さよなら水龍さま

すなぎ もりこ

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偽り

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それから、チュセは頻繁に作業小屋に訪れた。

カイザスに穢される為に。





「あっ、はあん、カイザス、これダメ、深い」



背後から剛直で貫かれ、チュセは喘ぐ。

しかし、カイザスは更にグリグリと奥を抉る。



「嘘をつけ、こんなに締め付けているくせに」



両手でがっちりと腰を掴まれ、逃げることも叶わない。

断続的に襲ってくる快感に、太腿が震える。

グチュグチュと音が鳴り、蜜口から溢れた蜜が内股を伝う。



「濡れすぎだ、淫乱だな」

「そ、そんなことない…っ、ああっ」



カイザスはチュセの中を太く硬い棒でかき混ぜる。



「ふ、ほら、絞りだそうとしやがって」

「ちがっ、あ、あ、あん、や、も、」



揺らされて、小刻みに悲鳴を上げるチュセを嘲笑うように、カイザスは更に激しく腰をうちつける。

パンパンと肌のぶつかる音が、作業小屋の天井に響く。



「ほらっ、イけ!」

「や、ああっーーーー!」



秘豆を指で弾かれ、チュセは呆気なく限界を超えた。尻を上げたまま、顔をシーツに押し付け、果てる。

カイザスはぐったりしたチュセの中に数回腰を打ち付けると、ずるりとそれを引き抜き、迸る白濁をチュセの尻にふりかけた。





⎯⎯⎯カイザスは私を利用しているのかもしれない。



チュセは、そう思い始めていた。

次期水守を目指すカイザスは、きっと自らを清廉に保ち、行動を戒めるようにと命じられているはずだ。水守は神の遣いである水龍様の名代と言えるからだ。

しかし、その実、若く健康な身体を持て余していたのではないか。

そうであれば、チュセの懇願は、まさに渡りに船だったに違いない。

男性は好きでもない相手とも身体を繋げることが可能だという。気持ちより性の衝動が上回るのだと。

興味のない女だとしても、チュセの身体は女のそれだ。

そしてなにより、カイザスに心を寄せるチュセは、決してカイザスとの秘密を漏らさない。

安全な道具だ。



日を重ねる度、カイザスの行為は段々と大胆になり、激しくなる。チュセを作業小屋に呼び出す間隔も短くなっていった。



横たわり物思いに耽けるチュセに影が落ちる。

肩を押され、ベッドに仰向けになったチュセに、硬い身体が覆い被さる。

胸を掴まれ熱い舌で先端を掬われて、チュセは目を瞑る。

絶頂を迎えた後の倦怠感が抜けぬまま、チュセは再び愛撫を受け入れる。

今夜もこのまま何度も抱かれるのだろう。



カイザスは執拗にチュセの身体を求めながらも、決して名前を呼ぼうとはしなかった。

卑猥な言葉で責めることはあっても、ひと欠片の甘言も口にしない。

贄候補の娘を穢すという背徳的な行為に耽る事は出来ても、偽りの愛は語れないらしい。



真面目なのか不真面目なのか。



酷い男だと思う一方で、求められているという事実がチュセを甘く縛る。

例え心がなくとも、触れ合う肌は現実だ。

唾液を混ぜ合い、お互いの粘液にまみれるこの秘密の逢瀬に、チュセは明らかに喜びを感じていた。







贄の選抜儀式が近付くと、候補に選ばれた娘達は禊を行う。

湖から直に汲まれた水で口と手を濡らし、最後に足を洗う。それぞれが水守の家に通い、七日間続けて行うのだ。

チュセは桶を抱えて水守の家に向かっていた。

先に禊を終えた娘が戸口から出てくるのが見えた。

その後から姿を現した背の高い男はカイザスだ。

次期水守候補というのは間違いないらしく、今回の禊にも、必ずカイザスが立ち会っていた。



二人はどうやら立ち話をしているようだ。

チュセは邪魔をしないように、わざと歩く速さを落とす。



チュセには見当がついていた。

あの娘はきっとフリカだ。

早くに両親を無くし、亡き父の勤務先だったカイザスの工務店に住み込みで働いている。

カイザスとは兄妹のように仲が良い。

いずれはカイザスを含めた三人兄弟の内の誰かと所帯を持つことになるだろうと噂されている。

しかし、一方で、次の贄に一番相応しい娘であると囁かれてもいた。



フリカは熱心な水龍信望者だからだ。



奉賛の回数もフリカが一番多い。

ちなみに次に多いのがチュセである。



フリカがチュセの姿を見つけて手を振る。

チュセも振り返した。

チュセに走り寄ってきたフリカが、笑顔で話しかける。



「チュセは今から?」

「うん、フリカは終わったのね。明日の奉賛はどうする?私が行こうか?」

「ううん、私に行かせて。儀式が終わったら、もう湖に行けなくなっちゃうでしょう?贄に選ばれなかったら水龍様にお会いできる機会がなくなってしまうもの」

「そう」



フリカは驚くことに贄になることを望んでいる。他の娘たちは皆密かに恐れているというのに。

神様だとはいえ、目にしたことも無い怪物に食われるのだから怖くない筈が無い。

けれど、フリカは食われたいと願っている。

自らの身を水龍に捧げ、村民の為に役立ちたいと澄んだ翠の瞳を輝かせて語るのだ。

正直言って、チュセには理解し難い。



チュセはフリカを見送り再び歩き出した。







水守とカイザスが見守る前で、チュセは素足を洗う。

洗い終わると、カイザスが水が残る桶を受け取り、表の溝に流しに行く。

チュセが持ってきた布で足を拭っていると、水守が口を開いた。



「あのチュセが、贄候補になるとはなぁ」



顔を上げると、水守が皺だらけの顔で微笑みながらこちらを見ていた。



「ちっさい頃は、水龍なんて本当にいるのか、儀式なんて必要なのかとずっとワシに付きまとっておったのになぁ、立派になったもんだ」

「そんな事もありましたね。その節はご迷惑をおかけしました」



カイザスが戻ってきて無言で桶を差し出す。

チュセはそれを受け取ると、掛けていた椅子から立ち上がる。



「今では村一番のお針子だとの評判だ。忙しいのに奉賛も数多く引き受けてくれて感心しておるよ」

「今はもう水龍様の存在を信じておりますから。贄候補に選ばれて光栄に思っています」



横からカイザスの視線を感じたが、気付かぬフリをする。

水守は歯の残り少ない口を開けてフォフォと笑う。



「選抜儀式は三日後だ。粗相の無いように復習しておくんだぞ」



チュセは頭を下げ、戸口へ向かう。

そのままふり返らずに道に出た。

暫く進むとカイザスが追ってきて、チュセの腕を掴んだ。



「今夜、作業小屋に来い」



チュセは驚いて見上げる。

作業小屋で会ったのは五日前だ。禊も始まる事だし、てっきりもう最後だと思っていたのに。



「さすがにここまで押し迫った時に会うのは不味いんじゃないかな」

「良いから来い」



有無を言わせぬ口調で言われ、チュセは小さな声で答えた。



「…わかった」



チュセは目を伏せると、踵を返す。

カイザスは水守の家には戻らずに、何故かずっとチュセを見送っていたようだった。
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