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没落令嬢は華となる
幼馴染み
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「マリアちゃん、これ3番テーブルね」
「はい」
「マリア今度はこれを10番テーブルだ」
「はいマスター」
働きだして数ヶ月が経過していた。
宿屋兼食堂のカナリアは旅行者や冒険者に愛される店だ。毎日満室になる宿は、料理が美味しくボリュームもある為にかなり人気となっている。
本日も数部屋しか残っていない。食堂は宿泊者以外も利用出来るため毎日がとても忙しかった。
特に夕食時は戦争だった。常連客や冒険者の胃袋を満たすための料理を慌ただしく運んでいく。
エールや大量の料理の配膳は体力的にキツイ所もあったがルナマリアは楽しく働いていた。
雇い主のマスターもママも優しく温い人達だったが、怒らせるととても怖い。
「マリちゃーん今日も良いお尻してるね」
「こっち来てお酒のお酌してよー」
顔を真っ赤に染めた酔っぱらいがルナマリアのお尻を撫でた瞬間、厨房から鍋が飛んで来た。ルナマリアにあたることなく横を通りすぎた鍋はセクハラをした男にヒットし椅子から転げ落ちた。
「ってーー!!何すんだよ!!」
「あぁ?やるのか?」
厨房から出てきたマスターは腕を組み相手を睨み付ける。
マスターは元々冒険者でかなり名の知れた人物らしい。
身体も大きいのでかなり迫力がある。
食堂の空気は一気に氷点下まで下がった。
こんな怖い人が美味しい料理を作るなんて意外だ。
「いや……なんでもないデス」
「マスターありがとうございます」
無言で頭を撫でられルナマリアは嬉しくなった。
頭を撫でられるのは久し振りだった。
他界した父も母も優しく頭を撫でてくれた。
騙されて借金が膨れ上がっても人を恨むことはなかった両親。
幼い頃はそんな親に八つ当たりに似た事もしたが、一切苦しさを見せなかった親を今はとても尊敬している。
もちろん騙した奴等は憎いが、恨んでも仕方がない。いつか罰があたれば良いなとは思うのは許して欲しい。
「酔っぱらいの相手は任せてマリアちゃんは宿の受付をお願いね」
「え?はい」
厨房からもう一人鬼の形相をした人が出てきた。
一段とホールの空気は下がる。
綺麗な女性が怒ると怖いってのは本当だ。
ママことアイリーンは黒髪をしっかりと結わきキリッとした顔立ちのスレンダーな美人さんだ。
マスターとママを同時に怒らすとヤバイって常連客の人が教えてくれた。二人が同時という初めての事にルナマリアは無言でホールを後にした。
チリーンと宿の受付のチャイムが鳴りルナマリアは急いで宿の受け付けに向かう。
食堂から宿に繋がる扉を開けると名前を呼ばれた。
「ルナ!!」
「え?」
「私だよ」
ドアの前にいたのは5年ぶりに会う幼馴染みのエルソンだった。
3歳歳上の幼馴染は公爵家の嫡男で時期宰相候補だ。
自分は伯爵家で階級も違ったが、母親同士が仲が良く幼い頃は良く遊んでいた。エルソンが隣国に留学してから彼とは疎遠になっていた。
エルソンは蜂蜜色の髪と深い緑色の瞳が特徴の線の細い男の子だった。
だったが、髪と瞳は昔のままだったが体つきが全く違った。
最後に会った時はそんなに身長の差がなかったが、今は見上る殆身長が伸びていた。服の上からでも分かるほどの逞しい体躯は彼が大人になったんだと感じた。
「本当にエルソン?」
「家の事は聞いたよ。ずっと探してたんだ」
「心配してくれてありがとう。私は元気よ?」
「何で連絡してくれなかった?」
「え?留学してて忙しいと思ったから……」
「「…………」」
気まずい沈黙が流れる。
ルナマリアは空気を変えようと話題を変える
「エルソン今日はどうしますか?一部屋残っているけど………」
「お世話になるよ……」
「最後の一部屋なの案内するね。朝食は部屋にお持ちします。希望時間とかある?」
「あ……8時頃でお願いするよ」
ここの宿は何かあった時の為に少し豪華な部屋を最後まで残している。
時々お忍びで偉い人が泊まりに来る事もあるからだ。本来なら平民の宿に貴族の人が泊まりに来る事なんてないんだろうが、マスターの昔馴染みの方々が来ることがあった。
ルナマリアは三階の一番奥の部屋の鍵を取ると、エルソンを案内する。
「さっきも聞いたけど、何故連絡してくれなかったの?弟も心配してた」
「ごめんね。没落準備とかでバタバタしてて……落ち着いたら連絡しょうとしたのよ」
「ほんとに?」
本当は連絡するつもりはなかった。
幼い頃からエルソンは憧れの存在だった。
3つ年上の彼は何時も優しかった。
留学すると決まった時に告白をとも思ったが、その時には我が家は借金を抱えており将来は見えていた。
令嬢とは言えない自分が彼の足を引っ張りそうで怖くなり、彼と距離を置くことに決めた。
ここで仕事をし、ある程度資金を貯めたらこの国から出ていく事も決めていた。
知らない土地で良い人を見つけられたらと思っていた。
「此方です、エ、ベルートさま」
ガチャンと部屋の鍵を開ける。
幼馴染みだが彼は公爵の嫡男で自分は平民だという事を頭に叩き込む。
先程の言葉使いは失礼だったと後悔した。
幼馴染み気分では駄目だ。将来宰相となる彼は雲の上の存在で、本来普通に話せる人ではない。
「先程みたいに名前で呼んでくれ」
「ダメです。私はもう平民です」
「ルナ!」
「失礼いたします」
「逃がさないよ」
耳元で冷たい声が掠める。
手首を捕まれ部屋の奥へ強引に連れ込まれる。
「ルナマリア……ずっと……俺だけのものになって」
「はい」
「マリア今度はこれを10番テーブルだ」
「はいマスター」
働きだして数ヶ月が経過していた。
宿屋兼食堂のカナリアは旅行者や冒険者に愛される店だ。毎日満室になる宿は、料理が美味しくボリュームもある為にかなり人気となっている。
本日も数部屋しか残っていない。食堂は宿泊者以外も利用出来るため毎日がとても忙しかった。
特に夕食時は戦争だった。常連客や冒険者の胃袋を満たすための料理を慌ただしく運んでいく。
エールや大量の料理の配膳は体力的にキツイ所もあったがルナマリアは楽しく働いていた。
雇い主のマスターもママも優しく温い人達だったが、怒らせるととても怖い。
「マリちゃーん今日も良いお尻してるね」
「こっち来てお酒のお酌してよー」
顔を真っ赤に染めた酔っぱらいがルナマリアのお尻を撫でた瞬間、厨房から鍋が飛んで来た。ルナマリアにあたることなく横を通りすぎた鍋はセクハラをした男にヒットし椅子から転げ落ちた。
「ってーー!!何すんだよ!!」
「あぁ?やるのか?」
厨房から出てきたマスターは腕を組み相手を睨み付ける。
マスターは元々冒険者でかなり名の知れた人物らしい。
身体も大きいのでかなり迫力がある。
食堂の空気は一気に氷点下まで下がった。
こんな怖い人が美味しい料理を作るなんて意外だ。
「いや……なんでもないデス」
「マスターありがとうございます」
無言で頭を撫でられルナマリアは嬉しくなった。
頭を撫でられるのは久し振りだった。
他界した父も母も優しく頭を撫でてくれた。
騙されて借金が膨れ上がっても人を恨むことはなかった両親。
幼い頃はそんな親に八つ当たりに似た事もしたが、一切苦しさを見せなかった親を今はとても尊敬している。
