者から剣を抜く。胸に刺さっていた剣先は赤黒く汚れていた。
側近の姿が見えない。勇者の仲間の二人も近くに気配を感じない。
嫌な予感しかしなかった。側近は優秀だったが二人を相手にしているのは分が悪い。
もしかしたら……と最悪のシナリオが頭を過る。

「貴女の大切な側近はもう……」

「っーー！！」

身体に残る魔力を練り上げ、黒い炎が手のひらから放たれる。
黒い炎は全てを焼き尽くす。自身の城も焼けるが構わなかった。目の前にいる勇者を殺す為に全力で向かう。
仲間を殺された今、自身に残っているモノなど何もない。
だったら全てをかけて終わらそうと思った。
自分の命も全てをかけてーーーー


轟音を立て炎は勇者を飲み込んでいく。
パチパチと音を立てて全て火に包まれていくのを確認すると、魔王と呼ばれていた少女は意識を手離した。