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第壱章 おはよう、異世界

【第16話】Dead or ……

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 そうして、次の日、いつものように僕が食堂に足を運んでいると、後ろの方からツカツカと靴の音が近づいてきた。
 
 僕は、若干嫌な予感がしつつも、その音の主を確かめようと振り返る。
 すると、その顔に不適な笑みを浮かべたアランと目があった。

「おーい、ジルフォード君。ちょぉっと君に相談したいことがあってねぇ」

 どこか悪巧みでも思いついたような、ニヤニヤ笑みでそんなことを言うアラン。

 僕の経験上、だいたい、彼がこう言う顔をする時はろくなことがないので、僕は慌てて食堂へと足早に逃げていく。

 だが、食堂の入り口まできたところで、その足はアランに右肩をがっしりと掴まれることによって止められた。

「まぁまぁ、ちょっとぐらい話を聞いてくれてもいいじゃないか」

「い!や!だ!そういえば、前にもそんな顔をしてアーリン湖への調査なんか頼んできて……僕はあのとき死にかけたんだからな!」

 それを聞いて、アランは苦笑いを浮かべつつ反論する。

「いや、まさか本当に行くと思わなかったんだよ。私が父に冗談半分で頼まれた依頼だったし。それに、あのときはちゃんと報酬も出しただろう?」

 うっ、確かにそう言われてみれば、あのときは約束通り報酬はもらったし、反論の余地はない。

「今回もちゃんと報酬を用意してあるよ」

 ニヤリ笑みのアランはそう言って、僕の耳元に近づき小声で告げた。

「ヤガノの予約」

「なっ!あの伝説の店ヤガノの予約だと!?」

 僕の驚く様子を見て、アランがしたり顔で頷いた。

 ヤガノと云えば、数年前に開業したにも関わらず、数十年先まで予約でいっぱいという伝説の料理店である。そのおいしさは遥か遠く帝国の皇帝が食べに来るほどであり、いまやその予約枠はプレミア化し、超高額で転売されている。
 その予約枠を手に入れるため、全財産を使い果たし、破産した貴族もいるとかいないとか。

「い、いや、だけど、予約って云っても数十年後とかだろ?それに、もし僕が了承したとしても、替え玉なんてすぐバレるし……」

 心動かされそうな僕はなんとか無理な理由を述べる。
 しかし、アランは待ってましたとばかりに饒舌に語り出した。

「もちろん、予約は数ヶ月だよ?それと、二つ目の疑問だけど、これを被って鏡を見てもらえるかな?」

 僕に手渡されたのは舞踏会で使うような顔の上半分が隠れる白い仮面となんてことない手鏡。

 そして、おそるおそる仮面をつけてみると僕の心配は杞憂であったことが分かった。

「これは……へんげの仮面か……」

「そう!その通り!世にも珍しいマジックアイテム、へんげの仮面だよ」

 なんと、手鏡に映る僕の姿は完全にアランそっくりになっていたのである。

「君も聞いたことぐらいはあるだろう?他人に変身できるマジックアイテムの存在を」

「なるほど。確かにこれがあれば替え玉決闘は簡単にできそうだ」

 うんうんと頷くアラン。

「よし、じゃあこれで君が決闘を受けてくれるということで──」

「──この仮面もくれたらね?」

 僕の付け足した一言にアランはギョッとして聞き返した。

「へ、へんげの仮面かい?いや、これはマジックアイテムっていう非常に高価なもので、我がサーヴィス家の家宝だし……それに父からあくまで借りているだけだし……」

「アラン~、君、この期に及んで、まだそんなことをいうのか。僕は予約プラスこんな古臭い仮面で手を打とうって言ってるんだよ?こんなお得なことはないじゃないか?Dead or kamen?」

 今度は先ほどアランがしていたような悪い顔で僕が捲し立てた。

 僕がこれほどこの仮面が欲しいのには理由がある。
 みんなも思い出して欲しい。市販されている仮面ライダーベルトを買い、変身できないことに嘆いた少年時代。思えば、あの体験が僕の根本厨二病を形作ったと云っても過言ではない。
 僕はなんとかこの魔法が使えるファンタジー世界で変身ベルトが無いかとずっと探し回っていた。そして、ついに見つけたへんげの仮面。これを逃さぬ手はない!

 もちろん、アランにはDead or kamenなんて脅しているが、所詮学生同士の決闘で殺されることはないという下心もある。最悪は、アランの姿でマリアンヌに土下座でもすれば許してもらえるだろう。

「ぐぬぬ、分かったよ。交渉成立だ」

 渋々と云った様子で差し出されたアランの手を僕はニコニコ笑顔で握り返した。

 あ~、早速何に変身しようかなぁ。


 
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