55 / 95
21.諦めるな-1
しおりを挟む
晩餐用の貴賓室に到着すると、フランツ王子とマルコは既に席についていた。
カリーナが招待へのお礼を述べて席についてふと横を見ると、フランツ王子がじっとカリーナを凝視している。
「フランツ王子、どうかされましたか?」
マルコがからかうように言った。
「フランツ王子はカリーナ姫に見惚れてらっしゃるんでしょう。ベールを取った貴女を見るのは初めてだから」
フランツ王子は頬染めて俯いた。
ここ数日はベールを被ることを止めていた。騎士の扮装をした時点で周囲には素顔を見られていたし、ベールをすることで逆に目立つことにも気付いていたからだ。
「いえ、思ったよりお若いのだな、と思って…お話していると、しっかりしていらっしゃるから」
フランツ王子は吃りながら言う。
「あら、がっかりさせてしまったかしら」
「いえ!寧ろたいへんお可愛らしくて、あの…見とれてしまいました」
フランツ王子は食い気味に否定し、更に真っ赤になってしまった。
カリーナもつられて照れ臭くなってしまった。
「本当に、ベールをしていただいて良かった。でないと、ライバルが増えて往生したでしょうからね」
マルコはまたもやカリーナの手を取ったので、カリーナは微笑みながら引き抜いた。
暫し、歓談しながら料理を楽しんだ。
「ミネシア国経由で帰国する予定なのですよ。茶葉の生産地を見学させていただこうと思いまして」
マルコとフランツ王子の一向は明朝に一緒に出立するらしい。
「ミネシアは温泉も豊富なんですよね。温泉街の賑わいも噂に聞きますわ。私も一度行ってみたいですね」
「美肌の効用もあるので、是非。温泉街のランプ通りは幻想的で好評なんです。おすすめします」
マルコが身体を寄せて囁く。
「それならば、カリーナ姫も一緒にどうです?温泉街には贅沢な宿泊施設もあると聞きますよ。そのあとは、我が国に来ていただけると嬉しいな」
フランツ王子がハラハラしながら見ている。
「私はガルシア国でまだすることがありますので、まだしばらくはこちらにお世話になるつもりです」
カリーナはきっぱりと言い切った。
マルコが笑みを消して眉を寄せた。
「…することとは?」
「詳しくは申し上げられません。ただ、私がガルシア国に来た本来の目的を果たすためだと申し上げておきますわ」
マルコは怪訝な表情でカリーナを見ている。
フランツ王子が唾を飲み込む音が聞こえた。
食事が終わり、暇の挨拶をするマルコをカリーナは呼び止めた。
フランツ王子は心配そうにカリーナを一寸見た後に気を利かせて部屋を出ていった。
「お話があります」
マルコは諦めたようにため息をついた。
「粗方予想はつきますが、聞きたくないな」
「縁談の申し出は、お断りさせていただきます」
マルコは、両手を額に当てて暫くそうしていたが、カリーナに向き合って尋ねた。
「理由をお聞かせいただいても?」
「私の望むものがわかったからです」
「それは私には与えられないものだと?」
カリーナは少し考えた後、首を振った。
「そうではなく、私は自分で掴みに行きたいんです。与えられたものを享受するだけじゃなく。もう、物分かりが良い振りをして、諦めるのは止めようと思います。逃げるのも」
マルコは腕を組んで椅子の背もたれに身体を預けた。
「そのお気持ちには賛同します。私もずっとそう思ってきましたから。…尚更惜しいですね。私達は良いパートナーになれると思うのだけど」
マルコは姿勢を正すと、手を差し出した。
「かといって、これ以上しつこくして貴女に嫌われるのも本意じゃありません。貴女にお会い出来て良かった。貴女の望みが叶うことを祈っています」
カリーナはマルコの手を握った。
長い睫毛に縁取られた瞳を細めて微笑むマルコは、やはり大人で魅力的だ。
周りの女性は放って置かないだろう。直ぐに良い人が見つかりそうである。
その時、背後でドアが開く音が聞こえた。
カリーナは振り返ろうとしたが、マルコに手をグイと引っ張られて叶わなかった。
それどころかマルコの胸に抱き込まれてしまった。
カリーナが招待へのお礼を述べて席についてふと横を見ると、フランツ王子がじっとカリーナを凝視している。
「フランツ王子、どうかされましたか?」
マルコがからかうように言った。
「フランツ王子はカリーナ姫に見惚れてらっしゃるんでしょう。ベールを取った貴女を見るのは初めてだから」
フランツ王子は頬染めて俯いた。
ここ数日はベールを被ることを止めていた。騎士の扮装をした時点で周囲には素顔を見られていたし、ベールをすることで逆に目立つことにも気付いていたからだ。
「いえ、思ったよりお若いのだな、と思って…お話していると、しっかりしていらっしゃるから」
フランツ王子は吃りながら言う。
「あら、がっかりさせてしまったかしら」
「いえ!寧ろたいへんお可愛らしくて、あの…見とれてしまいました」
フランツ王子は食い気味に否定し、更に真っ赤になってしまった。
カリーナもつられて照れ臭くなってしまった。
「本当に、ベールをしていただいて良かった。でないと、ライバルが増えて往生したでしょうからね」
マルコはまたもやカリーナの手を取ったので、カリーナは微笑みながら引き抜いた。
暫し、歓談しながら料理を楽しんだ。
「ミネシア国経由で帰国する予定なのですよ。茶葉の生産地を見学させていただこうと思いまして」
マルコとフランツ王子の一向は明朝に一緒に出立するらしい。
「ミネシアは温泉も豊富なんですよね。温泉街の賑わいも噂に聞きますわ。私も一度行ってみたいですね」
「美肌の効用もあるので、是非。温泉街のランプ通りは幻想的で好評なんです。おすすめします」
マルコが身体を寄せて囁く。
「それならば、カリーナ姫も一緒にどうです?温泉街には贅沢な宿泊施設もあると聞きますよ。そのあとは、我が国に来ていただけると嬉しいな」
フランツ王子がハラハラしながら見ている。
「私はガルシア国でまだすることがありますので、まだしばらくはこちらにお世話になるつもりです」
カリーナはきっぱりと言い切った。
マルコが笑みを消して眉を寄せた。
「…することとは?」
「詳しくは申し上げられません。ただ、私がガルシア国に来た本来の目的を果たすためだと申し上げておきますわ」
マルコは怪訝な表情でカリーナを見ている。
フランツ王子が唾を飲み込む音が聞こえた。
食事が終わり、暇の挨拶をするマルコをカリーナは呼び止めた。
フランツ王子は心配そうにカリーナを一寸見た後に気を利かせて部屋を出ていった。
「お話があります」
マルコは諦めたようにため息をついた。
「粗方予想はつきますが、聞きたくないな」
「縁談の申し出は、お断りさせていただきます」
マルコは、両手を額に当てて暫くそうしていたが、カリーナに向き合って尋ねた。
「理由をお聞かせいただいても?」
「私の望むものがわかったからです」
「それは私には与えられないものだと?」
カリーナは少し考えた後、首を振った。
「そうではなく、私は自分で掴みに行きたいんです。与えられたものを享受するだけじゃなく。もう、物分かりが良い振りをして、諦めるのは止めようと思います。逃げるのも」
マルコは腕を組んで椅子の背もたれに身体を預けた。
「そのお気持ちには賛同します。私もずっとそう思ってきましたから。…尚更惜しいですね。私達は良いパートナーになれると思うのだけど」
マルコは姿勢を正すと、手を差し出した。
「かといって、これ以上しつこくして貴女に嫌われるのも本意じゃありません。貴女にお会い出来て良かった。貴女の望みが叶うことを祈っています」
カリーナはマルコの手を握った。
長い睫毛に縁取られた瞳を細めて微笑むマルコは、やはり大人で魅力的だ。
周りの女性は放って置かないだろう。直ぐに良い人が見つかりそうである。
その時、背後でドアが開く音が聞こえた。
カリーナは振り返ろうとしたが、マルコに手をグイと引っ張られて叶わなかった。
それどころかマルコの胸に抱き込まれてしまった。
0
お気に入りに追加
590
あなたにおすすめの小説
クールな副騎士隊長の溺愛が止まりません
吉桜美貴
恋愛
旧題:副騎士隊長の溺愛が止まりません
イレーネ・ローゼン(28歳)は男顔負けの剣技を誇る、王国騎士団ハインスラント隊隊長。長年片想いしてきたジークハルト陛下が結婚し、失恋してしまう。幼なじみで槍の達人である、副隊長のラファエル(26歳)に隊長職を譲り、遊歴に旅立とうと決意する。ある日、海賊に襲われたところをラファエルに救われる。男性経験のなさが弱点と痛感し、容姿端麗&女子の憧れの的であるラファエルに処女を貰ってくれと頼むが、騎士道に反すると断られる。ならば、他の男に頼もうとすると、「待て。他の奴に頼むぐらいなら俺にしておけ」と言ったラファエルの瞳は熱っぽさを帯びていて……?
◆『クールな副騎士隊長の溺愛が止まりません』に改題し、ノーチェブックスより2024/8/7に書籍化されました!ご愛顧いただきありがとうございました🙇♀️
慰み者の姫は新皇帝に溺愛される
苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。
皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。
ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。
早速、二人の初夜が始まった。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
幾久しく幸多かれと祈ります
能登原あめ
恋愛
* R18始まりはややシリアス寄り、後半甘めのお話です。
「陛下の側室ですか?」
4年前に異世界転移したリサは、侯爵家のお世話になってきた。
父親ほど歳の離れた国王だけど、王妃の提案らしい。
「わかりました」
18歳になった今、この世界に来てからずっと好きな人はいる。
でも彼に嫌われているから、せめて侯爵家に恩返しをしようと思う。
「馬鹿馬鹿しい」
最初にリサを見つけた侯爵家の次男で騎士のローガーが、吐き捨てるように言った。
* よくある転移もの、騎士ヒーローとのお話なので飲み物片手にさくっと読めると思います。
* およそ8話程度の予定。
* Rシーンは終盤、*マークつけます。
* 表紙はCanvaさまで作成した画像を使用しております。
* いくひさしく、さちおおかれ→いつまでも幸の多いことを。
氷の姫は戦場の悪魔に恋をする。
米田薫
恋愛
皇女エマはその美しさと誰にもなびかない性格で「氷の姫」として恐れられていた。そんなエマに異母兄のニカはある命令を下す。それは戦場の悪魔として恐れられる天才将軍ゼンの世話係をしろというものである。そしてエマとゼンは互いの生き方に共感し次第に恋に落ちていくのだった。
孤高だが実は激情を秘めているエマと圧倒的な才能の裏に繊細さを隠すゼンとの甘々な恋物語です。一日2章ずつ更新していく予定です。
子どもを授かったので、幼馴染から逃げ出すことにしました
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
※ムーンライト様にて、日間総合1位、週間総合1位、月間総合2位をいただいた完結作品になります。
※現在、ムーンライト様では後日談先行投稿、アルファポリス様では各章終了後のsideウィリアム★を先行投稿。
※最終第37話は、ムーンライト版の最終話とウィリアムとイザベラの選んだ将来が異なります。
伯爵家の嫡男ウィリアムに拾われ、屋敷で使用人として働くイザベラ。互いに惹かれ合う二人だが、ウィリアムに侯爵令嬢アイリーンとの縁談話が上がる。
すれ違ったウィリアムとイザベラ。彼は彼女を無理に手籠めにしてしまう。たった一夜の過ちだったが、ウィリアムの子を妊娠してしまったイザベラ。ちょうどその頃、ウィリアムとアイリーン嬢の婚約が成立してしまう。
我が子を産み育てる決意を固めたイザベラは、ウィリアムには妊娠したことを告げずに伯爵家を出ることにして――。
※R18に※
異世界転移したら、推しのガチムチ騎士団長様の性癖が止まりません
冬見 六花
恋愛
旧題:ロングヘア=美人の世界にショートカットの私が転移したら推しのガチムチ騎士団長様の性癖が開花した件
異世界転移したアユミが行き着いた世界は、ロングヘアが美人とされている世界だった。
ショートカットのために醜女&珍獣扱いされたアユミを助けてくれたのはガチムチの騎士団長のウィルフレッド。
「…え、ちょっと待って。騎士団長めちゃくちゃドタイプなんですけど!」
でもこの世界ではとんでもないほどのブスの私を好きになってくれるわけない…。
それならイケメン騎士団長様の推し活に専念しますか!
―――――【筋肉フェチの推し活充女アユミ × アユミが現れて突如として自分の性癖が目覚めてしまったガチムチ騎士団長様】
そんな2人の山なし谷なしイチャイチャエッチラブコメ。
●ムーンライトノベルズで掲載していたものをより糖度高めに改稿してます。
●11/6本編完結しました。番外編はゆっくり投稿します。
●11/12番外編もすべて完結しました!
●ノーチェブックス様より書籍化します!
天然王妃は国王陛下に溺愛される~甘く淫らに啼く様~
一ノ瀬 彩音
恋愛
クレイアは天然の王妃であった。
無邪気な笑顔で、その豊満過ぎる胸を押し付けてくるクレイアが可愛くて仕方がない国王。
そんな二人の間に二人の側室が邪魔をする!
果たして国王と王妃は結ばれることが出来るのか!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる