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エピローグ
その後①
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ニコライは今日も今日とて机に足を投げ出し、鼻をほじっていた。椅子と背中に巻き込まれた髪が引っ張られ、鬱陶しい。かといって散髪に行くのも面倒だ。結べば良いんですよ、と言ってゲルダがひとつに纏めてくれたこともあったが、自分でやるのは難しく、毎日結んでくれと甘えたら、マクシミリアンに鬼の形相で睨まれた。
「俺も結婚しよっかなぁ」
思わず漏らせば、ドアが軋む音と共に誰かが応える。
「だったら鼻をほじる癖は直した方が宜しいですよ」
ノックもせずに部屋へ入ってきた長身美女は副団長のゲルダ。そしてその背後にピッタリと控えるのは側近のマクシミリアンだ。
「おやおや夫婦でご出勤ですかぁ?仲がよろしいことで!でも、ノックぐらいして下さい~」
「また期限切れの書類を隠されたらたまったものではありませんから。抜き打ちです」
「団長、副団長の仕事を増やすのは止めて下さい。プライベートに支障が出ます」
「あのなぁ、そもそもマクシミリアンは俺の側近である筈だぞ。なんでゲルダの方に付き添ってるんだ?」
マクシミリアンが進み出て、ニコライの手首を掴む。
「貴様が業務の殆どをゲルダに押し付けるからだろうが。指を拭け」
ニコライはポケットから例のクシャクシャのハンカチを取り出すと、渋々指を拭う。
「くそ、偉そうに。お前が団長の時は、俺がやってた事だぞ」
「それはそれ、これはこれだ」
なんだそりゃ。
ニコライはデスクから足を下ろして椅子に座り直す。そして、二人に向き合った。
「で、新居には慣れたか?」
新婚夫婦は顔を見合せ、ニコライに頷いてみせる。
「まあ、快適だ。こぢんまりはしているが、ここにも近いし」
「私にとっては身に余る豪邸です」
マクシミリアンはガルシア家を親族に任せ、相続を放棄した。但し、これまでの功績を考慮され、新たに伯爵の爵位を賜ったのだ。
ゲルダは副団長に就任すると同時にマクシミリアンと婚姻し、屋敷の完成を待って騎士団を出た。
つまり、つい先日まで、あの部屋で暮らしていたのである。
「お前たちがいなくなっちまったんで、団員らが寂しがってなぁ」
「勝手に入り浸られて迷惑だった。俺とゲルダの新婚生活だったのに」
「温情で騎士団に住み込ませて貰ってたんだぞ。感謝しろよ。王妃殿下も口添えしてくれたらしいし」
「姉上には感謝している。先日懐妊祝いにゲルダと共におうかがいしたのだ。元気そうで安心した」
予想通り、カトリーヌの王妃位返還は認められなかった。そればかりか、我が身を呈して肉親の不正を暴いた勇気ある行動と絶賛され、民衆人気が増したという。
情報を操作し王妃への好感度を上げるように仕向けたのは、間違いなく国王陛下だろう。
「あの取調期間中にせっせと子種を仕込んだんだよ。王妃殿下が逃げられないようにな。こええ、こええ」
「でも、殿下はお幸せそうでしたよ」
ゲルダは肩を竦め、微笑んだ。
「……お前らの子供は良くも悪くも人目を引くだろうな」
ニコライがポツリと漏らした言葉に、マクシミリアンが胸を張る。
「俺とゲルダの子供だ。それは美しく強いに決まっている。誰をも虜にする宝となるだろう」
「お前は意外と楽観的だなぁ」
「愛情はたっぷり注ぐつもりだ。好奇心の制限もしない。蚯蚓を捕まえるのも水溜まりで転げ回るのも獣の糞を突くのも一緒にやる」
「お前がやりたいだけだよなぁ、それ」
「御心配には及びませんよ、ニコライ団長。私達は国の後ろ盾を得ておりますから。利用されるのは面白くありませんが、陛下の思惑と私達の望みは合致しておりますので思う存分やらせて頂きます。誰もが公平に暮らせる国の実現へ向けて」
ゲルダは笑う。
一点の曇りもない金色の瞳で。
「俺も結婚しよっかなぁ」
思わず漏らせば、ドアが軋む音と共に誰かが応える。
「だったら鼻をほじる癖は直した方が宜しいですよ」
ノックもせずに部屋へ入ってきた長身美女は副団長のゲルダ。そしてその背後にピッタリと控えるのは側近のマクシミリアンだ。
「おやおや夫婦でご出勤ですかぁ?仲がよろしいことで!でも、ノックぐらいして下さい~」
「また期限切れの書類を隠されたらたまったものではありませんから。抜き打ちです」
「団長、副団長の仕事を増やすのは止めて下さい。プライベートに支障が出ます」
「あのなぁ、そもそもマクシミリアンは俺の側近である筈だぞ。なんでゲルダの方に付き添ってるんだ?」
マクシミリアンが進み出て、ニコライの手首を掴む。
「貴様が業務の殆どをゲルダに押し付けるからだろうが。指を拭け」
ニコライはポケットから例のクシャクシャのハンカチを取り出すと、渋々指を拭う。
「くそ、偉そうに。お前が団長の時は、俺がやってた事だぞ」
「それはそれ、これはこれだ」
なんだそりゃ。
ニコライはデスクから足を下ろして椅子に座り直す。そして、二人に向き合った。
「で、新居には慣れたか?」
新婚夫婦は顔を見合せ、ニコライに頷いてみせる。
「まあ、快適だ。こぢんまりはしているが、ここにも近いし」
「私にとっては身に余る豪邸です」
マクシミリアンはガルシア家を親族に任せ、相続を放棄した。但し、これまでの功績を考慮され、新たに伯爵の爵位を賜ったのだ。
ゲルダは副団長に就任すると同時にマクシミリアンと婚姻し、屋敷の完成を待って騎士団を出た。
つまり、つい先日まで、あの部屋で暮らしていたのである。
「お前たちがいなくなっちまったんで、団員らが寂しがってなぁ」
「勝手に入り浸られて迷惑だった。俺とゲルダの新婚生活だったのに」
「温情で騎士団に住み込ませて貰ってたんだぞ。感謝しろよ。王妃殿下も口添えしてくれたらしいし」
「姉上には感謝している。先日懐妊祝いにゲルダと共におうかがいしたのだ。元気そうで安心した」
予想通り、カトリーヌの王妃位返還は認められなかった。そればかりか、我が身を呈して肉親の不正を暴いた勇気ある行動と絶賛され、民衆人気が増したという。
情報を操作し王妃への好感度を上げるように仕向けたのは、間違いなく国王陛下だろう。
「あの取調期間中にせっせと子種を仕込んだんだよ。王妃殿下が逃げられないようにな。こええ、こええ」
「でも、殿下はお幸せそうでしたよ」
ゲルダは肩を竦め、微笑んだ。
「……お前らの子供は良くも悪くも人目を引くだろうな」
ニコライがポツリと漏らした言葉に、マクシミリアンが胸を張る。
「俺とゲルダの子供だ。それは美しく強いに決まっている。誰をも虜にする宝となるだろう」
「お前は意外と楽観的だなぁ」
「愛情はたっぷり注ぐつもりだ。好奇心の制限もしない。蚯蚓を捕まえるのも水溜まりで転げ回るのも獣の糞を突くのも一緒にやる」
「お前がやりたいだけだよなぁ、それ」
「御心配には及びませんよ、ニコライ団長。私達は国の後ろ盾を得ておりますから。利用されるのは面白くありませんが、陛下の思惑と私達の望みは合致しておりますので思う存分やらせて頂きます。誰もが公平に暮らせる国の実現へ向けて」
ゲルダは笑う。
一点の曇りもない金色の瞳で。
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