16 / 95
6.迷惑なエスコート-3
しおりを挟む
お礼を言いながら振り向きもせずスピードを上げた。
なるべく人にぶつからないように華麗に避けながら進んでいく。
何人かが、驚いた顔をして振り返ったのを目の端にとらえたが、気にせずに走った。
ほどなくガゼボの近くで談笑している兄を見つけたので、走り寄り、その腕を掴んだ。
腕をいきなり掴まれた挙げ句に、見れば、汗だくでゼイゼイ息も荒い妹がぬっと現れたのものだから、ジスペイン王は 「ひっ」と叫んでしまった。
隣にいた青年も明らかに怯えているようだ。
「おに、おに…」
「ど、どうしたカリーナ。鬼にでも襲われたのか!?」
「ち、ちが、み、みず…水下さい…」
青年が、ガゼボのテーブルの上にあったグラスを手渡してくれた。
カリーナはお礼を言った後、一気にごくごく飲み干すと、大きく息を吐いた。
「遅れてすみません、お兄様」
「そ、そんなに、必死になって来なくても良かったんだぞ?」
「いえ、陛下のお言葉は絶対ですから」
青年は、兄妹の顔を交互に見て少し青ざめている。
「そんな言い方はするな。いらぬ誤解を生むだろう」
兄はコホンとわざとらしく咳払いすると、青年にカリーナを紹介した。
「我が妹のカリーナです。見た通りの跳ねっ返りでして、お恥ずかしい。 カリーナ、この方はミネシア国の第二王子のフランツ様だ。ご挨拶なさい」
カリーナは息を整えると、両手でドレスを持ち上げた後、軽く膝を折った。
「カリーナ=オザ=ジスペインでございます。お見苦しいところをお見せいたしました。フランツ様、仲良くしていただけると嬉しいですわ」
ベール越しではあるがニッコリ笑ってみせた。
フランツ王子は緊張が少し解けたらしく、笑顔を見せてくれた。
ウェーブしたブラウンの髪は綺麗にセットされていて、瞳は深い緑だ。
柔和な笑みを浮かべる目に優しいイケメン(?)である。
これまでガルシア王国で出会った男性は、目映くて直視できないくらいの危険レベルだったので、なんだかホッとする。
「ミネシア国の茶葉は大好きです。取り寄せて、毎日飲んでおりますのよ」
しかし、外交の話題はどうしても『物産品』になってしまう『ジスペイン商会姫』である。
「それは、光栄です。我が国の茶葉は余り特徴がないもので、諸外国ではなかなか需要がなくて…」
「あら、特徴がないというより癖がないから他のものと合わせやすいんですわ。例えばプール産のはちみつとか、ゲオバブ産のハーブとブレンドして…」
フランツ王子との会話は弾み、園遊会の終了間際まで共にいることになった。
兄が目論んだであろう色気は皆無だったが、ミネシア国との交易ルートに関して有益な情報を入手した。
これでまた商人達に恩を売れるってものだ…ほくそ笑むカリーナだったが、はたと気付く。
(そういえば、ミルトの情報を探る必要はもうなくなったのだった)
今朝の出来事なのに遠い昔のように感じる。
(何だか色々盛り沢山の1日だったものね…)
そう考えると、どっと疲れが襲ってきた。
(そういえば、あれからアルフレッド様はどうしたかしら。ご令嬢方にもみくちゃにされてないかしら)
綺麗な令嬢らに囲まれてすがりつかれ、迷惑そうな美男子騎士を想像して1人でクスクス笑っていたカリーナの背後から、突然声が降ってきた。
「お部屋までお送りします」
なるべく人にぶつからないように華麗に避けながら進んでいく。
何人かが、驚いた顔をして振り返ったのを目の端にとらえたが、気にせずに走った。
ほどなくガゼボの近くで談笑している兄を見つけたので、走り寄り、その腕を掴んだ。
腕をいきなり掴まれた挙げ句に、見れば、汗だくでゼイゼイ息も荒い妹がぬっと現れたのものだから、ジスペイン王は 「ひっ」と叫んでしまった。
