上 下
18 / 79
第壱章 おはよう、異世界

【第17話】とある結社の議事録

しおりを挟む
 真っ暗な部屋に巨大な丸テーブル。そして、椅子が7つ。

 その椅子には異様な雰囲気を放つ7人が座り、ローブを纏った1人の人物が部屋の隅に佇んでいる。

 暗さゆえ、お互いの顔を見ることは敵わず、声のみ聞き取ることが出来る。

 ここはとある国の地下。『結社』と呼ばれる組織がアジトとしている場所である。

「それで、グラスゴー、例の面汚しはどうなった?」

 上座に座る男が部屋の隅に向けて語りかけると、ローブの男──グラスゴーは気味の悪い声で返す。

「イッヒヒ、例の計画も放り出し、逃げ出しましてございます」

 その言葉で場の空気がピリリと張り詰めた。

 まるで、首筋に刃物を突きつけられたかのようなプレッシャーに、グラスゴーは冷や汗を流した。

「なんやぁ?まさか、失敗の方向をしにきただけやあらへんよな?グラスゴー?」

 椅子に座る1人の男が、薄笑いを浮かべて問いかける。

「も、もちろんでございますです。かの面汚しの首はここに」

 グラスゴーは、どこからか、布に包まれた物体を取り出してみせた。

「そういうことやあらへん。例の戦争に続き、今回も失敗。は考えとるんやろうなぁ?」

 男が、バンっとテーブルを叩くと、そこを中心にして、亀裂が走った。

「まぁまぁ、グラスゴーも反省しているようですしぃ、今回は見逃してもいいんじゃないんですかぁ?」

 甘ったるい声の女が宥めるように言う。

「は?お前さん、次席も低いくせにワイに口答えかいな。えろぉ偉くなったもんやな」

「あれぇ、この会議に七聖の次席は関係ないはずですよぉ。あれですかぁ?自分が万年3位なことにコンプレックスでも抱いているんですかぁ?」

「なんやと!もういっぺん、言うてみぃ!!」

 男は立ち上がり、女に掴みかかろうとテーブルの上に乗り上げる。

 対して、女も自分の傍に置いていた杖へと手をかける。

 残った4人も各々が武器に手をかけた。

 一瞬にして場は一触即発状態。あわや、戦闘になる寸前。

 そんなところで、

「止めろ!七聖ともあろう者が見苦しい」

 上座に座る男の一声で、全員の動きが止まった。

 テーブルに乗り上げた男も、渋々自分の席へと戻る。

「血気盛んなのは結構だが、その怒りは我々の計画を邪魔する者へと向けて欲しい」

 そう言う男の目には静かな怒りの炎が宿っていた。

「もしかして、覇王、なる人物のことですかぁ?その人は我々の調査で『いない』と結論づけられた筈ですがぁ」

「せやせや。数百年の間犬猿の仲だった、龍王と獣王を仲良ぉさせることの出来る人物なんて、存在するわけないやろ」

「…………その人物の検討がついたから、お前はここにいる。違うか、グラスゴー?」

 上座に座る男に少し睨まれ、グラスゴーは震えながらテーブルの上に1枚の紙を差し出した。

「こ、この学園でございますです。ヴェイドを殺したのも、面汚しを逃がしたのもこの学園の生徒が絡んでいるとの諜報部からの報告でございますです」

 震えるグラスゴーを見て、関西弁の男は鼻で笑った。

「ふんっ、たかだか学園の生徒にヴェイドが殺せるわけあらへんやろ。諜報部も耄碌もうろくしたもんやなぁ」

「あらぁ、あなたのお気に入りのヴェイドも死んじゃったんですかぁ。『俺は次期七聖のヴェイドだ』とか言ってたのにすぐ死んじゃうなんて。ぷぷぷっ」

 再び険悪なムードが漂い始めたので、上座の男は女を睨んでから発言する。

「それで、学園への侵入プランは?」

「第1席様のご命令通り、サーヴィス家の令嬢が決闘代理を募集しておりましたので、それに紛れ込む手筈でございますです」

「あらぁ?いいのぉ?確か、学園にはあまり手を出すな、って第1席様は言ってたわよねぇ?」

 女がちらりと上座の方を見る。

「それについては解決済みだ。問題ない。それで……『第3席』ジュノー、その任務にはお前が行ってこい」

「はぁ!?なんで、ワイがわざわざそんなところに」

「これは命令だ。何より、この計画に失敗は許されん。ヴェイドを殺した犯人を殺すと共に、2回も失敗している『若き人々の血』も手に入れてこい」

「はぁ……まぁ、その学園の生徒を皆殺しにすればええっちゅうことやな?了解や、了解。ちゃちゃっと終わらせてきますわ」

 その返事に、上座の男は満足気に頷いた。

「絶対に失敗するなよ?」

「誰に言うてんねん。あたりまえやろ」

「まかせたぞ。……では、これにて七聖会議は終了とする」

 上座の男がパチンと指を鳴らすと、そこにいた人らの影は跡形もなく消え失せ、後に残ったのは椅子とテーブルのみ。

 こうして、学園を揺るがす大事件の幕が切って落とされるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に飛ばされた俺は霊感が強いだけ!

夜間救急事務受付
ファンタジー
突然異世界に飛ばされた士郎。 士郎にあるのは霊感のみ! クスッと笑えてホロっと泣ける 異世界ファンタジー!

田舎貴族の学園無双~普通にしてるだけなのに、次々と慕われることに~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
田舎貴族であるユウマ-バルムンクは、十五歳を迎え王都にある貴族学校に通うことになった。 最強の師匠達に鍛えられ、田舎から出てきた彼は知らない。 自分の力が、王都にいる同世代の中で抜きん出ていることを。 そして、その価値観がずれているということも。 これは自分にとって普通の行動をしているのに、いつの間にかモテモテになったり、次々と降りかかる問題を平和?的に解決していく少年の学園無双物語である。 ※ 極端なざまぁや寝取られはなしてす。 基本ほのぼのやラブコメ、時に戦闘などをします。

私は逃げます

恵葉
ファンタジー
ブラック企業で社畜なんてやっていたら、23歳で血反吐を吐いて、死んじゃった…と思ったら、異世界へ転生してしまったOLです。 そしてこれまたありがちな、貴族令嬢として転生してしまったのですが、運命から…ではなく、文字通り物理的に逃げます。 貴族のあれやこれやなんて、構っていられません! 今度こそ好きなように生きます!

夫の書斎から渡されなかった恋文を見つけた話

束原ミヤコ
恋愛
フリージアはある日、夫であるエルバ公爵クライヴの書斎の机から、渡されなかった恋文を見つけた。 クライヴには想い人がいるという噂があった。 それは、隣国に嫁いだ姫サフィアである。 晩餐会で親し気に話す二人の様子を見たフリージアは、妻でいることが耐えられなくなり離縁してもらうことを決めるが――。

【完結】転生したら侯爵令嬢だった~メイベル・ラッシュはかたじけない~

おてんば松尾
恋愛
侯爵令嬢のメイベル・ラッシュは、跡継ぎとして幼少期から厳しい教育を受けて育てられた。 婚約者のレイン・ウィスパーは伯爵家の次男騎士科にいる同級生だ。見目麗しく、学業の成績も良いことから、メイベルの婚約者となる。 しかし、妹のサーシャとレインは互いに愛し合っているようだった。 二人が会っているところを何度もメイベルは見かけていた。 彼は婚約者として自分を大切にしてくれているが、それ以上に妹との仲が良い。 恋人同士のように振舞う彼らとの関係にメイベルは悩まされていた。 ある日、メイベルは窓から落ちる事故に遭い、自分の中の過去の記憶がよみがえった。 それは、この世界ではない別の世界に生きていた時の記憶だった。

彼はもう終わりです。

豆狸
恋愛
悪夢は、終わらせなくてはいけません。

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?

つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです! 文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか! 結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。 目を覚ましたら幼い自分の姿が……。 何故か十二歳に巻き戻っていたのです。 最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。 そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか? 他サイトにも公開中。

異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。

桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。 だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。 そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。

処理中です...