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第弐章 こんにちわ、武闘祭

【第37話】参加決定

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 僕は覚悟を決めていた。

 何の覚悟かというと、ユーちゃんに死刑宣告された後に家族みんなで夜逃げする覚悟だ。

 幸いなことに、僕にはエーリアさんやリゼさんみたいな王族の友達がいる。だから、アイリスたち含め、大勢を連れての亡命も比較的簡単に出来る……などと考えていたのだが。

「立て篭りや決闘の件はこちらで何とかするから、気にしなくて大丈夫よ」

 なんていう、ユーちゃんの言葉を聞いて、驚きのあまり叫んでしまった僕は悪くないと思う。

「ちょ、ジル君!?さっきから様子がおかしくない!?」

 王女の威厳はどこへやら。

 ユーちゃんは、すっかり幼馴染のユーちゃんに戻り、心配そうに僕の方を見た。

「い、いや、大丈夫。少し予想外な返答だったから」

「そう……ジル君にも予想外のことなんてあるのね」

 意外そうに言うユーちゃんだが、僕にだって予想外のことぐらいある。
 というか、予想外のことしかない。特にここ最近なんか、頭のおかしい連中に絡まれまくっていて、僕ほど予想外の出来事に出くわす人間はいないんじゃないかと思うほどだ。
 そもそも異世界に転生したの事態予想外過ぎるし……。

 だが、いちいち反論していては話が進まないので、ユーちゃんの言葉を訂正することなく僕は聞き流した。

「……それで、王都の学園の一件での罪はどうでもいいんだけど、ここから先は少し相談事ね」

「相談事?」

 ははぁん、話が読めてきたぞ。つまり、罪を帳消しにする代わりに、何かしらの相談事を僕にやらせようって魂胆か。

「もちろん、断ることも出来るわ。相談事といってもそんなに大したことでもないから、ジル君がノーと云えば、この話はなしよ」

 そういうユーちゃんではあるが、わざわざ相談事とつけるぐらいだ。実際はよっぽど大変なものなのだろう。

 しかし、僕に選択権はない。その厄介事を引き受けるか、死刑か、その二者択一ならば、前者をとるしか道はない。

 死刑を回避するなど、並大抵のことではなので、恐らくユーちゃんが上手く交渉してくれたのだろう。
 それを蹴るなど言語道断だ。

「分かった。受けるよ」

「えぇっ、本当!?まだその内容も聞いてないのに!?」

 ユーちゃんが僕の方に身を乗り出して驚く。

 数年ぶりに会った幼馴染は、やはり驚くほど成長していて、改めて間近で顔をみると、凛々しく、美しかった。

「うん、本当。それで、その相談事って?」

「えぇっと、簡単に言えば、覇王様として武闘祭に出てもらうこと、かな?」

「なるほど、覇王(仮)として武闘祭のメイン部門に出場すればいいわけね」

 どんな無理難題かと思えばそんなことか。

 武闘祭とは先にも触れた通り、異世界版オリンピックだ。
 もちろん、覇王(仮)として、大衆の面前に顔を晒すことは多少のリスクはあれど、死刑に比べればなんのことはない。
 なにせ、たぶん僕よりも強い人たちは出ないし、死ぬ心配がない。異世界版オリンピックの名の通り、アマチュアの大会なのだ。
 まぁ、もちろん、たまーにとんでもなく強い人が出場することもあるが、そのときはそのときだ。

「いやいやいや、違う違う。一般の人と一緒にメイン部門に出場する必要はないわ!」

 ユーちゃんが付け加えて言った。

 出場する必要すらないんだったら、もっと話は簡単だ。
 メイン部門にたまーにいるとんでもなく強い人とも戦う必要はない。

「なるほど、つまり、僕には覇王(仮)として客寄せパンダになれってこと?」

「まぁ、ちょっと悪い言い方をすればそうなるわね。でも、もしサプライズゲストとして覇王様が出てくれれば、おそらくだけど過去最大の参加国数になるのは間違いないわ」

 ユーちゃんからの話を聞く限り、僕が間違えられた覇王さんは余程すごい人物らしい。僕の無知が嘆かれる。

 僕の情報源は主にアイリスたちなので、後で覇王さんについての情報を教えてもらうとしよう。

「実は、この相談事は獣王様や龍王様が言ってきたことなの。彼らがどうしても自分たちを直接助けてくれた覇王様に会いたいって」

 ……まさか、獣王エーリアさんや龍王リゼさんまで直接助けていたとは。そういえば、カレンがそんなこと言ってた気もするが(8話参照)、そんなことできるなんて、覇王さんはいよいよ化け物だな。

「そういえば、僕が覇王(仮)ってことが他の人にバレるってことはないかな?」

 例えばエーリアさんやリゼさんに僕が覇王さんの変装をしてるなんてバレると非常にまずいことになりそうだ。

「普通の人ならジル君が覇王だなんて気づくわけないわよ」

 そう、普通の人なら大丈夫だ。しかし、エーリアさんやリゼさんにそれが通じるかどうか。
 まぁ、気づかれた時は仕方ない。彼女らと面識はあるし、全力で土下座するとしよう。

 もっとも、1番怖いのは覇王さん本人に会ったときだ。数々の伝説があるらしい覇王さん。もし戦えば、一瞬で僕は消し炭にされることだろう。
 怖いが、それだけすごい人なら僕が名前を騙って武闘祭に出るくらい広い心で許してくれるはず。

「ごめん、ジル君。もう少し話していたいんだけど、勝手に公務を抜け出してきちゃったから、私もそろそろ戻らなきゃ行けないの」

「えぇっ!?公務を!?大丈夫なの、それ?」

「大丈夫じゃないから、早く戻ることにするわ。ではまた武闘祭で会いましょう。久しぶりにジル君と話せて楽しかったわ」

 ユーちゃんはニッコリと笑い、カーテシーして見せる。

「では、ごきんよう。頼みを聞いてくれて、本当に助かったわ。ありがとう」

 その姿は堂に入っていて、王女らしく、美しいものだった。


 
 こうして、僕の死刑騒動は一応の解決を見たのであった。
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