ポッコチーヌ様のお世話係〜最強美形の騎士団長は露出狂でした~

すなぎ もりこ

文字の大きさ
94 / 97
番外編②ロイヤル編☆王妃よ、花がほころぶように笑え

笑顔

しおりを挟む
 ロアンは完璧な仕草で茶を飲む娘を眺めた。
 今日も今日とて、カトリーヌ・ガルシアは実にそつなく振舞って見せた。
 癖のある要職を事前連絡なしで定例茶会に招く。臨機応変さを量る王妃候補試験の一環である。
 いささか意地悪なこの企みの立案者は、勿論ロアンである。
 しかし、カトリーヌは少しも動じることなく、その豊富な知識を武器に知識人を喜ばせ、思い上がった輩は黙らせた。少しばかり下品な客人は鮮やかにあしらい、若しくは、それとなく遠ざける。
 素晴らしい社交力であった。
 しかし、僅かな隙も見せずユーモアさえもマニュアル通り。ふりまく笑顔は明らかに作り物である。

 そう、この娘に欠けているもの。
 それは、ロアンが描く理想の王妃に必要不可欠なもの。

 愛され力、つまり、愛嬌である。



「65点だな」

 ロアンの言葉が意外だったのだろう、カトリーヌは僅かに眉を上げた。カップをソーサーに置くと、真っ直ぐと視線をこちらに向ける。

「減点の理由をお聞かせ頂けますか」
「可愛くない」
「可愛らしさなど国母に必要でしょうか」
「国民に愛されねばならん」
「実績がすべてでは?不満が出ぬよう務めることが、最優先だと思われます」
「まず、私が楽しくない」

 カトリーヌは無言で顎を上げた。

「私とて王妃を愛でたい。人形を抱くなんてつまらないだろう」
「ご心配には及びません。そっち方面での教育は受けております。殿方の快楽を引き出す術は習得済みにございます」
「……興味はあるが、どちらかと言うと私はされるよりしたい方だ」
「左様でございますか」

 カトリーヌは少し考え込む仕草をする。

「愛でたくなる女性とは、例えばどのような」
「こう、少しばかり抜けていて、感情豊かで甘え上手な」
「私とは真逆でございますね。困りました」

 ちっとも困っているようには見えないが、彼女にとって克服すべき課題である事は間違いない。
 なんたってロアンに気に入られなければ王妃にはなれないのだから。

「そうだなぁ、例えば……カトリーヌ、笑って見せろ」
「かしこまりました」

 目の前に展開されたのは計算し尽くされたようなアルカイックスマイルだ。

「完璧だな」
「ありがとうございます」
「しかし、私的には20点だ」

 その低すぎる採点にカトリーヌは顎を引く。
 ロアンは少しばかり愉快になってきた。ムズムズと悪い癖が騒ぎ出す。

「よく花がほころぶように、と言うだろう。そのように笑って見せろ」
「花がほころぶ……開花するように。その言葉は承知しておりますが、人の顔面は花ではありません」
「そんな事は私だって知っている。比喩だろう?まるで花が咲くように華やかで、瞬時に心が奪われるような笑顔という意味だと思うが……出来ぬのか?」

 煽ってみせれば、カトリーヌは僅かにムッとしたように見えた。存外負けず嫌いらしい。

「やってみます」

 カトリーヌは背筋を伸ばすと、目を瞑った。

「参ります」

 宣言するほどのものだろうか。
 ロアンは椅子に身体を預け、正面にいる彼女へと視線を向けた。

 正直いって、ロアンはそれほど期待はしていなかった。
 ただ、この隙のない娘の、少しでも歪んだ顔を目にすることが出来れば、それで満足だったのだ。

 しかし、カトリーヌはロアンの予想を大きく超えてきた。

 それを目にした瞬間、ロアンは硬直した。
 直後、腹の底からマグマのようにせり上ってきた感情に全身を支配され、盛大に噴火した。
 子供のように足を踏み鳴らし、テーブルをバンバンと掌で強打する。
 咆哮にも似た奇声が自らの口から発せられるのを聞きながらも止めることは叶わない。やがて呼吸も困難になり、胸を押え、ヒィヒィという頼りない音を立てながらテーブルに突っ伏した。

「陛下、大丈夫ですか」

 ちっとも心配そうに聞こえない声が訊ねる。

「ひ、ひぃ、大丈夫じゃない……、なんだその顔はっ……!」
「私が思うところの花がほころぶような顔です」
「ほ、ほころんでないだろう……」
「顔面は花ではございませんので、とりあえず閉じて開く現象を開花とみなし、強調してみたのですが」
「だからって目をそんなに見開き大口を開ける奴があるかっ、その上鼻の穴も限界まで開きおって……うぐっ」

 脳裏に先程見た奇面が蘇る。またもや込み上げてきた笑いに翻弄され、もんどりうった。

「申し訳ございません」

 謝っとる。謝っとるぞ、この娘。しかも、ちょっと声が不貞腐れておる。


 ロアンの笑いは暫く収まることがなかった。その後も幾度となく、思い出しては急に笑い出す後遺症に悩まされたという。

 何はともあれ、これ以降、ロアンの心は急速にカトリーヌへと向かうことになる。
 カトリーヌとしては、甚だ不本意なきっかけであったと言わざるを得ないのだが。
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【短編】淫紋を付けられたただのモブです~なぜか魔王に溺愛されて~

双真満月
恋愛
不憫なメイドと、彼女を溺愛する魔王の話(短編)。 なんちゃってファンタジー、タイトルに反してシリアスです。 ※小説家になろうでも掲載中。 ※一万文字ちょっとの短編、メイド視点と魔王視点両方あり。

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

泡風呂を楽しんでいただけなのに、空中から落ちてきた異世界騎士が「離れられないし目も瞑りたくない」とガン見してきた時の私の対応。

待鳥園子
恋愛
半年に一度仕事を頑張ったご褒美に一人で高級ラグジョアリーホテルの泡風呂を楽しんでたら、いきなり異世界騎士が落ちてきてあれこれ言い訳しつつ泡に隠れた体をジロジロ見てくる話。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

処理中です...