隣にいた青年も明らかに怯えているようだ。
「おに、おに…」
「ど、どうしたカリーナ。鬼にでも襲われたのか!?」
「ち、ちが、み、みず…水下さい…」
青年が、ガゼボのテーブルの上にあったグラスを手渡してくれた。
カリーナはお礼を言った後、一気にごくごく飲み干すと、大きく息を吐いた。
「遅れてすみません、お兄様」
「そ、そんなに、必死になって来なくても良かったんだぞ?」
「いえ、陛下のお言葉は絶対ですから」
青年は、兄妹の顔を交互に見て少し青ざめている。
「そんな言い方はするな。いらぬ誤解を生むだろう」
兄はコホンとわざとらしく咳払いすると、青年にカリーナを紹介した。
「我が妹のカリーナです。見た通りの跳ねっ返りでして、お恥ずかしい。 カリーナ、この方はミネシア国の第二王子のフランツ様だ。ご挨拶なさい」
カリーナは息を整えると、両手でドレスを持ち上げた後、軽く膝を折った。
「カリーナ=オザ=ジスペインでございます。お見苦しいところをお見せいたしました。フランツ様、仲良くしていただけると嬉しいですわ」
ベール越しではあるがニッコリ笑ってみせた。
フランツ王子は緊張が少し解けたらしく、笑顔を見せてくれた。
ウェーブしたブラウンの髪は綺麗にセットされていて、瞳は深い緑だ。
柔和な笑みを浮かべる目に優しいイケメン(?)である。
これまでガルシア王国で出会った男性は、目映くて直視できないくらいの危険レベルだったので、なんだかホッとする。
「ミネシア国の茶葉は大好きです。取り寄せて、毎日飲んでおりますのよ」
しかし、外交の話題はどうしても『物産品』になってしまう『ジスペイン商会姫』である。
「それは、光栄です。我が国の茶葉は余り特徴がないもので、諸外国ではなかなか需要がなくて…」
「あら、特徴がないというより癖がないから他のものと合わせやすいんですわ。例えばプール産のはちみつとか、ゲオバブ産のハーブとブレンドして…」
フランツ王子との会話は弾み、園遊会の終了間際まで共にいることになった。
兄が目論んだであろう色気は皆無だったが、ミネシア国との交易ルートに関して有益な情報を入手した。
これでまた商人達に恩を売れるってものだ…ほくそ笑むカリーナだったが、はたと気付く。
(そういえば、ミルトの情報を探る必要はもうなくなったのだった)
今朝の出来事なのに遠い昔のように感じる。
(何だか色々盛り沢山の1日だったものね…)
そう考えると、どっと疲れが襲ってきた。
(そういえば、あれからアルフレッド様はどうしたかしら。ご令嬢方にもみくちゃにされてないかしら)
綺麗な令嬢らに囲まれてすがりつかれ、迷惑そうな美男子騎士を想像して1人でクスクス笑っていたカリーナの背後から、突然声が降ってきた。
「お部屋までお送りします」
0
お気に入りに追加
590
あなたにおすすめの小説
クールな副騎士隊長の溺愛が止まりません
吉桜美貴
恋愛
旧題:副騎士隊長の溺愛が止まりません
イレーネ・ローゼン(28歳)は男顔負けの剣技を誇る、王国騎士団ハインスラント隊隊長。長年片想いしてきたジークハルト陛下が結婚し、失恋してしまう。幼なじみで槍の達人である、副隊長のラファエル(26歳)に隊長職を譲り、遊歴に旅立とうと決意する。ある日、海賊に襲われたところをラファエルに救われる。男性経験のなさが弱点と痛感し、容姿端麗&女子の憧れの的であるラファエルに処女を貰ってくれと頼むが、騎士道に反すると断られる。ならば、他の男に頼もうとすると、「待て。他の奴に頼むぐらいなら俺にしておけ」と言ったラファエルの瞳は熱っぽさを帯びていて……?
◆『クールな副騎士隊長の溺愛が止まりません』に改題し、ノーチェブックスより2024/8/7に書籍化されました!ご愛顧いただきありがとうございました🙇♀️
慰み者の姫は新皇帝に溺愛される
苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。
皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。
ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。
早速、二人の初夜が始まった。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
幾久しく幸多かれと祈ります
能登原あめ
恋愛
* R18始まりはややシリアス寄り、後半甘めのお話です。
「陛下の側室ですか?」
4年前に異世界転移したリサは、侯爵家のお世話になってきた。
父親ほど歳の離れた国王だけど、王妃の提案らしい。
「わかりました」
18歳になった今、この世界に来てからずっと好きな人はいる。
でも彼に嫌われているから、せめて侯爵家に恩返しをしようと思う。
「馬鹿馬鹿しい」
最初にリサを見つけた侯爵家の次男で騎士のローガーが、吐き捨てるように言った。
* よくある転移もの、騎士ヒーローとのお話なので飲み物片手にさくっと読めると思います。
* およそ8話程度の予定。
* Rシーンは終盤、*マークつけます。
* 表紙はCanvaさまで作成した画像を使用しております。
* いくひさしく、さちおおかれ→いつまでも幸の多いことを。
氷の姫は戦場の悪魔に恋をする。
米田薫
恋愛
皇女エマはその美しさと誰にもなびかない性格で「氷の姫」として恐れられていた。そんなエマに異母兄のニカはある命令を下す。それは戦場の悪魔として恐れられる天才将軍ゼンの世話係をしろというものである。そしてエマとゼンは互いの生き方に共感し次第に恋に落ちていくのだった。
孤高だが実は激情を秘めているエマと圧倒的な才能の裏に繊細さを隠すゼンとの甘々な恋物語です。一日2章ずつ更新していく予定です。
子どもを授かったので、幼馴染から逃げ出すことにしました
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
※ムーンライト様にて、日間総合1位、週間総合1位、月間総合2位をいただいた完結作品になります。
※現在、ムーンライト様では後日談先行投稿、アルファポリス様では各章終了後のsideウィリアム★を先行投稿。
※最終第37話は、ムーンライト版の最終話とウィリアムとイザベラの選んだ将来が異なります。
伯爵家の嫡男ウィリアムに拾われ、屋敷で使用人として働くイザベラ。互いに惹かれ合う二人だが、ウィリアムに侯爵令嬢アイリーンとの縁談話が上がる。
すれ違ったウィリアムとイザベラ。彼は彼女を無理に手籠めにしてしまう。たった一夜の過ちだったが、ウィリアムの子を妊娠してしまったイザベラ。ちょうどその頃、ウィリアムとアイリーン嬢の婚約が成立してしまう。
我が子を産み育てる決意を固めたイザベラは、ウィリアムには妊娠したことを告げずに伯爵家を出ることにして――。
※R18に※
異世界転移したら、推しのガチムチ騎士団長様の性癖が止まりません
冬見 六花
恋愛
旧題:ロングヘア=美人の世界にショートカットの私が転移したら推しのガチムチ騎士団長様の性癖が開花した件
異世界転移したアユミが行き着いた世界は、ロングヘアが美人とされている世界だった。
ショートカットのために醜女&珍獣扱いされたアユミを助けてくれたのはガチムチの騎士団長のウィルフレッド。
「…え、ちょっと待って。騎士団長めちゃくちゃドタイプなんですけど!」
でもこの世界ではとんでもないほどのブスの私を好きになってくれるわけない…。
それならイケメン騎士団長様の推し活に専念しますか!
―――――【筋肉フェチの推し活充女アユミ × アユミが現れて突如として自分の性癖が目覚めてしまったガチムチ騎士団長様】
そんな2人の山なし谷なしイチャイチャエッチラブコメ。
●ムーンライトノベルズで掲載していたものをより糖度高めに改稿してます。
●11/6本編完結しました。番外編はゆっくり投稿します。
●11/12番外編もすべて完結しました!
●ノーチェブックス様より書籍化します!
天然王妃は国王陛下に溺愛される~甘く淫らに啼く様~
一ノ瀬 彩音
恋愛
クレイアは天然の王妃であった。
無邪気な笑顔で、その豊満過ぎる胸を押し付けてくるクレイアが可愛くて仕方がない国王。
そんな二人の間に二人の側室が邪魔をする!
果たして国王と王妃は結ばれることが出来るのか!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる