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9.謀られた王女-2

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「酷い…」

執務室を出て歩きながら、カリーナは隣の騎士を力なく睨み付けた。

「こんなやり方をしなくても良いじゃない」

アルフレッドは、身を屈め、じっと目を合わせてきた。

「こうでもしなきゃ、君は帰ってしまっただろう」 
「私程度の令嬢なんてそこら中にいると思うんだけど…」
 
私のどこがこの美形騎士の心を捉えたのだろう。
アルフレッドは更に綺麗な顔を近付ける。
 
「君のような人はこの世の中の何処を探してもいないよ。僕にとってはね」

近い近い!美形の圧半端ない! 

「わかった、わかったから。近いし、もう離れて」
 
カリーナは頬を染めて顔を背けた。

「カリーナは僕の顔が嫌いなの?」

何を言い出すんだ、この超絶美形は。

「貴方の顔が嫌いな訳じゃないわ。むしろ綺麗すぎて直視できないというか、恥ずかしいというか」

アルフレッドはカリーナの両頬を包んで自分の方を向かせた。

「僕を意識してくれるのは嬉しいけど、慣れて欲しいな。僕は君に見てもらいたいから」

長い睫毛に縁取られたネイビーブルーの瞳が至近距離に迫っていた。
真っ直ぐな鼻筋と薄く淡い色の唇。
まじまじと見せつけられて、カリーナは上手く呼吸が出来ないほど胸が高鳴っている。

何なのこの砂を吐くような甘さは。
ねえ、本当に鼻血が出そうなんだけど。
こんな感じで始終そばに居られたら精神的に持たないよ。
倒れるよ。

カリーナは気力を振り絞ってアルフレッドの胸を押した。
 
「とにかく離れて!」

カリーナは片手を腰に当て、もう片方の手を掲げる。目前の騎士に人差し指を突きつけ、来賓とその護衛騎士として、適度な距離と節度ある態度を保つことを言い聞かせた。
アルフレッドにしても、こんなデレデレした様子を周りに見られたら、副騎士団長としての示しがつかないだろう。
しかし、説教されているのにも関わらずアルフレッドはそれは嬉しそうな表情を浮かべてこちらを見ている。カリーナは困惑した。

外堀を埋められて頼る者もいないこの国で、どう戦えばよいのか。
このまま流されるのはどうしても嫌だ。
そう、商人に嫁ぐことを目標に掲げたからには、この色気過多の美形騎士に堕ちる訳にはいかない。

(私は勝つ!)

妙な闘争心が沸き上がってきて、気付けば、アルフレッドを無言で睨んでいた。
アルフレッドはその視線を受け止めて、フフッと楽しそうに笑った。
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