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贄の資格
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チュセとカイザスが住む村は、山に囲まれた盆地にある。真ん中には湖が有り、川のない村の唯一の水源だ。
そして、そこには水龍が棲むという。
元々水龍の住処であった湖の周りに、戦火に追われて逃げてきた先祖が住みついたのが村の始まりらしい。
「あの湖の水が常に澄んでいて枯れないのは、水龍様の加護のお陰なんだ。だから、水龍様のご機嫌を損ねてはならないんだよ。ご先祖さまが結んで下さった契約をしっかり守らなければならないんだ」
毎年恒例の光景だ。
学校に上がったばかりの子供達を集めての湖見学。
水守がその案内役を務めるのだ。
チュセは空になった籠を抱えながら、その脇をそっと通り過ぎる。
「約束を守らなかったらどうなるの?」
子供のひとりが質問する。
「水龍様はこの湖から居なくなってしまうんだ」
「居なくなったらどうなるの?」
「湖の水が淀み、それどころか干上がってしまう。私達は生活が出来なくなってしまうんだよ。この村を捨てて他所に出ていかなければならなくなってしまう。怖いだろう?」
チュセは苦笑いをする。
そうやって子供達の恐怖心を煽り、水龍様に畏怖の念を抱かせる。
それが水守のお役目なのだ。
今の水守のジョセフはもう高齢だ。確か今年の夏で八十になると聞いた。
そろそろ次の水守を決めないとならないと、村の寄り合いで話し合われているらしい。
…チュセには関係ないが。
この村は湖のお陰で豊かだ。
作物もよく育つし、取り囲むように茂る森では、鹿や猪も狩れる。
染物や製鉄などを営むことも出来る。
他の地域からの流通がなくとも、充分に生活が成り立っていた。
村民は皆、この村の者同士で結婚し、家庭を持ち、一生を終える。
それが当たり前だと思っているからだ。
家に戻ったチュセは、調理台の上に籠を置き、仕立屋の両親を手伝うために工房へ向かう。
そして、仕事が終わったら…
チュセは頬を熱く火照らせた。
作業小屋の前に立ったチュセは躊躇した。
小屋の窓のカーテン越しに灯りが漏れている。
先に着いたカイザスが中で待っているのだろう。
わかっているが、足が動かない。
ここまで来て怖気付くなんて、情けない。
仮にも自分から言い出したことなのに。
たった一度で良い。
思い出が欲しい。
贄になれば、チュセは二度とカイザスに会えないだろう。
そして、カイザスは贄に選ばれなかった娘と結婚し、この村で一生を終える。
いや、たとえチュセが贄に選ばれなくとも、カイザスは決してチュセは選ばない。
その残酷な未来が、チュセを後押しする。
チュセは手を掲げてドアをノックした。
カイザスは仮眠用の簡易ベッドに腰掛けていた。
少しは配慮してくれたのか、真新しいシーツが掛けられている。
特別緊張している風もなく、いつも通りの無表情な顔をチュセに向けている。
「こ、この度は無理なお願いを聞いて頂き…」
たじろぐチュセに向けてカイザスは顎をしゃくる。
チュセはそろそろとベッドに近付くが、手前で立ち止まり、そっと訊く。
「え、えっと、服を脱げば良い?」
「良いから座れ」
抑揚のない声で命じられ、チュセはカイザスの隣りに腰掛けた。
古い木製のベッドがギィと軋んだ音を立て、チュセの身体が跳ねる。
「そんなんで良く男を誘おうと思ったな」
「し、仕方ないよ。初めてなんだもん」
「…処女でなくなっても贄に選ばれないとは限らないぞ、良いんだな」
「良いよ。覚悟の上だよ」
沈黙が部屋に落ちる。
「それと、この事は誰にも言うな」
「わ、わかってる。カイザスには迷惑をかけないよ。誰にも言わないし、それに、誰も思わないよ。私がカイザスに嫌われてるの皆知ってるし」
自分で言って悲しくなり、チュセは口をキュッと引き結んだ。
「俺の立場が悪くなるのは避けたい」
「万が一バレるような事があれば、私が無理やり押し倒したってことにするよ!」
カイザスは鼻で笑う。
「誰が信じるんだ?そんな嘘。お前ごときに俺が良いようにされる訳がないだろう」
「それは…女の色香で」
隣から視線を感じてチュセは縮こまる。
そして、はあ、という呆れたため息が聞こえた。
「俺は次の水守を目指している。迷信とはいえ、贄の選抜を妨害するような真似をしているとバレたら不味いんだ」
チュセは驚いて隣を見た。
まさか、カイザスが水守を目指している?!
だから、毎日礼拝堂の掃除当番を引き受けていたのか。
「大工にはならないの?」
「家業は兄貴が継ぐと決まっている」
「そ、そう」
チュセの胸がざわめく。
カイザスがまさか、それほど水龍様を崇拝していたとは。
次期水守を目指しているなど予想もしていなかった。
昼間見たように子供達に水龍様への信仰の大切さを語り、毎日祈りを捧げ、贄の選抜の儀式にも立ち会うのか。
「もう殆ど決まっていると言って良いんだ。ジョセフも推薦してくれているし、今度の儀式にも立ち会うように言われている」
「…っ、そ、そうなんだ」
チュセは乱れた気持ちを落ち着けるように髪を手でといた。
「最後の瞬間にカイザスに立ち会って貰えるんだ」
「お前は自分が選ばれるとでも思っているのか?」
「えっ、だって…」
「安心しろ、選ばれないさ」
チュセはそっとカイザスを窺う。
カイザスは膝の上で手を組み、その上に顎を乗せてじっと前を向いている。
「なんでそう思うの?」
「歴代の贄には黒髪かブルネットが多い。それと、比較的見目が良くて、背が高く肉付きの良い女だ」
「ああ…そう。確かに私は当てはまらないね」
髪は黄褐色だし、平凡だし小柄で痩せっぽちだからね。
「それにしても詳しいね、儀式の事を調べたんだ。カイザスは勉強家だものね?」
顔を覗き込めば、カイザスはす、と逸らした。
その仕草にもまた傷付き、チュセはシュンとする。
「…でも、だったら何で協力してくれるの?」
「口の軽い男に身を任せて言いふらされでもしたら贄選抜に支障が出るだろう。俺にとって最初の水守としてのお役目だからな、儀式の前に揉め事なんかは困る。滞りなく完璧に務めたいんだ」
僅かの期待も見事ペシャンコに踏み潰す、そのあまりに利己主義な考え方に、落ち込むより先に笑いが込み上げてきた。
「何がおかしい」
カイザスはムッとした口調で問うと、くすくすと笑うチュセを睨む。
「ううん。カイザスって本当に真面目なんだね。…うん、私を嫌うのも解るよ。私は昔っから何かと問題児だったからね」
「…だから、尚更贄に選ばれる筈がない」
「きっとそうだね。毎日水龍様にお供え物を渡して祈っていたって、水龍様はお見通しよね」
チュセはハハッと笑う。
緊張の反動なのか、笑いが止まらなくなり、内心焦りつつ声を上げる。
「もう黙れ!」
隣から怒鳴られびくりと跳ねた肩を、カイザスが掴む。すかさず引き寄せられ、カイザスの顔が近付いた。
あっ、と思う間もなく、唇を塞がれていた。
チュセは目を見開く。
至近距離にあの青い瞳が見えた。
それは、いつもように冷えてはいなかった。
熱く、燃えていた。
一旦唇を離したカイザスは、チュセの後頭部に手を回し、再び引き寄せた。
さっきよりもゆっくりと、粘着質に唇を擦り合わされ、チュセの身体から力が抜けていく。
やがて、生暖かくぬめったものが口の中に差し込まれた。
それはチュセの口内を舐めまわし、舌を掬う。
チュセは、それがカイザスの舌であると気付くまでに時間を要した。
そして、訳がわからないながらも、それに必死で合わせる。
離れた唇から漏れた荒い息がぶつかり、お互いの昂りを知る。
チュセは焦点の定まらぬ目で至近距離にあるカイザスの顔を見た。
カイザスもまた、チュセを見ていた。
言葉もなく、早い息遣いだけが部屋に響く。
暫くそうやって見つめ合うこと数十秒、先に言葉を発したのはカイザスの方だった。
「脱がすぞ」
チュセは慌てて懇願した。
「あ、灯りを消して」
「さほど明るく無いはずだ」
「でも、恥ずか…」
言葉が終わらぬ内に、チュセはベッドに押し倒されていた。
「誘ったくせに見せない気か。全部見られても良いと覚悟してるんだろう?」
そうだけど、明るい部屋の中でやるなんて想定してない。
いや、なんなら服も脱がずに済ますことも有り得ると思っていた。
だって、カイザスはチュセの事が嫌いなのだから。
いつも視線を逸らしてまともに見ることすら無いのだから。
「ふ、服を脱がずにする事も出来るって聞いたけど」
「は?意味がわからない。なぜ、わざわざそんな面白くもない方法でやらなきゃならない」
おも…エッチって面白いものなの?
そうなら、ちょっと楽しみだな。
初めては痛いとか聞いてるけど、二人で笑いながら出来るんなら嬉しいな。
カイザスと笑い合えるなんて、子供の頃以来だもの…
チュセの望みは当然のごとく叶わなかった。
そして、そこには水龍が棲むという。
元々水龍の住処であった湖の周りに、戦火に追われて逃げてきた先祖が住みついたのが村の始まりらしい。
「あの湖の水が常に澄んでいて枯れないのは、水龍様の加護のお陰なんだ。だから、水龍様のご機嫌を損ねてはならないんだよ。ご先祖さまが結んで下さった契約をしっかり守らなければならないんだ」
毎年恒例の光景だ。
学校に上がったばかりの子供達を集めての湖見学。
水守がその案内役を務めるのだ。
チュセは空になった籠を抱えながら、その脇をそっと通り過ぎる。
「約束を守らなかったらどうなるの?」
子供のひとりが質問する。
「水龍様はこの湖から居なくなってしまうんだ」
「居なくなったらどうなるの?」
「湖の水が淀み、それどころか干上がってしまう。私達は生活が出来なくなってしまうんだよ。この村を捨てて他所に出ていかなければならなくなってしまう。怖いだろう?」
チュセは苦笑いをする。
そうやって子供達の恐怖心を煽り、水龍様に畏怖の念を抱かせる。
それが水守のお役目なのだ。
今の水守のジョセフはもう高齢だ。確か今年の夏で八十になると聞いた。
そろそろ次の水守を決めないとならないと、村の寄り合いで話し合われているらしい。
…チュセには関係ないが。
この村は湖のお陰で豊かだ。
作物もよく育つし、取り囲むように茂る森では、鹿や猪も狩れる。
染物や製鉄などを営むことも出来る。
他の地域からの流通がなくとも、充分に生活が成り立っていた。
村民は皆、この村の者同士で結婚し、家庭を持ち、一生を終える。
それが当たり前だと思っているからだ。
家に戻ったチュセは、調理台の上に籠を置き、仕立屋の両親を手伝うために工房へ向かう。
そして、仕事が終わったら…
チュセは頬を熱く火照らせた。
作業小屋の前に立ったチュセは躊躇した。
小屋の窓のカーテン越しに灯りが漏れている。
先に着いたカイザスが中で待っているのだろう。
わかっているが、足が動かない。
ここまで来て怖気付くなんて、情けない。
仮にも自分から言い出したことなのに。
たった一度で良い。
思い出が欲しい。
贄になれば、チュセは二度とカイザスに会えないだろう。
そして、カイザスは贄に選ばれなかった娘と結婚し、この村で一生を終える。
いや、たとえチュセが贄に選ばれなくとも、カイザスは決してチュセは選ばない。
その残酷な未来が、チュセを後押しする。
チュセは手を掲げてドアをノックした。
カイザスは仮眠用の簡易ベッドに腰掛けていた。
少しは配慮してくれたのか、真新しいシーツが掛けられている。
特別緊張している風もなく、いつも通りの無表情な顔をチュセに向けている。
「こ、この度は無理なお願いを聞いて頂き…」
たじろぐチュセに向けてカイザスは顎をしゃくる。
チュセはそろそろとベッドに近付くが、手前で立ち止まり、そっと訊く。
「え、えっと、服を脱げば良い?」
「良いから座れ」
抑揚のない声で命じられ、チュセはカイザスの隣りに腰掛けた。
古い木製のベッドがギィと軋んだ音を立て、チュセの身体が跳ねる。
「そんなんで良く男を誘おうと思ったな」
「し、仕方ないよ。初めてなんだもん」
「…処女でなくなっても贄に選ばれないとは限らないぞ、良いんだな」
「良いよ。覚悟の上だよ」
沈黙が部屋に落ちる。
「それと、この事は誰にも言うな」
「わ、わかってる。カイザスには迷惑をかけないよ。誰にも言わないし、それに、誰も思わないよ。私がカイザスに嫌われてるの皆知ってるし」
自分で言って悲しくなり、チュセは口をキュッと引き結んだ。
「俺の立場が悪くなるのは避けたい」
「万が一バレるような事があれば、私が無理やり押し倒したってことにするよ!」
カイザスは鼻で笑う。
「誰が信じるんだ?そんな嘘。お前ごときに俺が良いようにされる訳がないだろう」
「それは…女の色香で」
隣から視線を感じてチュセは縮こまる。
そして、はあ、という呆れたため息が聞こえた。
「俺は次の水守を目指している。迷信とはいえ、贄の選抜を妨害するような真似をしているとバレたら不味いんだ」
チュセは驚いて隣を見た。
まさか、カイザスが水守を目指している?!
だから、毎日礼拝堂の掃除当番を引き受けていたのか。
「大工にはならないの?」
「家業は兄貴が継ぐと決まっている」
「そ、そう」
チュセの胸がざわめく。
カイザスがまさか、それほど水龍様を崇拝していたとは。
次期水守を目指しているなど予想もしていなかった。
昼間見たように子供達に水龍様への信仰の大切さを語り、毎日祈りを捧げ、贄の選抜の儀式にも立ち会うのか。
「もう殆ど決まっていると言って良いんだ。ジョセフも推薦してくれているし、今度の儀式にも立ち会うように言われている」
「…っ、そ、そうなんだ」
チュセは乱れた気持ちを落ち着けるように髪を手でといた。
「最後の瞬間にカイザスに立ち会って貰えるんだ」
「お前は自分が選ばれるとでも思っているのか?」
「えっ、だって…」
「安心しろ、選ばれないさ」
チュセはそっとカイザスを窺う。
カイザスは膝の上で手を組み、その上に顎を乗せてじっと前を向いている。
「なんでそう思うの?」
「歴代の贄には黒髪かブルネットが多い。それと、比較的見目が良くて、背が高く肉付きの良い女だ」
「ああ…そう。確かに私は当てはまらないね」
髪は黄褐色だし、平凡だし小柄で痩せっぽちだからね。
「それにしても詳しいね、儀式の事を調べたんだ。カイザスは勉強家だものね?」
顔を覗き込めば、カイザスはす、と逸らした。
その仕草にもまた傷付き、チュセはシュンとする。
「…でも、だったら何で協力してくれるの?」
「口の軽い男に身を任せて言いふらされでもしたら贄選抜に支障が出るだろう。俺にとって最初の水守としてのお役目だからな、儀式の前に揉め事なんかは困る。滞りなく完璧に務めたいんだ」
僅かの期待も見事ペシャンコに踏み潰す、そのあまりに利己主義な考え方に、落ち込むより先に笑いが込み上げてきた。
「何がおかしい」
カイザスはムッとした口調で問うと、くすくすと笑うチュセを睨む。
「ううん。カイザスって本当に真面目なんだね。…うん、私を嫌うのも解るよ。私は昔っから何かと問題児だったからね」
「…だから、尚更贄に選ばれる筈がない」
「きっとそうだね。毎日水龍様にお供え物を渡して祈っていたって、水龍様はお見通しよね」
チュセはハハッと笑う。
緊張の反動なのか、笑いが止まらなくなり、内心焦りつつ声を上げる。
「もう黙れ!」
隣から怒鳴られびくりと跳ねた肩を、カイザスが掴む。すかさず引き寄せられ、カイザスの顔が近付いた。
あっ、と思う間もなく、唇を塞がれていた。
チュセは目を見開く。
至近距離にあの青い瞳が見えた。
それは、いつもように冷えてはいなかった。
熱く、燃えていた。
一旦唇を離したカイザスは、チュセの後頭部に手を回し、再び引き寄せた。
さっきよりもゆっくりと、粘着質に唇を擦り合わされ、チュセの身体から力が抜けていく。
やがて、生暖かくぬめったものが口の中に差し込まれた。
それはチュセの口内を舐めまわし、舌を掬う。
チュセは、それがカイザスの舌であると気付くまでに時間を要した。
そして、訳がわからないながらも、それに必死で合わせる。
離れた唇から漏れた荒い息がぶつかり、お互いの昂りを知る。
チュセは焦点の定まらぬ目で至近距離にあるカイザスの顔を見た。
カイザスもまた、チュセを見ていた。
言葉もなく、早い息遣いだけが部屋に響く。
暫くそうやって見つめ合うこと数十秒、先に言葉を発したのはカイザスの方だった。
「脱がすぞ」
チュセは慌てて懇願した。
「あ、灯りを消して」
「さほど明るく無いはずだ」
「でも、恥ずか…」
言葉が終わらぬ内に、チュセはベッドに押し倒されていた。
「誘ったくせに見せない気か。全部見られても良いと覚悟してるんだろう?」
そうだけど、明るい部屋の中でやるなんて想定してない。
いや、なんなら服も脱がずに済ますことも有り得ると思っていた。
だって、カイザスはチュセの事が嫌いなのだから。
いつも視線を逸らしてまともに見ることすら無いのだから。
「ふ、服を脱がずにする事も出来るって聞いたけど」
「は?意味がわからない。なぜ、わざわざそんな面白くもない方法でやらなきゃならない」
おも…エッチって面白いものなの?
そうなら、ちょっと楽しみだな。
初めては痛いとか聞いてるけど、二人で笑いながら出来るんなら嬉しいな。
カイザスと笑い合えるなんて、子供の頃以来だもの…
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