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おわりとはじまり
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その日、新しい水守が就任した。
若く精悍な水守の誕生を村人達は喜び、その意欲的な様子に、村の存続を確信して安堵したという。
老いた元水守は、村の片隅で一人静かに隠居生活を送ることになった。
足を悪くした老人を村人が通いで世話をした。
長く村に貢献してくれた彼は、例え任を解かれても村人達にとって畏怖すべき存在であることに変わりはなかった。
しかし、彼は何かに怯えるように小さな家に閉じこもり、あれだけ心酔していた湖にも一切近付くことをしなかった。
それから数日後の静かな夜だった。
水守の家から火が上がるのを、村人の一人が目撃した。
彼は直ぐに近所に声を掛け、高台にある家へ急いだ。
炎はごうごうと音を立てて、夜空に聳え上がり、空を明るく照らした。
もうもうと吹き出す煙と焦げた匂いが、風に乗って村へ流れていく。
簡素だがしっかりした造りであった木造の家が、たちまち剥き出しになり、その骨を晒していった。
あまりに早い火の回りに、駆けつけた村人達は為す術なくそれを遠巻きに見つめる。
そこで暮らし始めたばかりの若き水守の安否を祈る事しか出来なかった。
明け方、漸く落ち着いた炎を今更ながら消し止めた村人達は、淡い青灰色の空の下、焼け跡を探す。
しかし、炭化した木片が折り重なるその場所に、人らしきものは見当たらなかった。
皆は凄惨な焼死体を目にする事を免れた事に胸を撫で下ろしながらも、首を捻る。
それでは水守は何処へ消えたのか。
隣接する礼拝堂も激しく焼け落ち、原型を留めていない。
傍にある井戸の蓋は閉じられたまま。
納屋に停めてあった荷馬車も、車輪もろとも燃え尽きて、鉄の箍が土間に転がるのみだ。
もしかしたら、湖に逃げたのか?
崇拝する水龍に助けを求めたのではないか?
村人達は確信し、湖に続く林道へと向かう。
その時、ごごう、という激しい地鳴りが聞こえ、湖を取り囲む森が揺れた。
村人達は激しい振動に立っていられず、ある者は転倒し、ある者はその場にしゃがみ込んだ。
「ああっ!!あれを、あれを見ろ!!」
尻もちをつき空を仰いでいた一人の男が叫んだ声に、その場にいた者は各々その視線を辿る。
そして、その光景に愕然とした。
薄明の薄い群青の空を背景に、舞い上がった銀色のそれは、うねうねと躍動し、どんどんと天空へと昇っていく。
「水龍様…」
「水龍様だっ…」
彼らは初めて見るその尊くも異質な姿に見惚れる。
そして、やがて、その背中にしがみつくひとつの影を認めた。
風を孕むブルーグレイのその布は、青年がいつも纏っていたシャツの色。
「水守だ…」
「カイザス…何故…」
青年は無事だった。
しかし、何故、水龍の背に掴まっているのか。
そして、水龍と共に何処へ行くつもりなのか。
不思議なことに、その時彼らは思いもよらなかった。
湖より水龍が飛び立つこと、それが何を意味するのか。
彼らをずっと護り続けていた水龍が、まさか三百年の拘束から漸く解き放たれ、清々と歓喜しているなど知る由もない。
村を見捨てるなど、想像も出来なかったのだ。
それから程なく、湖は涸れた。
**
「チュセ、この寸法直しを頼めるかい?」
「はい。いつまでですか」
「お客様は五日後をご希望なのだけど」
チュセはまち針の留まったドレスを手に取り、布を手繰り確かめる。
「ええ、大丈夫です。二日あれば」
「本当にあんたは仕事が早くて助かるよ」
女将はホッとした表情をした後に微笑んだ。
「良い拾い物をしたよ。突然びしょ濡れの若い娘が押しかけてきた時は驚いたけどね」
「素性のわからない私を雇って頂いた上に色々世話をして貰って…女将さんには本当に感謝しています」
「町の暮らしには慣れたかい?」
「はい、毎日が新鮮でとても楽しいです」
チュセは目を輝かせ、窓の外に視線を向ける。
石畳の街道の向こうに並ぶ店と賑やかに行き交う人々。
時たまゆっくりと前を横切る馬車。
大陸屈指の港に面しているこの町は、国で三番目に栄えているのだという。
チュセは、漸く馴染んだその景色を眺めながら、この場所に初めて来た時の事を思い出していた。
儀式の日、水龍は、チュセを例の空気の泡で包み池に沈めた。
そして、海藻を掻き分け、細くポコポコと泡を吐く穴の前に連れていった。
太い水脈は封じられたが細いものは幾つか残っていて、これがそのひとつだと水龍は説明する。
人が通れる程の大きさがかろうじて確保されているその穴を通し、チュセを外に出すという。
『きっと、お前が最後の贄になる。だから、特別に願いを叶えてやろう』
「ありがとう水龍様」
水龍は大きな口で水を噛むようにガボガボと音を鳴らすと、黒い瞳を細めた。
『閉鎖されたこの場所で、鬱々と膿んでいく村を見るのは憂鬱だったが、最後に良いものが見れた』
そう言うと、水龍は大きく口を開けた。
巻き起こった激しい水流に押し流され、チュセは空気の泡ごと穴の奥へと運ばれていった。
それからのことは、あまり良く覚えていない。
単調な土の壁なりにも目まぐるしく動く映像に耐えられず、早々に目を閉じてしまったからだ。
そして、ザザンと打ち寄せる波の音に目を開けると、いつの間にか海の浅瀬に座っていた。
チュセは握り締めていた掌を開く。
そこには、水龍から預かった銀の鱗が、陽射しを受けてキラキラと光を放っていた。
チュセはそれを摘むと、水龍に教えられた通り、水底に沈めた。
三百年の間に贄によって運ばれた鱗。
これが、水龍を呪縛から解き放つのだという。
身体の一部である鱗が元の身体に戻ろうとする力が、呪術を超える。
水龍はそれが整う時を待っていた。
そして、チュセに授けられた鱗が、その最後の一枚なのだ。
初めて見る海原と地平線を堪能した後、チュセは水を含んで重くなった白い木綿の服を掴み、よっこらしょと立ち上がった。
柔らかい砂に足を取られ、よろめきながらも浜を目指す。
賑やかな声に顔を上げれば、白く広がる砂浜の向こう、低い石垣の上にずらっと並ぶ、白い布の屋根が見えた。
それがテントというものであり、この海辺の街道沿いが屋台村と呼ばれる観光名所であることを、チュセは後に知る。
おっかなびっくり街に出たチュセだったが、懐が深い仕立て屋の女将に出会えた幸運により、驚くほど早く新しい暮らしに順応していった。
お針子の腕が通用するのかと心配だったが、多少の違いはあれど基本的な技術は変わらなかった。
むしろ、硬くて質の悪い布を扱ってきた経験により、誰よりも早く作業をこなすことが出来て重宝された。
将来への不安は多少あるが、幸せな毎日だ。
雑多な人間が集まるこの街では、チュセは異端などではなく、その他大勢の中の一人。
周囲から排除を望まれる存在ではなくなったのだ。
それでもふと、捨ててきた村のことを思い出す。
あれから皆はどうなったのか。
水源が無くなった村を見限り、かつての先祖がそうしたように、他に安住の地を求めて旅に出たのか。
それとも、あの場所に留まって水源の確保に奔走しているのか。
それを知る術はない。
チュセは、ここが村からどれだけ離れた場所であるかもわからない。
生まれ育った村が、世界のどこに位置しているのか、それさえ知らずに生きていたのだから。
水龍の為、引いては村の為になると決断した事だが、それでも勝手な信念の為に村を危機に陥れた事実は変わらない。
真実を知っても、彼らは決してチュセを許さないだろう。
チュセはもう二度と戻ることは叶わない故郷を思う。
今となれば、美しい風景ばかりが目に浮かぶ。
そして、そうやって感傷に浸る自分に、苦笑いをするのだった。
仕事が終わり、夕食の買い物をしながら夕暮れの街を歩く。
仕事帰りの人々で街道は混みあっていた。
人も建物も取り巻く全てがオレンジ色に染るこの時間が、チュセは好きだった。
自分も世界の一部だと実感出来るからだろうか。
八百屋で野菜を物色しているチュセの耳に、陽気な声が飛び込んできた。
視線をやれば、道に広がって歩く青年の集団が目に入る。
まだ早い時間にも関わらず、どこかで一杯引っ掛けて来たのだろうか、やたらと声も身振りも大きい。
チュセは目立たぬよう、八百屋の店先で身を縮こませた。
しかし、何故かこういう輩に限って弱者を嗅ぎ付ける能力に長けているのである。
「お姉さん、お買い物~?荷物重そうだね、持ってあげようかぁ?」
肩から顔を出し、間近からじっと見つめる男から目を逸らし、チュセはキッパリと断った。
「結構です」
「そう言わずにさぁ、ね、持ってあげるから、どっかで一緒にお酒飲まない?」
「遠慮します」
「なに?怖がってんの?かーわいい!」
チュセは内心焦っていた。
揉め事を起こして悪目立ちすることは避けたい。
