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エピローグ

その後②

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 この目に惚れたんだよなぁ……

 ニコライは頬杖をつき、以前、地方支部でゲルダを見掛けた時のことを思い出す。
 その時の気持ちが色恋めいたものだったのかはわからない。ただ、その圧倒的な存在感がニコライの胸を打ったのは確かだ。

 マクシミリアンも陛下も俺に感謝して欲しいよな。

 ニコライはぼんやり思う。
 ゲルダの存在がすべての引金になった。
 このヴードゥ鳥の化身のような女が、救世主となり、すべての流れを変えたのだ。
  そればかりか、背中に羽まで生やしてみせた。

 ニコライは気付いていた。ガルシア家を目の上のたんこぶとみなしていた国王陛下が、その失脚を企んでいたことを。あの、のほほんとした見かけにそぐわぬ策略家が、この美しく強いシャンピニの女を見て利用しようと思いつかないわけがない。そもそもカトリーヌを王妃に迎えたことも打算があってのことに違いない。
 ただ、いつしか陛下は、本気でカトリーヌを愛してしまった。それが唯一の誤算だったのだろう。
 まったく、似たもの夫婦というべきか。

 ニコライはふと思い出し、マクシミリアンに訊ねた。

「そういえば、父上の行方はわかったのか?」

 元ガルシア侯爵は解放された後、家のゴタゴタを黙々と片付け、姿を消した。その行先は誰にも掴めなかったのだ。
 マクシミリアンは神妙な面持ちでそれに答える。

「それが、母上の住む町に度々姿を現すらしいのだ」
「はあっ?!ナタリア様の?」
「近くの森の外れに住んでいるらしいとの情報があってな、遠巻きに母上の屋敷を窺っているらしい」
「いじらしいですねぇ」
「とんでもねぇよ、そっちもこええよ。ナタリア様は大丈夫なのか?」

 マクシミリアンは視線を上へ向け頬を掻く。

「うーん、まあ、大丈夫なんじゃないか?」
「結婚のご挨拶でお会いしましたけど、なかなか豪快な方でした。周囲には、どうせ声を掛ける意気地も無いのだから放っておけと仰っているそうです」

 ニコライは椅子の背もたれに深く凭れると、大きく息を吐いた。

「俺の理解を超えてるな。男女っつうのはそんなもんなのかねぇ……」
「お前が真面目に交際をしたいと言うなら誰かを紹介するが?何か要望があるなら聞くぞ」

 マクシミリアンの申し出にニコライは少し思案し、答える。

「パンを焼くのが上手い人かなぁ、俺はどうも膨らますのが苦手みたいだから」
「パン?パン屋の娘でも良いのか?それなら……」

 友人の力になろうとする健気なマクシミリアンの隣で、ゲルダは盛大に鼻から息を吹き出した。
 そして、腰に手を当てスッパリと切捨てる。

「駄目に決まってるでしょう。パン屋というのは衛生的なお仕事です。ハナクソ神は却下!」

 冗談で言ったことに真顔でダメだしされ、ニコライは項垂れた。
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