もちろん騙した奴等は憎いが、恨んでも仕方がない。いつか罰があたれば良いなとは思うのは許して欲しい。
「酔っぱらいの相手は任せてマリアちゃんは宿の受付をお願いね」
「え?はい」
厨房からもう一人鬼の形相をした人が出てきた。
一段とホールの空気は下がる。
綺麗な女性が怒ると怖いってのは本当だ。
ママことアイリーンは黒髪をしっかりと結わきキリッとした顔立ちのスレンダーな美人さんだ。
マスターとママを同時に怒らすとヤバイって常連客の人が教えてくれた。二人が同時という初めての事にルナマリアは無言でホールを後にした。
チリーンと宿の受付のチャイムが鳴りルナマリアは急いで宿の受け付けに向かう。
食堂から宿に繋がる扉を開けると名前を呼ばれた。
「ルナ!!」
「え?」
「私だよ」
ドアの前にいたのは5年ぶりに会う幼馴染みのエルソンだった。
3歳歳上の幼馴染は公爵家の嫡男で時期宰相候補だ。
自分は伯爵家で階級も違ったが、母親同士が仲が良く幼い頃は良く遊んでいた。エルソンが隣国に留学してから彼とは疎遠になっていた。
エルソンは蜂蜜色の髪と深い緑色の瞳が特徴の線の細い男の子だった。
だったが、髪と瞳は昔のままだったが体つきが全く違った。
最後に会った時はそんなに身長の差がなかったが、今は見上る殆身長が伸びていた。服の上からでも分かるほどの逞しい体躯は彼が大人になったんだと感じた。
「本当にエルソン?」
「家の事は聞いたよ。ずっと探してたんだ」
「心配してくれてありがとう。私は元気よ?」
「何で連絡してくれなかった?」
「え?留学してて忙しいと思ったから……」
「「…………」」
気まずい沈黙が流れる。
ルナマリアは空気を変えようと話題を変える
「エルソン今日はどうしますか?一部屋残っているけど………」
「お世話になるよ……」
「最後の一部屋なの案内するね。朝食は部屋にお持ちします。希望時間とかある?」
「あ……8時頃でお願いするよ」
ここの宿は何かあった時の為に少し豪華な部屋を最後まで残している。
時々お忍びで偉い人が泊まりに来る事もあるからだ。本来なら平民の宿に貴族の人が泊まりに来る事なんてないんだろうが、マスターの昔馴染みの方々が来ることがあった。
ルナマリアは三階の一番奥の部屋の鍵を取ると、エルソンを案内する。
「さっきも聞いたけど、何故連絡してくれなかったの?弟も心配してた」
「ごめんね。没落準備とかでバタバタしてて……落ち着いたら連絡しょうとしたのよ」
「ほんとに?」
本当は連絡するつもりはなかった。
幼い頃からエルソンは憧れの存在だった。
3つ年上の彼は何時も優しかった。
留学すると決まった時に告白をとも思ったが、その時には我が家は借金を抱えており将来は見えていた。
令嬢とは言えない自分が彼の足を引っ張りそうで怖くなり、彼と距離を置くことに決めた。
ここで仕事をし、ある程度資金を貯めたらこの国から出ていく事も決めていた。
知らない土地で良い人を見つけられたらと思っていた。
「此方です、エ、ベルートさま」
ガチャンと部屋の鍵を開ける。
幼馴染みだが彼は公爵の嫡男で自分は平民だという事を頭に叩き込む。
先程の言葉使いは失礼だったと後悔した。
幼馴染み気分では駄目だ。将来宰相となる彼は雲の上の存在で、本来普通に話せる人ではない。
「先程みたいに名前で呼んでくれ」
「ダメです。私はもう平民です」
「ルナ!」
「失礼いたします」
「逃がさないよ」
耳元で冷たい声が掠める。
手首を捕まれ部屋の奥へ強引に連れ込まれる。
「ルナマリア……ずっと……俺だけのものになって」
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