早くやり過ごさないと、また大変なことに…
「おい、俺の嫁に汚ねえ顔を近づけるな」
その低い声を耳にし、チュセは凍りついた。
若く精悍な水守の誕生を村人達は喜び、その意欲的な様子に、村の存続を確信して安堵したという。
老いた元水守は、村の片隅で一人静かに隠居生活を送ることになった。
足を悪くした老人を村人が通いで世話をした。
長く村に貢献してくれた彼は、例え任を解かれても村人達にとって畏怖すべき存在であることに変わりはなかった。
しかし、彼は何かに怯えるように小さな家に閉じこもり、あれだけ心酔していた湖にも一切近付くことをしなかった。
それから数日後の静かな夜だった。
水守の家から火が上がるのを、村人の一人が目撃した。
彼は直ぐに近所に声を掛け、高台にある家へ急いだ。
炎はごうごうと音を立てて、夜空に聳え上がり、空を明るく照らした。
もうもうと吹き出す煙と焦げた匂いが、風に乗って村へ流れていく。
簡素だがしっかりした造りであった木造の家が、たちまち剥き出しになり、その骨を晒していった。
あまりに早い火の回りに、駆けつけた村人達は為す術なくそれを遠巻きに見つめる。
そこで暮らし始めたばかりの若き水守の安否を祈る事しか出来なかった。
明け方、漸く落ち着いた炎を今更ながら消し止めた村人達は、淡い青灰色の空の下、焼け跡を探す。
しかし、炭化した木片が折り重なるその場所に、人らしきものは見当たらなかった。
皆は凄惨な焼死体を目にする事を免れた事に胸を撫で下ろしながらも、首を捻る。
それでは水守は何処へ消えたのか。
隣接する礼拝堂も激しく焼け落ち、原型を留めていない。
傍にある井戸の蓋は閉じられたまま。
納屋に停めてあった荷馬車も、車輪もろとも燃え尽きて、鉄の箍が土間に転がるのみだ。
もしかしたら、湖に逃げたのか?
崇拝する水龍に助けを求めたのではないか?
村人達は確信し、湖に続く林道へと向かう。
その時、ごごう、という激しい地鳴りが聞こえ、湖を取り囲む森が揺れた。
村人達は激しい振動に立っていられず、ある者は転倒し、ある者はその場にしゃがみ込んだ。
「ああっ!!あれを、あれを見ろ!!」
尻もちをつき空を仰いでいた一人の男が叫んだ声に、その場にいた者は各々その視線を辿る。
そして、その光景に愕然とした。
薄明の薄い群青の空を背景に、舞い上がった銀色のそれは、うねうねと躍動し、どんどんと天空へと昇っていく。
「水龍様…」
「水龍様だっ…」
彼らは初めて見るその尊くも異質な姿に見惚れる。
そして、やがて、その背中にしがみつくひとつの影を認めた。
風を孕むブルーグレイのその布は、青年がいつも纏っていたシャツの色。
「水守だ…」
「カイザス…何故…」
青年は無事だった。
しかし、何故、水龍の背に掴まっているのか。
そして、水龍と共に何処へ行くつもりなのか。
不思議なことに、その時彼らは思いもよらなかった。
湖より水龍が飛び立つこと、それが何を意味するのか。
彼らをずっと護り続けていた水龍が、まさか三百年の拘束から漸く解き放たれ、清々と歓喜しているなど知る由もない。
村を見捨てるなど、想像も出来なかったのだ。
それから程なく、湖は涸れた。
**
「チュセ、この寸法直しを頼めるかい?」
「はい。いつまでですか」
「お客様は五日後をご希望なのだけど」
チュセはまち針の留まったドレスを手に取り、布を手繰り確かめる。
「ええ、大丈夫です。二日あれば」
「本当にあんたは仕事が早くて助かるよ」
女将はホッとした表情をした後に微笑んだ。
「良い拾い物をしたよ。突然びしょ濡れの若い娘が押しかけてきた時は驚いたけどね」
「素性のわからない私を雇って頂いた上に色々世話をして貰って…女将さんには本当に感謝しています」
「町の暮らしには慣れたかい?」
「はい、毎日が新鮮でとても楽しいです」
チュセは目を輝かせ、窓の外に視線を向ける。
石畳の街道の向こうに並ぶ店と賑やかに行き交う人々。
時たまゆっくりと前を横切る馬車。
大陸屈指の港に面しているこの町は、国で三番目に栄えているのだという。
チュセは、漸く馴染んだその景色を眺めながら、この場所に初めて来た時の事を思い出していた。
儀式の日、水龍は、チュセを例の空気の泡で包み池に沈めた。
そして、海藻を掻き分け、細くポコポコと泡を吐く穴の前に連れていった。
太い水脈は封じられたが細いものは幾つか残っていて、これがそのひとつだと水龍は説明する。
人が通れる程の大きさがかろうじて確保されているその穴を通し、チュセを外に出すという。
『きっと、お前が最後の贄になる。だから、特別に願いを叶えてやろう』
「ありがとう水龍様」
水龍は大きな口で水を噛むようにガボガボと音を鳴らすと、黒い瞳を細めた。
『閉鎖されたこの場所で、鬱々と膿んでいく村を見るのは憂鬱だったが、最後に良いものが見れた』
そう言うと、水龍は大きく口を開けた。
巻き起こった激しい水流に押し流され、チュセは空気の泡ごと穴の奥へと運ばれていった。
それからのことは、あまり良く覚えていない。
単調な土の壁なりにも目まぐるしく動く映像に耐えられず、早々に目を閉じてしまったからだ。
そして、ザザンと打ち寄せる波の音に目を開けると、いつの間にか海の浅瀬に座っていた。
チュセは握り締めていた掌を開く。
そこには、水龍から預かった銀の鱗が、陽射しを受けてキラキラと光を放っていた。
チュセはそれを摘むと、水龍に教えられた通り、水底に沈めた。
三百年の間に贄によって運ばれた鱗。
これが、水龍を呪縛から解き放つのだという。
身体の一部である鱗が元の身体に戻ろうとする力が、呪術を超える。
水龍はそれが整う時を待っていた。
そして、チュセに授けられた鱗が、その最後の一枚なのだ。
初めて見る海原と地平線を堪能した後、チュセは水を含んで重くなった白い木綿の服を掴み、よっこらしょと立ち上がった。
柔らかい砂に足を取られ、よろめきながらも浜を目指す。
賑やかな声に顔を上げれば、白く広がる砂浜の向こう、低い石垣の上にずらっと並ぶ、白い布の屋根が見えた。
それがテントというものであり、この海辺の街道沿いが屋台村と呼ばれる観光名所であることを、チュセは後に知る。
おっかなびっくり街に出たチュセだったが、懐が深い仕立て屋の女将に出会えた幸運により、驚くほど早く新しい暮らしに順応していった。
お針子の腕が通用するのかと心配だったが、多少の違いはあれど基本的な技術は変わらなかった。
むしろ、硬くて質の悪い布を扱ってきた経験により、誰よりも早く作業をこなすことが出来て重宝された。
将来への不安は多少あるが、幸せな毎日だ。
雑多な人間が集まるこの街では、チュセは異端などではなく、その他大勢の中の一人。
周囲から排除を望まれる存在ではなくなったのだ。
それでもふと、捨ててきた村のことを思い出す。
あれから皆はどうなったのか。
水源が無くなった村を見限り、かつての先祖がそうしたように、他に安住の地を求めて旅に出たのか。
それとも、あの場所に留まって水源の確保に奔走しているのか。
それを知る術はない。
チュセは、ここが村からどれだけ離れた場所であるかもわからない。
生まれ育った村が、世界のどこに位置しているのか、それさえ知らずに生きていたのだから。
水龍の為、引いては村の為になると決断した事だが、それでも勝手な信念の為に村を危機に陥れた事実は変わらない。
真実を知っても、彼らは決してチュセを許さないだろう。
チュセはもう二度と戻ることは叶わない故郷を思う。
今となれば、美しい風景ばかりが目に浮かぶ。
そして、そうやって感傷に浸る自分に、苦笑いをするのだった。
仕事が終わり、夕食の買い物をしながら夕暮れの街を歩く。
仕事帰りの人々で街道は混みあっていた。
人も建物も取り巻く全てがオレンジ色に染るこの時間が、チュセは好きだった。
自分も世界の一部だと実感出来るからだろうか。
八百屋で野菜を物色しているチュセの耳に、陽気な声が飛び込んできた。
視線をやれば、道に広がって歩く青年の集団が目に入る。
まだ早い時間にも関わらず、どこかで一杯引っ掛けて来たのだろうか、やたらと声も身振りも大きい。
チュセは目立たぬよう、八百屋の店先で身を縮こませた。
しかし、何故かこういう輩に限って弱者を嗅ぎ付ける能力に長けているのである。
「お姉さん、お買い物~?荷物重そうだね、持ってあげようかぁ?」
肩から顔を出し、間近からじっと見つめる男から目を逸らし、チュセはキッパリと断った。
「結構です」
「そう言わずにさぁ、ね、持ってあげるから、どっかで一緒にお酒飲まない?」
「遠慮します」
「なに?怖がってんの?かーわいい!」
チュセは内心焦っていた。
揉め事を起こして悪目立ちすることは避けたい。
早くやり過ごさないと、また大変なことに…
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